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襲撃者たちは計画を練る

 ご主人様から化粧を教えてもらって、ギドから素手の戦い方を教わって、襲撃の計画を練って……いろいろやることがあったけど、私はおいしい血を毎日飲めてすっごく楽しい日々を過ごした。

 でもその生活は今日で終わるかもしれない。明日王都に行って、ギルバートを連れ帰ることになってる。

 

 ―ギルバートを連れてきたら、もっと血を飲ませてくれるかな……? そのあとも楽しく過ごせるのかな……?

 

 私がぼんやり考えてると、ご主人様が私を呼びに来た。

 

 「エリー、明日の作戦をおさらいするわ。来なさい」

 

 「は~い」

 

 オリンタス山の中腹は今の季節だと涼しくて、暇なときに私は洞窟のそばで寝転がってる。

 

 洞窟の中に入ると、地面にしゃがんで木の枝でガリガリやってるご主人様とギドがいた。

 

 「よし、来たな。それじゃあ最後の説明になるから、よく聞くんだぜぇ?」

 

 ―ちゃんと覚えてるけど、一応確認しとこっと。

 

 「まずあたしとエリーが姉弟に変装して王都に入るわ、入るのは東門で夕方よ」

 

 ―結構いい生地の服をきて、上流階級っぽく変装するんだったね。


 私はうんうんとうなずく。

 

 「王城付近は市民向けの広場がいくつかあるみたいだから、そこでいったん待機よ」

 

 「で、二人が王都で待機してるあたりを見計らって、吾輩がボーンパーティで王都に突っ込むわけだ」

 

 ギドが気合の入ったしぐさをしながら言う。

 

 「ボーンパーティの襲撃には、またギルバートを使って来ると思うの。だからあたしたちは、騒ぎに乗じて王城に侵入。ギルバートのところに向かう王城の誰かを探し出して追跡する」

 

 ―前の襲撃の時もギルバートが出てきてたから、たぶん今回も出てくるよね。

 

 「最後にギルバートをあたしたちで連れ出して、ボーンパーティで回収して速攻帰還する。良く練られた作戦ではないけれど、前回と同じ襲撃を繰り返すよりいいと思うわ」

 

 「エリー、お前の役割はギルバート様の運搬とご主人様の護衛だ。ちゃんとわかってるな?」 

 

 ―わかってるよ。

 

 「アンデッド対策で神官が王城にいるかもしれないから、出会ったら私が倒せばいいんでしょ?」

 

 「そういうことよ。アンデッドと死霊術士の天敵が神官なの。自慢じゃないけど高位神官とかいたら、あたし絶対勝てる気しないわ」

 

 ―ご主人様ってギドより強いんじゃないの? 私ギドより強いかどうかわかんないよ?

 

 「ご主人様が勝てないなら、私でも勝てないんじゃない?」

 

 「おいおい、お前はハーフヴァンパイアであってアンデッドじゃないだろぉ? むしろ人間あいてなら基本的に有利な生き物だぞ?」

 

 ―そうだった。私は二人とは違うんだった。

 

 「それじゃ、この作戦で行くわ。明日に備えて今日はやすみなさい」

 

 「は~い」

 

 

 

 

 人間の国、クレイド王国は現在物々しい雰囲気に包まれていた。

 

 破壊された北門と大通り、そして王城の修復と、北門のすぐ外に騎士団駐屯地の設置が行われているせいだ。

 

 ……そして、その王都全体の風景を俯瞰(ふかん)している者たちがいる。

 

 「オイ……王都がいろいろ壊れてるぞ……何があった?」

 

 筋骨隆々な男が窓を覗き込みながら、背後の者たちに問う。

 

 「なんでもアンデッドの襲撃があったそうだ。地上を走る海賊船が、北門をぶち破って王城を襲撃したと言っていたな」

 

 ソファーに座る痩せ型の細長い男が答える。

 

 「面白いお話でございますね。続きはないのですか?」

 

 痩せ型の男の対面に座る小柄な女が、笑いながら言う。

 

 「まぁなにが原因かなどこの際どうでもいいだろう。今のうちに王都を抑えれば、真祖復活後が円滑になるとおもわないか?」

 

 痩せ型の男が全員に問うと、うなずきが二つ帰ってきた。

 

 「どうやって抑えようか。3人で暴れてもいいが、冒険者に兵士に騎士と数が多そうだ」

 

 痩せ型の男は、思考をあえて口に出す。ふたりの意見を聞けるかもしれないと思ったからだ。

 

 「門を封鎖することで、王都の出入りを遮断することが可能でございます。門を抑えてから3人で遊ぶというのはいかがでしょう?」

 

 小柄な女が意見を言う。が、すぐに却下される。

 

 「どうやって門を塞ぐ……? まだドリーとかいう人形は……使えないのだろう?」

 

 「できれば手早く人払いをしたい。楽であればなおいいな」

 

 「中途半端な……騒ぎは……かえって人が来る」

 

 いい案が浮かばないと3人が考えていると、ガチャリと音をたてて部屋の扉が開かれた。

 

 「こんばんわ、お三方」

 

 その女は、3人まとめて挨拶をして窓に向かう。

 

 「何度見てもすごいですわねこの船……まさか王都を真上から見下ろす日が来るなんて」

 

 小柄な女は窓から王都を見下ろす女に声をかける。

 

 「なんのようでございますか? 研究ばかりでぜんぜん協力しない協力者さん?」

 

 するとその女は、3人の方に向き直る。

 

 「ですから、協力ですわ。このお薬をお使いください」

 

 痩せ型の男がソファーから立ち上がると、女が差し出したビンを手に取る。

 

 「これは? どういう毒だ?」

 

 「人を生きたままゾンビに変えてしまう、そのゾンビに噛まれた人もゾンビになる、そういう”お薬”ですわ。まぁ趣味の副産物なのですが」

 

 女は真っ赤な瞳で痩せ型の男を見ながら、にやりと口を歪ませて続ける。

 

 「アンデッドの襲撃を受けた王都は、そのあとゾンビになってしまうお薬の感染爆発によって滅ぶ。となれば、人々はすべてを最初に襲撃した者の仕業とするでしょう?」

 

 痩せ型の男は”お薬”のビンを握り、目の前の赤紫の髪の女に言う。

 

 「お前が仕組んだんじゃないだろうな? ヘレーネ」

 

 都合のいいタイミングで都合のいい毒を持ってきたヘレーネを疑うが、ずっと同じ船にいたことは知っていた。

 

 「さすがにそれは無理ですわ、サイバさん」

 

 王都の上空に浮かぶ魔法で透明になった飛行船の中で、彼らは王都から人間を排除するプランを立てる。

 

 そしてエリーたちは、自分たち以外の襲撃者がいるとは思っていなかった。

次話襲撃

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