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5人のヴァンパイア

 シュナイゼルさんが下水道に残したのは、スケルトン60体と数えきれない量のネズミと、壊れた操鉄剣(そうてつけん)2本。

 

 私とジャイコブとギンでカイルさん達を手伝って、3日で掃討した。

 

 予定通り。

 

 騎士団の手伝いも終わったし、時期的にもちょうどいいと思うから、ギンたちを王城に連れて行くことにする。

 

 まずやるべきは、下水臭さを何とかすることだね。

 

 1夜開けてもまだ下水の匂いがする2人には、お風呂に入ってもらう。

 

 「ジャイコブ、ギン、体洗いまくってね」

 

 一応私も洗う。

 

 一緒には入らないけどね。

 

 トレヴァー家の館で、ギンたちと一緒にお風呂に入ったことがあるけど、今になって思うと、何で一緒に入って平気だったのかわからない。 

 

 だからギンたちの後に入って、念入りに洗っておく。

 

 洗い終えたら体を拭いて、髪を乾かして、服を着て、チェルシーと合流して4人で兵舎を出る。

 

 「で、どこに行くのですか?」

 

 とチェルシーが聞いてきた。

 

 よく考えたらジャイコブやギンにも行先を言ってなかった。

 

 「王城。真祖に会いに行くよ」

 

 「もしかして、最近よく出かけていたのは真祖に会いに行っていたのですか?」

 

 「うん」

 

 「人間にはなれていないようですけど」

 

 「うん、でももういいと思ってる」

 

 私がそう言うと、チェルシーはそれ以上何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 がら空きの王城前広場を抜けてお城に入る。

 

 お城の中には人の気配があるけど、近くにはない。

 

 私は夜にほとんど人の通らない道を教えてもらっているから、近くに人の気配が無いかだけに注意して、焦らずお城の中を進む。

 

 ギンたちも警戒してるみたいだけど、真祖の鼓動を今までより強く感じることに注意が向いているみたいで、そわそわしてる。

 

 中庭に出て、塔を上って、数日ぶりに最上階の扉を開けた。

 

 「お邪魔します」

 

 扉の奥には、相変わらずの石造りの部屋。

 

 絨毯やソファーなんかの家具が充実してて、真祖と5人のヴァンパイアが居る。

 

 「そんなことをいちいち言う必要はないぞ」

 

 そう言って出迎えてくれたのは、真祖だった。

 

 王様が若返った姿でソファーから立ち上がって、私たちを手招きする。

 

 今日私がここに来たのは、真祖やここに居るヴァンパイア達にギンたちを紹介するためだ。

 

 私は3人を連れて真祖の前に向かう。

 

 真祖が3人を見回して、3人も真祖を見る。 

 

 「このおっきくて猫背なのがジャイコブ。メイドさんがチェルシー。男の子がギンラク。私の仲間」

 

 「ジャイコブにチェルシーにギンラクだな。余は真祖。我がいとし子たちよ、会えてうれしく思うぞ」 

 

 真祖も軽く自己紹介した。

 

 真祖は自分のことを詳しく話さなかったけど、たぶん必要ない。

 

 ジャイコブもチェルシーもギンも、目の前の真祖の存在感とかはもう感じてる。

 

 私たちより圧倒的に強い事とか、私たちの生みの親だってこととか、言われなくてもわかってると思う。

 

 紹介が終わった後も、3人はなかなか口を開けなかった。

 

 3人は緊張してるのかな。

 

 私も緊張したし、今でもちょっと緊張する。

 

 でもほかにも紹介する人がいるから、そろそろ移動することにした。

 

 「私皆にも紹介してくる」

 

 「うむ。仲良くするのだぞ」

 

 5人もヴァンパイアが居るから、手早く紹介しよう。

 

 最初はフィオ君とフィアちゃんにする。

 

 私たちのことを遠巻きに見ていた2人の前にギンたちを連れて来て、真祖にしたときと同じように紹介する。

 

 それが終わったら、フィオ君とフィアちゃんが自己紹介をしてくれる。

 

 「フィオ。フィアとは双子。僕が兄」

 

 「フィア」

 

 2人ともまだ子供で、ヴァンパイアになる前の私より小さい。

 

 スキルは持っているはずだけど、何のスキルを持ってるかは本人もまだ知らないらしい。

 

 初対面の時、2人とも私のことを”お姉ちゃん”と呼んできて、悪い気はしなかったけど辞めてもらった。

 

 3人の中で、子供から見て話しやすそうな相手はギンだったみたい。

 

 ギンもしゃがみこんで目線を合わせて、”何のスキル持ってるの?”とかの質問に答えてあげてる。

 

 楽しそうだし、しばらく待ってから次の人の紹介に行こうと思う。

 

 「ギンラクは何が好き?」

 

 「エリーが好き」

 

 「普段何してるの?」

 

 「エリーの言うことを聞いてる」

 

 「特技は何?」

 

 「エリーに教わった子守唄を謡って人間を寝かしつけるのが得意だ」

 

 うん。やっぱり待つの無しにしよう。

 

 質問の答え全部に私の名前が出てくるのは、ちょっと勘弁してほしい。

 

 「ギン、次行くよ」

 

 私は羞恥心が限界を迎える前にギンとフィオ君とフィアちゃんを止めて、アドニスの前に3人を連れてきた。

 

 フィオ君とフィアちゃんの時と同じように3人を紹介しようとすると、止められた。

 

 「ジャイコブにチェルシーにギンラクだろ? 全部聞こえてたっつうの、ギヒヒヒヒッ。俺はアドニスな。間違ってもおじさんとかおっさんとか呼ぶなよ?」

 

 アドニスはギンの次に騎士団と戦ったヴァンパイアで、アドニス以外の4人のヴァンパイアをここに連れてきた人。

 

 ここで初めて会ったときは、喧嘩腰だった。

 

 私が騎士団と一緒にジャイコブやチェルシーやギンラクと戦って捕獲したことを知ってて、同族を3人も討った私のことをすごく嫌ってた。

 

 第一声が”同族3人も殺しといて、よく俺らの前に出てこれたなぁ”だった。

 

 他にも嫌味とか悪口とか、いっぱい言われた。


 私がギンたち3人と一緒に生活してるって言ったら、ここに連れてこいって言って来た。

 

 で、実際に連れてきたらすごく機嫌が良くて、驚いてる。

 

 アドニスは私に肩を組んで来て、他の人に聞こ得ないように耳打ちする。

 

 「なかなかやるなお前。色々と悪かった」

 

 その後返事も聞かずに私を放して、いつものようにギヒギヒ笑いながらフィオ君とフィアちゃんをからかいに行っちゃった。

 

 「なんなんですか? あの男。変に声が高くて耳障りです。チェルシーは関わりたくないのですが」

 

 「ああいう人なんだよ。無理に仲良くしなくてもいいけど、悪い人じゃないと思うよ。お城の夜人が通らない道を教えてくれたの、アドニスだし」

 

 アドニスは透視って言うスキルを持ってて、壁の奥の風景なんかの輪郭を見ることが出来るらしい。私が教えてもらった道は、アドニスが地道に夜のお城の中を練り歩いて、お城に泊まる人の動きを観察して見つけたんだそうだ。

 

 「じゃあ次の人に行こっか」

 

 アドニスが居るってことは、あとの2人も居る。

 

 アドニスはいつもここに居るわけじゃなくて、残りの2人と一緒に町に行っては、何度も吸血して事件を起こしている。

 

 新しく王都に来たヴァンパイアに、仲間が居ることを知らせるためなんだそうだ。

 

 今のところ、これ以上ヴァンパイアが居る様子はないみたいだけど。

 

 残りの2人は一緒にこっちを見ていたので、2人まとめて紹介することにした。

 

 「全部聞こえていたから、わざわざ言わなくていい。エリーの友達の、ジャイコブとチェルシーとギンラクだな。俺はクゼン。見ての通りのジジイだ」

 

 と自己紹介してくれたのがクゼンさん。

 

 今年で63歳だそうだ。

 

 でも肌の張りや顔つき、しゃべり方まで全部若々しい。

 

 そしてこの人も初対面で私を”姉”と呼んだ。

 

 なんでだろうね?

 

 本気で姉呼びを辞めて欲しいとお願いしたよ。

 

 クゼンさんは白髪に白いひげを生やしていて、すごく落ち着いた人。

 

 私はクゼンさんのことを会うまで知らなかったけど、ジャイコブとチェルシーはクゼンさんのことを知っていた。

 

 「あ、おらあんた知ってるだ」

 

 「チェルシーも知っています。大食いクゼンですね。1日に3人分の血を飲み続けたというヴァンパイア」

 

 「昔のことだよ」

 

 クゼンさんはそう言ってにっこり笑った。

 

 大食いクゼンなんて初めて聞いた。

 

 てっきり普通のヴァンパイアのおじいちゃんだと思っていたけど、有名らしい。

 

 私とギンが知らないってことは、一昔前に有名になったんだと思う。

 

 ジャイコブとチェルシーがまだ何か言いたそうだけど、ひとまずクゼンさんのことは置いといて、もう1人の紹介に移る。

 

 「あたしローザ。隣のおじいさんと違って普通のヴァンパイア。よろしく」

 

 ローザさんは普通らしい。

 

 年齢はわかんない。

 

 私より年上だろうけどね。

 

 ローザさんはアドニスと一緒に町に降りて、南東区に拠点を作ったりしているらしい。

 

 拠点が何なのかは知らないし、どうやって作ってるのかも聞いてない。

  

 真祖のいるこの部屋は6人で住むには狭いし、もう1か所くらいヴァンパイアが住む場所を作ってるんだろうと思ってる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この5人が真祖のもとに集まれたヴァンパイア。

  

 私たちを含めると9人になる。 

 

 真祖はこれから時間をかけて、シュナイゼルさん達魔術師を、人々にとって忌み嫌う存在じゃなく、頼りになる力を持った仲間にしていく。

 

 その次は、亜人種を。

 

 最後にはヴァンパイアを、人々と共存させる。

 

 そう言う国にする。

 

 「ジャイコブ、チェルシー、ギン」

 

 それまで私たちは、ただ待てばいい。

 

 「もう大丈夫だよ」

 

 誰かと戦ったり、正体がバレないかと怯える心配もない。

 

 ここには5人も仲間がいて、強い真祖が守ってくれる。

 

 「フィオ君もフィアちゃんもアドニスもクゼンさんもローザさんも、みんな安心してるでしょ?」

 

 だから大丈夫。

 

 だからもういい。

 

 「さすがに9人でここには住めないから兵舎に戻るけど、いつでもここに来れるから、もう何の心配いらないよね」

 

 私はそう言って、ジャイコブとチェルシーとギンに笑いかけた。

 

 3人には私のために王都にまで来てもらって、たくさん助けてもらったから。

 

 ありがとうって伝えたくて、笑いかけた。

 

 「そうだべか」

 

 「おう」

 

 ジャイコブとギンの反応は薄い。

 

 わかってた。

 

 私が魅了をかけちゃってるから。

 

 私以外に興味を持てない。

 

 それでも私が笑いかけてるからかもしれないけど、2人とも笑ってくれた。

 

 

  

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 でもチェルシーだけは、笑ってくれなかった。

 

 いつもより数段冷たく私を見つめて来る。

 

 「大丈夫って何がですか? 心配いらないって、どういう意味ですか?」

 

 「チェルシー?」

 

 「あなたはどうか知りませんけど、チェルシーは今まで不安になったり何かを心配したことはありません」

 

 「あの」

 

 「あの兵舎に戻るというのは賛成です。夜が明ける前に早く帰りましょう」

 

 チェルシーはそう言って私の手を掴んで、強引に引っ張って部屋を出ると、スタスタと階段を降りる。

 

 どうしてチェルシーがそうするのか、私にはわからなかった。

 

 「待ってよ。どうして?」

 

 わからないから、聞いた。

 

 自分で考えたりしなかった。

 

 チェルシーは答えてくれなくて、そのまま私を引っ張って兵舎まで帰ってしまった。

 

 ……チェルシーが何を思ったのかはわからないけど、真祖の前であの態度は無いと思う。

 

 チェルシーが無理やり引っ張ったせいで、挨拶すらできずに帰ってきてしまった。

 

 流石にちょっと文句を言いたい。

 

 私とチェルシーの部屋まで来たと同時に、チェルシーに問いただそうと思った。



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