殺意に満ちて
少し短めです。
私は今、どこかおかしい。
自覚はある。
エリーが私のところに帰ってこようとしていたと知ったとき、どうしようもないほど胸が騒めいた。
そのエリーがヘレーネに攫われたと聞いたとき、胸の奥から自分でも驚くほどの苛立ちが渦巻いた。
そして、エリーが今酷い仕打ちを受け、心も体もボロボロにされていると知って……
「待ちきれません」
ギドは今レーネがナントカという薬の材料を取りに出かけるのを見に行っていて、レーネのが外出を見届け次第、私に連絡をする手はずになっている。
私はそれを待っていなくてはいけないのに、待ちきれない。
少し前、旧都のどこかで大きな音がしていた。
外が何だか騒がしい。
そんなどうでもいいことにまでイライラとして、1秒が1分にも1時間にも感じられて……
頭がおかしくなってしまいそう。
気付くと、既に喫茶店を出ていた。
足がレーネの拠点に向かっている。
さっきまで私の胸の中は、レーネを殺してやりたい気持ちと、エリーと触れ合いたいという感情のどちらかわからないもので埋まっていた。
でも今は、エリーに会いたい。
レーネの拠点の出入り口には、赤紫の髪と紫のドレスを着た女が倒れていた。
遠目に見た時はレーネが気絶でもしているのかと思ったけど、近くで見ると別人だとわかる。
普通人が倒れていら、心配するし声もかける。
だというのに私は
「この女、誰よ」
苛立ちながら文句を言うほどには、冷静ではないみたいだった。
周りを見渡してみても、レーネもギドも居ない。
ギドはこの辺りを見張っているはずなのに……
それはもういいか。
やることは決まっている。
エリーを連れ出して、ギドの言っていた通り王都に向かう。
ギドは後から見つければいい。
エリーさえ居ればいい。
私はカギのかかっていないレーネの拠点に1歩踏み込みながら、エリー以外の全部を捨てる覚悟を決めた。
入ってすぐ、私はあらかじめギドからこの拠点の内装を聞いておけばよかったと後悔した。
レーネに1度案内されているとはいえ、扉が多すぎてかなり迷う。
どこも石を削ったような壁床天井に、よくわからない照明。
どこも同じに見える。
1度開けた扉を開けっぱなしにして、しらみつぶしに内側を回る。
蒸留器に、空のビンに、紙皿の上に盛られた粉に、すり鉢に入った何かの葉に、虫や何かのトゲが置かれた棚に……たくさんの人間。
あまり気持ちのいいものではない。
レーネの拠点に居る人は、みんな眠っているか虚空を見つめている。
虚空を見つめている人たちの表情は、最後に会ったときのエリーのように虚ろだった。
ここから出してあげようと考えはした。
考えただけだ。
私にとってはエリーが大事。
この人達を外に出してあげたとして、それでエリーが帰ってこなかったら、私は後悔する。
だから、何もしなかった。
このことをエリーが知ったら、軽蔑されるかもしれない。
それでもいい。
とにかくエリーに会いたい。
早くエリーを見つけたい。
両腕が無いなら、私が腕の代わりになんでもする。
起き上がれないなら、私が抱えて移動する。
エリー。
エリー。
エリー。
エリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリーエリー
エリーを、見つけた。
1つだけ下に降る階段があって、ピンときた。
階段を降りた先には、本当に立方体の内側のような何もない部屋で、エリーはその部屋の床に仰向けに転がっている。
本当に、腕が無い。
シャツが少し捲れていて、そこからエリーのお腹が見える。
最後に見た時より痩せているのに、お腹だけぷっくりと腫れている。
縫った後の傷が、腫れている。
私に気付いてないみたいで、目が開いているのに、こっちを見ない。
腕の断面が赤黒くて、白い骨が見えていて、痛々しくて……
私はエリーを見つけたというのに、喜びより別の感情に支配されそうになった。
「……殺してやる」
そう口走った瞬間、エリーの体がビクリと反応した。




