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半ヴァンパイアは憤慨する

少し短いです。

 上空からかなりの速度で向かってくる男を見たエリーは、とっさにホグダとギルバートを抱きしめて庇った。

 

 そして降ってきた男は、エリーたちのいるバルコニーではなく海賊船ボーンパーティに落下した。

 

 骨製の海賊船、その甲板を形成する何本もの太い骨を”ドゴォ”という轟音とともに破壊しながら、その男は着地した。痩せ型のその男は、軽々と落下の衝撃を受け流し立ち上がる。

 

 「船が!」

 

 エリーは降ってきた男が自分ではなく海賊船狙いだったことに気が付き、ホグダとともにバルコニーから船を見下ろす。

 

 エリーはバキバキに壊された甲板と、男の着地点を中心にぱっくりと割れた船体を見て、王都から帰還する手段を失ったことに気が付いた。

 

 そして壊された船の持ち主も、それを見た。

 

 ギドは不可解な行動をしていた王都の民を調べようと海賊船を降り、轢かれずに済んだ民を探しに行っていた。そして、船が壊れるバキゴキという音を聞いて戻ってきた。

 

 「……わ」

 

 見事に艦尾、艦首に別れた船体を見たショックで、一瞬言葉に詰まる。

 

 「吾輩の船がああああああああああああ!」

 

 絶叫する。受け入れがたい目の前の光景を空っぽの眼窩で捉えたギドは、がっくりと膝をつき、頭を垂れ蹲る。

 

 一方ホグダも、その光景をエリーの隣で見下ろしていた。

 

 ギルバートの回収を終え、あとは海賊船で王都からさっさと帰還するだけのはずだった。その帰還するための手段を破壊され、状況が一気に悪化したのを悟った。

 

 「エリー」

 

 「な、なに?」

 

 エリーは何がどうなっているのか理解が追い付いていなかったが、悪い状況になったことだけは感じていた。

 

 「ギドと一緒に、あの男を何とかしなさい。あたしがボーンパーティを直し終えるまででいいわ」

 

 骨製の海賊船であるボーンパーティは、ホグダが死霊術で作り上げたものだ。大きな破損を受けたボーンパーティを修復できるのは、製作者のホグダだけである。

 

 「……うん、わかった」

 

 エリーの役割はホグダの護衛であり、ゾンビ騒ぎで神官が王都をうろうろしていると考えられる今、ホグダのそばを離れるのは良くない解っていた。が、エリーは指示に従い、ホグダを残してバルコニーを飛び降りる。それは……

 

 ―ご主人様すごく怒ってる。

 

 怖かったからであった。

 

 エリーは海賊船付近に着地したが、一度船を離れギドのところに駆け寄った。

 

 「ギド、あの人なんとかしろってご主人様が」

 

 「吾輩の船が、、ボーン、パーティが……」

 

 ギドはがっくりと両手を地面に着いたまま、ぶつぶつ言っている。

 

 ―そんなに船が大事だったんだね。海賊だもんね。

 

 エリーは珍しく落ち込むギドを見て、スケルトンなのに人間みたいだなと思った。

 

 「ギド、ご主人様がギドの船直してくれるから、それまであの人を船の上からどかそ?」

 

 エリーが子供を諭すような話し方でギドを励ますと、ギドはスッと立ち上がった。

 

 「直るんだな?」

 

 ギドは自分の船の上に立つ痩せ型の男を見あげながら、エリーに問う。

 

 「直るよ。あの人をなんとかできたらね」

 

 破壊した本人が乗った状態で修復など無理である。修復の邪魔をされるか、ホグダが攻撃されるに決まっている。

 

 「おいスケルトン、なぜ我らの邪魔をする? 人間の国など守ってもスケルトンに得などないだろう?」

 

 立ち上がったギドを見て、痩せ型の男は初めて口を開いた。 

 

 「なにいってんだぁ? 邪魔してんのはてめぇだろうがぁ!」

 

 自分の船を破壊された悲しみが怒りに変わり、ギドは完全にキレていた。

 

 そしてエリーもようやく事態を飲み込み始めていた。

 

 ―そうだよ。なんで邪魔されなきゃいけないの? ご主人様の大事な存在を、とっても大事な人をもらっていきたいだけなのに。どうして邪魔するの?

 

 ふつふつと怒りがわいて出てくる。目の前の男を理不尽に感じ、”なんで?””どうして?”という言いようもない感情が胸の中で渦を巻いていく。

 

 「ギド、部下は?」

 

 エリーは一旦冷静になると、ギドに部下の所在を問う。

 

 「船の中だ。全滅はしてねぇと思う」

 

 ギドはキレつつもエリーに八つ当たりせず、問いに答える。

 

 「ご主人様の護衛に何人か向かわせて? 私ほっぽって来ちゃった」

 

 「ああ、そうするぜぇ」

 

 ギドの了承が取れたところで、エリーは懐からビンを一本取りだす。

 

 栓を抜き、中の赤い血をグビッと一息に飲み込む。

 

 ―ヴァンパイアレイジ。

  

 エリーは目が赤く染まり、全身に力が漲るのを感じる。ギドに戦い方を教わっていた数日で、ヴァンパイアレイジは幾度も使ってきたため、今では完全に自身の制御下に置かれたスキルだった。

 

 「ほう? スケルトンだけでなくヴァンパイアまでも人間の味方とは。愚かなことだ」

 

 エリーの赤い瞳を見た痩せ型の男は、呆れたような表情で言い放った。完全に的外れなことを言っているのだが、その表情と発言は、エリーの地雷を踏みぬいていた。

 

 ―違うよ。私は”ハーフ”ヴァンパイアだよ……違う、違う違うちがうちがう!

 

 「私は」

 

 つぶやくようにしゃべるエリーに、壊れた海賊船の上から痩せ型の男が目を向けた。

 

 次の瞬間、痩せ型の男の目の前にこぶしを振りかぶったエリーがいた。

 

 「ヴァンパイアじゃなあああああい!」

 

 「うぁ」

 

 痩せ型の男はエリーが一瞬で距離を詰めてきたことに驚き、間抜けな声をあげる。

 

 そして一瞬後、エリーの右こぶしを顔面に受けた。

 

 ”ゴパアァ”という素手の殴打では出ないような音をたて、エリーは痩せ型の男を思い切り殴り飛ばす。殴られた男は背後の王城に叩きつけられ、その後床に落ちて行った。

 

 我を忘れてぶん殴ったエリーは、こぶしの痛みで我に返る。

 

 「いたいいたい、普通に殴っちゃった」

 

 船の上に降り立ち、右手の指の付け根、第三関節あたりを左手でさすりながら、ふらふらと起き上がり、痩せ型の男を見下ろす。

 

 そして右手を豹拳(ひょうけん)、左手を貫手(ぬきて)に構え、指尖硬化によって固定し尖らせながら……

 

 「次からは、もっと強く殴るからね」

 

 そう宣言した。

豹拳は、指の第三関節を伸ばしたまま、第一、第二関節を曲げた拳です。

貫手は貫手です。


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