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半ヴァンパイアは逃げられる

 「ヴァンパイアの祖であり不老不死の王、真祖を復活させることが僕たちの目的だ。復活した後この国を真祖に支配してもらう。ハーフヴァンパイアのお前にとってもいい話だろう? 真祖が支配すれば、ヴァンパイアもハーフヴァンパイアもこれまでよりずっと生きやすくなるはずだ」

 

 私と戦ってる痩せ型の人が話しかけてきたんだけど、何を言ってるのかよくわからない。

 

 ―ヴァンパイアの祖? 真祖? 支配させたらヴァンパイアやハーフヴァンパイアが生きやすくなる? それはギドの船を壊して、私たちの邪魔をする理由にはならないよ。関係ないもん。

 

 とにかく私はこの人が嫌いになった。

 

 ―そういえばギドが、ヴァンパイアレイジの効果が切れそうになったら”切れる少し前に自分で切って、敵の動きに気を付けながら血を飲むんだ。時間切れになって即座に使えなくなることは避けるんだぜぇ?”って言ってたっけ……

 

 ちょうど会話の最中だし今がチャンスかもしれないと思って、私はヴァンパイアレイジを切って血を飲むタイミングを計ることにした。

 

 そしたら急にこっちに突進してきた。

 

 ―私の目が赤くなくなったのをチャンスと見たのかな。でも、その距離からじゃ奇襲にはならないよ。

 

 私は即座にヴァンパイアレイジを使って、タイミングを計る。

 

 ―右手を引いて構えてる。たぶんあの手に触れられたらまずいね。

 

 2メートルを切った瞬間、私の方からも一気に近づいて懐に入る。この人の突き出した右手よりも内側に入り込んだ。

 

 ふっと息を吐いて、左の貫手を胸に打ち込む。この距離とタイミングなら絶対外れない。

 

 指尖硬化で鋭く尖った指先が、あばらの隙間を割り開いて肺を突き破る。心臓狙いだったんだけど、ちょっとずれちゃった。

 

 私の後ろ、この人の右手のあたりから爆発音みたいなのが聞こえてきたけど、風を感じたくらいで何にも痛くない。

 

 「ゴフ……ぁあ……」

 

 突き刺された姿勢のまま短く吐血してる。体に何か刺さった状態で下手に動いて、傷口がえぐられるから動かないかな。

 

 ―左手の指が生あったかい。この人の体温が(じか)に伝わって来る……気持ち悪い。

 

 私は突き刺した手を抜いて、3歩下がる。

 

 痩せ型の人は、そのまま仰向けに倒れこんだ。

 

 「……ぐ、あ、お、な、名前を教えろ」

 

 ―致命傷負ってるくせに、なんでそんなこと聞くの?

 

 「えり、、、アランだよ」

 

 死ぬ寸前だし、エリーって名乗ろうかと思ったけど、やっぱり偽名の方を名乗ることにした。

 

 「そうか。……とどめを、刺し損ねたな、アラン」

 

 私を見てニヤリと笑って言い放った。

 

 ―え?

 

 どういうことかと思ったけど、すぐに答えが出た。上の方から何かが落ちてくる音が聞こえて見上げてみたら、また人が降ってきてた。

 

 ―また空から人? 筋肉モリモリの人がこっちに来てる。確かにとどめは間に合わないね。

 

 とっさに後ろに跳んで距離をとる。降ってきた人は石畳にヒビを入れながら、仰向けに倒れてる痩せ型の人のすぐ近くに着地した。

 

 「どうやら……ここまでだな。サイバ……」

 

 「あ、ああ、失敗したよ」

 

 ―その人は痩せ型の人の仲間? 今から血を飲んで間に合うかな?

 

 血を飲まないともうヴァンパイアレイジは使えないから、今すぐ飲んで撤退される前に仕留めることにする。

 

 懐から最後の血のビンを取り出した時、降ってきた筋肉モリモリの人が話しかけてきた。

 

 「……やめておけ。俺はサイバより……強いぞ」

 

 ―血を飲むのを止めさせるってことは、やっぱりこの人たちヴァンパイアレイジについて知ってるんだ。

 

 痩せ型の人も知ってるから、目が赤くなくなった瞬間に攻撃してきたんだと思う。そして手の内を知られたまま戦うのは良くない。なにより……

 

 ―この筋肉モリモリの人、たぶん私より強い。

 

 そう思うくらい纏う雰囲気が違う。

 

 痩せ型の人が、吐血しながら話しかけてくる。

 

 「僕は、ただの工作員だが、こいつは戦闘員だ。戦おうなんて思わない、方がいい。悪いが撤退させてもらう」

 

 「おい……しゃべりすぎだ」

 

 「こいつは、ハーフヴァンパイアだ。かまわん」

 

 ―何が構わないの? 少なくとも私は敵だと思ってるよ。

 

 「僕たちはストリゴイ。ヴァンパイアと真祖の時代を取り戻すことが目的だ。僕はサイバ、こいつはタザだ」

 

 「なにそれ」

 

 私はそんな時代は知らないし、興味もない。

 

 「いずれ解る。とにかく、僕はまだ死ねない。タザ」

 

 「ああ」

 

 タザっていう筋肉モリモリの人が、痩せ型の男、サイバを抱え上げた。それから私の方をちらりと見て、そのあとその場で跳躍した。

 

 「うわ」

 

 滅茶苦茶なジャンプだった。着地の時にできたヒビをさらに広げて、王城の高さ以上に飛び上がって……

 

 「消えた……」

 

 本当に一瞬で見えなくなった。私の視力は王城の高さくらいまでならはっきり見えるから間違いない。その場で透明になったみたいに消えた。

 

 ―ありえない。なんで見えなくなったのか、全然わからない。

 

 とにかくこのまま見上げてても何もわかりそうにないから、視線をギドの船の方に向けた。そしたらギドがこっちに走ってきてた。

 

 「お~いエリー、さっきのやつは一体何だったんだ?」

 

 ―ギド、あの人、サイバだっけ? とにかくあの人を一緒になんとかしろって言われてたのに、全然一緒じゃなかったよね? 私一人に戦わせてなにしてたの?

 

 「ねぇギド? 私一緒になんとかしよって、言ったよね? なんで一緒に戦ってくれなかったの?」

 

 「吾輩だって戦いたかったんだぜぇ? だが、見ろよ」

 

 ギドが指さす方を見ると、ゾンビみたいになった人がわらわらいて、船の方にむかってふらふら歩いてた。

 

 「ご主人様と船を守らなきゃいけなかったのよ。40人いた部下も船の中にいたせいで、4人残して全員バラバラになっちまっててよ、吾輩も防衛に入らなきゃ守り切れなかったってわけだ」

 

 ―ん? 今ギドが船から離れてていいの?

 

 「早くいくぞ。油売ってる時間ねぇからよ」

 

 ―あ、よくないみたいだね。

 

 ギドと一緒に船の方に走って向かう。北側もたくさんゾンビみたいになった人がいたけど、みんな王城の出入り口に固まってるみたいだった。

 

 船のところに着いて、様子を見る。

 

 ―おお、ほぼ直ってる。

 

 前後に割れちゃってた船体がくっついてて、あとは細かいところを直せば動かせそうだった。

 

 「ご主人様ー! どこー?!」

 

 姿が見えなかったので呼んでみる。

 

 「ここよ! ねえさんと呼びなさい!」

 

 ―そうだった忘れてた。声の感じだと元気だね。ギルバートも無事っぽい。

 

 「エリーはご主人様のところを守れ。吾輩は連中を何とかしてくるぜぇ」

 

 ギドはそれだけ言うと、ふらふら向かってくるゾンビみたいな人達に向かっていった。ギドの部下の4人のスケルトンも走り回って、近づいてくる彼らをバッサバッサと切り捨ててる。普通に強い。

 

 私はご主人様の声のした方に向かっていく。たぶん船の上にいると思う。

 

 「エリー、怪我は無いようね」

 

 「ねえさん、今はアランだよ」

 

 「あたしはいいのよ」

 

 ―ご主人様元気じゃん。ギルバートも一緒にいるね。

 

 「もうすぐ動かせるようになるわ。さすがあたし、船に方にも自己修復機能つけておいたおかげね!」

 

 ―すごく機嫌がいいね。ギルバートを連れ帰れそうだからかな。

 

 「私はどうすればいい?」

 

 ―船の上だからゾンビ来ないし、魔法使えないから遠距離攻撃とか無理。やることないかも。

 

 「一応見張っておいて」

 

 「あ、はい」

 

 ―ご主人様も私にできることを思いつかなかったみたい。おとなしく船が治るまで周囲を見張っておこうかな。その間になにかできることを思いつくかもしれないしね。

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