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半ヴァンパイアは悪人を探す

 アーノックが退院した。

 

 朝、宿から出たらばったり会った。

 

 「あ」

 

 「あ」

 

 そう言えばアーノックが治療院に行ってから1週間くらい経つ。私はアーノックを見て、お見舞いに行ったときにアーノックにあれこれ言ったことを思い出した。

 

 「この前は偉そうなこと言ってくれましたね」

 

 アーノックも覚えてたらしい。ちょっと気まずいかも。

 

 「だって、弱気なアーノックが気持ち悪かったんだもん」

 

 アーノックは"ふん"と鼻をならす。  

 

 「セバスターはいますか?」

 

 「さあ? 最近見てないよ。そっちの方がどこにいるか知ってるんじゃないの?」

 

 「会ってないから分かりません」

 

 会ってない? セバスターはお見舞いに行かなかったのかな。まぁセバスターだし、不思議じゃないかな。

 

 「ユーアさんなら何か知ってるかも。同じ部屋だし」

 

 「そうですね」

 

 アーノックは私との会話を切って自分の部屋の方に向かう。

 


 退院おめでとうくらい言えばよかったかな? いや、嫌いな私に言われてもうれしくないよね。 


 「あぁ、眠い」

 

 いつもの独り言を言いつつ、朝日を浴びる。日光を浴びるとヴァンパイアの力は弱くなるみたいだから、最近日光浴を始めた。今のところ変化はない。

 

 日光さえ浴びていれば、飢餓状態にならない。だから、安全のためにも、もう少し浴びておこう。

 

 

 

 

 

 

 しばらくしてからユーアさんたちの部屋の扉をノックする。

 

 アーノックが帰ってきたし、全員でこれからどうするか決めようと思う。またトレヴァー伯爵のところで依頼を受けるのか、もうピュラの町に帰るのか、他にも相談があるかもしれない。

 

 「誰だ?」

 

 「エリー」

 

 「そうか」

 

 ……入っていいのかな。"そうか"ってことは入っていいんだよね? 入るよ?

 

 「お邪魔します」

 

 「ああ」

 

 部屋の中にはユーアさんとアーノックが居るけど、セバスターは居ない。

 

 「セバスターは?」

 

 「帰ってきていない」

 

 「僕が治療院に入院したすぐあとから帰ってきてないと、先ほど聞きました」


 私がギドのところに行ってる辺りから、誰も見てないってことかな。


 「あいつのことだから、稼いだ金で遊び回っていると思っていた」

 

 「僕が1週間ほどで退院することは知っていたはずです。それでもまだ戻ってこないと言うのは……」

 

 あり得そう。単純にアーノックの退院する時期を忘れてるとか、覚えてるけど遊ぶのが楽しくて帰ってこないだけとか、セバスターなら十分あり得ると思う。だってお見舞いにも行ってないんだし……

 

 「探しに行くべきか……?」

 

 「放っておいてもいいです。あいつのことなので」

 

 2人も同じように思ったみたいで、セバスターを心配する素振りがない。

 

 「でも、これからどうするの? セバスター抜きで決めちゃっていいの?」

 

 「今ここに居る僕らだけで決めればいいでしょう。1人で遊び回ってるセバスターに文句を言う資格は無いですし」

 

 「でも」

 

 「そんなに言うなら勝手に探してて下さい」

 

 セバスターの都合も知らずに決めちゃったら、あとで困るんじゃないのかな、と思って言おうとしたら、アーノックの機嫌が突然悪くなった。

 

 多分、ずっともやもやしてたんじゃないかな。相棒のセバスターが1度もお見舞いに来なかったら寂しいだろうし、何かあったんじゃないかと心配になってたかもしれない。そういうストレスとかを抱えてて、今不機嫌になったんだと思う。

 

 でも私に八つ当たりするのはやめてほしいかな。

 

 「……じゃあそうする。セバスターが行きそうな所とか、なにか知らない?」

 

 「知りませんね」

 

 あっそ。

 

 「南東区には居ないだろう。おそらく、北西区だ」

 

 「何でそう思うの?」

 

 「人が寄り付かない地区の方が、セバスターやアーノックには都合が良いからだ。そうだろ?」


 「ま、遊ぶのならそう言う場所がいいですね」

 

 一体どういう遊びをしてるんだろう……知りたくないかも。どうせろくでもない事だろうし。

 

 「ありがと、探してみるね」

 

 「どうぞご自由に」

 

 「ああ」

 

 ああでも北西区か、あんまり行きたくないかも。見るからに治安悪そうだったし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 北西区の道端に座り込んでいた人たちは、"物乞い"と言うらしい。

 

 あの人たちは基本的にこっちを見るだけで、なにもしない。ギラついた視線が怖いことを除けば無害なんだそうだ。

 

 何もしないし何も喋らない。ただ、お金や食べ物を渡すと知っていることを教えてくれたり、道案内なんかもしてくれるとも聞いた。

 

 「この辺でセバスターっていう金髪碧眼のイケメン見なかった?」

 

 南東区で買ってきたパンとお水を物乞いのおじさんに手渡して聞いてみる。

 

 「……まだじゃ」

 

 「……? 何がまだなの?」

 

 物乞いのおじさんはパンと水を受け取りつつ、そんなことを言う。

 

 「まだあるじゃろ」

 

 てに持ったパンと水を軽く持ち上げて、そう言う。もしかしてもっと寄越せってこと? 

 

 「教えてくれないなら返して」

 

 確かにまだパンも水もある。何人かの物乞いさんたちに当たってみるつもりだったから、いっぱい買ってきた。だからこのおじさん1人に全部あげるつもりはないよ。

 

 「探しとるのは顔は良いが乱暴な性格の、性欲が強い男じゃろう? 教えてやるから、パンも水も全部寄越すのじゃ」

 

 うん、会ってる。性欲が強いって言うのを強調する辺り、北西区でそういう"遊び"をしたんだろうね。

 

 「……はい、どうぞ」

 

 雑嚢のなかに詰め込んで来たパンと水筒を全部渡す。パンはともかくお水はちょっと高かった。まともな情報じゃなかったらどうしよう……

 

 「お主、物乞いを使うのは初めてじゃろ?」

 

 そうですけど、何で?

 

 「先に話させてから渡さんと、知っとることを出し惜しみされるぞ?」

 

 なるほど。なら一旦パンとお水はしまっちゃおっか。

 

 「待て待て待て! ちゃんと話すから取り上げんでくれ!」

 

 う~ん、そんな顔で言われると、お年寄りをいじめてるみたいな気がして来ちゃうね、やっぱり渡しちゃおう。

 

 「ちゃんと教えてね?」

 

 「わかっとる。物乞いは信用を失うとしまいじゃからな」

 

 ホクホク顔でパンとお水を回収してから、物乞いのおじさんはセバスターについて知っていることを話始めた。

 

 「5日ほど前、お主の言うセバスターはこの通りを通っとった。えらく酷い顔だったんでよく覚えとる」

 

 「酷い顔?」

 

 「ああ、酷い顔じゃ。よく整った顔で、どうやればあそこまで下卑た表情が出来るのかと思ったわ。ありゃ、女を探しとる顔じゃな」

 

 ああ、なるほど。ボコボコにされてた訳じゃ無いんだね。

 

 「で、わしは気になって後をつけたんじゃ。わしの尾行に気付いておったようじゃが、特に気にしておらんかったな」

 

 物乞いのおじさんは立ち上がって、私を手招きしながら歩き始める。

 

 「こっちじゃ」

 

 なんとなく嫌な予感がするけど、着いていかないとなにもわからないよね。

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