IF END マーシャの愛
バッドエンドがお嫌いな方は読み飛ばすことをお勧めします。
というかIFルートなので、読む必要はありません。
バッドエンドが好きな方は、楽しめるかもしれません。
ここは、時間の感覚がとても曖昧だ。
昼も夜も、常に一定の明るさしかないし、窓もない。
温度も変わらないような気がする。
出口はあるけれど、もう出ることも無い。
私にとって一番大事なものがここにあるのだから、出る必要は全くない。
寝起きの火照った体を起こすと、私が寝ていた部分だけ、石の床が生暖かい。
柔らかいベッドと清潔なシーツで寝起き出来たらいいなと、思いはする。
だけどベッドなんかより大事なエリーがここに居て、私用のベッドはここにはない。
だから不満に思ったことは無い。
エリー以外の全部は捨ててもいいと、思っていた。
それなら、私も一緒にレーネのところに住めばいいと、なぜ気づかなかったのだろう。
レーネは私にエリーの世話をするように言った。
私は喜んでそれを担うことにした。
エリーのところに行って、水を飲ませてあげる。
「エリー、体起こしますよ?」
膝を立てて、エリーの背中を支えて、口にコップを当てて、ゆっくり、少しずつ流し込む。
エリーの喉がコク、コクと鳴り、脈動する。
それを見ると、とても嬉しい気持ちになれる。
ひとしきり水を飲ませた後、私は決まって、エリーの右頬に手を添える。
そっと顔をこちらに向けさせて、顔色を見る。
今日も半分顔色が悪いようだ。
もう半分はわからない。
「エリー? 私がわかりますか?」
最近は返事をしてくれなくなった。
口を動かすのが億劫みたいだ。
元気になってほしいから、毎日ちゃんとお水を飲ませて、おトイレも定期的にさせて、栄養のあるものを食べさせている。
薄く開いた口からは、白い舌が見えた。
前は赤かったような気がするけど、気にしない。
「ごはん、持ってきますね」
私はにっこり笑いかけて、エリーを寝かせ、食事の用意を始めることにした。
豆と野菜を粒になるまでみじん切りにして、包丁ですり潰して、温めた水に塩を入れ、混ぜる。
エリーはこれしか食べない。
少し時間がかかるけれど、エリーのための手間暇だと思うと楽しい。
食事とお水とスプーンをトレーに乗せて、またエリーのところに戻る。
お水を飲ませた時と全く同じ姿勢で寝ているエリーを、また抱えて起こした。
それから豆と野菜のペーストをスプーンで掬って、口に含む。
以前に食事をスプーンで掬ってエリーの口に入れた時、スプーンの端で歯茎を切ってしまったことがある。
傷の治りが遅くて、しばらくエリーの口の中が血まみれになってしまった。
だから今、エリーの食事は私の口移しだ。
役得。
食事のためという建前はあるけど、それでもずっとエリーと**したいと思っていた。
嬉しい。
エリーは特に反応してくれないのが寂しい。
そっと唇を重ねて、エリーの小さな口に、少しずつ流し込む。
ゆっくりと唇を離すと、唾液とペーストの混じったのがだらしなくアーチを描いて、エリーの下唇から顎に線を引いた。
「口元、付いてますよ?」
拭く物が無かったから、私が舐めとった。
こんなに近くでエリーの顔を眺める機会は、今までそうそう無かったかもしれない。
いや、あるにはあった。
だけど、こんなに長く見つめ合うことは無かった。
そう思うと幸せを感じる。
エリーもきっと同じように思ってくれている。
だって拒まないから。
左目は色が変わってしまっているけど、両目でジィっと私を見てくれる。
今までのようにフイっと目を反らしたりしない。
まぁその仕草もかわいくて好きだったけれど。
「嬉しいです、そんなにじっと見てくれて。私にはもうエリーしかいないんです。他の全部は捨ててしまいました。だから、エリーも私だけ見てくださいね?」
エリーの喉が小さく鳴り、嚥下したのがわかる。
私はもう一口スプーンで掬って、口に含んで、それからもう一度エリーの唇に自分の唇を合わせた。
私がここに来るまでは、レーネがエリーの世話をしていたらしい。
活性薬という薬を飲ませたり、エリーのかわいいお腹を切り開いたり、足蹴にしたり……
だけどもう、そんなことはさせない。
私がお世話するのだから、エリーをきっと幸せな気分にさせてあげる。
そう決めている。
なんとなくわかるのだけど、レーネはエリーに、もう興味がない。
いつも通りの笑顔を張り付けては居ても、私にはわかる。
体には興味があるみたいだけれど、体以外には全く無関心のようだ。
基本的に何をしても無反応のエリーは、もう面白くないのだろう。
時々エリーのところにやってきては、エリーにヴァンパイアレイジというスキルを使うように言って、限界までそのスキルを使わせる。
スキルを使っている間のエリーを観察した後は、すぐにエリーの居る部屋を立ち去っていく。
それ以上の干渉はない。
エリーはヴァンパイアレイジを使うたびに変わっていく。
左腕の断面から、指が生えた。
顔の左半分が白くなり、左目が赤と茶色を雑に混ぜたような、濁った色に変わった。
牙も左側だけ伸びた。
次にヴァンパイアレイジを使ったら、今度はどこが変わるんだろう。
私としてはどこでもいい。
それがエリーなら、どんな見た目でも構わない。
噂をすれば、レーネだ。
笑いっぱなしのいつもの顔、声で、私を見つけて近づいてくる。
「マーシャさん。私少し出かけてきますね」
また嘘だろうか。
試しているのだろうか。
私がエリーを連れて逃げ出さないか、確かめたいのかもしれない。
「そんな目で見なくても、本当に出かけるのですよ? なんとですね、このスパイン領にハーフヴァンパイアの夫婦が居るらしいのです。エリーさん以外にも居たのですね、驚きです」
「ハーフヴァンパイアの夫婦?」
「えぇ、そうです。今のエリーさんと普通のハーフヴァンパイアを比べてみたいので、こちらにお連れしようと思うのです。そういうわけで……」
レーネは急に言葉を切って私を見る。
「なんです?」
「いえ。マーシャさん、やつれましたね。顔色も悪いようです。ちゃんと食べたり寝たりしていますか?」
なんだ、そんなことか。
「当たり前でしょ? エリーのお世話の合間に食べたり寝たりしてます」
「そうですか。マーシャさんがそれで良いのなら構いませんわ。そういうわけで、出かけてきます。私から言う必要も無さそうですが、エリーさんのお世話、よろしくお願いしますね」
言われるまでもない。
「ああそれと、恐らく今のエリーさんは、日光に当たるとすぐに死んでしまうと思いますわ」
言われなくても連れだしたりしない。
「はいはいわかっています。それより早く出かけたらどうなの?」
「えぇ、そうします。行ってきますね、マーシャさん」
「行ってらっしゃいレーネ」
適当に手を振ると、レーネは上品にヒラリと振り返し、私に背を向けて出口に向かった。
一度は殺したいと思った相手と、どうしてこんな風に会話が出来るのか、自分でも不思議だ。
私とレーネは、もしかしたら本当に友達なのかと思うときがある。
でも今はそんなことどうでもいい。
「……レーネが、出かけた」、
実を言うと私は、レーネがここを留守にする瞬間を待っていた。
私は心を躍らせながらエリーの部屋に向かう。
ついさっき**したせいで、この衝動を自分では止められそうにない。
エリーが拒絶してくれたら、止まるかもしれない。
「ねぇ、エリー?」
「レーネは、ついさっき出かけたみたいですよ?」
「レーネは今、居ないんです」
「ね、いい事しよう?」
「いいでしょ?」
「レーネが居ない今しかできないと思うんです」
「ヴァンパイアは目も耳も鼻もいいんでしょう? なら、居ない時しかできません」
「脱がせていいですか?」
「嫌だったら嫌だと言ってね?」
「あ、でも先に、**、したいです」
「ん……んふ♪」
「嬉しいです」
「こんなに毎日、エリーのことだけ考えて、エリーのためだけに動くことが出来て、エリーも私を見て、受け入れて、委ねて、任せて、……許してくれるなんて夢みたい」
「脱がせたいので、バンザイしてください」
「腕を上げてくれないと脱がせにくいじゃないですか」
「それともエリーは、着たままシたい?」
「そうなんですね?」
「いいですよ。エリーが望むなら、どちらでも」
「ん、冷たい」
「もしかして寒いの?」
「じゃあいっぱい温めてあげます」
「エリー? ねぇエリー?」
「一言くらい喋ってください。私ばかり喋っていると寂しいです」
「エリー?」
「私はエリーのことを、どうしようもないほど……」
「愛しています」
エリーは、最後まで私を拒絶しなかった。
だから最後まで、思いつく限りの方法で愛を注いた。
愛を注いで。
注いで。
注いで。
溢れかえりそうな程の*情と*欲と**と**を流し込んだ。
普段無反応のエリーが、わずかながらも吐息と痙攣で反応を示してくれて、その度に私の中の**と**が溢れかえって、エリーに注ぎたいという**が燃え上がって、何度も何度もエリーを**して、エリーの**が****に*れ上がるまで*で**上げて、*で*んで……
体感で大体半日くらい、***してしまった。
流石に疲れた。
ものすごく充実した時間だった。
心地よい倦怠感に身を任せて、エリーの胸に頭を預けて眠ってしまった。
トクントクンというエリーの心臓の音と、ゆっくりと上下するお腹が、どうしようもなく心地良かった。
目が覚めた時、私もエリーも眠る前と同じ姿勢だった。
だけど、エリーの心臓の音やお腹の動きが無かった。
「あ」
「あ」
「あぁ……」
私がエリーの声を最後に聞いたのは何日前だったか、もう覚えていない。
だけどエリーが最後に発した言葉は覚えている。
”マーシャさん、ごめんね”だった。
その後に、こうも言っていた。
”私のせいで、マーシャさんまでおかしくなっちゃった”
「ねぇエリー、二度寝していい?」
答えは返ってこない。
「私もまだ眠いんです」
私は未だにポケットに入ったままのナイフを握ると、自分の手首を切った。
それからエリーを抱きしめて、**して……
あと、何をしてあげようか。
良いのが思いつく前に、眠ってしまいそうだ。
前書きにも書きましたが、今話はIFルートです。
次話は前話の続きになります。




