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軋轢

 私を含めたヴァンパイア4人が騎士団の兵舎に住むのは、正直無理があると思ってる。

 

 無理があると思いながらも兵舎に来てしまったので、ゼルマさんを人質にとってごり押しした。

  

 そして人質のはずのゼルマさんが騎士団の皆に根回をした。

 

 戦力も半減していて、負傷者も多い騎士団の皆は、私たち4人には勝てない。

 

 そしてゼルマさんを人質に取られている。

 

 さらに言うと、今の騎士団は何の騎士団でもなく、前の様にヴァンパイアを狙う必要がないらしい。

 

 だからとりあえず敵対しない。

 

 そういう体で、私たちは形の上で受け入れられることになった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 私たちが兵舎に住み始めて、2日目の夜。

 

 目が覚めた私はとりあえずギンとジャイコブのいる部屋に向かってる。

 

 チェルシーとギンは私たちと入れ違いに寝てて、今起きてるヴァンパイアは私とジャイコブだけ。

 

 だからとりあえず一緒に居ることにする。

 

 私とチェルシーの部屋はジャイコブとギンの部屋と少し離れていて、廊下を歩かないといけない。

 

 ちょっと億劫。

 

 廊下で騎士団の誰かとすれ違うたびに気まずくなって、目を反らしてしまう。相手も私を見て、何か言いたげな顔になる。でも何も言わない。

  

 そしてそのまま通り過ぎる。

 

 その度にちょっと苦しくなる。

 

 昨日はチェルシーと同じ部屋で丸1日寝ちゃって、何というか色々落ち着いた。

 

 落ち着いたせいで、騎士団の皆との接し方がわからないことに気が付いた。

 

 ……向こうからイングリッドさんが来てる。

 

 イングリッドさんは一応話すことが多い方なので、ちょっとだけ勇気を出してみる。

 

 「こんばんわ、良い夜だね」

 

 これであってる? 

 

 「エリー殿」

 

 イングリッドさんは私の名前を呼んで、私の目の前で立ち止まった。

 

 睨まれるか、無視されるか、どんな反応にせよ、すぐに通り過ぎると思ってたんだけど。

 

 何か話があるって顔だから、私も立ち止まって会話に応じることにする。

 

 「な、なに?」

 

 「実は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イングリッドさんからあることを聞いた私は、急いで食堂に向かう。

 

 イングリッドさんが言うには、タイラーさんが食堂でご飯を食べようとしているとのことだった。

 

 もっと詳しく言うと、足を骨折しているはずなのにギプスも松葉づえも無いタイラーさんが食事を受け取ろうとしていて、ご飯当番の人に怪しまれてもめ事になりかけているらしい。

 

 そしてイングリッドさんは、足にギプスを付けたタイラーさんが、自分の部屋にいることも確認してるとのこと。

 

 ……ジャイコブだよね、これ。

 

 私は急いで食堂まで行って、扉を開ける。

 

 ちょっと乱暴に開けてしまって食堂に居た皆の視線が私に集まる。


 「あ」

 

 私を見てとっさに目を背けた人がいる。

 

 そう、タイラーさんだ。

 

 誰の目にもタイラーさんに見えるだろうけど、私にはわかる。

 

 ヴァンパイアだ。

 

 間違いなくジャイコブだ。

 

 タイラーさんに扮したジャイコブは、食堂のキッチンにあるカウンターで、牛乳の入ったコップとお盆を持って立っていた。

 

 料理をしていたのはカイルさんの分隊4人で、ソテー肉とサラダを持ったナンシーさんがジャイコブと対面してる。

 

 ナンシーさんは私を見てて、その隙にジャイコブがナンシーさんの手からお皿を取ろうとしてる。

 

 ダメだよジャイコブ。

 

 私たちは、騎士団の人が作ったものを口にしてはいけないことになってる。

 

 まして他人のフリをして食べようなんて、ダメ。

 

 「……ジャイコブ?」

 

 ジャイコブに近づきながら名前を呼ぶ。

 

 するとジャイコブは私から顔を背けたまま、ナンシーさんの方に伸ばしていた手をひっこめた。

 

 「ジャイコブ、ダメだよ」

 

 「……タイラーだすけど」

 

 あくまで白を切るつもりらしい。

 

 「あのね、幻視を使ってても、私にはジャイコブだってわかるんだよ?」

 

 「……」

 

 バツの悪そうな顔で私を見たジャイコブは、幻視を解いて、手に持ったお盆を置いた。

 

 ナンシーさんはホッとした顔になって、持っていたソテー肉やサラダのお皿を手元に置く。

 

 あとちょっと来るのが遅れてたら危なかったかも。

 

 ヴァンパイアは怖いから、ジャイコブだってわかっててもご飯を渡しちゃってたかもしれない。

 

 「……悪かっただよ。小腹が空いちまって、つい」

 

 ジャイコブは私に向かって謝ってくれたけど、顔がちょっとニヤけてて誠意が感じられない。

 

 「とりあえず部屋に戻って」

 

 チェルシーの冷たい目とか口調を真似て強めに言うと、ジャイコブは頭を掻きながら食堂の出口に向かって歩き始める。

 

 さて、私もジャイコブの後に続きたいんだけど……振り向きたくないなぁ。


 私が連れてきたジャイコブが迷惑かけちゃったし、嫌な目で見られてるんだろうなぁ。

 

 ただでさえ接し方がわからないのに、どうすればいいのかわかんないよ。

 

 穴があったら入りたい。

  

 埋めてほしい。

 

 「……ごめん」 

 

 つぶやくように謝って、下を見ながらさっさと食堂を出る。

 

 胸にモヤモヤを抱えながら、先を歩くジャイコブに追いついて一緒に部屋に入る。

 

 同じ部屋でギンが寝てるけど、構わずジャイコブにお説教を始める。

 

 私はジャイコブ相手に説教できるほど大人じゃないけど、だからと言って何も言わないと同じ事しそうだからね。

 

 「ジャイコブ、ここに住み始めるときに決めたルール、覚えてるよね? 騎士団の皆からもらったものは口にしないとか、吸血するときは相手に了承をもらうとか」

 

 「覚えてるだべ。申し訳ねぇ。小腹が減って魔が差しちまった」

 

 う~ん、やっぱりお説教とか無理かも。

 

 責めるべきところがわからないよ。

 

 「昨日血は吸ったんでしょ? 足りなかったの?」

 

 「いんや、血は十分飲んだべ。んだが肉が焼けるいい匂いがしてきて、無性に肉が食いたくなっちまっただ。ここは肉とか牛乳とか色々あるみてぇだしな」

 

 私もお腹空きっぱなしだし、気持ちはわからなくもない。

 

 「小腹が空いててもダメ。ああでも自分で料理して食べるのだったらいいかな。多分」

 

 「おら料理なんかしたことねぇだ」

 

 「じゃあ諦めて」

 

 「エリーがそう言うなら諦めるだ」

 

 もっと食い下がって来るかと思ったけど、あっさり引いたね。

 

 ……魅了がかかってるせいだ。私が諦めろって言ったら、簡単に諦めちゃうんだった。

 

 「食堂が空いたら、私が何か作るよ。今度から小腹が空いたら私に言って」

 

 「おら肉が食いてぇだ!」

 

 「はいはい」

 

 とりあえず解決したかな。

 

 食堂に居た騎士団の皆から悪評を買っただろうけど、もとから信用なんてされてないだろうし、しょうがない。

 

 「もう幻視を使って悪戯しちゃダメだからね」

 

 「わかってるだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


  


 

 

 

 

 

 

 

 その後も私たちと騎士団の皆の間に、何度かトラブルが起きた。

 

 ギンはなぜかゲイルさんの分隊員さんたちと仲良くなってて、お酒を一緒に飲むようになってた。

 

 そんなある日のこと。

 

 朝になって、ほんのり眠くなってきた私が寝ようと思っていると、食堂の方で何か騒いでいる音が聞こえた。

 

 なんとなく嫌な予感がして、一度横になった体を持ち上げる。

 

 ジャイコブの件もあるし、また食堂で何かあったんだろうね。

 

 嫌な予感に急かされて早歩きで向かうと、だんだん食堂から声がはっきりと聞こえるようになる。

 

 「おい起きろ! 起きてくれ!」

 

 「ダメだ起きない!」

 

 「深酒しすぎたっぽいな、一体どうすれば……」


 切羽詰まった声が聞こえて来て、だんだんと嫌な予感が的中したらしいことを察した。

 

 食堂に着いた私は開けっ放しの扉に駆け込んで、何が起きたのかを見てみる。

 

 たくさんあるテーブルの1つに2人の隊員さんが突っ伏してて、その周りには2本の酒瓶が転がってる。そしてカイルさんとカイルさんの分隊員2人が、突っ伏して寝てる2人を起こそうとしていた。

 

 さっき聞こえた声と今見えてる状況で、大体何が起きたのか予想はついてるけど、一応聞いてみる。

 

 「カイルさん、何があったの?」

 

 私に気付いたカイルさんが、青い顔でこっちを見る。

 

 「エリーか。ゲイル隊のファンとジョイルが飲みすぎちまったみたいで、いくら揺すっても起きないんだ……どうしたらいい?」

 

 「どうしたらって、私に聞かれても……」

 

 えっと、吐かせればいい? 水を飲ませるとか? 

 

 「息はしてる?」

 

 「息? ああ、してる。寝てるみたいに穏やかだ」 

 

 ……あ。

 

 カイルさんの言葉でピンときた私は、テーブルに突っ伏したままのファンさんとジョイルさんに近づいて、顔を起こしてみる。

 

 顔色は悪くない。ちょっと赤いくらい。

 

 呼吸はしっかりしてる。

 

 カイルさんのいう通り、寝ているように見える。

 

 というか寝てるね。

 

 全然起きないのはお酒が原因じゃないっぽい。

 

 よく見たらテーブルの上にグラスが3つあるし。

 

 ……うん、わかった。

 

 カイルさんの分隊員さんが”このまま起きないつもりかよ! おい!”とか”穏やかな顔つきしやがって! そんな死に顔でいいのかよ!?”と言いながら激しく揺すってるけど、たぶん大丈夫だよ。

 

 「カイルさん、たぶん、寝てるだけだと思う。ちょっと確認して来るね」

 

 「大丈夫なのか?」

 

 「たぶん大丈夫」

 

 私は食堂を出て、またジャイコブとギンの部屋に行く。

 

 スタスタ歩いて、”入るよ”と扉を開けながら告げて中に入る。

 

 床に座り込んで暇そうにしてるジャイコブと、赤い顔でベッドで寝てるギンがいた。

 

 ギンからお酒の匂いがするし、ほぼ確定だ。

 

 「お、どうかしただか?」

 

 「うん、ちょっとギンに聞きたいことがあって」

 

 「そうだべか」

 

 シュンとするジャイコブを放置して、ギンを揺り起こす。

 

 ギンは私が呼ぶとすぐに目を覚ました。

 

 「ねぇギン。昨日ファンさんとジョイルさんと一緒にお酒飲んだ?」

 

 「ん、ああ、飲んだぜ。言っとくけど、俺は食糧庫にあった酒瓶を1本拝借して勝手に飲んだからな。差し出された酒は飲んでねぇからいいだろ?」

 

 そっか。

 

 「それはいいんだけど、お酒飲んだ後、子守唄歌ったでしょ」

 

 「歌っ……歌ってない」

 

 「ほんとに? 今食堂で、ファンさんとジョイルさんがテーブルに突っ伏したまま起きないって騒ぎになってるんだけど」

 

 「あー」

 

 ギンは私から顔を背けて、チラチラと私の目を見ながら言いよどむ。

 

 「子守唄は歌ってねぇけどよ。気分よくて、つい鼻歌を」

 

 やっぱりギンだった。

 

 ファンさんとジョイルさんが起きない理由がお酒の飲みすぎじゃなくてよかったというのと、またヴァンパイアがらみのトラブルが起きたことで、ため息が出る。

 

 「今度から気を付けて。というか鼻歌禁止ね」

 

 「すまねぇ」

 

 魅了をかけている私が鼻歌禁止と言えば、ギンは本当に鼻歌を2度と歌わないと思う。これで同じ事件はもう起きない。

 

 一応の解決を見た私はまたスタスタと食道に戻り、カイルさんに経緯を話した。

 

 ギンの鼻歌を聞いて深い眠りに就いているだけだから、しばらくすればファンさんとジョイルさんは目を覚ますはずだと伝えると、ホッとした表情になってくれた。

 

 そして必死にファンさんとジョイルさんを起こそうとしていたカイルさんの分隊員2人は

 

 「なんだよびっくりさせやがって」

 

 「よく見たら酒瓶2本しか空いてないじゃん。この程度で酔いつぶれるわけねぇか」

 

 と笑い飛ばしてくれた。

 

 笑い話にしてくれた。

 

 「ごめん。もう鼻歌は禁止にしたから、同じことは起きないと思う」

 

 ジャイコブの時はできなかったけど、今度こそ頭を下げて謝る。

 

 「気にすんなよ」


 カイルさんは軽い感じで許してくれた。

 

 頭を下げてたから、その時のカイルさんがどんな顔だったかはわからない。

 

 だけど声の感じが優しくて、私のことを恐がったり、嫌がったりしてるように聞こえなかった。

 

 前にここに住んでた時と同じように扱ってくれたように感じて、少し切なくなった。

ちょっとショッキングな出来事があって数日間筆が止まっていましたが、Youtubeで思いっきり笑える動画を漁りまくって復活しました。

お待たせしました。

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