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王弟殿下は会議する

王城で起きたことです。読まなくても大丈夫かも

 「ギルバートはあの後どうなった?」

 

 国王ジャンドイル・クレイドの弟、ジーグルード・クレイドは家臣たちに問う。

 

 「は、”眠った”彼を我が騎士団が回収し、地下の”部屋”に戻しておきました」

 

 ジョージ・グエン侯爵謁見の際、ドーグとエリーの検査をした貴族が答える。

 

 「それと、海賊船とスケルトンどもの狙いは、ギルバートを奪い取ることだと思われます」

 

 確認の意味を込め、王弟殿下に一言添えるその貴族は、リオード・スパインという伯爵であった。

 

 ジークルードはふむと頷き、思案する。

 

 ―骨どもの一連の動きは報告されておる。ギルバートを奪うための行動であると誰でもわかるような動きであった。

 

 「さらに一歩踏み込むのだ。ギルバートを奪って奴らに何の得がある?」

 

 家臣の多くはそれにこたえることができなかった。

 

 「……例えば、ですが」

 

 発言したのはリオードだった。家臣の中でも王に気に入られているからこそ、根拠のない想像でも発言できる。

 

 「王城の制圧、および我が国の侵略を狙っている、というのはどうでしょう?」

 

 家臣たちはざわつく。当然である、なにせわかりやすい脅威であるのだから。

 

 「ほう? そう思う理由を述べよ」

 

 ジークルードは落ち着き払い続きを促す。リオードの”例えば”の部分で、なんとなく言いたいことが解っていたからだ。

 

 「王都における最高戦力がギルバートであることは間違いありません。かつてヴァンパイアを滅ぼした者の一人なのですから。もちろん一人の持つ戦力の話で、軍隊と比べているのではありません」

 

 今リオードが述べたことは、この場にいる全員が理解していることだった。

 

 「しかしギルバートを”起こせる”のは王家の持つ秘薬のみです。その秘薬とギルバートの両方をそろえなくては、ギルバートは眠り続けるだけで戦力にはなりえません」

 

 ”ここまでは前提の話です”と前置きしさらに続ける。

 

 「であれば、ギルバートを奪うことは王家、ひいては王城や国の持つ力を削ぐ意味を持つのではないでしょうか? つまり」

 

 ここまで言われれば、その場にいるもの全員がリオードの言いたいことを理解した。

 

 「目的はギルバートではなく王都や王城であると考えられます」

 

 ジークルードはリオードの話を聞いて、一つの疑問を呈する。

 

 「東の方のアンデッド騒ぎは知っておるな。聞けば王都を襲撃した海賊船も北門を出て東に向かったらしい。関係があるとしか思えぬ。それに関してどう思う?」

 

 考える間もなくリオードは即答する。

 

 「アンデッド騒ぎを起こしたのは、襲撃をやりやすくするためであると考えられます。実際冒険者の多くが王都を離れ東の町に行っておりました」

 

 「それは言われるまでもなくわかっておる。だが、アンデッド騒ぎは100年以上前からたびたび起こっておった。つまり100年以上前からギルバート狙いの何者かがいたかも知れぬということだ。だがあり得ぬであろう? そこをどう思うか聞いておる」

 

 リオードは一度黙って考え、すぐに答えを導きだした。

 

 「調査の結果、100年以上前からのアンデッド騒ぎは、発生源がオリンタス山であるとされております。あの人の住めない危険な山です。つまりアンデッドどもはオリンタス山にて自然発生し、奴らがが東の町や村を襲うタイミングに合わせて、海賊船は襲撃をかけた。という可能性があります」

 

 「そしてもう一つの可能性は、死霊術士が関与しているというものです。オリンタス山でアンデッドを大量に生み出して導くことができる死霊術士が、計画的に行った。というものです」

 

 ―どちらも筋は通っておる。だが現実的なのは前者、つまり死霊術士が関与していないほうだろう。

 

 「筋は通った話であるが、後者はいささか非現実的だな。死霊術士など今や滅多におらぬ。それほどの力を持つものがいるとも思えぬし、そやつが王家を奪ったところで破滅するだけであろう」

 

 死霊術士は忌み嫌われるものであり、神官に対しては無力と言えるほど相性が悪いものだった。仮に王都で死霊術士が何をしようと、高位神官一人いれば制圧されてしまうだろう。

 

 「しかしそれはスケルトンでも同じなのではないでしょうか。アンデッドたる奴らは、高位神官の前では死霊術士以上に無力です」

 

 家臣の一人がジークルードに進言する。

 

 「スケルトンに大した知能などないゆえ、神官の脅威を理解しておらぬだけのこと。それに奴は海賊を名乗っていたのであろう? 王城から金目の物を奪うことが目的であっても不思議はない」

 

 リオードは内心頭を抱えた。”金目のものが目的ならギルバートを奪う必要がない。つまりそれはない”と思っていた。

 

 極秘の会議は、リオードの望まぬ形で進み始めていた。

 

 「そういえば、あの襲撃時において神官は何をしておったのだ? 神官が何かしたという報告は来ておらんぞ」

 

 思い出したようにジークルードは問うた。

 

 「住民とともに避難しておりました」

 

 サラリと家臣が答えると、ジークルードは憤慨した。

 

 「何をしておるかあの神官ども! やたらとアンデッドを浄化したがる異常者集団の癖に!」 

 

 「陸を走る海賊船が北門から王都に突っ込んでくると聞かされれば、逃げ出すのは普通かと」

 

 「ああ、そうだな。避難指示が出たときは、”スケルトンの襲撃だ”などと誰も誰も知らぬし思わぬであろうな」

 

 一瞬にして冷静になるジークルード。

 

 「おそらくまた奴らは襲撃をかけるであろう。秘薬はわしが持っておる。次来たときは最初からギルバートを使うぞ」

 

 「お待ちください王弟殿下。それではギルバートを奪われる可能性が上がってしまいます」

 

 家臣が止めようとするが無駄である。

 

 「ギルバートは一撃でスケルトンどもを粉砕しておったのだろう? むしろギルバートが”起きて”暴れている方が奴らは嫌がるだろう」

 

 リオードは後半は一切しゃべらなかった。王にすら秘密に行われるこの会議の行方を見守ることにしたのだった。

 

 「王弟殿下、現在我が騎士団が海賊船の痕跡を追わせておりました。途中で痕跡を見失いましたが、大まかな位置を予測することはできます。こちらから軍を動かしてはいかがでしょうか?」

 

 リオードはその家臣に心の中で”よくやりました!”とエールを送った。そもそも襲撃されるのを待っているのがおかしい、リオードはそう思っていた。

 

 ジークルードは決め顔で返す。

 

 「よいか。軍隊とは動いていない時が最も強い時なのだ。こちらが動かさなくても向こうからくるのであれば、最も強い状態で迎え撃つのが正攻法。覚えておくがよい」


 ”また門をぶち破られ王都の中に侵入されてから戦う”と、つまりはそういうことなのだが、リオードはもう何も言わないと決めていたし、なにより決め顔で言ったことを否定できる相手ではない。

 

 「代わりと言っては何だが、冒険者を使って正確な居場所を探るというのはどうだ? 王都にある冒険者の店に依頼を出させれば、奴らも文句はないであろう?」

 

 「は、ではそのように」

 

 リオードは、オリンタス山に海賊船やスケルトンが居る、軍隊を用いて殲滅しましょう。という話にしたかった。ジークルードの決め顔のせいで、それはもう叶わないのである。

次話は次の襲撃準備をするエリーたちの話になります。

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