閑話 ロードスケルトンは憐れみ呆れる
エリーにビン一本の血を飲ませたホグダは、一度洞窟の外に出た。どうしても我慢できなかったからだ。
洞窟に出ると懐からタオルを一枚取り出し、口に当てる。
「心臓動くかとおもったあああああああああああああああああ」
タオルを口に当てていたため、山に響くことなくその叫びは打ち消された。が、すぐ近くの洞窟にいるギドには聞こえているだろう。
「どどどどうしたご主人様! 心臓動くとか不穏なこと叫ぶなよびっくりするわ!」
突然の主の叫び声を聞いて慌てて洞窟から出てきたギドは、顔にタオルを押し付けしゃがみこむホグダに駆け寄る。
「ああああああああああああああああああ」
「いったい何なんだご主人様よぉ?! なにか致命的なことを忘れていたのか?! 今思い出して”やっちまったぁ”ってなったのか?!」
自分の主が忘れっぽいというか、ちょっと抜けているところがあることを知っているギドは、そういう心配の仕方をした。
「大丈夫だまだなんとかなるぜぇ! 吾輩が何とかしてきてやるからよぉ! とにかく吾輩に包み隠さずすべて話すんだご主人様!」
ホグダは叫ぶのをやめると、ぼそりとつぶやいた。
「かわいい」
「は?」
ギドは”何言ってんだこのゾンビは”と、従僕らしからぬことを思った。
「あのわき腹揉んだ時の涙目のエリー、かわいい」
「えっとぉ……何言ってんだこのゾンビ」
ギドは思わず口に出してしまった。いやいや、普通”可哀そう”とか”痛そう”とか、そういう感想を持つべきだろうと思った。そしてむしろ口に出すべきはこちらであった。
しかしホグダは、ギドの無礼な発言を歯牙にもかけず続ける。
「あの痛そうな声、もっと聴きたかった。もっといじめて泣かせて、悶えるエリーが見たかった」
「あの~ご主人様、十分痛そうだったし泣いてたし悶えてたぞ。まだいじめ足りないとでも?」
―もしかしてご主人様は慈悲と容赦を捨ててきたのではなく、性格もとい性癖がゆがみまくってたってことなのか?
「無限にいじめたい」
「うっわぁ」
もはや思ったことを包み隠さず口に出すギドであった。
「あと血を飲むときの必死な感じとか、開いた口の中にある舌とか、牙とか、なんかドキドキした」
「それは気のせいだぞご主人様。心臓止まってるんだしよ」
「エリーの”もっと、もっとほしい。ちょうだい?”がずっと耳から離れないわ。もっとおねだりさせればよかった」
「ご主人様よぉ、さすがに気持ち悪いぜぇ? 女同士だし倒錯的というか、変態?」
「ギド!」
「お、おう」
―さすがに言い過ぎたか? 今なら何言っても大丈夫だと思ったんだけど……
ギドの心配をよそに、生き生きとゾンビは言う。
「明日もあたしが血を飲ませるわよ! もちろん椅子に縛り付けて、あたしが指に垂らした血を舐めとらせるの! 必死にあたしの指をしゃぶるエリーが見たいわ!」
「……」
もはやギドは何も言わなかった。ただ、”実際にそうなったならエリーは本当にホグダの指をしゃぶるだろうな”と思い、エリーを憐れんだ。
「一日ビン一本分飲ませる予定だったけど、数日抜いて飢餓状態にしてからっていうのもいいわね!」
ギドはエリーへの憐れみを一段階深くした。
ギドは死んだ目を輝かせるホグダを見る。
ギドの空っぽの眼窩は、見るものに何かを読み取らせることはない。だが、もし今読み取れるとしたら”呆れ”であろう。
「ギド! 水場を探すわよ! あたしたちはともかく生者のエリーには必要だからね!」
唐突かつ一方的にそう告げ、またしても生き生きとゾンビは山を歩き始める。
―水場なら知ってるが、なんか今のご主人様には教えたくないなぁ。”エリーの体を拭くわ! 2日も経てばよごれてるでしょう!”とか言うにきまってるぜぇ。
そうしてホグダの”エリーを愛でまくる作戦”を聞きながら日が昇るまで山を歩き続けた。その後ホグダが山を下りた隙に、ギドがエリーを水場に連れて行ったのだった。
ガールズラブタグ付けてるのにそれっぽい展開が少なすぎました。
これから増えればいいと思います。