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夜襲

 アドニス、ローザ、クゼンの3人のヴァンパイアは、3人同時に真祖の居る部屋を出た。

 

 部屋の扉は使わず、窓を開けて地上へと飛び降りたのだ。


 風の抵抗を体で感じ、”ビュオォ”という風を切る音を耳で捉え、しかしほとんど音を立てることなく、王城のすぐそばの石畳の上に降り立った。

 

 体をほぐすように肩を回しながら、アドニスはクゼンを見やり言った。

 

 「久々の荒事だなぁ?」

 

 「戦いにすらならんさ。少人数相手に真夜中の奇襲だぞ。俺1人でも十分なくらいだ」

 

 「年寄りの癖に血の気が多いなぁ、ギヒヒヒヒヒッ。マジでジイさん1人で事足りるだろうけどよ、時短のためにも3人で行くぜ?」

 

 「ふむ……俺たちの出番は今夜と明日の夜だったな。体力は温存しておくべきか」

 

 「よぉくわかってんじゃねぇか。少しは耄碌しろよジイさん」

 

 ニヤニヤと嫌らしく笑うアドニスとクゼンを1歩後ろから見ていたローザは、教会へと向かい始める前に口を開いた。

 

 「3人じゃない。7人」 

 

 「あ? 何が?」

 

 「教会を襲うのは7人。エリーたちも来る」

 

 「うわ……」

 

 アドニスは軽く頭を押さえた。

 

 「過剰戦力だ。皆殺しは不味いって言われてんのによぉ……」

 

 「あのお嬢ちゃんらなら加減するだろう。俺と違って荒事が好きには見えなかった」

  

 「あ~、そうかもしれねぇけどよ……万が一殺し過ぎたら真祖に怒られるぜぇ? ギヒヒヒヒヒッ」

 

 「お嬢ちゃんたちはどこに居るんだ? 現地集合かい?」

 

 「そう」

 

 「んじゃ行くか」

 

 それ以上言葉は交わさず、3人のヴァンパイアは教会を目指し移動を始めた。

 

 月と星と、いくつかの家屋から漏れる灯り。

 

 この日の夜は明るすぎる程明るい。

 

 人目を避けるように、静かに屋根の上を駆るアドニスは、ふと思った。

 

 「やけに静かだ……どいつもこいつも夜だからって引きこもってやがるなぁ」

 

 通りの上を飛び越える際、サッと下を見渡してみても、出歩いている者は皆無だった。 

 

 その癖建物の窓は、蝋燭の不安定な光を零している。

 

 起きている人間は多数いるが、動いている人間が皆無といっていい状態のようだ。

 

 「嵐の前の静けさってやつだろうな。たまにあるんだ。これから狩りをしようって時に限って静かになることが」

 

 「移動が安全。好都合」

 

 

 

 

 

 

 

 

 アドニス達が教会にたどり着くと、既にエリー、ジャイコブ、チェルシー、ギンラクが、教会の屋根の上で待っていた。

 

 コの字に建てられている教会の屋根の上で何やら話していたようだったが、アドニス達の姿が見えるとピタリと話すのを止め、こちらへと手招きをしている。

 

 「あっちもやる気満々みてぇだなぁ」

 

 「これなら10分かからないだろう。楽しみにしてたんだが、すぐに終わってしまうな」

 

 「血の気が多いと損するぜジイさん……って俺に言われなくてもわかってるか。なぁ? ギヒヒヒヒヒヒッ」

 

 「なんでもいい。早く合流する」

 

 アドニスとクゼンはローザの言葉を皮切りにお喋りを止め、エリーたちの居る教会の屋根の上に飛び移った。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 「せっかく7人も居るんだから、役割分担しようよ」

 

 そう提案したら、あっさりと通った。

 

 αレイジを使っている影響か、突然参加した私の提案に、アドニスもローザさんもクゼンさんも素直に従ってくれた。

 

 私とアドニスの2人は協会の裏口から入って、祭具とか聖典を探して壊す係。

 

 チェルシーとギンとクゼンさんの3人は正面から入って、神官戦士を殺していく係。

 

 ジャイコブとローザさんは協会の寮で、寝ている神官さんたちを殺していく係。 

 

 不安もあるし、罪悪感もある。

 

 でも割り切ることにした。

 

 それにジャイコブのことも、チェルシーのことも、ギンのことも、私は信頼してる。

 

 うまく行ってくれると信じてる。

 

 それでも不安が残るとしたら、クゼンさんのことになる。

 

 アドニス達が来るまでの間、ジャイコブとチェルシーからクゼンさんに(まつ)わる話を聞いた。

 

 戦闘狂。

 

 無限に戦える。

 

 いつも3人以上の人間の血を吸い尽くす。

 

 ……大丈夫かな。

 

 「おい、ボーっとすんなよぉ? 置いてくぜぇ? ギヒヒヒっ」

 

 教会の裏口を探して歩きながら考え事をしていたら、先を歩いていたアドニスがこっちを振り向いて上機嫌に言って来た。

 

 「機嫌がいいんだね」

 

 「まぁな。真祖の計画が終わったらよ、俺たちは今よりずっと安全に生きられるようになるかもしれねぇ。そのためにこうやって動けると思うとよ、楽しくて仕方がねぇ。笑いが止まらねぇ」

 

 アドニスはそう答えてから、”グュヒヒヒヒヒヒヒヒ”と本当に笑いだした。

 

 声を殺しているせいか、笑い方のせいか、悪だくみしている人の笑い方にしか聞こえないけど、でも言っていることとか笑っている理由とかは、まともなのかもしれない。

 

 アドニスは、同族であるヴァンパイアに安全に生きて欲しいって思ってるんだ。

 

 そのためにこれからたくさん人を殺すっていうことを考えなければ、良い事なのかもしれない。 


 罪悪感が増した気がするけど、無視する。

 

 割り切るって決めたんだから。

 

 私は、アドニスに、恨まれてもいい。

 

 「アレよぉ、裏口じゃねぇか? あの木製の扉、教会の癖にガラスの装飾が()ぇ」

 

 また考えに耽っていると、いつの間にかアドニスが笑うのを止めて木製の扉を指さしてた。

 

 アドニスのいう通り色ガラスの装飾は無いし、彫刻も無い。

 

 いかにも人に見せるつもりのない扉って感じだし、たぶん裏口で合ってるんだろうね。

 

 「うん。裏口っぽいね」

 

 「だろ? ジイさんとローザのグループはまだ動いてねぇが、もう行っちまうかぁ? どうせすぐ突入すんだろうしよ」

 

 「そうだね。もう行こうか」

 

 アドニスがもう行くって言うんなら、いい。

 

 私は覚悟してきた。

 

 右手の指先を一か所に集めるようにして、指尖硬化。

 

 そのままアドニスの右側に立って、半歩下がって、腰を落とす。

 

 指尖硬化した右手は見せない。

 

 目線はしっかり扉の方に向ける。

 

 「いつでもいいぜぇ? お前のタイミングに合わせてやるよ。俺は優しいからよぉ? ギヒヒヒヒヒッ」

  

 「その笑い方、治らない?」

 

 私も少しだけ笑った。

 

 アドニスと1度顔を見合わせて、改めて扉を見る。

 

 腰を軽く落として、後ろをチラッと見て、それから他のグループがここから見えないことを確認する。

 

 鼻で息を吸って、口から吐き出す。

 

 十分。

 

 「派手に行くんだよね? 蹴破るのは任せていい?」

 

 「おう、任せろ。静かに入ったんじゃ、他のグループが俺らの突入に気付けねぇからよ」

 

 「それじゃ……行く」

 

 「応ッ」

 

 私とアドニスは同時に飛び出して、木製の扉に迫る。 

 

 扉までは一瞬。

 

 その間にアドニスが私の前に出て、扉を蹴破る姿勢をとる。 

 

 私はアドニスの右後ろをキープしてる。 

 

 アドニスが扉を蹴る直前、私はそっとアドニスに、必要以上に近づいた。

 

 そしてアドニスの足が扉に当たる、ほんの少し前。

 

 私は思い切り体をひねって、扉に背を向けて、右手の指をアドニスの喉仏に突き刺した。

手首の調子がだいぶ良くなってきました。


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