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頭領の社交術

 一昔前はたくさんいたらしいけれど、冒険者が台頭してきたことで勢力を減らし、今じゃそれなりの規模と抱えてくれる貴族が居る、ごく少数だけの存在。

 

 それが傭兵。

 

 見たことはあったけれど、関わったことは無かった。

 

 今日初めて、バーゴップ一座っていう傭兵団と関りを持ってみた。

 

 統一されたフルプレートの鎧に、やっぱり統一された形の剣を装備して、ガッシャガッシャ歩いて、大声で雑談しながら歩いてる。

 

 そんな傭兵団の頭領は、一人称が(それがし)の、ひときわ派手な鎧を着けた男の人だった。

 

 名前はウォーマーさん。

 

 気さくで、声が大きくて、兜のバイザーからわずかに見える目が、ずっと笑ってる。

 

 今が楽しくてしょうがないって感じ。

  

 最初はユルクさんと商売についてあれこれ話してたけれど、今はクレアさんに話しかけてる。

 

 「その弓、鉄製であるな。しかも仕掛けがある。どういった品なのか聞いても良いだろうか」

 

 「もちろんです。これは機械弓と言って、ドワーフの技術が盛り込まれた短弓です。ですが用いる矢は長い長弓用の物で、バネと歯車と鉄の糸によって射るのです。強力なばねとこの鉄の……」

 

 そうだった。

 

 クレアさん、弓について語り始めると長いんだった。

 

 懐かしい。

 

 クレアさんがモンドさんに、ステラちゃんが作ったネックレスを届けてくれて、その時も機械弓についていっぱい語ってたっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 長々と続いた機械弓語りが一区切りしたところで、ウォーマーさんは次にステラちゃんに話しかけた。

 

 「灰色。良い色だ」

 

 「え? あ、うん。ありがと」

 

 「灰色は良い色だ。鈍く光る鉄の色に似ているし、焚火の後の灰を見ると、どこか切ないようないい気持ちになる。不死鳥の逸話では、燃え尽きた灰の山から新たな不死鳥が生まれ出るそうだ。あと灰はガラスや石鹸の原料にもなるそうだな。お主はステラと申したな。良いものを受け継いでおるようだ」

 

 「う、うん。ありがとう」

 

 そしてすかさずユルクさんが割り込んで

 

 「わしの孫なのじゃぞ? わしとわしの娘と娘婿の良いところを全部受け継いでいるに決まっている」

 

 と胸を張る。

 

 「違いない」

 

 ウォーマーさんは大まじめにうなずいてから、改めてステラちゃんを見る。

 

 「将来性にあふれておりますな」

 

 「その通りじゃ」

 

 結局ステラちゃんよりユルクさんといい感じになってたけど、ウォーマーさんは満足そうにうなずいた。

 

 そして、私と目が合った。

 

 あ、次私のところ来る?

 

 来るっぽいね。

 

 

 

 

 

 

 

 「エリー殿。いきなりだが、冒険者は儲かる職業だろうか?」

 

 私の横に並んで歩きながら、ウォーマーさんは真剣な声でそう言って来た。

 

 「まぁ、人によります。儲けが出た時にすぐに使っちゃう人が多いので、大抵の冒険者はいつも金欠です」

 

 私の知ってる冒険者は大体みんなそうだった。

 

 私も冒険者になってすぐの、4人でパーティ組んでた時は、依頼が終わった次の日にはみんなで遊びに行ったりしてたね。

 

 報酬のお金で飲み食いしたりして、ほとんど使い切ってから次の依頼受けてた。

 

 「貯金などが無くても、不安にはなったりしないのだな」

 

 どうだろう。

 

 私はちょっと不安になる気もするけど、普通は困ったらパーティメンバーを頼ればいいからね。

 

 「そう言う人は少ないかも知れないです」

 

 「ふむ。今が良ければいい、という考えは、某には難しい。冒険者になろうと思っていた時期もあったが、止めて正解だったやも知れぬ」

 

 ウォーマーさんは腕を組んでちょっと考えて、それからゆっくりと語り始めた。

 

 「某は一座を背負う頭領である故、やはり刹那的な思考は出来そうにもない。次の仕事まで、この稼ぎでどう食つなぐか。新しい装備を手に入れるためには、どれほどの純利益が要るか。食料や服などの消耗品に、毎月いくらかかるか。色々と考えねばやっていけぬのでな」


 「冒険者もそう言うことくらいは……」

 

 考えてるかな。

 

 私は一応考えてるけど、考えてない人の方が多いかも。

 

 消耗品が無くなったら、無くなったときに考えればいいって思ってるような気がする。

 

 「えぇと、そうですね。冒険者はあまり深く考えないかも」

 

 「そうであるか」

  

 ウォーマーさんは一つ頷くと、スコットさんをスルーしてモンドさんに視線を合わせた。

 

 次はモンドさんのところに行くつもりみたいだね。

 

 「参考になった。ありがとう」

 

 「いえ」

 

 ウォーマーさんは軽く会釈してから、モンドさんの方に歩いて行った。

 

 ブラフォードの森まであとちょっとしかない。

 

 お喋りしてられる時間は、もう残り少ないかもね。

 

 そう思って前を向いて、魔物が居ないかに意識を向ける。

 

 見えるものと聞こえるものに注意を払うと、小さく何か聞こえてきた。

 

 「いくらあっても足らん。その日暮らしでは、いつか破綻する」

 

 ウォーマーさんの独り言は、すこし切羽詰まっているような感じがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今回の獲物はワービーストのメスガキ1に、エルフの女の冒険者1。

 

 2に対して、人間のガタイのいい奴1人に、冒険者の女1人に、ワービーストのジジイ1に、ワービーストの冒険者1の邪魔がある。

 

 バーゴップ一座の連中も多い。

 

 護衛対象が多い以上、一座の数が増えるのも仕方ない。

 

 全滅は無理だろうな。

 

 だが5~6は殺していいだろう。

 

 もともと人数が多すぎると思っていた。

 

 口減らしと考えれば損失も無い。

 

 まずはいつも通り、小手調べから始める。

 

 一座の連中の実力は知れているが、3人の冒険者が手練れだと困る。

  

 冒険者じゃないとはいえ、人間の男もいい体つきだ。

 

 手には胼胝(たこ)があった。

 

 剣かどうかはわからないが、得物を振り回していた証拠だ。

 

 要警戒だ。

 

 森に入ったらすぐに仕掛けようか。

 

 小手調べは早いうちに済ませるに限る。

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