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自棄

 初戦果のお祝いの、次の日の夕方。

 

 一晩明けた私はお祝いムードが抜けて冷静になっていた。

 

 冷静になって、改めてゼルマさんに教えてもらった騎士団のことを考えてみる。

 

 ゼルマさんたちは夜間警備騎士団じゃなくて、吸血鬼討伐騎士団。そしてヴァンパイアになった私が今住んでいるのは、その吸血鬼討伐騎士団の兵舎だった。知らなかったとはいえ、そんな場所に住んでいたとは思わなかったよ。

 

 でも別にどうってことない。

 

 今までだってずっと正体を隠して、人間のふりをして生きてきた。正体がバレた時に殺されやすくなっただけで、今までと変わらない。

 

 だからやっぱり、自分のことは考えなくていいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、私はゼルマさんと一緒に王城の近くの広場に腰かけていた。他にもカイルさん、ゲイルさん、シドさんの分隊も一緒に駐屯してる。

 

 「ゼルマさん、私ここに居ていいの? 兵舎で洗濯とかの仕事はどうするの?」 

 

 「イングリッド隊にやらせている。タイラーが復帰するまではやらせておくつもりだ」

 

 イングリッドさんたちはヴァンパイアと戦って殴り飛ばされたりしてたから、兵舎で休ませようってことなのかな。

 

 ついでにもう1つ質問もしよう。

 

 「巡回はしなくていいの? みんなここに居るけど」

 

 「しなくていい。先日捕まえたヴァンパイアからいろいろ聞きだしたんだが、ヴァンパイア共の目的地は私たちの後ろにある王城の中にあるらしい。だから巡回して王都内のヴァンパイアを探し出すのではなく、ここで待ち構えることにした」

 

 ……ああそうか。国のいろんなところでヴァンパイアが見つかって、みんな王都に向かってるって言ってたっけ。そのヴァンパイアたちは王城の塔の上に居る真祖に会いに来てる。わざわざ探さなくてもここに来るんだから、王城前の見通しのいい広場で迎え撃てばいいってことだね。

 

 「どうやって聞き出したの? というか、あの後あのヴァンパイアはどうなったの?」

 

 ゼルマさんはニヤァって笑いながら

 

 「……ハッカ油って知ってるか?」

 

 って聞いてきた。

 

 何それ知らない。良く燃えそうな名前だね。

 

 「知らない」

 

 「あのヴァンパイアを磔にして、ハッカ油を頭からぶっかけて聞き出したんだ」

 

 え、まさか……

 

 「火をつけたの?!」

 

 油をかけるだけで聞きだせるわけがない。油まみれのヴァンパイアに点火して火だるまにして、消火してほしければ吐け! みたいなことをしたに違いない。ゼルマさん、いくらヴァンパイアが相手とは言え容赦ないね……私も正体がバレたら同じようなことされるのかな。

 

 私が火だるまになったヴァンパイアを不気味な笑顔で見るゼルマさんを想像していると、現実のゼルマさんが苦笑いを浮かべた。

 

 「違う違う。ハッカ油はとても冷たいんだ。この寒い季節に全身をハッカ油まみれにされては、さすがのヴァンパイアも口を割らざる終えなかったというわけだ。燃やしたりはしていない」

 

 「冷たい油? そんなのあるの?」

 

 「あるぞ。今度塗ってやろう」

 

 遠慮させて。

 

 「ええっと、それで、聞きだした後はどうしたの?」

 

 やっぱり、殺したのかな。

 

 「父上に引き渡した。その後は知らん」

 

 「父上?」

 

 「ああ、この騎士団は私の父であるトレヴァー侯爵の直轄なんだ。運営にかかる費用も父上が出している。だから手に入れた戦果は父上の物だ」

 

 トレヴァーという名前には聞き覚えがある。少し前に私が王都を訪れるきっかけになった貴族で、2つほど依頼を受けた。その時は侯爵じゃなくて伯爵だったっけ。

 

 「知らなかった」

 

 「言ってなかったからな」

 

 もし私がゼルマさんに正体を明かしたら、私も捕まえられてトレヴァー侯爵のところに送られるのだろうか。 

 

 もしかしたら、その場で殺されるかもしれないね。ゼルマさんが”今まで私を騙していたのか!”ってなって、剣でめった刺しとか、首を刎ねたりとか。

 

 ゼルマさんに助けてもらったのに、人間のふりして騙してるんだから、裏切ってるようなものだもんね。もしそうなっても文句は言えないかな。

 

 

 

 

 会話が途切れて、私はゼルマさんの隣でぼんやりしてる。考えなきゃいけないこととやらなきゃいけないことがいっぱいある気がして落ち着かない。でも、やっぱり自分で考えるのは怖い。

 

 ここに居る間は、ゼルマさんに言われたことだけしてればいいと思ってた。

 

 今でもそう思う。

 

 考えなきゃいけないことがあるはず。だけど近いうちに、考える意味がなくなる。

 

 やらなきゃいけないことがあったはず。だけどそれは諦めた。

 

 だからそんな具体性のないことは考えなくていい。

 

 「おーいエリー」

 

 ぼんやりしてたら、カイルさんが近くに来ているのに気づかなかった。声をかけられてちょっとびっくりした。びっくりしたのを表に出さないように答える。

 

 「なに?」

 

 「なにって、前に頼んだだろ? ヴァンパイアの倒し方教えてくれ」

 

 あ、そう言えばそうだった。教えられるようなことはあんまりないけど、それでもいいなら教えようかな。

 

 私の横に腰を下ろすカイルさんに、言葉を選んで知っていることを話す。 

 

 「ヴァンパイアって傷をすぐ再生しちゃうけど、無限に再生できるわけじゃなくてね……」

 

 うん。自分のことなんかじゃなくて、こう言う誰かのためになるような生産性のある事を考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 カイルさんと話してたら夜が開けそうになっていた。ゼルマさんが号令をかけて撤収を始めて、私も一緒に兵舎に帰ってきた。

 

 朝日を浴びずにすんだことに少しほっとした。割りとギリギリだった。

 

 あと、イングリッドさんたちがまだ洗濯してた。一晩中洗濯してたんだし、しもやけになってるかも。

 

 「手が、手がああああああ」

 

 なってるっぽい。

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