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悪戯

 私とローザさんを近くに呼びよせた真祖は、まずローザさんの額に人差し指を当てた。

 

 「うむ」

 

 真祖はキョトンとするローザさんを見て1つ頷き、額に当てた指でビシッとデコピンした。

 

 「何?」

 

 デコピンを喰らったローザさんはほぼ動じることなく、額を押さえて真祖を見る。

 

 「ローザよ、悪戯されておったぞ」

 

 「……?」

 

 何が何だかわからないという感じのローザさん。

 

 真祖はそんなローザさんにまた苦笑した。

 

 「もう行って良いぞ。エリーはここに座るがよい」

 

 真祖はいつものようにソファ―に私が座るスペースを設け、ローザさんは結局よくわからないままといった感じで、真祖から離れて行った。

 

 この一連の出来事を見ていた私は、気が気ではなかった。

 

 確証はないけど、確信がある。

 

 真祖は私がローザさんに魅了をかけたことを見破って、その魅了をデコピンで打ち消したんだ。

 

 私の魅了はデコピン1つで打ち消される。

 

 しかも魅了をかけられているかどうか、見ただけでわかる。

 

 何より、今見咎められた。

 

 「エリー、座るのだ」

 

 「はい」

 

 言い訳が思いつかない。

 

 私は恐々として真祖の隣に腰かけた。

 

 真祖は私の糧に腕を回しつつ、私を見ずに話し始める。

 

 「エリー、悪戯は良くない。スキルを試したくなる気持ちはわからなくも無いがな」

 

 「え、あはい」

 

 そこからはお説教だった。

 

 私が真祖の計画を邪魔しようとしていることがバレたのではと思ってたけど、私がやったことは、真祖にとってただの悪戯だみたいだ。

 

 だから私も、ただ悪戯しただけということにする。

 

 「なぜローザに魅了をかけようと思った? 怒るつもりはない、言って見よ」


 「悪戯のつもりでした」

 

 「この場には余が居ったからよかったが、魅了は通常解除できぬ。今後そう言う悪戯はしてはならぬ」

 

 「はい」

 

 お年寄りの話は長いというけど、本当に長かった。

 

 いつの間にかお説教ではなくなっていて、真祖の言いたいことをただ聞くだけになってる。

 

 「エリーはいつまでたっても他人行儀が治らぬと思っておったが、かわいい悪戯をするくらいには馴染んでくれておったのだな。余はうれしく思うぞ。しかしだからとって悪戯を繰り返してはならぬ」

 

 「はい」

 

 「思えば昔も、余に悪戯したり、からかったりしてくれる我が子は実に少なかった。余は少し寂しくもあったが、余が親しく接すると皆恐縮してしまうのじゃ」

 

 「はい」

 

 私はお人形になった気分だった。

 

 でも返事だけをしてじっとしているのが、この場は無難だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 「私そろそろ、帰らないと」

 

 真祖の話のキリがいいところで、そう言ってソファーから立つ。

 

 真祖も長話をした自覚はあるようで、引き留めようとはしなかった。

 

 「おっと、もうそんな時間か……エリー、もうずっとここに居らぬか? あの3人も連れて来て、余のもとに居たほうが安全じゃ」

 

 引き留めはしなかったけど、移住するようには言ってきた。

 

 でもそれはダメ。 

 

 私はともかく、チェルシーが近くで真祖の鼓動を浴び続けたら、きっと今のままじゃいられなくなる。それにジャイコブやギンだって、魅了を解除されたら、どうなるかわからない。

 

 今まで私に従わされてきたことを、恨んでるかもしれない。

 

 そう思うと、少し怖い。

 

 「ううん。今でもここは手狭でしょ? 4人も増えたら窮屈だよ」

 

 この部屋には真祖を含めて、もう6人もいる。真祖だってこのまま一気に4人も増えるのは、困るとわかっているはず。

 

 「外に居ると危険かもしれぬ。またオイパール・トレヴァーのような、お主らを害する者が居らぬとも限らんのじゃ」

 

 嫌なこと思い出させてくれる。

 

 「大丈夫だよ。3人とも強いんだから」

 

 私はそう言って、軽く手を振ってから真祖の部屋の出口に向かう。

 

 ローザさんをチラリと見ると、目があった。

 

 ”ごめんね”と心の中で思ってから、部屋を出る。

 

 

 

 

 

 

 

 兵舎に帰りながら、今日の出来事について考えてみる。

 

 アドニス達に魅了をかける案は、使えそうにない。

 

 魅了は一応かかるけど、真祖は魅了がかかってるかどうか見破れるし、解除できる。

 

 なによりローザさんの反応を考えると、魅了がかかっても私のお願いを聞いてくれるとは限らないと思う。

 

 魅了をかけた私と真祖が、同じくらいの支配力を持っていると感じた。

 

 この案は使えそうにない。

 

 となると、シュナイゼルさんの方にアプローチをかけてみるしかないかな。

 

 「……シュナイゼルさんには、魅了なんか使いたくないな」

 

 私はシュナイゼルさんの名前は知ってるけど、シュナイゼルさんの仲間の魔術師の人達の名前は知らない。

 

 シュナイゼルさんに魅了をかけて聞き出せば、他の11人全員に魅了をかけられる。

 

 そうすれば真祖の計画に参加させないどころか、妨害してもらうこともできる。

 

 でも、やっぱり自分に無理やり惚れさせて、何でも言うことを聞く下僕にしてしまうなんて、嫌だと思う。

 

 「ジャイコブとギンに魅了をかけて、従わせているくせに」

 

 私はそんな独り言を零してから、兵舎の門をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 同じ日の朝、私はコネリーとして、もう1度シュナイゼルさんに会うために王城を訪れる。

 

 スタスタと歩き回って散歩してますアピールをして、それから地下室への入口に向かう。

 

 王城の地下室への入口は、前と同じ仲良くなれた近衛騎士の人が警備していた。

 

 「ごきげんよう」

 

 「ごきげんようコネリー殿。どうしたのだ? 朝からこんな場所に」

 

 そう聞かれると思って、あらかじめ答えは考えてある。

 

 「実は、前に地下室に入らせてもらった時に、手帳を落としてしまったのです。大事な手帳なので、取りに入らせてもらえませんか?」

 

 この答えなら、たぶん地下室に入るのを断られない。

 

 「それはお困りになっただろう。一応規則なので、手形を見せてもらえるか」

 

 「どうぞ」


 「確かに。灯りはお持ちか? 暗くては探せるものも探せまい」

 

 「大丈夫です。落とした場所は見当がついていますから」

 

 にっこり笑って、扉を開けてもらう。

 

 「あ、もしかしたら、しばらく時間がかかるかもしれません」

 

 「うむ。存分に探されるのが良いだろう。だがどうしても見つからぬのなら、戻って来るようにな」

 

 「はい」

 

 私は扉をくぐってからそう伝え、後ろ手に扉を閉めた。

 

 閉めた扉に背中を預けて、”ふぅ”っと息を吐く。

 

 これから私は、シュナイゼルさんを真祖の計画に協力しないで欲しいとお願いする。

 

 すごく気が重い。

 

 前にオリンタス山の洞窟の近くで、シュナイゼルさんに、何が目的で下水道に潜伏したりしているのか聞いたことがある。

 

 「今の王に我らを認めさせ、今の魔術師たちが魔術師として、かつてのように大手を振って町や都を歩けるようにする。それが目的だ」

 

 それが答えだった。

 

 私のお願いは、シュナイゼルさんの目的とは反するものだと思う。

 

 だから、すごく、言いづらい。

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