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半ヴァンパイアはお酒を飲む

お酒は二十歳になってからでお願いします。

作中では15歳で成人とみなしています。

 サマラさんたちと別れたあと、私は数日グイドでゆっくりする。

 

 冒険者の店を探して仕事をもらおうかと思ったけど、グイドの町の外に出られないから大抵の依頼はできないし、なにより休みたかった。グエン邸は緊張したせいかあんまり疲れが取れなかったし。

 

 だから思う存分安宿で寝まくった。余裕で昼夜逆転したけど、その方が私にとっては健康な気がする。

 

 安宿の近くには酒場が何件かあって、夜にそこでご飯食べたりして、夜の街を散歩して、寝る。というサイクルでのんびりしてた。

 

 で、安宿付近の酒場でご飯と食べると毎回絡まれた。それはもう私が一口目を食べ始める前に”よう嬢ちゃん”一口食べ始めたら”夜の独り歩きには気を付けろよ”二口食べたら”俺らみたいなのにからまれるぜへっへっへ”ときたもんだ。

 

 無視して食べ続けるとキレて殴りかかってくるから、それを避けてまた食べる。すると武器で攻撃してくるので、それを奪って突き付ける。これを毎晩やってたんだけど、いい加減面倒なので、ちょっとお高めのお店を探すことにした。

 

 「せっかく金貨2枚ももらえたんだから、ちょっとだけ贅沢したいよね」

 

 独り言をいいながら安宿をでて、表通りのほうに向かう。表通りの目立たない路地に、それっぽい看板があったのを見つけていたのだ。

 

 グイドの街並みは全体的に灰色と言える。夜だからそう見えるのだと思うかもしれないが、それは違う。

 

 建物は木製だが、木の色がそもそも乳白色から灰色なのだ。そして道は石畳なので、なんというか、子供向けの絵本に出てくる廃墟の町、みたいな感じだろうか。

 

 もちろん人がたくさんいて、きれいに整備されているから全然廃墟という雰囲気ではない。


 「あったあった」

 

 表通りにいくつもある路地を覗き込みながら歩いて、やっと目当ての看板を見つけた。

 

 ええっと、子山羊の角? 変な名前の店だね。まぁとにかく入ってみよう。

 

 灰色の扉を開けて、店の中に入る。

 

 外とは全く雰囲気の違う店だった。なにせ壁が濃い青で、天井からはちっちゃなシャンデリアがつられてて、何か別世界に来たような感じがした。

 

 テーブル席は2つしかなくて、カウンター席も4つだけ。そして私のほかにお客さんは一人しかなかった。

 

 まぁ偉い貴族さんたちがたくさんいるよりましかな。

 

 ちなみに私の服はいつもの冒険者の恰好じゃなくて、ルイアでもらってきた服だった。茶色い革製のテーラードジャケットに白いシャツ、デニムのズボンというもので、ちょっといい生地使ってるみたいだからこれにした。

 

 冒険者が来る店じゃないって言われたくないからね。

 

 店主さんは茶髪のイケメンバーテンダーって感じの人で、カウンター席に一人だけでこっちに背を向けて座るお客さんには、なんとなく見覚えがあった。

 

 「グエン侯爵?」

 

 「誰だ? ああお前か」

 

 やっぱりグエン侯爵だった。知り合いだったので、隣の椅子に座ることにする。

 

 「ご注文は?」

 

 イケメンバーテンダーな店主は無表情で、目だけでこちらを見ている。営業スマイルなどどこかに捨ててきたかのような表情だ。

 

 「えっと、甘いやつで」

 

 なんて言えばいいかわかんないよ。メニューはないのかな。

 

 私が今まで行ったお店には、普通にお酒のメニューがあったから適当に選んでたけど、このお店にはないみたいだね。

 

 「お前酒を飲むのか?」

 

 グエン侯爵、なんで意外そうなのかな?

 

 「飲みますよ」

 

 飲まないならこんなお店には来ません。

 

 「グエン侯爵は、こちらによく来るのですか?」

 

 「たまに来るぞ。家で飲むと妻がうるさいからな」

 

 「そうでしたか」

 

 う~ん、話が続かない。基本受け身な接し方をしてきたせいで、話題を振るのが苦手になったかも。

 

 「お待たせしました」

 

 私の前に透き通ったオレンジ色の飲み物が置かれた。

 

 カクテルグラスっていうグラスらしいんだけど、透明な器で底が浅くて飲み口が広いグラスに、甘いにおいがふわっと香るお酒が入っている。

 

 私がお酒を飲もうとすると、グエン侯爵がこっちを見てニヤリと笑った。

 

 ”なに?”って思いながら少しお酒を口に入れて、舌で転がしてみる。

 

 注文通り甘いお酒だね。おいしい。

 

 よく酒場で飲まれているエールとは全く別物の感じだ。初めて味わう甘さだった。

 

 「うまいか?」

 

 ニヤっとしたまま聞いてくるグエン侯爵。何がそんなにおかしいだろう。

 

 「はい、甘くておいしいです。なんていうお酒なんですか?」

 

 話題が見つかったので、振ってみることにする。

 

 「それはエルドラドという酒だ。はちみつを使っている」

 

 私はグエン侯爵の話を聞きながらお酒を味わう。

 

 「本来はカクテルグラスではなく、足のないタンブラーで飲むものなのだが」

 

 おいしい、もう一口。

 

 「バーテンのはからいかな」

 

 ん? うんと、何がはからいなのかな?

 

 「飲みやすいわりに度数が高い、レディキラーという奴だ。60度ほどの無色の酒とレモンの汁とはちみつで作られるカクテルだ。」

 

 「え? それってつまり」

 

 「今お前が飲みほしたエルドラドの度数は、大体30度というところか。かなり飲みやすかっただろ?」

 

 高い! 度数高いよこれ。全然そんな感じしなかったのに。

 

 「酒は強いほうか?」

 

 「まぁ、エールなら4杯くらい飲めます」

 

 限界まで飲んだことないけど、飲むときは大体それくらい飲んでる。

 

 「そうか。今の一杯でエール一杯と同じくらいのアルコールはあるぞ」

 

 あの量で? ジョッキ一杯のエールと同じ? カクテル怖っ。

 

 「カクテル飲んだことなかったんだろう?」

 

 ある訳ないじゃん。それなりに稼いでるけど、お酒にお金を使ってこなかったんだから。

 

 「ないです」

 

 「だろうな。バーテンにエルドラド(レディキラー)を出せと、俺が頼んだのだ。カクテルにはこういう怖い代物もあるのだと教えてやろうと思ってな」

 

 この度数の高いお酒はグエン侯爵の差し金か。いきなり度数の高いお酒を飲ませるなんて、何を考えてるんだろうこの侯爵様。私を酔わせてどうするつもりなのか。 

 

 「あとで奥さんに言いつけますよ?」

 

 「ああ待て待て! こういう酒もあるから注意しろと言いたかっただけだ! むしろ優しさを見いだせ!」

 

 こんな恩着せがましい言い訳は初めて聞いたよ。

 

 「わかりました。夜に出会って、大人のお店で優しくしていただいたと言っておきます」

 

 「待て、それだと俺は破滅するがお前もただでは済まんぞ、妻は嫉妬深く愛が重いのだ。考え直せ」

 

 うん、これくらいにしておこう。グエン侯爵の声が急に真面目になったからね。決して奥さんからの報復が怖かったからじゃないよ。

 

 「わかりました。考え直します」

 

 「ああ、そうしろ」

 

 とりあえずもう一杯、度数の高くないお酒を頼もうかな。

 

 「えっと、度数の高くなくて甘いやつください」

 

 イケメンバーテンダーな店主さんは、私と侯爵を交互に目で追ってた。何かあったのかな?

 

 でも私が注文したらすぐ作り始めてくれた。

 

 「あ」

 

 「どうした?」

 

 「今店主さんにアイコンタクト送りましたね?」

 

 絶対そうだ。バーテンさんの目がキョロキョロしてたから間違いない。

 

 「また度数の高いお酒を飲ませるつもりだったのでしょう? 店主さん、注文通りでお願いします」

 

 バーテンさんには釘を刺したから、たぶん大丈夫だろう。

 

 「おいおいおい、あれは注意しろと言いたかったからやったと言っただろ。なんでもう一杯飲ませなきゃならんのだ」

 

 そんなのは決まっている。

 

 「私をベロベロに酔わせて、今夜の記憶を飛ばすつもりなのでしょう? 奥さんに言いつけられないために!」

 

 「そんなことするか! 大体アイコンタクトをしたという証拠はどこにある?」

 

 「私が注文するまで店主さんの目が私と侯爵の間でゆらゆらしてました」

 

 そう、あれは間違いなくアイコンタクト。

 

 するとグエン侯爵は、静かに諭すように言った。

 

 「それはな、お前が侯爵である俺相手に普通に接しているのが信じられなかったんだと思うぞ」

 

 「え?」

 

 あ、そうかもしれない。言葉遣いだけが丁寧で、言ってることは冒険者が貴族に向けるものじゃなかったかも……

 

 サァっと血の気が引いた。私不敬罪で罰せられるのかな……?

 

 「おい、何青い顔してる。酒の席のことで罰したりはせん」

 

 「あ、そ、そうですか」

 

 助かった。もうだめかと思った。

 

 「どうぞ」

 

 安心した私の前に、新しいお酒の入ったグラスが置かれた。

 

 「ちなみに、これはなんてお酒なんですか?」

 

 グラスをもってグエン侯爵に聞いてみる。

 

 「それはファジーネーブルだな。果物で味付けした蒸留酒をオレンジジュースで割ったものだ。度数はエールと変わらん」

 

 大丈夫そうなので飲んでみる。うん、おいしい。柑橘系の甘い感じがする。

 

 私がお酒を楽しんでいると、グエン侯爵が突然まじめな顔になって話しかける。

 

 「明日の午前には王都に出発する」

 

 「え? もうすぐじゃないですか。お酒飲んでていいんですか?」

 

 もうかなり遅い時間のはず。今言われても困ってしまう。


 「いや、わかりずらかったな。すでに日付が変わっている。もう一晩あるぞ」

 

 「あ、そうでしたか。びっくりしました」

 

 そんなに時間たってたのか。

 

 「お前も王都に来てもらうのだから、準備しとけよ」

 

 準備も何も、大した荷物は持っていないから大丈夫のはず。

 

 「俺は王に謁見して、お前やドーグから聞いたことと今行っている対応の説明をしなければならん」

 

 それってもしかして私やドーグさんも王に会うってことですか? それだとちょっと身だしなみ関係の準備をしないと不味いかも。

 

 「……別にお前らは王に会わなくていいぞ」

 

 「顔に出てました?」

 

 「また青い顔してたぞ」

 

 そんなに顔に出やすいかな。お酒のせいだと思うことにするよ。

 

 「王に謁見して説明する前に、前もって王の弟君に同じ説明を行うのだ。お前らの仕事はその時だ。情報源のお前らと俺の話を照らし合わせて、不正報告ではないことの証明をする」

 

 「王の弟君ならやっぱり身だしなみ関係とか作法を覚えるとかの準備がいるじゃないですか」

 

 うわぁ何の準備もできてないじゃん。冒険者の恰好のまま会うのはまずいよね。

 

 「いや、弟君の前では普段着で構わん。あとしゃべる必要もない」

 

 「はぁ、そうなんですか」

 

 どういうことだろう。情報源の私たちがしゃべらなくていい? それじゃ照らし合わせができないのでは?

 

 「まぁ詳しくは着いたら説明する。変な準備は必要ないぞ」

 

 「わかりました」

 

 まぁグエン侯爵がこういうなら問題ないだろう。

 

 「ただし、いい加減武器は買っておけ。ルイアで失ってそのままだろう」

 

 「そういえばそうでした」

 

 忘れてた。私としたことが、2年も冒険者をしているというのに武器の準備を忘れるとは。

 

 「まぁ明日の午前まではゆっくり休め」

 

 「はい、そうします」

 

 まぁ準備とかのことはまたあとで考えようかな。お酒がおいしいから。

 

 

次話からやっと王都に移動します。

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