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IF END ゼルマの居場所

※必ず前書きをお読みください。

前話を書いた後、滅茶苦茶筆が乗って書きました。

IFルートなので、本編には一切関係がありません。

書いてる最中作者はとても興奮したので、胸糞注意です。

グロイ感じの胸糞ではなく、尊厳を踏みにじる系の胸糞です。

183部 謝罪 の後のIFルートなので、先に183部をお読みになった方が良いかもしれません。

 団員の皆に吸血鬼討伐騎士団を作り、操って来たトレヴァー家の秘密と、私の罪を告白した日から、どれだけ経ったか。

 

 吸血鬼討伐騎士団は、試作戦術騎士団と名を変え、新団長イングリッドを筆頭に活動を始めた。

 

 そして、24人全員の部下からの信頼を最低の形で裏切った私は……

 

 どれだけ嫌われ、軽蔑され、蔑まれても、私はこの騎士団にしか居場所を見いだせない。


 私にはここしかない。

 

 団長の座を正式に外された日、6名の分隊長全員は、私にこう告げた。

 

 「これからあなたを近衛騎士に引き渡します」

 

 報いを受けて死ね。

 

 それが6名、いや24名全員の総意なのだと、その日にはっきりと明確に突き付けられた。

 

 ……嫌だ。

 

 嫌だいやだイヤダ!

  

 悪いのは父だ!

 

 私じゃない!

 

 私に選択肢なんか無かったんだ!

 

 そう、口にしたかった。

 

 だが、私がそんなことを言ったところで、耳を貸してくれるはずも無いと、どこか冷静な私が悟っていた。

 

 だから私は、縋った。

 

 謝った。

 

 土砂降りの雨の中だ。

 

 騎士団の訓練場で、24名全員の前で、私は上着を脱いだ。

 

 ベルトを外した。

 

 ズボンを脱いだ。 

 

 靴下を脱いだ。

 

 シャツを脱いだ。

 

 下着を脱いだ。

 

 脱いだものを丁寧にたたみ、雨でぐしょぐしょになった地面の上に置いた。

 

 そして、素っ裸になって全員の前に立ち

 

 膝をつき

 

 尻を踵に付け

 

 三つ指を地面について

 

 深々と頭を垂れ

 

 額をぬかるんだ地面に押し当てた。

 

 情けなさで全身が震えた。

 

 背中を叩く雨粒が、嫌に痛く感じた。

 

 涙が止まらなかった。

 

 羞恥など感じている余裕は、無かった。

 

 「すみません、でした。トレヴァー家の、どうしようもない、目的すら曖昧な、申し開きも出来ないほど、罪深い企てのために、みな、皆さまに、幾度も命の危機の伴なう行為を強い、団長などという分をわきまえぬ立場で、偉そうなことを言い続けて、すみませんでした」

 

 誰かにこう言えと指示されていたのなら、きっとまだ救いがあった。

 

 だが私が今口にしたことは真実であり、救い難いことに、全て私が考えた謝罪の言葉だ。

 

 「本当に申し訳ございませんでした。この、薄汚れた身で良ければ、何でも言うことを聞きます。いかなる反抗も致しません。ですから、どうか、命ばかりはお許し願えないでしょうか……」

 

 震えと涙が止まらない。

 

 顔をあげられない。

 

 あんなに慕ってくれていた部下が、今の私をどんな目で見ているのか、怖くて確かめられない。

 

 誰も返事をくれない。

 

 雨の音しか聞こえない。

 

 耳元の小さな水たまりが弾けて、耳に泥がついて、今自分がどんな格好でどんな体制で、何をしているのかを自覚させられる。

 

 「お願いします! 私には、ここしか、無いんです! 何も無いんです!」

 

 こんなにも情けの無い声は、今まで出したことが無い。

 

 時間の感覚すら曖昧だ。

 

 どれだけ黙って、土下座し続けていたのかわからない。

 

 体が冷え切り、涙だけが止まらなくなっている。

 

 そんな時、足音が鳴った。 


 2回だ。

 

 私に歩み寄るような、雨の中の水たまりを踏むような、そんな足音が2回。

 

 「やめてくださいよ、ゼルマ団長」

 

 カイルの声だ。

 

 「団長、わかりました。引き渡したりしません。ここに居てください」

 

 そう言われて、私はやっと頭を上げられた。

 

 額についた泥が鼻の横を伝って唇まで落ちる。

 

 暗くてよく見えないが、カイルが私を見下ろしている。

 

 中腰になって、片手を膝に突き、もう片方の手を私に向かって伸ばしてくれている。

 

 「……許して、くれるのか?」

 

 「許すって言うのとは、少し違います。でも、団長は俺らが思っているより悪人じゃないってわかったんです。だから」

 

 カイルは少し考えてから、続きを言った。

 

 「だから、ここに居てください」

 

 言葉の意味は、よくわからなかった。

 

 だけど私は、最後に残った居場所を失わずに済んだと、心の底からホッとした。

 

 「あ、ありがとう……」

 

 私は泥だらけの手でカイルの手を取り、もう片方の手で目を押さえた。

 

 「ありがとう、ございます」

 

 「団長、敬語やめてください。今まで通りのゼルマ団長で居てください。俺ら、そっちの方が好きです」

 

 「表向きの団長は私になってしまいましたが、やはりゼルマ団長に率いてもらうのがしっくりきます」

 

 イングリッドまで、そんなことを言ってくれた。

 

 私は

 

 私は

 

 情けなくて

 

 ありがたくて

 

 心の底から、泣いた。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

  

 

 私は持っている服や化粧品など、持ち物を全て焼却炉に入れた。

 

 ゼルマという指名手配犯は兵舎から逃亡し姿を消した、という工作のためだ。

 

 ナンシーら数名が私のために新しい服を用意してくれている。

 

 新しく私に用意されたのが、真っ白のロングチュニックだ。

 

 膝上まで丈のあるチュニックは、いかにも安物という感じがして、もはやだれが見ても騎士団の団長を務めていた者が普段着るような物には見えない。

 

 万が一にも私が兵舎に居ることを悟られないためだそうだ。

 

 こういう細かな配慮は、きっと今の私には無理だった。

 

 ありがたい。

 

 団長の職務はイングリッドに引き継いであり、書類との格闘や皆をまとめる仕事は、もう私の役目ではない。 

 

 私がやることと言えば、掃除や洗濯と言った家事だろう。

 

 使用頻度の多い男子トイレから、滅多に使わない倉庫まで、出来ることからやっていく。

 

 「おはよ、ゼルマ団長」

 

 男子トイレを掃除していると、隊員が用を足しに来て、気安く挨拶をしてくれた。 

 

 「ああ、おはよう」

 

 敬語は止めて欲しいと言われ、今まで通りの私で居て欲しいと言われれば、そうする。

 

 だが用を足す横に異性の私が居てはやりにくいと思い、私は一旦トイレ掃除を断念した。

 

 そしてトイレを出ると、ナンシー率いる3人の団員とすれ違う。

 

 「団長おはよう」

 

 「おはようございます、団長」

 

 「おはよ~だんちょ~」

 

 腹を割って話したからか、皆との距離が少し近づいた。

 

 そんな気がする。

 

 その後テキパキと掃除を進め最後に団長室。

 

 私が最近まで使っていた部屋で、今はイングリッドの部屋だ。

 

 その部屋を掃除しようと中に入ると、イングリッドが頭を悩ませていた。

 

 「何をそんなに悩んでいるんだ? わからない書類なら手伝わせてくれ」

 

 するとイングリッドは私を見て、珍しくにこりと笑った。

 

 「ゼルマ団長。そうですね。書類ではないのですが、少し手伝ってほしいことが」

 

 そうとなれば、私の答えは決まっている。

 

 「なんでも言ってくれ」

 

 「ありがとうございます」

 

 イングリッドはそう前置きし、手にしていた書類を見せた。

 

 「対ヴァンパイア戦術についてまとめた報告書を書かなければいけないのです。剣、楔、盾の連携については問題なくかけたのですが、今悩んでいるのは戦術の開拓に至った過程についてなんです」

 

 「ん、つまり、対ヴァンパイア戦術が出来る前の戦い方についてだな」

 

 「えぇ、そうなんです。ですが実戦データがあまりなく、どのようにして以前の戦い方がダメだったのか、うまく書けずにいるんです。そこで、ちょっと模擬戦をしたいと思います」

 

 「模擬戦?」

 

 「はい。団員の中の誰かをヴァンパイアに見立て、分隊とその1人で模擬戦をして、問題点を洗い流そうと考えています。ゼルマ団長は私たちの中でヴァンパイアに一番詳しそうなので、模擬戦でのヴァンパイア役をお願いできますか?」

 

 「ああ、わかった」

 

 「ありがとうございます。昼食後に模擬戦を行いますので、訓練場に来てください」

 

 それなりに重要な仕事だが、しっかりとこなそう。

 

 ここに居るために。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 昼食の後、私は模擬戦用の木剣を持って訓練場へと足を運んだ。

 

 雨でぬかるんでいるが、問題ない。

 

 そして私の到着と同時に、トーマス隊が姿を現した。

 

 「トーマス隊が模擬戦の相手なのか?」

 

 「そうですよ団長。ヴァンパイア役、引き受けてくれた助かります。うちの分隊員は誰もやりたがらなくて」

 

 「いいさ、そう言うときのための私だ」 

 

 「ありがとうございます。んじゃ、早速始めましょうか」

 

 トーマス隊はそれぞれ、訓練用の鎧を着け始める。

 

 私も装備しようと鎧に手を伸ばすと、待ったがかかった。

 

 「団長団長。ダメですよ防具付けちゃ。鎧を着けたヴァンパイアなんて見たことないでしょ?」

 

 「え? あ、あぁ……だが訓練だろう?」

 

 「訓練ですが実戦に近づけないと。一応イングリッドが書く書類は、実戦での出来事を書く必要があるんですから」

 

 訓練で防具無しは少々危険なのだが……確かに鎧を装備したヴァンパイアは見たことが無いし、おそらく鎧を必要とするヴァンパイアが居ないというのは同意見だ。

 

 「そう、か。わかった」

 

 私は訓練用の鎧から手を引っ込め、改めて木剣を握り直す。

 

 「剣を使うヴァンパイアは……あぁ、居たな」

 

 そんなつぶやきが聞こえた。

 

 エリーのことだ。

 

 しかし、エリーが居なかったら、私は武器も防具も無しで4人相手に模擬戦をすることになっていたのか?  

 

 ……まさかな。

 

 

 

 

 

 

 模擬戦が始まった。

 

 私が適当に訓練場を歩き回ると、トーマスが叫ぶ。

 

 「居たぞ! ヴァンパイアだ!」

 

 町中でヴァンパイアを発見した想定だ。

 

 トーマス隊はすぐに集まり、トーマスと並んで木剣を私に向ける。

 

 「気を付けろ! 相手はヴァンパイアだ! 油断せず本気で行け!」

 

 「「「はっ」」」

 

 トーマスの掛け声とともに、4人全員で木剣を構え、私に向かって特攻をかける。

 

 ジャイコブと戦った頃は戦術もくそもあったもんじゃなかった。

 

 もしあの時ヴァンパイアに遭遇していれば、きっとこんな風に戦っていたことだろう。

 

 私も油断なく木剣を構え、真っ先に突っ込んできた1人の剣を強く弾く。

 

 ”カカン”という甲高い音が鳴った。

 

 同時に迫る3本の木剣を、対捌きで避け、反応の早い1人の木剣をさらに弾く。

 

 ”カカンカカン”と乾いた音が鳴る。

 

 私はうまくヴァンパイア役をやれているだろうか。

 

 

  


 

 

 

 

 

 


  

 

 

 もうどれだけ模擬戦を続けた?

 

 息が上がって、木剣が重い。

 

 足が思うように動かない。

 

 対するトーマス隊は、まだまだ元気だ。

 

 「はぁっ」

 

 迫る木剣を、気合で撃ち合って相殺する。

 

 他の3本は

 

 「ハグッ」

 

 木剣の丸みを帯びた先端が、私の胸を強く突く。

 

 刺突に反応しきれなかった。

 

 息が詰まる。

 

 だが模擬戦は終わっていない。

 

 まだまだ来るッ

 

 2本同時の振り下ろしに、判断を誤った私は、木剣を掲げて受けてしまった。

 

 男2人相手では、膂力で勝てるはずも無い。

 

 押し負け

 

 「ああ゛っ」

 

 3本目の木剣の振り上げが見えておらず、真下からの木剣に、股間を強かに撃たれた。

  

 チュニックがまくれ上がるが、気にしていられない。

 

 気付けば私が受けている木剣は1本になっている。

 

 私の左右と後ろに、1人ずつ。 


 囲まれた。

 

 次の攻撃が

 

 「ひぃ゛」

 

 太ももを

 

 「うっ」

 

 わき腹を

 

 「うぐっ」

  

 尻を打つ。

 

 抑えきれなくなった木剣が振り抜かれ、右肩を強く叩く。

 

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」

 

 父上にかみ砕かれた右肩が、木剣に撃たれて激痛を生む。

 

 たまらず転がって距離を取れば、すぐに追いすがられ、木剣が迫る。

 

 とっさに木剣を当てて防御を試みるが、力のは要らない右肩では、どうしようもない。

 

 ”カコーン”と気の抜ける音と共に、私の手から木剣が飛んでいく。

 

 終わった。

 

 両手を上げて降参を

 

 「ま、参っい゛あ゛ぁ」

 

 容赦なく振られた木剣が、私の体をさらに打った。

 

 「待って! 私のう゛っぁ」

 

 なぜだ。

 

 降参の意図は伝わっているはずなのに。

 

 なぜ模擬戦を続けるんだ。

 

 「団長はヴァンパイア役でしょ? 武器なんかなくてもヴァンパイアは俺らより強いじゃないすか。俺らに降参したヴァンパイアなんて、今までいなかったじゃないですか」

 

 私の疑問に答えるようにトーマスがそう言い、木剣を防ぐ手段が無くなった私に、さらに木剣を振り下ろす。

 

 「あぐっ」

 

 とっさに出した左腕が木剣に撃たれ、激痛を伴なう痺れが走る。

 

 「あん時の俺らは、ヴァンパイアがあんなに強いなんて知らなかった。心臓を刺しても死なないなんて、思ってもみなかった。首を完全に切り離すか、飢餓状態まで追い込むかしかないなんて、わからなかったんですよ!」

 

 トーマス隊は全員木剣を投げ捨てた。

 

 ぬかるんだ地面に”ベチャベチャ”と転がった木剣を目で追った直後、膝蹴りが鳩尾へと叩き込まれる。

 

 声が出せない。

 

 立って入れらない。

 

 「おっと、ヴァンパイアはこんなんじゃ倒れないってぇ!」

 

 腕を掴まれ、倒れることも許されない。

 

 呼吸が出来ない私めがけて、拳がうなる。

 

 なぜか顔や首だけは狙わず、胴体や手足を執拗に、打つ。

 

 打つ。

 

 打つ。

 

 打つ。

 

 「も……や、やめて、ぐれ……やめて、く、ください」

 

 全身の激痛に耐え切れなくなり、涙が零れ落ちた。

 

 泥と汗でべったりと張り付くチュニックは、奥の色を透けさせ、痣になった肌や下着を晒している。

 

 「おいおい団長。これはぁ、無策で戦ってもヴァンパイアに勝てなかったって言う実戦データのための模擬戦ですよ? ヴァンパイアが負けちゃ、対ヴァンパイア戦術なんていらなかったって話になるじゃないですか」

 

 やっと腕を開放され、グシャリとその場に倒れ込む。

 

 痛くて痛くて仕方がない体を、何とか動かして、私は

 

 「す、すみ、ませんでした……弱くて、く、訓練にも、ならなくて、すみません」

 

 土下座して、そう謝った。

 

 ここに居たい。

 

 この兵舎で、大事な私の団員と一緒に居たい。

 

 そう思うと、自然と体が動いていた。

 

 「あの、団長。謝る時って、それでいいんでしたっけ? 団長のせいでさっきまでの模擬戦の時間無駄だったんですよ? イングリッドが書く書類も遅れてしまうんです。そんなんでいいんですか?」

 

 そうだ。

 

 私は一度体を起こし、先日のように

 

 着ていた物すべてをすぐ横に畳んで置き、もう一度土下座をした。

 

 痛む体が冷えて、余計に痛む。

 

 大事な団員にこんな無様を晒すことの情けなさで、震えが止まらない。 

 

 「すみませんで、した。許してください」

 

 ”ズシャ”と足音が

 

 足が上がる音がして、私の後頭部がズンと重くなる。

 

 額がぬかるんだ地面に、わずかに沈む。

 

 グリグリと後頭部が圧迫され、足の裏で踏みにじられていることを実感した。

 

 「良いんですよ団長。俺がイングリッドに報告してきますから、それが終わったら、ここ片付けて解散しましょう」

 

 頭を踏みにじられてもいい。

 

 それより、許してくれて、ホッとした。

 

 ここを追い出されなくて済んで、よかった。

 

 「ああでも、反省の証として、解散するまでその恰好で居てください」

 

 「わ、かり、ました。ありがとうございます」

 

 その後トーマスは私と3人の分隊員をここに置き、イングリッドに模擬戦の結果の報告をしに行った。

 

 トーマスが戻って来るまで、私は土下座の姿勢のまま、静かに待った。

 

 そして訓練場と泥で汚れた鎧や木剣を洗い、地面を均し終えるまで、時折訓練場の見える渡り廊下を歩く団員達の、侮蔑の視線と嘲笑の声を受け続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日も、同じ模擬戦が行われた。

 

 私がヴァンパイア役で、相手はゲイル隊だ。

 

 体中に出来た痣が治っていない私は、簡単に最初の一撃を貰った。

 

 すぐに剣を弾き飛ばされた。

 

 両の手足が痺れて動かなくなるまで木剣で打たれ、その後は、素手ていたぶられた。

 

 関節を極められ、抜け出せないまま激痛に喘がされた。

 

 あおむけに倒され、腹の上に両足で乗られ、嘔吐するまで足踏みをされた。

 

 そして最後には、昨日のように

 

 「ごぇ、んなさ、い゛」 

 

 服を脱いで土下座をした。

 

 ゲイル隊全員に見下され、土下座する私の頭や背中を踏みつけられ、失禁した。

 

 いつの間にか他の分隊員たちが模擬戦を見に来ていており、ゲイル隊と彼ら全員の笑いものになった。

 

 だが、今日も許してもらえた。

 

 反省の証は、昨日と同じ。

 

 ただしゲイル隊は片づけをせず、私1人でやった。

 

 相変わらず渡り廊下からの嘲笑の声を聞きながら、昨日より長い時間をかけて片づけを終え、泥のように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また次の日も、同じ模擬戦を行うことになっていた。

 

 相手はカイルの分隊。

 

 ヴァンパイア役は、やはり私。

 

 流石にもうわかっている。

 

 これは模擬戦じゃない。

 

 私をいたぶることでストレスを発散しているのだ。

 

 だがそのことに気付いたとき、悪い気はしなかった。

 

 私は彼らに、それだけのことをした。

 

 近衛騎士に私を引き渡さない時点で、皆は私にとてもやさしい。

 

 であれば、このポジションは決して悪くない。

 

 これは私が彼らにした仕打ちの仕返しなら?

  

 それならば私がこの身で受け止めるのは当然だ。

 

 日々溜まった鬱憤の発散だとしたら?

 

 構わない。

 

 私に出来ることなら、サンドバッグでも、晒し者でも、慰み者でもなんでもいい。

 

 使ってくれている。

 

 この兵舎に置いてくれている。

 

 共に居てくれる。

 

 それだけでいい。

 

 特に今日の相手はカイルの分隊だ。

 

 6分隊の中で、一番私に失望し、軽蔑を向ける分隊だ。

 

 他のどの分隊よりも苛烈な模擬戦になるだろう。 


 それだけ、私は自分の価値を見出せる。

 

 「ゼルマ団長。例の模擬戦のヴァンパイア役、またお願いできますか? 他の団員は皆嫌がってしまって」

 

 にこりと笑ってそう持ち掛けて来るイングリッドに、私は笑って答える。

 

 「ああ、もちろんだ。まだあの書類は書けていないんだろう? それは私のせいだからな。私が勤めよう」

 

 顔や首など、目立つ位置に痣は無い。 


 大けがをするような攻撃はされない。

 

 そうわかっているから、私は安心して、打たれ、殴られ、嬲られに行ける。

 

 「その書類が書き終わるまで、ヴァンパイア役は私が引き受ける」

 

 「それは助かります。ありがとうございます、ゼルマ団長。それともう1つ、自分の実力に自信を持てないという団員が複数いまして、もしよかったら模擬戦の後、そう言う団員の個人指導もお願いできますか?」

 

 「あぁ……もしかして、実戦形式でか?」

 

 「はい。実戦での自信を付けたいそうなのです」

 

 そうか。

 

 実戦に置いて、相手を倒せる自信が欲しい。

 

 「わかった」

 

 4人相手の模擬戦の後の私なら、きっと誰が相手でも自信を付けさせてやれるだろう。

 

 もし仮に、私にその気が無かったとしても……

 

 「ありがとうございます。ゼルマ団長には助けてもらってばかりですね」

 

 イングリッドの言葉を聞いてから、私は団長室を出て、昼食を取りに食堂に向かう。

 

 既にボロボロになって、小さな穴が開き始めたチュニックが、少々肌寒い。

 

 だが誰もそのことを気に留めない。

 

 ならば、私はこれで良いんだ。

 

 ここが私の居場所なんだ。

土下座って最高の無様描写だと思うんです。

ゼルマには土下座が似合うだろうと前々から思っていたのです。

次話から本編に戻ると思います。

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