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半ヴァンパイアは王都に向かう

 昨日は結局夜遅くまでグエン侯爵とお酒を楽しんだ。

 

 金貨2枚という大金を持っていたから高そうなお店に入ったのに、グエン侯爵の奢りとなった。

 

 「俺が奢ってやるよ、遅くまで着き合わせたからな」

 

 「いえ、今日の私はお金持ちなので自分の分は自分で払いますよ~」

 

 「ほう、どれほど持ってきた?」

 

 「なんと金貨を2枚です! なんなら私がグエン侯爵の分も払いますよ」

 

 という会話があったが、グエン侯爵が有無を言わさずに払ってしまった。

 

 「そうだよな。冒険者の大金は金貨2枚だよな」

 

 とかつぶやいてた。貴族の収入と比べないでいただきたい。

 

 あと、酒は基本控えたほうがいいとも言われた。なぜだろう?

 

 で、いろいろ準備というか買い物をして王都に向かうことになった。

 

 灰色の外套を脱いで、派手な服を普通に着こなすドーグさんとグエン侯爵と私の3人、あとは護衛の兵士さん5人と御者のおじさんの9人で王都に向かっているところだ。

 

 私たちを乗せた大きな3頭馬車の中で、ドーグさんが話しかけてくる。

 

 「エリー殿、確かピュラの町の冒険者とお聞きしたと思うのですが、長く不在にして大丈夫なのですか?」

 

 私は出発前マーシャさんに、5日くらいはかかると言ってきた。小人の木槌亭のマスターもそのくらいで私が戻ると思っているだろう。しかし5日などとっくに過ぎている。心配をかけているかもしれないね。


 でも大丈夫。

 

 「グイドの町にいるときに、ちゃんと手紙を書いて送っておいたから大丈夫ですよ。しばらく帰れないけど私は無事ですと書いておきました」

 

 「そうでしたか、では問題ないですね」

 

 う~ん、灰色の外套を着ていないドーグさんは、全然変なおじさんじゃない。変じゃないことに違和感を感じちゃうね……っていうのは失礼か。

 

 ちなみに私の服はいつもの冒険者の服。グエン侯爵は、派手な装飾の服を着てる。

 

 グイドの町から王都まで、4日ほどで着くらしい。

 

 長旅になるけどピュラと王都は近いから、王都でやることやったらすぐに帰れるかな……

 

 

 

 兵士の護衛付きの馬車を襲おうなんて考える盗賊はいない。結局何事もなく王都に着いた。

 

 王都の南門を、馬車に乗ったまま通り抜ける。侯爵というかなり高い爵位の同行者ということで、私もドーグさんも素通りだった。

 

 「今夜のうちに王の弟君に謁見する。王への報告は明日の午後の予定だが、それが終わったらお前らの仕事は終わりだ。そのあとどうするか考えとけよ」

 

 へえ、王都についてすぐに報告なんだね。

 

 「でだ、王弟殿下(おうていでんか)にお会いするとき、お前らは、洗脳されたり脅されたりしていないかの検査をうける。そのあと俺が王弟殿下にルイアの事件について説明を行う。最後に王弟殿下がお前らに、俺の話に嘘がないかを問うから、お前らは頷いておけば終わりだ」

 

 はぁ、つまりしゃべらなくてもいいってことだね。

 

 「服装とかこのままでよいのですか?」

 

 「構わん。用意された服に、無理やり頷かせる仕掛けが施されていた事件があってな。それ以降は普段着で説明に来るように決められている」

 

 「なるほど、わかりました」

 

 ドーグさんは納得したように頷いた。ドーグさんの恰好は派手な感じだし、普段着っぽくないんだけどね。

 

 「で、エリー」

 

 なに? 普段着とはいっても冒険者の恰好はやっぱりまずい?

 

 「武器はちゃんと買ったのか? 王都に向かう途中一度もお前の武器を見てないぞ。鞘だけ腰につけておくくせにな」

 

 私はルイアでショートソードを失ってから、まだ武器を買ってなかった。


 「その、手になじむものがなかなか見つからなくてですね」

 

 私が使っていたショートソードは、実はオーダーメイドで作ってもらったものだった。普通のショートソードよりかなり重くて頑丈に作ってもらっていたので、市販の武器は頼りなく感じてしまって結局買わなかった。

 

 グエン侯爵は”はぁ”ってわかりやすくため息をついて、私に剣を渡してくれた。

 

 「一般の兵士が持つものだ。いつまでも丸腰では困る。」

 

 「あ、ありがとうございます」

 

 ちょっと鞘から抜いてみる。

 

 普通の剣だね。私が使ってたショートソードより細身で長い、当たり前か。

 

 「王弟殿下に会うときは帯剣が許されている。安心してつけておけ」

 

 はぁ、それは不用心というか豪胆な弟君だね。

 

 ふと思ったことがあったので、隣に座るドーグさんに小声で話しかける。

 

 「グエン侯爵って優しいですよね。冒険者相手にタダで武器を渡すなんて」

 

 「分け隔てなく話す人みたいですが、エリー殿は気に入られているのでは?」

 

 「そうなんですかね」

 

 「聞こえているぞ、内緒話を目の前でするな」

 

 「「すいません」」

 

 

 

 

 王城の客室? みたいなところで、王弟殿下に会うまで休ませてもらっている。

 

 滅茶苦茶豪華な部屋で、やたらフカフカでおっきいソファーに座るとお尻と背中が沈みまくる。もはや座っているというより横になっているね。背もたれが後頭部を支えてて高い枕みたいだ。

 

 「エリー、さすがにそれははしたないというか、もっと浅く腰かけろ」

 

 注意された。まぁそうですよね。


 浅く腰かけると普通に座れた。もちろんお尻が沈んでるし背もたれが遠い。お尻が沈んでるのは私が重いんじゃないよ。ソファーのせいだよ。

 

 しばらくその部屋で待っていると、召使いっぽいおじさんがやってきた。

 

 「失礼いたします。王弟殿下がお呼びです」

 

 「うむ。では行くか」

 

 グイド侯爵は落ち着き払ってソファーから立ち上がる。私はちょっと緊張してるけど、ドーグさんは額に汗をかくくらい緊張してる。黙って頷いてればいいんだから、もう少し落ち着けばいいのに。

 

 

 

 

 案内された部屋は客室より狭かった。いや十分広いけどね。

 

 王弟殿下と思しき、黒い髪のオールバックおじさんと、偉そうな恰好をした人がいて、近くに騎士の人が何人か立っている。

 

 ここからはしゃべらなくていいそうなので、余計なことは言わずにおこう。

 

 「ジーグルード王弟殿下、ジョージ・グエンでございます。この度はお忙しい中時間をとっていただきありがとうございます」

 

 うわぁ、普段偉そうなグエン侯爵が片膝をついてる。さすが王様の弟さんだね。

 

 「よい、ルイアでの出来事は王家としても捨て置けぬ。話すがよい」

 

 グエン侯爵が話す前に、ルイアの事件のあらましとかは聞いてたんだね。

 

 それからグエン侯爵が、ルイアの町の状況について話し出した。 

 

 で、話し終わった後に王弟殿下が私とドーグさんに視線を向ける。

 

 私とドーグさんの間にいた偉そうな恰好の人が、”問題ありません”と言った。たぶんグエン侯爵が話してる間に、私たちに洗脳や脅しがなかったか調べてたんじゃないかな? どうやってかは知らないけど。

 

 「お主たちが事件の当時ルイアにいたものだな。グエンの話に嘘偽りはないな?」

 

 私はわかりやすいように大きくうなずく。ドーグさんもすごく緊張した顔で頷いてた。

 

 「よい。グエン、明日我が兄に謁見し、同じ話をするがよい」

 

 それだけ言うと王弟殿下は部屋を出て行ってしまった。あっさりしてるというか、非公式の会談みたいだ。

 

 「エリー、ドーグ、お前らの仕事はとりあえず終わりだ。俺の謁見が終わるまでは王城の客室で休ませてもらえ。そのあとどうするかも考えとけよ」

 

 グエン侯爵がこっちを振り返ってそういうと、さっきまでいた客室のほうに向かう。

 

 私たちももちろんついていく。王城の中に貴族でもない私たちだけを置いて行かれてはたまったものじゃないからね。

 

 

 

 客室でくつろぐ私たちのところに、侍女さんたちがやってきて夕飯やお風呂の準備をしてくれる。

 

 グイド侯爵が”夕飯は風呂の後がいい”って言って先にお風呂に行ってしまったので、私とドーグさんは侯爵が上がるまで部屋で待つことになった。 

 

 侍女の人が”暇つぶしと言っては何ですが、最近の王都についてお話いたしましょうか?”というので聞いてみることにする。

 

 王都で流行っている化粧、髪型、服の話が主だった。私はちょっと面白かったけど、ドーグさんはつまらなさそうな顔を……してないね。そういえばゾーイ商会の人だから、お金になりそうな話は興味あるんだろう。

 

 でも私は貴族じゃないから、王都の流行りとかいうお金のかかりそうなものは手が出せない。もっと別の話に変えたい。

 

 「王都の冒険者は、どんな依頼を受けてるんですか?」

 

 ちょっと強引だけど、冒険者の話題にしてみた。


 「そうですね~、最近はアンデッド退治が多いようです」

 

 ほう? なんで王都でアンデッド?

 

 「王都の東側、オリンタス山のほうにある町や村が、なんども動物のアンデッドに襲われる事件が起きていまして、なんど退治しても襲ってくるのだそうです。王都の東側の町や村は、昔からよくアンデッドが出てきていたのですが、最近はスケルトンが襲ってくるとか」

 

 「王都にアンデッドが出たわけじゃないのですね」

 

 「はい、それは流石にないですね。王都は安全ですから。ええとそれでですね。なんど退治しても襲ってくるから、王都にいる手練れの冒険者たちでオリンタス山のあたりを探索し、発生源をたたいてしまおうということになったそうです。」


 侍女さんはジェスチャーを交えながら話してくれるんだけど、”発生源をたたいて”の部分でこぶしを軽く振り下ろした。ついでにいろいろ揺れてた。ぽよんって。なぜか悲しかった。

 

 「はぁ、えっとそれ最近のことですよね。もう発生源は叩けたのですか?」

 

 「いえ、むしろ一昨日王都を出発して、昨日か今日には東側の町や村に着いた頃ではないでしょうか?」


 へぇ、つまり今王都には手練れの冒険者が少ない。あるいはいないってことかな?

 

 「じゃあ今王都が何かに襲撃されたら、兵士さんたちだけで対応しなきゃいけないんですね」

 

 ちょっと冗談めかして言う。

 

 「大丈夫です! 王都の兵士さんたちはすごく強いですからね!」

 

 自信満々で侍女さんは答えてくれる。

 

 ふふふふと侍女さんと笑っていると、

 

 ドゴオオオオオオオオオンという音が北の方から聞こえてきて。

 

 「敵襲! 敵襲!」

 

 慌てた兵士さんの声と、カンカンカンと打ち鳴らされる警鐘の音が王城に響き渡った。

 

 狙ったかのようなタイミングだね! いろんな意味で

次話はギドの話になります。

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