仲良くなるために
しばらくフィオ君とフィアちゃんとしりとりをしていると、上から階段を降りる足音が聞こえてきた。
ほどなくして、サイバが階段を降りて私たちの前に来て、ムスッとした顔で私を見る。
「真祖が呼んでいる」
「あっそ」
そのうち呼ばれると思ってたけど、サイバが呼びに来ることないじゃん。
と思ったけど、他に呼びに来るとしたらタザかドリーの2択になるね。
じゃあ誰が来てもいい気分にはならないかな。
フィオ君とフィアちゃんから一旦分かれて、サイバと2人でまた真祖の居る部屋に向かう。
その間サイバは無言だった。
私も真祖とどんな話をしたのか気になるけど、聞く気にはなれなかった。
真祖のいる部屋の扉の前まできて、ノックしてから扉を開ける。
ノックしても返事を待たずに開けたら意味がない気はする。
「お邪魔します」
「それは言わずともよいと言っておるだろう」
じゃあなんて言って入ればいいのかな。
部屋を見渡しても、タザとドリーは居なかった。
「タザとドリーは?」
「帰らせた。僕1人だけなら、お前も少しは気が楽だろう」
真祖に聞いたつもりだったけど、サイバが答えた。
しかも”私のために帰らせた”みたいな言い方でなんか腹立つ。
”私のせいで居心地が悪かったよねごめんなさいね”と言いそうになったけど、飲み込んでおく。
余計なことは言わない方がいいって、ついさっき反省したばかりだ。
「それで、私はどうしたらいいのかな」
呼ばれたってことは要件があるってこと。
小言や文句を言われるのか、もしかしたらお説教でもされるのかな。
相変わらず赤いソファーに腰かけた真祖は1つ頷いて、横にずれてスペースを空け、私を隣に座るように促す。
私が真祖の横に座ってから話すみたいだから、黙って従うことにした。
「エリー、お主は昔サイバとの間に何かあって、今でも思うところがあるのだな?」
まぁ、そうかな。
何かあったのはサイバだけじゃないけど。
ヘレーネさんとも色々あったというかされたけど。
間違ってはいない。
私は真祖の問いに頷く。
すると真祖は私の目をしっかり見て、諭すようにゆっくりと話し始める。
「余はサイバ達ストリゴイとは協力関係にある。関係を悪くしたいとは思っておらぬ。そしてこれから我が子らのまとめ役になってもらうエリーにも、ストリゴイとは最低限協力してもらいたいのじゃ」
真祖は片手で横に座る私の頭を抱えて、おでこのあたりを撫でる。
不思議と嫌な気持ちにはならない。
むしろ嬉しいと思いそうだ。
でもαレイジを使ってるから大丈夫、だと思う。
「サイバを好きになれとは言わぬ。喧嘩をしても構わぬ。だが他の子が見ているときや、共同で何かしているときは、それなりに仲良くするのだ。エリーなら出来るであろう?」
ああ、うん。
頷くしかない。
「うん。わかった」
そう答えると真祖は私の頭を撫で続けながら、視線をサイバに移す。
「サイバも、昔この子に殺されかけたらしいが、根に持っておるか?」
「いや、根に持ってはいない。傷もヘレーネのおかげできれいに治っている。それにこれからは僕らに協力してくれるというなら、むしろ喜ばしい」
「そうか」
さっきから協力協力って言ってるけど、具体的になにをさせるつもりなのかな。
この流れなら普通に聞きだせるよね。
「わかったよ。協力する。だから何をするつもりなのか、私にも教えてよ」
これで私の聞きたかったことが聞ける。
「いいだろう。僕らは真祖の計画を」
「待て。エリーがサイバと仲良くする練習が先だ」
サイバが真祖の計画について話しかけていたのに、真祖が止める。
いい加減そろそろ知りたいんですけど。
「練習って、そんなの必要ない。いいから教えてよ」
「では練習ではなく、仲良くするきっかけとでも言い換えよう。エリー、サイバに何か頼み事をするがよい。サイバも良いな?」
「僕に出来る範囲なら構わない」
きっかけも何も、普通に接すればいいだけでしょ? もう睨んだり憎まれ口を言ったりしないよ。
なんでそんなことしないといけないのかな。
でもサイバも頷いちゃったし……
ん~、しょうがないから、真祖に頼むつもりだったことをサイバに言ってみようかな。無理だったら真祖に頼めばいい。
真祖がダメなら自分で何とかするし、リスクはないよね。
「じゃあ、シュナイゼルさんに会いに行きたい。アドニスの教えてくれたルートじゃ、シュナイゼルさんのいる地下室に近づけない」
”サイバにどうにか出来るのかな”と思いつつ口にしてみたけど、サイバはあっさり頷いた。
「わかった。それなら僕でもなんとかなるだろう」
「うむ。エリー、これを機に打ち解けるのだぞ」
真祖は私に微笑んでそう言った。
これで私は、サイバの手を借りてシュナイゼルさんに会うことになった。
正直、これで良かったのかわからない。
真祖やサイバには何も言わずに、私1人でシュナイゼルさんに会いに行って、真祖の計画について詳しく聞いたほうが良かった気もする。
たぶん私1人でも会いに行けたと思う。
わざわざ真祖の言うことを聞いてサイバに頼むのは……
あ、私が真祖の言うことを聞く以上、見返りを求められるのでは?
私は真祖がサイバに頼みごとをしろっていうから頼んだだけで、真祖には何も頼んでないし、むしろ真祖の言うことを聞いてるわけだしね。
うん、試しに言うだけ言ってみよう。
「これが終わったら、真祖の計画について詳しく教えてくれるんだよね?」
「うむ。約束しよう。エリーも今後はサイバと仲良くするのだぞ」
よし。
よしよしよし!
あとはシュナイゼルさんに真祖の計画を聞いて、そのあと真祖からも聞けば詳しくわかる。
やっと1歩進んだ。




