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会議

 コトコトとスープが煮立つ音を聞きながら、私は鍋をぐるぐるかき混ぜる。

 

 細かく切ったベーコンが匙に合わせて回るのを見ていると、顔がニヤけてしまう。

 

 別にベーコンが回るのが面白いってわけじゃない。

 

 これは思い出し笑い。

 

 ”お前は私の血を吸っても構わない”なんて、初めて言われた。それを思い出すと、すごく、こう、うまく言葉にならない嬉しさみたいなのを感じる。どうしても頬が緩む。ちょっとした情けなさ混じりだったけど、嬉しかった。

 

 「ぐふふ……」

 

 私にっとってあの言葉は、きっと誰かに言ってほしかった言葉だったんだと思う。思い出すたびに変な笑いが出てしまう。

 

 ニヤけたまま頬が戻らないから、匙を持っていないほうの手でさすってみる。そのまま少し体をくねらせたりしながら、スープの完成までニヤけ続けてしまった。

 

 我ながらちょっと気持ち悪いね。

 

 でも、こんな時間は悪くないかも。こんな気持ちでスープを作るのは今日が初めてかもしれない。

 

 「エリーさん、ご機嫌だね~」

 

 「うわっ」

 

 いつの間にかナンシーさんが食堂に来ていたらしい。ものすごくびっくりした。

 

 「なんかいいことあったー?」

 

 「ううん、特に何も」

 

 ……いつから居たんだろう。くねくねしながらニヤけていたの、見られたかな。というか、浮かれすぎだね。鎧を着た人間に気付けないようじゃ、ヴァンパイアと戦おうにも不意を突かれたおしまいだ。ちょっと気を引き締めておこう。

 

 「そう? じゃあまたあとでね~」

 

 ナンシーさんは手をヒラヒラさせながら食堂を出て行った。何しに来たのかよくわからないまま、私も手を振って見送る。

 

 このあとスープを水筒に注いで、その後騎士団の会議に行く。ゼルマさんと分隊長の人と、私が出席することになってる。

 

 形だけの会議らしいから、緊張でガチガチになったりはしてない。手早くスープの準備を終わらせて、会議に行こう。

 

 

 

 

 

 

 


 スープの準備を終えた私は騎士団の会議室にやってきた。 

 

 会議室と言っても、全然広くない。ゼルマさんの執務室の方が広いくらいで、椅子も7つしかないし、机もない。そして滅多に使わないらしく、埃っぽい。

 

 私は部屋の隅に立っていて、椅子にはゼルマさんと分隊長の6人が座っている。私の分の椅子はない。

 

 ゼルマさんは部屋の中をざっと見て、それから会議の始まりを宣言した。

 

 「では、第1回目の会議を始める」

 

 その言葉で今まで1度も会議をしてないっぽいことがわかってしまった。

 

 6人の分隊長さんたちは”この部屋初めて使うよな”なんてことを小声で言ってる。”滅多に使わない”どころじゃないじゃん。

 

 「我々騎士団は、目的であるヴァンパイア討伐に関して、協力者として冒険者のエリーを雇うことにした。各分隊員に伝えておけ」

 

 「よろしくお願いします」

 

 事前にゼルマさんと決めておいた通り、ゼルマさんのセリフの後に一歩前に出て、一礼する。この会議で私がやることはこれだけ。あとは終わるまで適当に会議を眺めて、私に直接の質問が来たら答えるように言われてる。

 

 ”そう長い会議にはならないだろうから、気楽にしていろ”とのことだった。逆に不安になる。

 

 「質問いいですか?」

 

 カイルさんから質問来た。でも私に直接ってわけじゃないから、ゼルマさんが答えるみたい。

 

 「なんだ?」

 

 「今までとなんか違うんですか?」

 

 「何も変わらない。エリーは今までの騎士団で拾って保護していた一般人という立場から、騎士団が雇った冒険者という立場に変わるが、おおむね今まで通りだ」

 

 そう言うことらしい。カイルさんは”今まで一般人にヴァンパイア討伐させてたのか”と呟いてた。

 

 カイルさん以外からもいくつか質問が来たけど、全部ゼルマさんが捌いて、私が答えることは何もなかった。

 

 私もこの機会に、1度騎士団の分隊長さんたちについてよく見ておく。

 

 カイルさんは、分隊員さんたちと仲がいいみたいだから、私は仲良し分隊って覚えてる。ゼルマさんと同じ赤髪の人。

 

 イングリッドさんは礼儀正しくて、誰にでも敬語を使う。彫が深い顔で、分隊員さんたちもイングリッドさんのように礼儀正しい。敬語分隊と覚えてる。

 

 シドさんは無口。滅多に話さない。そして分隊員さんもほぼ喋らない。無口分隊だね。

 

 ゲイルさんはチャラい女たらし風で、トーマスさんは皮肉屋、そして最後の分隊長が、ラックさん。城壁の上を巡回して、夜に城壁を飛び越えて王都に入るヴァンパイアがいないかを監視する分隊が、ラックさんの分隊。

 

 私はラックさんと話したことが無い。今も兜のバイザーを下ろしていて、顔立ちも髪も見えない。普通に会うし見かけるけど、ラックさんもラックさんの分隊員さんたちも、みんなバイザーを下ろしていて話しかけても軽く会釈が返って来るだけの、一番謎な人達。謎分隊で覚えている。

 

 「では次に、捕らえたヴァンパイアから得た情報を共有しておく」

 

 一段落したところで、ゼルマさんは次の議題に移った。今まで捉えてきたヴァンパイアについてわかったことを共有するみたい。そういえばゼルマさんは、ナントカ油って言うのを使って拷問もとい尋問をしていたんだった。

 

 「最初に捕らえたヴァンパイア、あいつの名前はジャイコブという。イングリッド隊のタイラーに化けて、王城付近で駐屯しているところに接近してきた」

 

 あの時はイングリッドさんが居たっけ。

 

 「奴は”幻視”というスキルを保有している。見たものの姿形と服装、匂いや発する音を自分に再現するスキルだ。奴はこれを使ってタイラーに化けていた」

 

 幻視なんて聞いたことが無いスキルだね。でもヴァンパイアにとってすごく便利なスキルだってことはわかる。

 

 「次に、フォージ・キエンドイと共にやってきたメイドのヴァンパイア。自身でも名乗っていたが、あれはチェルシーという。奴は”魅了”というスキルを持っている」

 

 魅了……魅了? そういえば私も持ってる。使ったこと無いけど。

 

 「魅了は自分より下位の存在に対して有効で、相手の目を見つめて名前を呼ぶと、相手を自分に惚れさせることができるスキルだそうだ。魅了された者は、相手にどのように扱われても幸福に感じ、文字通りなんでも言うことを聞くようになる。チェルシーはフォージを魅了し、操っていた。彼らを運んできた御者の男のソイオも魅了されていたようだ」

 

 なんでも言うことを聞いて、どんなふうに扱われても幸福に感じる。なんというか、これもヴァンパイアにとって便利なスキルだ。魅了して、血を差し出させて、自分の正体を誰にも言わないように命令する。これでもうとりあえず安泰と言える。

 

 私は使いたくないな。無理やり自分に惚れさせるなんて、なんか嫌だし。

 

 「ヴァンパイアは最低1つはスキルを持っているようだ。その多くは吸血に役立つ効果が多い。これもチェルシーから聞き出した情報だ」

 

 人間だとスキルを持っていない人もたくさんいるけど、スキルを持たないヴァンパイアは居ないってことかな。私もハーフヴァンパイアの特徴が出るまではスキルを持ってなかったっけ。

 

 このあとゼルマさんの”得られた情報を頭に入れて、分隊員と共有しておけ”という言葉で、会議は締めくくられた。

 

 血嚢のことや真祖のことは伏せておくらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 会議は終わった。

 

 次はお仕事の時間。

 

 ゼルマさんたちと一緒に、王城でやってくるヴァンパイアを待ち構えて、討伐する。立場がちょっと変わっただけの、今まで通りという感じ。

 

 でも、私の心構えは変わった。

 

 今までとは違う、はっきりとした自分の意思で、ヴァンパイアを討つ。心細さも寂しさも、今は感じない。

 

 剣と水筒の乗った荷車を持って、今夜もみんなと一緒に出発する。

 

 空は曇っていて真っ暗だけど、今の晴れやかな気持ちで見上げれば、光のない空も悪くないと思えた。

新年あけましておめでとうございます。

今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

新年にちなんだ現パロを自分で書こうかと思いましたが、思いのほか筆が乗らなくて断念したので、普通に続きを投稿しました。

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