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研究員は完成させる

 王都の真上に浮かぶ透明な飛行船、その中には、スージーと言うストリゴイの研究員の部屋があった。彼女は日夜、その部屋でとある研究開発を行っている。

 

 スージーはドワーフであり、ストリゴイの中の唯一の女性だった。彼女はドワーフ故の外見の幼さがコンプレックスであり、子供と間違われると憤慨する。


 「スージーさんっておいくつなんですか?」


 「何歳に見えます?」

 

 「10歳くらいでしょうか」

 

 この会話が挨拶を除外した場合のヘレーネとの最初の会話だった。この瞬間から、ストリゴイの協力者になったヘレーネは、スージーの敵となった。


 そんな彼女は、長い時間をかけた研究開発を今、完成させた。

 

 「私がわかる?」

 

 赤いツギハギのローブの、男性とも女性ともわからないそれに、スージーは語りかける。


 返事はない。

 

 「わかるなら首を縦に振って」

 

 それは、こっくりと頷くように首を振った。

   

 スージーはその反応を見ただけで、小躍りしそうなほど歓喜した。

 

 「フードをとって」

 

 それは、だらりと垂れていた腕を持ち上げてフードをとった。

 

 そこに顔はない。頭とおぼしき部員は黒い帯がぐるぐると巻き付けられ、目も鼻も口も耳も見えない。

 

 「右手を見せて」

 

 それの両手は長すぎる袖によって隠されている。床にギリギリ引きずらないほどの長さと、人の胴体より太い袖を、それは左腕で器用に間繰り上げた。

 

 「もういい」

 

 それは袖を下ろし、まただらりと腕を垂らした。

 

 「あなたの名前はドリー。私の兵隊。覚えておいて」

 

 スージーは童顔で優しく微笑み、それにそう言った。

 

 「……わかったら首を縦に振って」

 

 ドリーはこっくりと首を振った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「スージーさーん!」

 

 バーンと扉を開け、ヘレーネがスージーの部屋にやって来た。

 

 ヘレーネは子供にしか見えないスージーを猫可愛がりすることが楽しみであり、スージーはそれが心底嫌だった。だが今日に限ってはむしろヘレーネを待っていた。

 

 「待っていましたよ協力者さん。今までの恨みを」

 

 「わぁすごいですわ! これがドリーなのですね! タザさんは人形だなんておっしゃってましたが、これはむしろ改造人間と言った感じでしょうか!」

 

 スージーはヘレーネを待ち構え、そしてドリーにヘレーネを攻撃するよう命じ、今までの恨みを晴らす腹積もりだった。ドリーはきっとヘレーネに勝てる。今日こそいつもニヤニヤと笑うヘレーネをギャフンと言わせる、はずだった。

 

 一言言ってやって、それから攻撃するよう命令するはずが、その一言を遮られ、完全にペースを乱されてしまった。

 

 「あら? スージーさん何か言いかけました?」

 

 「く……こ、このッ!」

 

 「あらあら、どうしちゃったんですか?」

 

 スージーは顔を真っ赤にして、ヘレーネを叩く。子供に見えるとは言え成人したドワーフの全力で叩いている。

 

 「降参、降参ですスージーさん。何を怒っているのかわかりませんが、とりあえず謝りますから」

 

 ヘレーネは腹を何度も叩かれながら、笑顔で両手を上げてそう言った。全く効いていないのだ。

 

 もはやイヤイヤ期の子供がぽかぽかと親を叩いているようにしか見えない。

 

 「どうしてしまったんでしょう? (わたくし)とスージーさんはずっと仲良しだったのに、急に叩かれてしまうなんて……」

 

 もちろんそう思っているのはヘレーネだけで、スージーは初対面の時からヘレーネが気に入らなかった。

 

 「はぁ、はぁ……な、なんのご用でございやがりますか?」

 

 「ごさいやがりますかって、ふふ、面白い言葉遣いですね。スージーさんの研究が完成したと聞きまして。見に来たのです」

 

 "でしょうね"とスージーは思う。ただ、ヘレーネにとってドリーの存在などどうでもいいということもわかっている。ヘレーネは何かしら理由を付けてはこの部屋に来てスージーをかかっていた。

 

 要は、スージーと話す話題になるなら何でもいいのだ。美味しいお茶っ葉を手に入れた。サイバが不機嫌だ。タザの体が大きくて視界の邪魔だ。などの理由で度々押し掛けていたため、スージーはそう思うようになった。

 

 「性能テストを兼ねて、ドリーと貴方とで一戦交えてほしいのですけど、よろしいでございやがりますか?」

 

 青筋を立てながらも、精一杯の作り笑顔で頼んでみる。ドリーがどれ程戦えるのかまだ試していないが、うまくいけば憎きヘレーネに一泡吹かせられる、かも知れなかった。

 

 「構いませんが、私は戦うのが苦手なのです。少し心配ですわね」

 

 "少し心配"と聞いて、スージーはほくそ笑んだ。ヘレーネはドリーの方が自分より強いかもしれないと感じたのだと思った。それは、スージーきでにとってものすごく嬉しい事だった。

 

 「大丈夫でしょう! 貴方はヴァンパイアですから、ちょっとくらい怪我してもすぐ治りますよ!」

 

 自分のテンションを制御出来ないまま、スージーは一戦交えさせようとヘレーネに頼み込む。だが……

 

 「いえそうではなくて、戦うのが苦手なので、力加減を間違えてドリーを壊してしまうかもしれないのです。それでも、大丈夫ですか?」

 

 そう問いかけるヘレーネは、心底真面目な表情だった。

 

 スージーはこれ以上ないほどの怒りを感じた。自分が長い時間をかけて作り上げたドリーを、ヘレーネは当然のように自分より弱いと断じ、手加減しても壊してしまうと宣った(のたまった)のだ。これ以上の屈辱があるだろうか。

 

 スージーは自分の中の怒りと、ドリーがヘレーネに勝てる可能性を天秤にかける。

 

 「スージーさん?」


 「ふ、、、う、」

 

 「あの、どうしまし」

 

 「ビィヤアアアアアア! タザァアアアアア!」

 

 号泣しながらタザの居る部屋に全力疾走するスージーを見て、ヘレーネは何がなんだかわからなかった。

 

 

 

 


 


 「もうあの人ほんと嫌いです。何とかして、ください」

 

 スージーはポロポロと涙を流しながら、タザに何があったのかを説明した。

 

 「なるほど……わかった」 

   

 自分の腰ほど高さにあるスージーの頭に向かって、タザはそう言った。


 「ほんとですか?」

 

 「……ああ。ドリーの……性能を、試し……たいんだな?」

 

 「そうじゃないです!」

 

 「試したく……無いのか?」

 

 「試したいですけど、今はヘレーネの話をしてるんです!」


 タザは話の最初の部分しか理解してないのではないかと思った。

 

 「ドリーの……性能がわかれば、ヘレーネに……勝つ見込み……が、有るかどうか、わかる」

 

 「そ、そうですけど……私が怒ってるのは」

 

 「勝てそうなら……改めて……戦わせればいい。……勝てないようなら……ヘレーネが正しかった、と言うことだ」

 

 タザはスージーの頭をすっぽりと覆えるほど大きな手を、スージーの肩に置いた。

 

 「結果を……出して、それから……ああ……まぁ、何とかしろ」

 

 「タザァ……」

 

 タザはなんと言えばいいのかわからなかったようだが、スージーはなんと伝えようとしてくれたのか、わかった気がした。

 

 ドリーの実力を測定し、ヘレーネがドリーに下した判断が不当だと言う結果を出せ。それがヘレーネを見返すことになる。タザはそう言いたかったのだろう。

 

 「あと……泣くな。……せめて泣き、叫ぶな……子供に見えるぞ」

 

 「はいぃ……ひぐっ」

 

 タザはスージーを腕に乗せ、スージーの部屋に向かう。性能テストをどのようにやるかを相談するためだ。

 

 

 

 


 スージーの部屋でドリーをペタペタと触っていたヘレーネに遭遇し、"親子みたいですわね"と言われ、スージーまた泣きそうになった。そしてタザはため息が出そうになった。

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