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優越と怖気

少し長めになっております。お時間のあるときにどうぞ。

 王城前広場に降り注いだドリーは、近衛騎士たちを相手に、一斉に襲い掛かった。

 

 大きな袖を凶器の束で膨らませ、機械的に振り回し、叩きつける。

 

 異質な機動、異質な歩調、見たことのない攻撃。

 

 それらは近衛騎士たちに動揺を与え、じわじわと戦力を削っていく。

 

 しかし、それは戦いが始まってからすぐのことだった。

 

 最初こそドリーの異質さに動揺していたが、ドリーのおおよその行動パターンや間合いを見切りはじめ、冷静さを取り戻していく。 

 

 何種類もの武器の束は一見凶悪に見えるが、リーチは槍と同じであり、そこを外せば攻撃は当たらない。

 

 数は多いが動きはバラバラであり、連携したり協力して攻撃してくることはない。

 

 それさえ掴めば、近衛騎士たちに動揺する理由はなかった。 

 

 そして、ドリーの弱点も広まった。

 

 「胸だ! 貫け!」

 

 どこかで誰かがドリーを倒し、倒し方を叫んだのだ。

 

 冒険者たちはその声を耳にし、試す。

 

 ドリーには刃は通らず、打撃も効いている様子はがない。

 

 それでも彼らは、手にしている剣や槍に体重を乗せ、ドリーの胸部を突いた。

 

 ほかの部位を突いた時とは、少しだけ感触が違う。 

 

 2度、3度と繰り返すと、切っ先が深く突き刺さり、ドリーの背中から顔を見せた。

 

 胸を貫かれたドリーが動きを止め、脱力したように倒れこむ。

 

 それを見た冒険者は、同じように叫ぶのだ。

 

 「胸を刺せ!」

 

 どこかの誰かが見つけたドリーの弱点は、こうして王都全体に広まっていく。

 

 それは当然、王城前広場にも伝わっていた。

 

 実力を認められたエリートの集団である近衛騎士たちは、倒し方を耳にしてはすぐに実践に移す。

 

 1体、また1体とドリーが倒されていく様子を、スージーは満面の笑みで眺めていた。

 

 王城前広場のドリーがほぼ壊滅するまで、スージーの顔から笑みがはがれることはなかった。 

 

 ドリージェネラルとその背中にまたがるスージーは、気づけば近衛騎士によって包囲されていた。

 

 スージーはドリージェネラルの背中に座るのをやめ、立ち上がる。

 

 子供のような身長であっても、馬の背中に立てば、大人たちを見下ろすことができた。

 

 カツン、とドリージェネラルの持つ指揮棒が地面をたたく。

 

 「流石は近衛騎士の皆さまでございます。(わたくし)の作ったドリーはそれなりの強さを持っていると自負していたのですが、皆様には適いませんでした」

 

 無邪気に笑い、わずかに首を傾け、パチパチパチと拍手を送る。 

 

 そんなスージーに対し、近衛騎士たちは剣を振った。

 

 だが刃がスージーに触れる直前、ドリージェネラルの持つ指揮棒によって攻撃が阻まれる。

 

 「貴様を倒せば良いのだったな」

 

 確認するようにそう問う。

 

 「その通りでございますわ」

 

 スージーの答えを聞くと同時に、さらにいくつもの剣がスージーを切り裂こうと迫る。  

  

 ドリージェネラルはその攻撃をすべて指揮棒ではじき返し、馬を模した下半身を躍らせ、包囲を抜けるように駆け出した。 

 

 走りながら、カツンカツンと指揮棒を鳴らす。

 

 スージーはドリージェネラルの体にしがみつきながらも、優雅に笑って歌うように語る。

 

 「ご安心くださいませ。まだまだショーは続くのでございます。皆様を飽きさせることはないとお約束いたしますわ。さぁ、次のドリーをご紹介いたします」

 

 次のドリー。

 

 その言葉で空を見上げた時には、既に2度目の赤が降ってきていた。

 

 次々とドリーが王都中に降り注ぎ、放り投げられた人形のように地面にぶつかっては転がる。 

 

 「いろいろな武器が使えたほうが便利でしょう? ですから、最初にお見せしたドリーには、多種多様な武器を持たせていたのでございます」

 

 新しく投下されたドリーたちはむくりと起き上がり、その両袖から得物を露わにした。

 

 あるものは剣の束。

 

 あるものは槍の束。 

 

 そしてあるものは鎖の束。

 

 「そして今度のドリーは、武器の種類を1つにまとめておりますの。得意な間合いが決まってしまっているので、ほかの武器を使うドリーと連携もとれるようになっております」 

 

 得意げに語るスージーを乗せたドリージェネラルが、近衛騎士たちから十分に距離をとった。

 

 その瞬間、両方の袖から鎖の束を出していたドリーが、鎖束を横凪に振る。

 

 太さがそれぞれ違う長い長い鎖が、轟音を持って薙いだ。

 

 鎖が鞭のようにしなり、先端は鎖の長さの分だけ加速する。

 

 重さと速度の乗った鎖の先端が近衛騎士の1人を捉えた瞬間、その攻撃の脅威度を、その場の近衛騎士全員が目の当たりにすることになった。

 

 鎧が割れるでも切り裂かれるでもなく、砕け散る。

 

 鎖帷子は布のように破け、生身の部分は破裂するように細切れになって爆ぜた。

 

 胸から腰に掛けて、胴体部分が木っ端微塵にされたのだ。

 

 悲鳴は上がらない。

 

 鎖束がドリーの袖に戻った一瞬後は、異様なほど静かに感じられた。

 

 息を呑む音が聞こえたような気すらした。

 

 早くスージーとドリージェネラルを止めなければ、全滅は免れない。

 

 生き残っている近衛騎士の全員がそう思った。

 

 「さぁ近衛騎士の皆様、引き続きお楽しみください」

 

 スージーの言葉は、近衛騎士にとっては死刑宣告のように聞こえた。


 そしてドリーたちにとっては、攻撃開始の合図なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 スージーは笑う。

 

 「くふふ、ふふ……アハハハハハハハハハハハ」

 

 ドリーたちによって蹂躙される近衛騎士たちの様子が面白いわけではない。

 

 「やはり私のほうが優れているようでございますね! アハ、アハ、アハハアハハハハハ」

 

 スージーは嬉しいから笑っているのだ。

 

 かつてヘレーネとサイバが王都で引き起こした、ゾンビもどきの騒動を思い出す。

 

 あの時はヘレーネの薬を用いて、生きた人間を生きたままゾンビのような亡者に変え、王都を大混乱に陥れた。

 

 だが結局ゾンビもどきらは駆逐され、サイバは大けがを負って帰還する結果となっている。

 

 だが、今は違う。

 

 スージーの作ったドリーによって、あの時以上の混乱と破壊と死をまき散らしている。

 

 自分のほうが、あのいけ好かないヴァンパイアより、優れている。

 

 スージーはそれを実感している。

 

 嬉しくてたまらない。

 

 だから笑う。

 

 「ゾンビもどきとは戦力が違うのでございます。物量が違うのでございます。能力の桁が違うのでございます。どうですか? あの時と今、どちらがすごいと思いますか? アハハハハハハハハハハハ」

 

 答えるものは居ない。

 

 次々と倒されていく近衛騎士に、そんな余裕はないのだ。

 

 剣、槍のドリーとは接近戦をするしかないが、鎖のドリーが、剣や槍のドリーごと近衛騎士を屠るのだ。 

 

 直接鎖のドリーを狙おうとしても、やはり剣や槍のドリーによって阻まれる。

 

 そしてスージーとドリージェネラルを狙う者は、ドリージェネラルの指揮棒によって既に倒されている。


 今まさに、自分の作ったドリーの強さを見せつけているのだ。

 

 スージーにとってこの光景が嬉しくないわけがない。

 

 倒されたドリーは数体。

 

 倒した近衛騎士の数は十数名。

  

 そしてドリーは、透明な飛行船からいくらでも補充できる。

 

 盤石。

 

 圧倒的。

 

 そんな言葉がスージーの頭の中を泳ぎ、愉悦と全能感に酔う。

 

 「アハ、アハ、アァハハハハハハハハハハハハハハハハァ」

 

 楽しんで、喜んで、酔って、笑って、はしゃいだ。

 

 そうでもしないと、おかしくなってしまいそうなほど、嬉しいのだ。

 

 スージーはこの時、見ていて嬉しくて楽しい光景だけを見ていた。

 

 そのため、近衛騎士以外の者が自分を狙っていることに気付かなかった。

 

 「よぉガキんちょ、ずいぶん楽しそうじゃねぇか」

 

 調子のよさそうな声とゴロツキのようなセリフが、ようやくその存在をスージーに気付かせる。

 

 ハッとしてそちらを振り向くと、声の主は目の前にいた。

 

 空が曇っていても輝く金髪に、大きく開く二重瞼、青い瞳、整った顔。

 

 イケメンというほかない顔立ちが、下卑た笑みによって台無しになっている。

 

 そんな男の顔が目と鼻の先にあれば、立派な成人女性であるスージーが、一瞬ひるむのは仕方がない。

 

 そしてスージーが固まった一瞬、セバスターはこぶしを引き絞り、振りぬいた。

 

 童女にしか見えないスージーの顔面に、一切の容赦なく右拳を叩き込む。

 

 「フギャッ」

 

 スージーはドリージェネラルの背中から叩き落され、無様に地面を転がった。

 

 スージーはすぐさま地面に手を突いた体を起こし、殴られた頬の痛みを堪え、ドリージェネラルの方を見た。

 

 ドリージェネラルはスージーを守るようになっているし、反応速度やパワーは他のドリーよりも格段に高い。

 

 そのはずだ。

 

 それなのになぜドリージェネラルは、セバスターの殴打を防御してスージーを守らなかったのか、わからなかったのだ。

 

 そしてそれは、ドリージェネラルを見たことで、答えが分かった。

 

 ドリージェネラルから、白い煙が出ている。

 

 動かない。

 

 ドリージェネラルから出ている白い煙が、スージーの頬を撫でた。

 

 「……冷、たい」

 

 そんなドリージェネラルのすぐ横に、黒髪で糸目の男がいる。

 

 その男の右手がドリージェネラルに触れていて、その右手からも白い煙、冷気が出ている。

 

 スージーが何も言えないまま見ているのをよそに、突然現れた2人は話を始める。

 

 「もう凍ったんだろ? どけよアーノック。俺がやる」

 

 「凍り付いた時点で壊れてますが」

 

 「この馬人間も赤ローブもあのピエロみてぇなガキが作ったんだろ? じゃあ目の前で壊してやった方が楽しいだろ」

 

 「まぁセバスターならそう言うと思ってました」

 

 アーノックはドリージェネラルから右手を離し、1歩下がる。

 

 代わりにセバスターがドリージェネラルにさらに1歩近づき、無造作に腕を振った。

 

 適当に振った右の裏拳がドリージェネラルに当たった瞬間、甲高い音とともに、ドリージェネラルがバラバラに砕ける。

 

 透明な氷のかけらと共に、ドリージェネラルは、スージーの目の前で破壊された。

 

 頑丈で、打撃も斬撃にも強いはずのドリージェネラルが、たったの1発で殴り壊された。

  

 スージーはその光景が信じられず、つい先ほどまでの多幸感が、底冷えするような怖気へと変わっていくのを感じていた。

 

 カランと音を立て、ドリージェネラルが持っていた指揮棒が石畳の上に転がる。

 

 「あ? なんだこれ」 

 

 「これはあれです。戦争のときに将軍とかが持ってる棒です」

 

 「ほぉ~。よく見ればなかなかかっこいいじゃねぇか」

 

 セバスターは地面に転がる指揮棒を拾い上げる。

 

 それを見たスージーは1も2もなく怒鳴り、駆け出した。

 

 「ダメ! それを返せ!」 

 

 指揮棒がなくてはドリーを呼べない。

 

 今いるドリーを操れない。

 

 指揮棒を奪われると、スージーは何もできなくなるのだ。

 

 スージーは指揮棒を拾い上げたセバスターに組み付こうと飛び掛かる。

 

 だが、戦闘能力など皆無なスージーにはどうすることも出来ない。

 

 自分めがけて飛び掛かるスージーを、セバスターは足で蹴るように突き飛ばす。

 

 「オラッ」

 

 「ウッ」

 

 向かっていた方向と真逆に突き飛ばされ、スージーはまたも無様に地面を転がった。

 

 「その棒、大事みたいですね」

 

 「だな。売ったら金になるかと思ったが、もっといい使い道を思いついたぜ」

 

 本当に下卑た笑みとは、今のセバスターとアーノックの顔を指すのだろう。 

 

 「おいガキ。よく見とけよ」

 

 そう声を掛けられ、スージーはセバスターが何をしよとしているのかを察した。

  

 「や、やめろ! やめて! それは」

 

 そう叫んで手を伸ばすが、何にもならない。

 

 セバスターはスージーの見ている前で、指揮棒を叩き折った。

 

 指揮棒がなくては、スージーは無力だ。

 

 戦えない。

 

 ここで終わってしまったら、ヘレーネを超えられない。

 

 そこまで考え、スージーは自分が今、何にも守られていないことを実感する。

 

 怖じ気づく。

 

 その様子を、セバスターとアーノックは嗤う。

 

 「おい見ろよアーノック。すげぇ青ざめてるぜ」

 

 「よほど大事なものだったんでしょねぇ?」

 

 すぐ近くで近衛騎士とドリーが戦っているにもかかわらず、2人は嗤った。

 

 スージーの無力と無様を嗤い、自分たちがスージーをそう貶めたことに満足するように笑う。

 

 そしてひとしきり笑い終え、2人はゆっくりとスージーに向かって歩き始める。

  

 「さぁて、てめぇにはいろいろ聞きたいことがあるが、どうせ口割らねぇんだろ?」

 

 「聞いても答えてくれないなら、やることは1つしかないですよね」

 

 「ああ、拷問して吐かせるしかないよな」

 

 「ええ、僕もそう思っていたんです」

 

 下卑た笑みをさらに深め、2人の手がスージーに迫る。

 

 明確な身の危険、命の危機を感じたスージーは、ようやくサイバに手渡された共鳴鐘の存在を思い出した。

 

 サッと懐から共鳴鐘を取り出し、めちゃくちゃに鳴らし、叫ぶ。

 

 しかしセバスターはそれを許さない。

 

 「助け、ガァ!」

 

 「おいガキ! おかしなマネしてんじゃねぇぞ!」

 

 助けを呼びかけたスージーの腹に容赦なく蹴りを入れ、叫ぶために吸い込んだ息を無理やり吐きださせる。

 

 「僕痣とか生傷だらけの女とはヤりたくないんですけど」

 

 「叫ばれると仲間が来ちまうかも知んねぇだろ。どうせボコボコに殴るし蹴るからよ。お前は後ろからヤればいいんだよ」

 

 スージーはぐったりと倒れこみ、息ができなくなっていた。

 

 だがスージーは、腹を蹴られても共鳴鐘を手放していなかった。

 

 「……グ……か、は」

 

 えずき、苦しみながら、それでも鐘を鳴らす。

 

 ”助けて、サイバ、タザ”と心の中で願い、願掛けのように共鳴鐘を振り回す。

 

 「あ? こいつなんかちっちぇえハンドベル鳴らしてるぞ」

 

 「とりあえず取り上げて、壊しときましょうか」

 

 セバスターとアーノックが、スージーの共鳴鐘に気付いた。

 

 それと同時に、南東の方角で、強烈な破裂音が鳴った。 

一応ストリゴイが物語の悪役側なのですが、セバスターとアーノックの方が悪い感じに書きたいなと思って書きました。

どっちが悪役かわからん、みたいな感じになっていればいいなと思っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] セバスターとアーノックの安心感が半端ないです(´ω`)ゲスですけど笑
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