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ストリゴイとエリー

 真祖とヴァンパイアが人間を支配する国を作る。

 

 それがストリゴイの目的だった。

 

 サイバはヘレーネと協力し、国王ジャンドイル・クレイドの肉体に真祖の心臓を移植することで、真祖復活を果たした。

 

 それ以来サイバはたびたび真祖のもとを訪れては、この国を支配するように持ち掛けていた。

 

 最初の計画は、単純そのもの。

 

 現在の王制をそのまま利用し、貴族や領主といった支配層をヴァンパイアに置き換えるというものだった。

 

 国を守る役割をヴァンパイアが担い、人間はヴァンパイアのために働き、血を捧げる。

 

 反抗勢力も想定し、その勢力を滅ぼすだけの戦力も用意した。

 

 だが真祖はその計画を拒否した。

 

 「我が子らは本来人間と共存するように出来ておる。この計画では本来の生き方が出来ぬ」

 

 それが理由だった。

 

 そして真祖は、代わりの計画を提示した。

 

 魔術師、亜人種の順に、最後にヴァンパイアを人間に受け入れさせる計画。

 

 サイバはその計画に、いくつかの懸念点を見出している。

 

 時間がかかる。

 

 回りくどい。

 

 最初の計画より多くの手間がかかる。

 

 魔術師や亜人種が協力してくれる保証がない。

 

 そう真祖に打診したが、それでもこの計画を採用することを曲げられなかった。

 

 「……仕方がない。僕らが何を望んだとしても、真祖の望むようにしかならない」

 

 王都上空に浮かぶ透明化した飛行船で、サイバはそうつぶやいた。

 

 サイバはタザとドリーを呼び寄せ、飛行船の窓から真祖のいる塔を見下ろす。

 

 すると、真祖のいる部屋にある最も大きな窓が開いたのが見えた。

 

 あの窓が開いているということは、いつでも来て良いというサインだ。

 

 「スージーは来ないのか。僕は概要を知っているだけで、ドリーについて詳しく説明できるのはスージーだけなんだが」

 

 「代わりに……俺が、行く。……強さ、だけ……なら……説明できる、はずだ」

 

 「それはいいんだが、なぜあそこまで真祖に会うのを嫌がるのかがわからない」

 

 「怖い……らしい。ヴァン、パイア、が、苦手……だそうだ」

 

 サイバはタザの返事を聞いてため息を吐く。

 

 「ヘレーネに苦手意識を植え付けられたというのが正しいんじゃないか?」

 

 「……」

 

 タザは首を横に振るだけで何も言わなかった。それを見てサイバはもう1度ため息を吐く。

 

 そしてどちらともなく飛行船を飛び降り、真祖のいる部屋の開けられた窓へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「来たようだ」

 

 真祖がそう言ってすぐ、真祖の開けた窓から、3つの人影が飛び込んできた。

 

 どれも見覚えがある。

 

 痩せっぽっちなのがサイバ。

 

 すごく大きい筋肉ダルマがタザ。

 

 赤いローブを着てるのがドリー。

 

 3人を見た真祖がソファーに腰かけながら、真っ先に口を開いた。

 

 「よく来たなサイバ。タザとは久しいな。して、その赤いのは?」

 

 「これは後で説明する。それよりそこの新しいヴァンパイアを紹介してほしい。僕らはヴァンパイアではないが、真祖の味方だと伝えておきたい」 

 

 サイバは私と初対面だと思って、そんなことを言った。

 

 ヴァンパイアになったときに体が5~6年分くらい急成長してるから、ぱっと見ではわからないよね。

 

 どう声をかけるべきかわからなくてちょっと迷う。

 

 私は片手で頭を軽く掻きながら考えて、それから口を開く。

 

 「初対面じゃないよ。半年ぶり。もう胸の傷は治ったみたいだね」

 

 そう言って、私は自分の左胸あたりを指さす。

 

 半年前に私が刺したのは、この辺りだったと思う。

 

 その後のサイバの反応はわかりやすかった。

 

 目を見開いて、私をじっくり見まわして、開いた口を閉じた。

 

 「アラン・バートリー。本名はエリー。ハーフヴァンパイアだったはずだが、ヴァンパイアになっていたか。随分と大きくなったようだ」

 

 久しぶりに会った子供への常套句みたいなこと言われても困る。

 

 「おかげさまでね」

 

 サイバが真祖を復活させたりしなかったら、私はヴァンパイアになんかならなかったのに。

 

 「真祖にヴァンパイアにしてもらったということは、こちらに協力する気になったのか?」

 

 してもらったんじゃない。

 

 させられたんだ。

 

 私が仲間になったと思ったのか、サイバが心なしか微笑んでいるように見える。そのくせ隣に居るタザは黙ったまま私を警戒してて、ドリーに至っては何の反応も見えない。

 

 ストリゴイに全くいい印象を持ってないせいか、どんな反応をされても無性に癪に障る。

 

 イライラする。

 

 「北西区の人達をたくさんゾンビみたいにしたのを、私のせいにしてくれたよね。覚えてるかな。なんでそんなおめでたい発想が出来るの?」

 

 おかげで私は賞金首だよ。

 

 「そうだったな。僕もあれがアランの仕業にされるとは思ってなかった」

 

 サイバの顔から笑みが消えた。

 

 喧嘩腰で話しちゃったせいか、サイバも剣呑な雰囲気になり始める。

 

 それから私がサイバに対してイライラしてるせいか、タザが私を睨む。

 

 私にはサイバを恨む権利があると思うんだけど、なんでタザに咎められなきゃいけないのかな。

 

 やっぱりサイバは好きになれない。

 

 タザとは関りが薄いけど、私を警戒してる。

 

 タザを始めて見た時、”勝てない”と思った。それはヴァンパイアになった今も変わらない。

 

 そのタザが私を警戒してくる以上、私も警戒するしかない。

 

 仲良くなんかできない。

 

 ドリーは、言い方が悪いけど目障り。

 

 私のお腹に大穴開けたし、冒険者を何人も殺してるし、セバスターを殺そうともした。

 

 今ならたぶん勝てるけど、だからと言って目の前に居られてもいい気はしない。

 

 「……」

 

 お互いに何も言わず、無言のまま嫌な緊張が高まっていく。

 

 そんな中、タザが私を見る目から警戒が薄れて、やっと喋った。

 

 「俺たちは……争う、つもりで、来た……わけではない」

 

 「そうだった。僕らは真祖に用がある。これについてだ」

 

 サイバも真祖を見て、それからドリーを見つつそ言った。

 

 「それは?」

 

 「これはドリーという人形だ。生き物ではない。前々から言っていた、僕らの戦力だ。今日はこれの紹介しておこうと思って来たんだ」

 

 人形。

 

 ヘレーネさんもドリーのことを人形と言ってた。

 

 「ふむ。聞かせてもらおうかの」

 

 真祖はそう言ってサイバに説明を促したけど、サイバは答える前に私を見る。

 

 「席を外してくれ」

 

 「……」

 

 私が居ると話せないのか、私には聞かせたくないのか。

 

 私はサイバと仲良くできる気がしない。そもそも仲良くする気がない。

 

 それを相手も感じ取ってる。

 

 だから聞かせたくないのかな。

 

 私が雰囲気を悪くしたせいだ。

 

 わかってるけど、納得いかない。

 

 私は黙ったまま動かず、真祖を見る。

 

 真祖が私もドリーの説明を聞くように言えば、サイバはきっと引き下がる。

 

 それを期待して真祖を見た。

 

 「エリー、すまんが、フィオとフィアのところに行くのだ。階段の下に居るだろう。またあとでここに呼ぶ」

 

 ダメだった。

 

 真祖はわずかに申し訳なさそうに眉をひそめて、私に部屋を出て行くように言った。

 

 真祖も私が居ないほうがいいんだろうけど、理由はやっぱり、私が雰囲気を悪くしたからだと思う。

 

 「……わかった」

 

 ため息が出そうになったけど、吐きださず、サイバやタザとは目を合わせないようにして部屋を出る。

 

 塔の内側にある階段に出てから、やっとため息を吐いた。

 

 「はあぁ、また失敗した」

 

 結局今日も何もわからなかった。 


 それも、私が感情に任せてサイバと喧嘩腰で話したせいだ。

 

 階段を降りながら、気分も落ち込んでいくのがわかる。

 

 しばらく降りていくと、フィオ君とフィアちゃんが階段を上って、私の前に来た。

 

 私の階段を降りる足音を聞いて、会いに来てくれたみたいだ。

 

 「もう帰るの?」

 

 「真祖は今何してるの?」

 

 「んと、今日はまだ帰らないよ。真祖は今、ストリゴイのサイバと何か話してるよ。ストリゴイとかサイバって、わかる?」

 

 私がそう聞くと、2人は知らないと首を振った。

 

 「ストリゴイってなに?」

 

 「サイバって?」

 

 あ~、なんと説明したらいいのか。

 

 というか話していいのかな。真祖が2人に教えてないってことは、教えないほうがいいのかもしれない。

 

 勝手に教えるのも怖いし、真祖に丸投げしよう。

 

 「私より真祖に聞いたほうが早いよ」

 

 たぶん答えてくれないだろうけど。

 

 ……そうだ。真祖はフィオ君とフィアちゃんに限らず、私にも何も教えてくれない。

 

 アドニスやクゼンさんやローザさんにはどうなんだろう。

 

 知ってるかもしれない。

 

 真祖に直接聞くより、そっちに聞いたほうが早いかもね。

 

 いや、アドニス達より、シュナイゼルさんに先に聞くべきだ。

 

 「あ、今聞きに行けばいいじゃん」

 

 ふと思いついたことがそのまま口に出てて、それを思い切り目の前の2人に聞かれていた。

 

 「どこかに行くの?」

 

 「ううん、ちょっと王城に行こうかなって思っただけ」

 

 「ダメ」

 

 正直に答えたら、即答で反対された。

 

 そして2人がかりの通せんぼされる。

 

 「不用意に城に入るのはダメだ。アドニスの見つけたルート以外は通るなって言われてるだろ」

 

 「もし城の誰かに見つかっちゃったら、みんなが迷惑するんだよ?」

 

 アドニスの教えてくれたルートでは、シュナイゼルさんのいる地下には行けない。

 

 シュナイゼルさん達が居るのは、たぶんギルバートが居た地下室。

 

 王家の人だけが入れる地下室らしいから、警備は厳重だろうね。

 

 そしてもし見つかったら、フィアちゃんのいう通り、みんなが困る結果になりかねない。

 

 それに2人の通せんぼを無理やり突破するのは気が引ける。

 

 「ん~、どうしたらいいのかな」

 

 またも心の内が口を突いて、ポロリと出てしまった。

 

 そうしたらフィオ君とフィアちゃんが、にっこり笑って答えをくれた。

 

 「真祖に相談すればいいだろ」

 

 「それがいいよ」

 

 正直それはあまりしたくないけど、この2人の前ではそう言わないほうがよさそうだった。

 

 「うん、わかった。相談してみる」

 

 そう答えた。

 

 きっとまだ時間はある。

 

 焦るのは良くない。

 

 焦ったり、急いだり、怒ったりすると、私は失敗する。

 

 落ち着いて、少しだけ冷静に、余裕を持って考えよう。

 

 私は真祖に呼ばれるまで、2人と遊ぶことにした。

 

 しりとりぐらいしかやることは無いけどね。

すこしこの稚作読み直してみたのですが、我ながら展開が遅いなと感じました。

もう少しテンポよく進めたいと思います。


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