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日記

 「余は方法を間違えたのだな……この光景は、余の望みではない」

 

 真祖は窓の外から王都の惨状を眺めていて、私がサイバを抱えて部屋に来た時も振り返らずにずっと見下ろして、10秒か20秒くらい経ってからこっちを見て、そう言った。

 

 それならもっと早く気付いてよ。

 

 なんて言葉が口を突いて出そうになったけど、言わなかった。

 

 王都が滅茶苦茶になった原因は真祖だけじゃなく、私でもある。

 

 お互いに意地を張って、ストリゴイや魔術師の人達やヴァンパイア、騎士団の人やリオード伯爵やギドなんかを巻き込んだ。

 

 だからこんなことになった。

 

 こうなるって予想しながら突き進んだ。

 

 私の要求は言葉じゃ通らないと思ったから。

 

 言い訳だ。

 

 胸の内のどうしようもない感情をを真祖にぶつけて、全部真祖のせいだって叫びたい。

 

 けどそれより先にやるべきことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が真祖に会っている間もギドはタザと戦い続けてた。

  

 真祖は私と会った後、ギドとタザの戦闘に割り込んで、タザに計画の終わりと失敗を告げたらしい。

 

 タザはすぐに戦闘を止めたから、ギドもそれ以上戦おうとはしなかった。

 

 ギドは大きすぎる体をバラバラに分解しながら、真祖に私宛の言伝を頼んだ。

 

 「洞窟を頼む」

 

 ギドの体は、バラバラに分解された骨に埋もれて、ただの骨になっていたらしい。

 

 ギドが居なくなった。

 

 あの大きなスケルトンはタイラントスケルトンと言って、ギドの奥の手で、使い終わったら、ギド自身の骨の体も壊れると、真祖が言っていた。

 

 そんなの聞いてないよ。

 

 聞いてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がサイバを見つける直前に追いかけていた女の子は、スージーという名前らしい。

 

 私が追いかけるのを止めた後、ユーアさんと神官戦士の人が捕まえてた。

 

 ドリーを作って操っていたのはこのスージーさんで、子供に見えたけどドワーフの成人女性なのだとか。

 

 本人は戦ったり出来ないらしいけど、ある意味一番厄介で手ごわい人だったんだと、全部終わった後から聞いて思った。

 

 

 


 

 

 

 

 

 


 

 サイバは死ななかった。

 

 真祖がギドとタザの戦いに割り込む前に、よくわからない方法で治療してた。

 

 両腕は滅茶苦茶に折れていて、顔の右半分も火傷を負って、内臓も焼けたせいで弱っているとか。

 

 でも意識を取り戻していて、タザやスージーさんと真祖の部屋でぼんやりしてる。

 

 しばらくは何も考えず、何もしないらしい。

 

 見ていてどうしようもなくイライラする。

 

 私は一言も話してない。 

 

 

 

  

 

 


 

 

 

 捕まえたアドニスとローザさんとクゼンさんは開放した。

 

 1人ずつ開放して、真祖に会って話をした後、フィオ君とフィアちゃんを連れて、5人で王都を去った。

 

 トレヴァー領のベグダット、トレヴァー邸を真祖が買い取って、あの3人とそこに住むことにしたらしい。

 

 忌まわしい記憶のあるお屋敷だから、私は絶対行きたくない。

 

 別れ際に、私のことを憎んだりはしてないと言われたのが意外だった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 魔術師の人達も開放した。

 

 今は王都のどこかにある、無事な建物を占拠して使ってる。

 

 真祖が直々に、魔術で人の役に立てば、いつかは忌み嫌われなくなるだろうと伝えてた。

 

 そのあと魔術師の人達がどうするのかは知らない。

 

 シュナイゼルさんとカラスさんと、あともう1人は、探しても見つけられなかった。

 

 真祖も行方を知らないらしいし、解放した魔術師の人達も会ってないんだとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジャイコブとチェルシーとギンは、今も騎士団の兵舎に居る。

 

 最近は真祖があの鼓動を発さなくなったから、よく会いに来てくれる。 

 

 以前と何も変わらないみんなの姿を見ると、元気がもらえる。

 

 ジャイコブとギンは、私のかけた魅了を真祖に解いて貰ってる。

 

 それでも前と同じように接してくれるのが、申し訳ないやら嬉しいやら……

 

 とにかく最近の私の元気の源は、ジャイコブとチェルシーとギンの3人になりつつある。

 

 あと、チェルシーから聞いた話だと、前とは比べ物にならないほど崩壊した王都を復興させるために、騎士団の皆は土木作業に勤しんでいるんだとか。

 

 ゼルマさんは指名手配中だから、相変わらず引きこもって現団長のイングリッドさんの仕事を手伝っているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に、私のこと。

 

 今私は真祖の部屋で、真祖とストリゴイの3人と一緒に暮らしている。

 

 暮らしているって言っても、何もしてない。

 

 強いて言えば、こうして日記を書くぐらいかな。 

 

 理由は、真祖が私を人間にしてくれると言い出したから。

 

 今はまだヴァンパイアだけどね。

 

 毎日真祖に血を吸ってもらって、私のヴァンパイアの力を抜いて、少しずつ人間に近づいている。

 

 ヴァンパイアから人間になると、記憶が無くなる可能性があるって聞いたから、日記を書いてる。

 

 16歳の夏の日、高熱と共にハーフヴァンパイアの特徴が現れた日から、今までの記憶が消えてしまう……かもしれないらしい。

 

 真祖が言うには、記憶の欠如は滅多に起きないんだとか。

 

 だけど万が一の時のために、私は私についてのことを、記憶があるうちに日記として残してる。

 

 何も覚えていない私宛の手紙みたいなものかな。

 

 たぶん大丈夫だと思うから、もし全部覚えたまま人間になれたら、この日記は燃やして捨てることにする。 

 

 マーシャさんや、ハーフヴァンパイアになってから今までに関わって来た人のこと、出来事、色々書いちゃったから、誰かに見られたくない。

 

 昨日までは事務的に色々書いたけど、今日はダラダラと思ったこととか今のことを書いた。

 

 今日は真祖に一気に血を吸ってもらって、ヴァンパイアからハーフヴァンパイアくらいまで人間に近づくことになってる。

 

 私が人間になれるまで、あと数日くらいだと思う。

 

 そわそわしちゃう。

 

 マーシャさんのところに早く帰りたい。 


 オリンタス山の洞窟まで行って、お参りしたい。

 

 ギドのお墓作って、お礼言いたい。 


 人間になった後にやりたいことがたくさんある。

 

 早く。

 

 早く。

  

 人間になりたい。

完結っぽい雰囲気があるかもしれませんが、まだ終わりませんよ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ、これ終わる流れ・・・?と思ってしまいましたが、作者さんの最後のコメントで安心できました!(^^)!
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