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死霊術士たちは諦めない

 ギドはオリンタス山の西にある町、カッセルに向かっていた。

 

 カッセルはホグダに復活させられてから何度も襲撃した町で、ギドも勝手知ったるとでも言うかのように意気揚々と向かっていた。

 

 もちろん徒歩ではない。海賊船ボーンパーティの船底から、一台の馬車を取り外して搭乗している。部下も3人ほど連れてきていた。

 

 「昨日の王都襲撃はどうだった? 楽しかっただろ?」

 

 ギドは部下のパイレーツスケルトンに問う。彼らは一斉にガタガタする。

 

 「そうだろうそうだろう! 吾輩も久しぶりにお前らと仕事ができて楽しかったぜぇ?」


 ギドは満足そうに笑うと、部下たちもガタガタする。笑っているようには見えないが、部下たちも笑っているのだ。

 

 ギドはふと真面目な顔(表情などないが)になる。

 

 「昨日の襲撃で、王都からカッセルや村の方に来てた冒険者が王都に戻ったと思うんだが、おそらく一組のパーティだけはカッセルに残ってると思う。手練れの3人パーティだ」

 

 部下の一人がガタガタする。

 

 「なんでってそりゃあ、因縁を付けられたというか、吾輩がおちょくったせいで目の敵にされてるというか……」

 

 バツが悪そうにギドは答える。

 

 「まぁいないかもしれねぇし! いたらいたで吾輩が相手してやるだけのことだ。お前らの仕事は解ってるな? 町長の家から化粧道具とか変装に使えそうなもんを全部かっぱらってくるんだぜぇ?」

 

 部下たちは一斉にガタガタする。

 

 「よぉし! 今夜も楽しいお仕事の時間だぁ!」

 

 ギドの声に合わせて、いっそう騒がしくガタガタする部下たち。

 

 それは出発してすぐ、カッセルまであと3時間はかかる距離のことだった。

 

 今の最高潮に達したテンションが、カッセル到着前に冷め切ってしまったのは言うまでもない。

 

 

 

 ホグダは次の襲撃作戦について考えていた。 

 

 海に浮かぶ海賊船と、取り外された馬車5台と、暇そうなスケルトンホースたち。それらを見つつ、王都襲撃で倒されたギドの部下たちの復活儀式を行いながら、ぼんやりと考えていた。

 

 「予想通り、王家や王城が脅威に晒されるとギルバートは出てくる。これはおそらく確実」

 

 紫色のペンタグラムの中心で、バラバラの白骨たちが組みあがっていく。

 

 「普段ギルバートがいるのは、王城の中のどこか。これも確実でしょうね」

 

 組みあがった白骨にギドの部下の記憶や意識を降ろし、定着させる。

  

 「でも、あたしが直接見たわけじゃない以上具体的にどうするかが詰められない」


 ギドの部下復活が完了し、展開されていたペンタグラムが消失する。

 

 「でも、結局やることは同じよね。王都に行って、ギルバートを使わせて、攫って(さらって)、開放する……」

 

 もう一度ペンタグラムを展開し、お留守番をしているギドの部下たちが白骨を持ってくる。

 

 「ギドが間違えて攫ってきたあの子は、案外役に立つかもしれないわね。ギルバートについて何か知っているはずだもの」


 「まぁ、いろいろ不安だけど。あたしのせいでもあるからね……でも、絶対しゃべってもらうわ。あの子がどうなっても構わない」

 

 王都襲撃で倒されたギドの部下24名の復活を進めながら、ホグダはエリーに何としても情報を話してもらうと決めたのだった。

 

 「なんど失敗したって諦めないわよ! ギルバート!」

 

 

 

 そのころカッセルの町は、スケルトン4体の襲撃を受けていた。

 

 「また出やがったな山賊の骨野郎!」

 

 「吾輩は海賊だっつってんだろうがぁ!」

 

 激しい攻防の合間に、冒険者とスケルトンは口撃も繰り出す。

 

 「山から来て町や村襲ってんだから山賊だろうが!」

 

 「好きで山から来てるわけじゃねぇんだよ! 吾輩が本来狙いたいのは商船であって町や村じゃねぇ!」

 

 冒険者は3人パーティだったが、ギドと戦うのはいつもパーティーリーダーのこの男だけであった。残りの二人は、スケルトン3体が乗り込んでいった町長の家に向かっていた。

 

 「家畜を脅かしたり冒険者の装備奪ったりわけわかんないことしやがって! 狙いは何だ! 言え! 町長の家に何があるってんだ!」

 

 「言うわけねぇだろ! 舌もなければ喉もねぇからなぁ!」

 

 「町長はなぁ! 貧乏な貴族で、最近男の子が生まれて、王都からそう遠くないこの町を何とかでっかくしようと頑張ってるいい人なんだぞ! お前が何回も襲撃するから、最近ストレスでコインハゲができたって言ってた……許さねぇええ!!」

 

 「やめろ! スケルトンに精神攻撃すんな!」

 

 記憶と自我を特別はっきりと持つギドは、良心の呵責(かしゃく)を感じることができてしまうのである。

 

 町長の家のすぐ近くでスケルトンと冒険者の接戦が続く中、町長の家の中でも争いが起きていた。

 

 カタカタカタ?

 

 ガタガタ。

 

 ガタガタがガタガタガタ!

 

 これは言い争いである。

 

 持ち去る荷物の分配相談であり、最も重い荷物を誰が持って馬車まで運ぶかで、言い争っている。

 

 家に入っていったスケルトンを倒すべく、ギドと戦う冒険者の仲間二人は後を追った。

 

 そして今は玄関付近で、町長一家とともに縛られている。

 

 「おいお前らぁ! 仕事は済んだかぁ?!」

 

 家の外からギドの声が聞こえ、彼らは言い争いを辞める。それぞれ一番近い荷物を抱えると、骨製の馬車まで走るのだった。

 

 「よぉし! あとは血をいただくだけだなぁ!」

 

 ギドは目の前の冒険者と接戦を繰り広げながら、うれしそうな声を出した。

 

 「血?! 血をいただくだとぉ! 山賊の癖にヴァンパイアの真似事かこらぁあああ!」

 

 「おうよ! 吾輩血が飲みたくて仕方ねぇのさ!」

 

 「口も胃袋もないくせに何言ってやがる! ぶっ殺す!」

 

 「もう死んでるっつうの! おい! 荷物積んだら健康そうな女から血ぃ抜き取ってこい!」

 

 「やらせねぇ!」

 

 部下に命じながらギドは男を足止めする。ギドとほぼ拮抗する技量を持つこの冒険者を、ギドは厄介極まりないと思っていた。故にギドは全力で足止めに徹するのである。

 

 「ちくしょおおおおお!」

 

 結局ギドは目的を達成した。変装に使えそうな道具や高そうな衣服に加え、部下が倒し縛り上げた冒険者の女からビン数本分の血を奪い、まんまとカッセルから逃げおおせたのであった。

 

 「吾輩は諦めねぇ! 今日こそ吾輩の成果をご主人様に褒めさせてやるぜぇ!」

 

 意気揚々と帰路につくギドは、もはや口癖になりつつあるセリフを叫んだ。

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