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半ヴァンパイアは過去を知る

 「ねぇエリー、そういえば理由を話してなかったわね」

 

 洞窟のあるオリンタス山に帰る途中、船の上でご主人様が話しかけてきた。

 

 「理由って、ギルバートを奪いに行った理由のこと?」

 

 「そう、なんであたしがギルバートを取り返したかったのか」

 

 ―そういえば聞いてなかったね。血を飲ませてくれるっていうから手伝ったんだっけ。

 

 「うん、聞いてないよ。ご主人様にとってギルバートは大事ってことは、なんとなくわかってるけど」

 

 「そうね。恋人だもの」

 

 ―あ、恋人だったんだ。

 

 「200以上前、あたしとギルバートと、あと二人の仲間で傭兵をしていたの」

 

 「傭兵? たったの4人で?」

 

 傭兵は基本的に20人くらいでやるものだったと思うんだけど。

 

 「今の冒険者みたいな感じよ。当時は冒険者っていう制度がなかったから」 

 

 「そうなんだ。冒険者の制度ができる前は、個人で傭兵やってたんだね」

 

 「そうそう。あたしたちの傭兵団は結構有名だったのよ」

 

 「なんで有名になったの? やっぱり強かったから?」

 

 「強かったっていうのは正しいわね。でも、戦い方がちょっと特殊だったからっていうのが一番正確よ」

 

 「どんな戦い方してたの?」

 

 「あたしはギドみたいな従僕を召喚して戦ってたわ。どれだけ従僕が倒されてもあたしが復活させ続けるっていう戦い方よ」

 

 ―うわぁ、なんていやらしい戦い方……

 

 「ギルバートはね、”退行治癒”っていうスキルを持ってるのよ。大けがをしたとき、その怪我をする前まで体内時間を巻き戻して怪我をなかったことにできるの。単純な攻撃だけじゃ絶対に倒せない前衛だったの」

 

 「そんなスキル持ってるの?! 卑怯すぎない?!」

 

 「あたしも卑怯だと思うわ」

 

 ご主人様も苦笑いしてるね。仲間からも卑怯って思われるくらい強いスキルなんだ……

 

 「で、あとの二人は魔法使いだったの。前衛はあたしの従僕とギルバートで充分だったからね」

 

 ―前衛はほぼ無敵というか不死身みたいな感じだもんね。それ以上前衛は必要ないか。

 

 「ね? やってること自体は普通なんだけど、前衛が不死身の男とアンデッドのパーティなんて特殊でしょ?」

 

 「確かに有名になりそうだね」

 

 ―なりそうっていうかなったらしいんだけどね。

 

 「それで、なんでギルバートは王城に囚われてたの?」

 

 なんだか話が脱線しそうだから話を戻しておく。

 

 「まぁ聞きなさい。信じられないかもしれないけど、あたしたちが傭兵をやってた頃は、ヴァンパイアは普通に居たのよ。共同体の中に人間やほかの亜人と一緒にね」

 

 「……いやいやそれは嘘だよ。だってヴァンパイアって人型の魔物だよ?」

 

 ―魔物は人とは相容れない。常識だよ。まして人の血を飲む生き物と人が一緒なんて無理。

 

 「当時ヴァンパイアは亜人の一種と考えられていたわ。地域によっては神聖視されてたこともある。ヴァンパイアは血をささげれば村や町を守ってくれる夜の神様だとしてね」

 

 「えぇ……」

 

 「実際に血をささげてくる村を魔物や賊から守るヴァンパイアに会ったことがあるわ。まぁそういうヴァンパイアは当時でも珍しかったけど」

 

 ―ヴァンパイアが亜人の一種として考えられてた時代? 人間を守るヴァンパイア? 今じゃ考えられないね。私も信じられないし。

 

 「ヴァンパイアは他にもいろいろな形で人間の社会に溶け込んでたし、人間も『夜の人』とか『隣人』なんて呼んで仲良くしてたわね」

 

 「自分を襲って血を吸うかもしれないのに、なんで仲良くできたの?」

 

 「力仕事や野宿するときの見張りとか、いろいろと頼りにしてたからじゃないかしら。血を吸われたからって死ぬわけじゃないし、むしろ血を吸わせる代わりに頼み事をすることもあったみたいよ」

 

 「……うへぇあ」

 

 「なによその反応」

 

 「だって信じられなくて」

 

 「本当のことよ。実際見てきた人が言ってるんだから信じなさいよ」

 

 ―いやだって、普通ヴァンパイアが町の中にいたら殺そうとするじゃん。血を吸わせて頼み事とか正気の沙汰じゃないよ。

 

 「でも、ヴァンパイアを受け入れられない人もいたわ。そういう人はヴァンパイアハンターになって、ヴァンパイアを暗殺したりしてた。真っ向勝負じゃ勝てないからね」

 

 「暗殺なんてされたら、ヴァンパイアも怒るんじゃないの?」

 

 「怒りはしたでしょうけど、それで復讐しようとかヴァンパイアハンターを殺そうとかはしなかった。人とヴァンパイアの間を取り持つ組織があって、その組織がいろいろやってヴァンパイアを保護したり、ヴァンパイアハンターを説得したりしてからね」

 

 「そんな組織あったんだ。なんていう組織なの?」

 

 「覚えてないわ。調停うんたらかんたらとかだったと思う」

 

 ―まぁ200年以上前のことだし、細かくは覚えてないよね。

 

 「でもそんなとき、ある事件が起こったの」

 

 「どんな事件?」

 

 「変死事件よ。血を一滴残らず抜かれて枯れ果てた死体が何度も見つかったの。確か南東の地区だったかしら」

 

 ―絶対ヴァンパイアとかハーフヴァンパイアの仕業じゃん。

 

 「この事件をヴァンパイアを受け入れられない人たちは喜んで広めていったわ。『ヴァンパイアは魔物だ』『ヴァンパイアは人を殺す邪悪なものだ』って尾ひれを付けて国中に拡散した」

 

 「それで、どうなったの?」

 

 「調停うんたらかんたらがヴァンパイアを庇ってたみたいだけど、結局国を挙げてヴァンパイアを滅ぼすことになったの。兵士や騎士はもちろん、あたしたち傭兵もたくさん雇ってヴァンパイア狩りを行ったわ」

 

 「でも、ヴァンパイアって強いよね。そう簡単に滅ぼせなかったんじゃないの?」

 

 「そうね。返り討ちにされることもたくさんあったわ。でもあたしたちの戦い方はさっき言ったでしょ? 不死身の前衛と後衛火力の魔法使いが2人の連携で、ヴァンパイアを各個撃破していったの」

 

 「それでも、ヴァンパイアを完全に滅ぼすことはできなかったわ。今でもヴァンパイアはいるでしょ?」

 

 「うん」

 

 ―私自身ハーフヴァンパイアだし、ヴァンパイアもいるはず……あれ? そういえばルイアで出会ったっけ……?

 

 「あたしたちの傭兵団はほかの傭兵団や兵士の誰よりたくさんヴァンパイアを倒した。それで当時の国王に謁見して褒美やらなんやらをもらったりもしたのだけど、その時国王にギルバートの持つ”退行治癒”に目を付けられたの」

 

 「目を付けられた?」

 

 「そう、王家の物にしたいって思われたの。国王はギルバートに、不老の薬を食事に混ぜて飲ませたのよ」

 

 ―……ん? 生きてるの?

 

 「ギルバートって、ご主人様みたいにアンデッドになったんじゃないの?」

 

 「違うわよ。あたしと違ってギルバートは200年以上ずっと生きてるのよ」

 

 「すごいおじいちゃんじゃん!」

 

 「あたしの恋人をジジイみたいに言わないでもらえる?! 不老なんだからずっと若いままよ!」

 

 「あ、はい。ごめんなさい」

 

 「……で、国王は不老になったギルバートに、永遠に王家を守るよう命令したの。もちろん断ったけど、あたしと仲間2人は王城を追い出されて、ギルバートは王城に囚われた。そのあとギルバートに何があったのかは知らないけど、たぶんまた何かされて、こんな浅黒い肌になっちゃったんでしょうね」

 

 「すぐ取り返せばよかったのに」

 

 「すぐ取り返そうとしたら殺されたのよ。あたしは死霊術士だからゾンビになって復活できたけど、仲間2人は復活させられなかったわ。死体を見つけられなかったの」

 

 「うわぁ、ひどい王様だね」

 

 「なんとかかんとかクレイド王って名前だったと思うのだけど、もしかして今の国王もクレイドって名前だったりする?」

 

 「するする。人間の国って呼ばれてるけどクレイド王国が正式名称だし」

 

 「……あの王の弟とか言う奴、殺しておけばよかったかしら」

 

 ―ギルバートの寝顔を見ながら穏やかな顔で話してたのに、急に怖い顔になったね。

 

 「えっと、それでご主人様はギルバートを取り返したかったんだね」

 

 「そうなのよ。ほんっっっとうに大変だったのよ? ゾンビになったはいいけど、腐って朽ち果てたらたまらないから防腐処理しまくったし、ゾンビの体で死霊術を使おうとすると、生前の時と勝手が違ってうまくいかなかったりしたし……」

 

 「…でも、やっと取り返せたね」

 

 「そうね。やっと、取り返せたわ」

 

 ご主人様が嬉しそうな顔でギルバートに寄り添ってるのを見て、私もなんだかうれしくなった。

 

 「そろそろオリンタス山だね」

 

 「そうね。やっと帰って来たわ」

 

 「ご主人様よぉ! そろそろ着くぜぇ!」

 

 「わかってるわよ!」

 

 そろそろご主人様たちの手伝いもおしまいになるかな。そのあとどうするか考えておかないと……

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