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拠り所

 カツン、カツンと足音が聞こえる。

 

 またお腹を広げられる時間が来た。

 

 私のすぐ近くで、カチ、という鍵を開けるような音がして、次に扉が開く音がする。

 

 冷え切って乾燥した空気が私の体を撫でる。

 

 手足の感覚は、もうずいぶん前に無くなってしまった。

 

 繋がってはいる。太い金属の棒に肩や股関節、肘、膝、両手首を串刺しにされていることに気付いたのも、もうどれくらい前になるなのかな。

 

 最初は串刺しにされた傷口が痛くて痛くてたまらなかった。だけどもう痛くない。

 

 穴が開いた状態で再生した。

 

 今の私の体は、たぶん、両手足の関節に穴が開いた状態

 

 金属の棒に接するのは、傷口ではなく皮膚になってしまった。

 

 目も見えない。

 

 目隠しの上から瞼ごと、釘か何かを打ち込まれている。

 

 これは今でも痛い。


 だけどもう気にならなくなっちゃった。

 

 私の鳩尾のあたりに、刃物が突き立てられる。

 

 これ以上私をどうしようって言うのかな。

 

 もう十分痛くて苦しいのに、まだ私のことを虐めるの? 

 

 どうして?

 

 皮膚と皮下脂肪を超えて腹筋に当たるまで差し込んで、それからおへその下まで切り裂かれる。

 

 もう何度も体験した、開腹の手順。

 

 私のお腹は切ったそばから再生しようとするから、切れ込みを入れたらすぐ、何かの器具で固定される。

 

 腹筋が外気に晒されて、感じたくもない感覚が走る。

 

 気持ち悪い。

 

 ヘレーネさんにお腹に手を突っ込まれ、かき回された時を思い出してしまう。

 

 せめて気絶させてからやってくれたらいいのに。

 

 文句の1つも言いたいけど、それも出来ない。

 

 喉に管を差し込まれてる。 

 

 喉仏のすぐ下あたりから気管に1本の管が差し込まれていて、呼吸をすると外気が肺に直接入り込んできて、すごく寒い。

 

 息を吐いても、声帯まで空気が進まない。だから声が出ない。

 

 お腹の皮膚を固定し終えたらしい。

 

 次は腹筋を割られてしまう。

 

 筋繊維の塊を、刃物でガリガリ削るようにして裂く。

 

 一番時間がかかって、一番痛い作業。

 

 でももう慣れた。

 

 というか、何をされても何もできない。

 

 死ぬことすらできない。

 

 口からも管が差し込まれていて、こっちは食道に入っている。

 

 その管から、ずっと血を飲まされてる。

 

 異様にドロっとした、冷たい血。 

 

 ずっと飲まされてるから、いつまでたっても死ねない。

 

 動けないから、何もできない。

  

 こうやって時折、お腹を開かれて内臓を持っていかれる。

 

 それだけのために生かされている。

 

 家畜になったみたいだ。

 

 いや、家畜は自分の口で餌を食べるし、自分の足で歩けるよね。

 

 じゃあ私は、家畜以下の扱いだ。

 

 あああ、痛い、痛い、痛い、痛い。

  

 早く終わらせて。

 

 内臓でも何でも早く持って行って。

 

 早く。

 

 痛いよ。

 

 痛い。

 

 腹筋に十分な大きさの穴を開けられた。

 

 痛い。

 

 内臓が外気に晒される。

 

 文字通り体の奥が冷えて、乾燥して、苦しい。

 

 私の中に、手が入って来る。

 

 何か手袋をしているみたいで、内臓の粘膜をざらついた手袋がこすっていく。

 

 ヒリヒリして、痛くて、背筋が震える。

 

 お腹の奥の方の内臓を掴まれて、引っ張られて、引っ張られて、引っ張られて、引っ張られて、引っ張られて引っ張られて引っ張られて引っ張られて


 千切られる。

 

 ブチっていう生々しい音が、自分の中から聞こえてくる。

 

 やっと終わった。

 

 私のお腹を開く謎の人物の目的は、今千切っていった内臓らしい。

 

 だから内臓さえ取られてしまえば、これ以上は何もされない。 

 

 次に内臓を取りに来るまでは、だけど。

 

 扉が閉まる音がして、鍵がかかる音がして、終わり。

 

 これで何度目になるのかな。

 

 次はいつなのかな。

 

 体が再生していくのがわかる。

 

 再生し終えたら、きっとまた内臓を取りに来るんだろうね。

 

 他にやることもないし、できることもないし、時間の経過を教えてくれるものもない。

 

 自分が起きてるのか眠っているのかもわからない。

 

 どうしてこうなったんだろう。

 

 私にわかるのは、私が今いる場所は王都ではないってことくらい。

 

 真祖の鼓動がだいぶ小さくなってる。

 

 なんとなくだけど、王城からかなり離れているみたいだ。

 

 ……なんで?

 

 私は王都に居たはず。

 

 吸血鬼討伐騎士団の兵舎で、ゼルマさんと、騎士団のみんなと一緒に居たはずなのに。

 

 最後に覚えているのは、ゼルマさんとお茶を飲んだこと。

 

 ゼルマさんと喧嘩しちゃって、でもすぐに仲直りして、お茶でも飲もうって誘われて……

 

 その後のことは憶えてない。

 

 気が付いたらこうだった。 

 

 拷問みたいな時間を過ごした。

 

 どうして?

 

 なんで?

 

 私は一体何をしたの?

 

 何をされたの?

 

 ……ダメだ。

 

 考えても、わかりそうにない。

 

 考えたくない。

 

 もっと痛い思いをしてしまう気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 とにかく今は

 

 今考えるべきは

 

 ここから、この地獄から抜け出す方法。

 

 手足が使い物にならなくて、(はりつけ)にされてて、目は壊されてて、食事も呼吸も何かの管を通して行っている。

 

 私の目の前には扉があって、その扉が開いていない時は出られない。

 

 扉が開くときは、誰かが私の内臓を取りに来るときだけ。作業が終わると扉は閉められて、鍵をかけられる。

 

 ……なんだ、結構色々わかってるじゃん私。

 

 痛いのは嫌。

 

 苦しいのは嫌。

 

 寒いのは嫌。

 

 ちょっと強がってみたけど、正直参ってる。

 

 自分が発狂していないのが不思議なくらい、苦痛を味わってる。

 

 私がおかしくなる前に、逃げ出さないといけない。

 

 ここを出たら、ゼルマさんに会いたいな。

 

 ゼルマさんだけが、私をちゃんと受け入れてくれた。

 

 ヴァンパイアだってわかった上で、助けてくれた。

 

 血を飲ませてくれて、死ななくていいって言ってくれた。

 

 ゼルマさんが血を飲ませてくれなくなったら、私は誰の血を飲めばいいのかわからないよ。

 

 見ず知らずの人を襲うなんて嫌。

 

 誰かを無理やり、傷つけてまで血を吸って生きるなんて、嫌だ。

 

 嫌だ。

 

 ゼルマさんが居なきゃ私、生きていけないよ。

 

 せっかく仲直りできたのに、なんで私はこんなことになってるの?

 

 今飲まされてる冷たくてドロドロした血なんかより、ゼルマさんのあったかい血がいいよ。

 

 週に一回、ほんの少しだけでいいから、ゼルマさんの血が、私を受け入れて、私が吸血しても傷つかないって言ってくれた、ゼルマさんの血がいい。

 

 ゼルマさんに会いたい。

 

 ゼルマさんの側が一番安心できる。

 

 早く帰りたい。

 

 帰りたい。

 

 痛い。

 

 嫌だ。

 

 誰か

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― 新着の感想 ―
[一言] 本当にこの作品が大好きです!今2週目読み始めてるくらい好きです(´ω`)今後の展開がとても楽しみです!!
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