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半ヴァンパイアは見つけ出す

 集団墓地という名前のこの場所は、一目見ただけでは墓地には見えない。だって、土と瓦礫しかないから。よく見れば、何かを埋めた跡が等間隔でたくさんあることに気づけるけど、ぱっと見ではわからない。

 

 誰もいない。 

 

 何もない。

 

 そういう場所みたい。

 

 ここだけは王都じゃないみたいに感じる。

 

 「ほんとにここに来たの?」

 

 と、独り言を言ってみる。

 

 足跡は見当たらない。

 

 何かが居た痕跡もない。

 

 まぁセバスターがこの墓地のどこかにぽつんと落ちてるなんてことないよね。居るとしたら、墓地周辺にあるさびれた家屋なんかかな。

 

 私は墓地に踏み込まないように、周辺を歩いてさびれた家屋を覗いてみる。たいていどの家も窓が破壊されていて覗き放題だから、勝手に中を見させてもらう。

 

 椅子に机にベッド、花瓶やタンス、水瓶(みずがめ)、全部どこかしらヒビが入っていたり壊れていたりして、生活感がかけらもない。

 

 「う」

 

 次の家を覗いてみて、思わず呻いてしまった。床と壁に黒い染料をぶちまけたような模様ができていて、何とも言えない酷い匂いがした。

 

 その酷い匂いの中にわずかな鉄臭さを感じて、その黒い染みが何なのか気が付いた。

 

 昼でも少し肌寒いのに、その家の中だけは異様な熱気に包まれているような気がして、気持ちが悪い。さすがのセバスターもこんな家の中にはいないと思うから、次の家を見に行こう。

 

 その家からちょっと大げさに視線を外して、墓地の方を見た。

 

 「ん?」

 

 墓地の土の一か所に違和感を感じる。

 

 明らかに他の場所の土より踏み固められている。すごく重いハンマーで叩いて固めたような、そんな感じ。見渡してみると、そんな感じの場所がいっぱいある。

 

 「これ、もしかして足跡……?」

 

 そう思った。靴底っぽいあとがキレイに2つある。

 

 人間の足でこれだけ踏み固めるには、どれだけ力を入れればいいんだろう。それに足跡は一組あるだけで、その後歩いた跡がない。滅茶苦茶重い人が歩いたというわけではないと思う。

 

 ……だから、何だというのだろう。セバスターの手掛かりではなさそうだし、これ以上考えても仕方ない。セバスター探しを再開しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見つけた。

 

 何件目かの家の床に積もった埃が足跡を残していて、その足跡をたどっていくと地下室を見つけた。セバスターはその地下室にいた。

 

 「セバスター?」

 

 座り込んで、動かない。血の匂いはしないから出血はしてない。変なにおいもしないから毒で動けないわけではないと思う。でも、セバスターは動かない。

 

 よく見ると、ちゃんと呼吸しているのが方の動きでわかる。お腹じゃなくて肩で息をしてる。リラックスしてないっぽい。

 

 「大丈夫?」

 

 話しかけても反応が無いから、肩を掴んで上を向かせる。ぼんやりとしていて、目の下に酷い隈があった。寝不足? 

 

 「あ、」

 

 私の顔を見て、それだけしか言わない。疲れすぎているのかな。


 「水飲む?」

 

 「の、む」

 

 かすれた声でそう答えてくれた。とりあえず意識はある。持ってきた水を飲ませてあげれば、ちゃんと喋るかな。

  

 セバスターは水筒をあおってゴクゴクと喉を鳴らして飲み続け、一気に飲み干してしまった。

 

 「っぷは」

 

 「で、何があったの?」

 

 「……」

 

 「セバスター? 聞いてる?」

 

 「……」

  

 あ、寝てる。

 

 「はぁ……」

 

 ため息が出てしまう。なんというか、なにがあったのかさっぱりわからないままなのが不服。でもまぁセバスターを連れ帰れればそれでいいかな。

 

 セバスターの前に背中を向けてしゃがんで、両腕を肩に乗せ、太ももを両手で抱え上げる。そのままセバスターを背負って、階段を上り始める。

 

 シュナイゼルさんより少し重い。肩幅が広くて、手足も長くて太い。シュナイゼルさんもそうだけど、みんな私より大きい。私ももう少し大きくなりたいな。

 

 トス、トス、と、私の靴が階段を踏む音がする。セバスターを背負っているから、体制を崩さないようにしっかり踏みしめる。そのたびに埃が舞うけど、もうすぐ上り切るから我慢。

 

 階段を上り切って、家屋の一階に出てきた。床に積もった埃に私とセバスターの足跡が残ってる。

 

 窓を見ると、まだ太陽は高い位置にある。早めに見つけられてよかった。これなら夕方になる前に宿に戻れるし、疲れてるセバスターをベッドで休ませることもできそう。

 

 「帰ろっと」

 

 独り言を言って、家屋の玄関に歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、私は視界の端で、捕らえた。

 

 巨大な体躯の男と、赤いローブに黒い帯で顔を覆った人。

 

 その2人が墓地の土の上にものすごい勢いで着地する瞬間を、見てしまった。

 

 

 

  

 

 

 

 「……誰か、いる……な」

 

 タザはドリーとともに王都の共同墓地に降り立ち、即座に気づいた。

 

 人目が無く、土によって着地の衝撃や音が広がりにくい共同墓地は、王都の真上に浮かぶ飛行船から飛び降りて着地するにはうってつけの場所だった。

 

 だが今日は誰かいるようだ。そして、着地の瞬間を見られた。

 

 「……」

 

 ドリーは何も言わない。言葉を理解する能力は備えられていたが、言葉を発する機能と意思は持っていなかった。ただ、タザの言葉を理解しただけで、能動的になにかアクションを起こすことはない。

 

 「ドリー……昨日と、同じ、だ。気配の……位置は、わかるか?」

 

 「……」

 

 「わかる、なら……首を縦に、わからないなら……横に振れ」

 

 ドリーは首を縦に振った。

 

 「昨日……戦った奴かも、知れない……今日こそ、仕留めろ」

 

 そう言われ、ドリーは動き出す。

 

 まっすぐに、気配のする家屋に向かって、歩き始める。

 

 人の胴ほどの太さで地面にぎりぎりこすらないほどの長さの袖が、歩行に合わせてゆらゆらと揺れる。

しかし、ドリーの足取りや重心の位置にぶれはない。

 

 目指す先は、1人分の気配のする家屋。落ち着いた呼吸の気配は、まるで眠っているかのようだ。

 

 ”仕留めろ”の命令に従い、ドリーは一歩ずつ目標に近づいていく。

 

 タザはドリーの行動を観察するためと、万が一ドリーが壊されそうになった時に回収するためについて来ていた。タザはドリーがよく見え、なおかつ即座に介入できる位置を探し移動した。

 

 煙突の上に片膝を立てて座り込み、ドリーを見下ろす。

 

 ドリーの向かう先に何がいるのかわからないまま、タザは高見の見物を決め込むことになった。

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