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死霊術士は再会する

 海賊船ボーンパーティは、再び3頭馬車6台の上に設置され地上を爆走していた。

 

 馬車の車輪が深く地面をえぐり、巨大な土煙と石や岩を割り砕く轟音を轟かせ、馬車を引くスケルトンホースの最高速度で王都に向かっている。

 

 ―前回も派手に登場したからなぁ。土煙が見えた時点で一般人どもは避難してるだろう。

 

 ギドは意気揚々と操舵機を握りしめ、王都の東門に海賊船を進ませる。

 

 艦首には破城槌、馬車の前に骨製の大きなバンパーを取り付けた海賊船は、一見するだけではもはや別物に見える。

 

 ―早くギルバート様奪還して、早いとこ余計なパーツ取り外してもらいたいぜ。みてくれはともかく陸を走ってちゃあ海賊船とはいえねぇからよ。

 

 ギドが改造された自分の船のことを考えていると、王都の東門が見えてきた。

 

 城壁にある見張り台に人がいないことを確認して、ギドはすでに避難が終わったものと思った。

 

 「今日こそギルバート様を奪わせてもらうぜぇ? 王族の皆さんよぉ!」

 

 全速力で進む海賊船の上で、ギドは自分の決意を口にした。

 

 

 

 

 ホグダを抱えたエリーは王城の壁を蹴り進み、北側2階のバルコニーに着地した。そこは前回のギドの襲撃と、ギルバートとの戦闘の跡がちらほらと残っている。

 

 「降ろしなさいアラン。自分で歩けるわ」

 

 ―あ、一応偽名で行くんだね。

 

 「この奥の廊下に、ギルバートが明けた穴があるよ。とりあえずそこまで行こ?」

 

 エリー務めて地声より低い、少年のような声で提案する。

 

 自分の提案に頷くホグダを見たエリーは、足音を立てずに先導して進む。

 

 バルコニーから城内に入ると、一気に騒がしくなった。

 

 ”ゾンビはどこだ? どこから王都に入り込んだ?””神官はもう浄化に向かったのか?”などの声が聞こえてくる。

 

 ―ゾンビが出ただけでこんなに慌てるんだね。そんなに危険なのかな? 

 

 「ねえさん、ゾンビってそんなに危険なの?」

 

 後ろにいるホグダに小声で問う。

 

 「危険よ。あたしは防腐処理が完璧だから大丈夫だけど、腐りかけのゾンビは病原体をまき散らしながら徘徊するの。ゾンビ本体を倒しても、ばらまかれた病原菌で町や村が滅ぶなんてこと、昔は珍しくなかったわ」

 

 ―なるほど、それでみんな大慌てしてたんだね。

 

 納得したエリーは、廊下に人がいないことを確認して進む。ギルバートが床に開けた大穴は、木材を打ち付けて仮固定されていた。

 

 「ここだよ。この穴から出てきたの」

 

 ホグダにそう伝えながら、木材を引っぺがしていく。

 

 「この下は一階よね。そこから先は解るの?」

 

 「わかんないけど、たぶん暴れた後が残ってると思う」

 

 木材をはがし終えたエリーは、まず穴に頭を突っ込んで1階を索敵する。

 

 ―大丈夫、だれもいない……

 

 1階廊下の安全を確認したエリーは、シュタっと降り立つ。そしてホグダが足をプラプラさせながら降りようとしている間に、廊下の壁や床を観察する。

 

 「あった」

 

 小声でそうつぶやくと、壁のひび割れに近づいていく。

 

 明らかに最近できたと思われるひび割れは、エリーの読み通りギルバートがつけたものであった。

 

 ―たぶんスケルトンを叩きつけたのかな。となるとたぶんこっちの方から来たんだよね……

 

 エリーは2階の床の穴と壁のひび割れから、ギルバートが進んだ道を逆算していく。


 1階に降り立ったホグダを連れて、エリーはギルバートの居場所に近づいてった。

 

 

 

 

 王城地下の最奥、石造り部屋は、ギルバートを安置しておくために作られた部屋だ。

 

 狭い部屋の中央には簡易ベッドが置かれ、その上にギルバートが寝かされている。それだけの部屋だった。

 ギルバートに拘束はされていない。王家の持つ秘薬によって”起こさなければ”、ギルバートは眠り続けるため、拘束する必要がなかった。そもそも拘束などしたところで、起きたギルバートはあっさりと破壊するだろう。

 

 王城内がゾンビ騒ぎに太鼓すべく王城に集めていた神官たちを向かわせたころ、その部屋にエリーたちが到着した。

 

 ホグダはバラバラに壊された木製の扉の向こうに、簡易ベッドとギルバートを見つけた。

 

 「やっと……会えた」

 

 エリーを扉の近くに残し、眠り続けるギルバートに歩み寄っていく。

 

 「ギルバート……いつぶりかしらね……」

 

 自力で目を覚ますことがないギルバートに寄り添い、そっと顔を撫でる。

 

 「お互い随分変わったわね」

 

 もはや人とは呼べないものになったギルバートに、ゾンビとなったホグダは語り掛ける。

 

 1分ほどそうしていたが、いつまでもここにいるわけにもいかない。ホグダはギルバートを抱き上げると、王城を出るべく歩き出した。

 

 エリーは、見たこともないような表情で優しくギルバートに語り掛けるホグダを黙って見ていた。

 

 ―そんなに会いたかったんだね。

 

 それ以上のことは思わなかった。出会って数日しか経っていないエリーは、どうしてギルバートが王城に囚われてるのかも、なぜホグダはギルバートを奪い取りたいのかも知らなかった。だが、ホグダにとってギルバートはとても大事な存在なのだと、この時理解した。

 

 ギルバートを抱えたホグダとエリーは来た道を戻る。

 

 ―そろそろ日が沈むころだよね。もうそろそろギドが東門を破って王城の近くまで来るはず。

 

 ソロリソロリと王城1階まで戻って来たとき、何者かが走って向かってくるのが解った。

 

 「ゾンビどもの数が多すぎる! なぜ民までゾンビになっておるのだ!」

 

 エリーには聞き覚えのある声だった。

 

 ―えっと、確か王様の弟の声? いつ聞いたんだっけ?

 

 「ねえさん、人がこっちに来てる。王様の弟だと思う」

 

 「王の弟? なんでそんな奴がこっちに来るのよ」

 

 「わかんないよ」

 

 「護衛は何人?」

 

 「たぶん護衛いないよ。足音は一人分しか聞こえない」

 

 ホグダは”それは好都合ね”と思った。どんな奴がギルバートを好き放題使っているのか見てみたいと思っていたホグダにとって、これはいい機会だった。

 

 王弟ジークルードは、増え続けるゾンビの殲滅のためにギルバートを使おうと考えていた。ギルバートを起こす秘薬を持ってこちらに向かっていたが、そんなことはエリーたちには関係なかった。

 

 近くに部屋はなく、ギルバートを抱えたまま隠れられる場所がない。そのため、エリーたちは向かってくるジークルードと鉢合わせるしかなかった。

 

 「な、なんだ貴様ら! ギルバートをどこに持っていくつもりだ!」

 

 廊下を曲がり、エリーたちを見たジークルードはそう叫んだ。

 

 そしてホグダは憤慨した。目の前の男は、ギルバートを”連れて行く”ではなく”持っていく”と言った。人ではなく物のような言い方に、ホグダは静かにキレた。

 

 ホグダはギルバートを奪い利用し続けた王家に、ゆっくりと答える。

 

 「あんたたちから、とりかえすのよ」

 

 「何を言っとる! 今すぐソレをよこせ! ゾンビどもがこれ以上増える前に、ソレを起こして殲滅させねばならぬ!」

 

 ジークルードは焦っていた。”ゾンビが大量に現れ、どんどんその数を増やしていく”という聞いたことがない事態が、自分のいる王都で起こっている。そのことで頭がいっぱいだった。

 大事な存在を物のように言われ、ソレなどと呼ばれ、ギルバートを抱えた女がどのような気持ちになったかなど考えもしなかった。

 

 ホグダは躊躇なく死霊術を使い、着弾部位を壊死させる光弾を生み出す。

 

 「もういいわ、死になさ」

 

 ”死になさい”と言い終わる前、光弾を男の顔面に放つ直前にエリーが行動していた。

 

 ホグダのすぐ近くから即座にジークルードの目の前まで移動し、鳩尾(みぞおち)にこぶしを叩き込んだのだ。

 

 突然襲い来る激痛と衝撃で、呻く間もなくジークルードは気を失い倒れこんだ。

 

 「あたしが殺すつもりだったのだけど」

 

 自分の手で後悔させながら殺したかったホグダは、不満を口に出した。

 

 「人を呼ばれるかもしれないのに、いつまでも話してるからだよ」

 

 ―あとご主人様が怖いから、早く何とかしたかったんだよ。

 

 ホグダはフンっと不満げに鼻を鳴らすと、倒れている男などどうでも良いかのように歩き始めた。

 

 その時、東の方から派手な破壊音とグチャグチャという嫌な音が聞こえてきた。

 

 ―あ~たぶんギドかな。なんかグチャグチャ聞こえたけど。

 

 「たぶんギドね。急いでギルバート担ぎ込んで、さっさと逃げるわよ!」

 

 「は~い」

 

 エリーとホグダは、音が聞こえた東側に向けて走り始めた。

もう少し再会シーンをかきたかった

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