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捕獲作戦

 アドニスが扉を蹴破る直前、私はアドニスの喉仏を刺した。

 

 指尖硬化した指先が声帯を潰して、貫いて、首の骨に食い込む。

 

 これで何も言えなくなる。

  

 私はアドニスに何も言わせないまま、首の骨を折った。

 

 「痛いし、息もできないから苦しいでしょ? でも窒息するより先に再生するから、大丈夫だよ」

 

 驚き。

 

 戸惑い。

 

 そんな表情だったアドニスが、だんだんとこの状況を理解し始める。

 

 そんな顔で見ないでよ。

 

 とは言わなかった。

 

 私は物言いたげな、憎々しい視線を感じながら、アドニスの体にナイフと革紐を施す。

 

 最後に余った皮紐を教会の柵に結ぶ頃、アドニスの首が再生し終わった。

 

 「お前……」

 

 アドニスは首だけを動かして、私を見る。

 

 歯をむき出して、鼻息を荒くして、今にも怒鳴りそうだった。

 

 今大声を出されると、ジャイコブ達が困る。

 

 「ッふざ」

   

 だから、もう1度首の骨を折った。

 

 アドニスの首が項垂れたように"ガクン"と落ちる。

 

 酷く胸が痛くなった。

 

 アドニスはきっと、私に裏切られたと思って激昂してる。

 

 それなのに、怒鳴ることも問いただすこともさせなかった。

 

 こんな一方的なやり方を選んだのは、他でもない私自身だから、言い訳すら出来ない。

 

 でも謝らない。

 

 もう割り切った。

 

 恨まれても良いから、真祖の計画を止めたい。

 

 私はアドニスをその場に放置して、あとの事をジャイコブたちに任せ、急いで兵舎に戻る。

 

 本当はジャイコブかチェルシーの加勢に行きたいけど、今夜中に魔術師の人たちも片付けておきたいからね。

 

 アドニス達を無力化する作戦は伝えてあるし、何かあってもチェルシーがうまく舵取りしてくれると思う。

 

 

 

 

     

 

 

 

 兵舎に戻ってきた私は、装備を整えたカイルさんとイングリッドさん、シドさんの3分隊に合流する。

  

 カイルさんたちには、魔術師の人たちを捕まえる手伝いを、予めお願いしてあった。

 

 だから兵舎に戻ってきた後、すぐに出発出来る。

 

 危険もあるし、騎士団の仕事でもないし、私が頼んだ癖に、私には大したお礼は用意出来ない。

 

 それなのに、カイルさん達は嫌がったり面倒臭がったりしないでいてくれる。

    

 嬉しいし、ありがたいと思う。

 

 私1人じゃ、今夜中に4箇所もある魔術師の人たちの潜伏場所を襲うなんて無理かも知れない。

 

 「手伝ってくれて、ありがと」

 

 出発前にお礼を言っておくと、カイルさんは頭を掻きながら答えてくれた。


 「あんまり期待するなよ? 昼間も忙しかったから、正直疲れてる」

 

 「えっと、王都から一般人を連れだして、冒険者を呼び込んでたんだよね」

 

 「ああ、ギリギリ間に合った。もう王都は戦える奴らばっかりになってるぞ。冒険者の連中は血の気が多いせいで、喧嘩が多かったりしたな」

 

 カイルさんはそう言って肩をグルグル回して、団員の皆を見回した。

 

 「行くぞ」

 

 大きな声ではなかったけど、静かな夜だったからか、全員に聞こえたみたいだった。

 

 皆が頷いて、歩き出す。

 

 目的地は当然、魔術師の人たちの潜伏場所だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は、と言うか俺の分隊はエリーと戦ったことがある。

 

 随分と手を抜かれ、丁寧に体力だけを奪われて負けた。

 

 ヴァンパイアは常人が敵う生き物じゃないと、理解させれた。

 

 ヴァンパイアの本気がどんなものなのか、身に沁みてわかったつもりだった。

 

 だが、本当はわかってなかった。

 

 それを今実感している。


 俺たちはまず、エリーに予め教えられていた魔術師の潜伏場所を囲うように布陣した。

 

 その後、エリーが魔術師の懐に突っ込む。

 

 俺たちの分隊ははそれに続くように流れ込む。

 

 先陣を切るエリーは、俺達の存在に気付いた魔術師の迎撃を受けることになったんだが、圧倒的だった。

 

 ゾロゾロと出てくるスケルトンは、片っ端から一撃で頭骨を砕く。

 

 宙に浮かんでブンブン切りかかってくる剣は、刀身の真ん中で叩き折る。

 

 よくわからない光弾を飛ばしてくる魔術師は、真っ先に顎を打って失神させる。

 

 聞けば、あの光弾はあった部位が壊死すると言う死霊術なんだそうだ。

 

 危険度順に言うと、光弾、剣、スケルトン。

 

 エリーはその危険度の高い順に、速やかに潰していく。

 

 しかもエリーは、魔術師が両手の間合いに入った瞬間に失神させている。

 

 失神ではなく殺害だったら、もっと簡単なんだろう。

 

 結局エリーは、ほぼ1人でその場に居た魔術師を全員失神させていった。

 

 俺たちはただスケルトンを押さえつけていただけだった。

 

 無手のスケルトン共は、魔術師が全員失神したあとに俺の分隊とエリーで全て倒したが、その時のエリーもヤバかった。

 

 殴る、蹴る、掴む、噛む。

 

 そう言うスケルトン共の攻撃が、エリーには全く効いてなかった。

 

 エリーは頭骨を砕いたり頚椎を叩き折る他に、眼窩や顎に指を突っ込んで、首の骨を捻じり折ったりもしていた。

 

 多分生きている人間にも同じことが出来るんだろうと思うと、本当にあの時戦ったのがエリーで良かったと思う。

 

 エリーが人を殺さないヴァンパイアで、本当に良かったと思う。

 

 ヴァンパイアにとって人の命は、恐ろしく簡単に奪えてしまうんだな。

 

 吸血鬼討伐騎士団? やってられるか。命がいくつあっても足りねぇよ。

 

 ちなみにエリーは、あの光弾に1発被弾してた。

 

 避けきれなかったのか、背後にいた俺たちを庇ったのかは、見てなかったからわからん。

 

 着弾したのは右手だったんだが、エリーはあっさりと右肘から先を切り落していた。

 

 真っ黒に尖った指を肘にぶっ刺して、ドバドバ血を垂れ流していたが、すぐに新しい手が生えてきた。

 

 その時のエリーが、いつも通りの顔だったんだ。

 

 ある意味印象的だった。


 不思議と怖くはなかったがな。   

 

 

 

 


 

 その後は失神した魔術師に猿轡を噛ませ、兵舎の地下室に監禁する。

 

 それから次の魔術師の潜伏場所に向かう。

 

 魔術師共は、潜伏している自分らが襲われるとは思ってもいなかったらしく、残りの3箇所もすぐに終わった。

 

 俺たちは、合計9人の魔術師を取り押さえることが出来た。

 

 最後の潜伏場所から、拘束した魔術師を担いで兵舎に戻る。

 

 その時、俺はエリーに思ったことを言ってみた。

 

 「なぁエリー、俺ら要らなかったんじゃないか? エリーなら1人でも片付けられたんじゃないか?」

 

 するとエリーは、チラッと横目に俺を見て答えた。

 

 「私1人だと、多分夜が明けちゃってたと思う。スケルトンの数が多かったからね。カイルさん達が居ないと時間がかかり過ぎてたと思うよ。それに魔術師の人たちを連れ帰るのも難しかったと思う」

 

 「……そうか。あぁ、考えてみればそうだな」

 

 魔術師を殺して、スケルトンは無視する。

 

 そうすれば、魔術師9人くらいは簡単に倒せるってことか。

 

 やっぱヴァンパイアっておかしいわ。

 

 俺が妙な納得をしていると、エリーがなにか呟いた。

 

 「シュナイゼルさんとカラスさんと、あと1人……」

 

 「なんだ? 何にカラスが1人?」

 

 俺が聞き返すと、エリーは少し考えてから首を横に降った。

 

 「ううん、何でもないよ。独り言」

 

 「そうか」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 私達が兵舎に戻って来ると、ジャイコブ達が兵舎の前に佇んでた。

 

 それぞれアドニス、クゼンさん、ローザさんを肩に担いで、私を待ってくれていたみたい。

 

 「お疲れ様、ありがと」

 

 とりあえず労うと、チェルシーが鼻を鳴らして答えてくれる。

 

 「もっと感謝して下さい」

 

 チェルシーのいつもの感じは置いておくとして、アドニス達が静かなのが気になる。

 

 アドニス達が私を見たら、絶対になにか言ってくると思ったのに、さっきから大人しく担がれたまま動かない。

 

 「えっと、どうしたの? さっきからピクリともしないけど」

 

 そう聞くと、ギンがドヤ顔になった。

 

 「こいつらワーキャーうるせぇから寝かせたぜ。なんでこんな事するんだとか、ふざけんなとか、エリーは何を考えてるんだとかさ……俺のおかげで静かだろ?」

 

 褒めてほしそうなので、素直に褒めることにする。

 

 というか、罵詈雑言を聞かずに済んだから、ちょっとホッとしてしまった。

 

 本当なら、アドニス達の恨み言は、私が全部受け止めるべきなのに。

 

 「ありがと、ギン。気が利くね」

 

 「フヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」

 

 凄く嬉しそうなギンの後ろに、不満そうなジャイコブがいる。

 

 「おらも活躍したべ。褒めれ」

 

 「ジャイコブもありがとね」  

 

 「グヘ、ゲヘ、ヘッヘ〜イ」

 

 どうしたのその笑い方?

 

 ギンとジャイコブだけを褒めて、チェルシーには何も無いなんてことはしない。

 

 チェルシーにも……

 

 「チェルシーも、ありがとう」

 

 「ついでみたいにそう言われると腹が立ちますね。後で覚えていてください。泣かします」

 

 「えぇ……もっと感謝しろって言ってたのに……」

   

 後で泣かされる事になってしまったことは、とりあえず置いておくとして。

 

 ヴァンパイアと魔術師はこれで無力化出来た。

 

 後は、ストリゴイだけ。

 

 「魔術師の人達とアドニス達は、それぞれ個別に監禁してて。私は、ちょっと出かけるね」

 

 もう夜が明けちゃうから、1度日焼け止めを塗らないといけない。

 

 このまま順調に行けば、これで終わるかもしれない。

 

 ストリゴイの相手は、ギドに頼んである。

 

 私は、ギドを呼んで来れば良いんだ。

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