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蠱毒姫は暴露する

 さて、エリーさんは飢餓状態で動けなくなりましたし、マーシャさんに色々とお話ししなくてはいけませんね。

 

 「まず、(わたくし)はヴァンパイアです。蠱毒姫(こどくひめ)などと呼ばれております」

 

 「……はあ、まぁ、……え?」

 

 唐突過ぎて理解できていないというところでしょうか。とりあえず、見ていただきましょう。

 

 まず目薬とスポイトを取り出しまして、マーシャさんとの目の前で()します。

 

 目薬の効果が出るまでの間にもうひとつのお薬を取り出して頭から被ります。するとどうでしょう。茶色かった私の瞳は真っ赤に、髪は鮮やかな赤紫に戻ります。

 

 「うそ……」

 

 最後にフニッと上唇を指で押し上げ、人間より長く鋭い犬歯をお見せします。

 

 「これで信じてもらえました?」

 

 マーシャさんたら、わなわなと震えてしまいました。やはり人間は私達(ヴァンパイア)を畏怖してしまうようですね。 

 

 「で、でも、日の光を浴びて、平気だったじゃないですか」  

 

 「ああその事ですか。私薬師ですから、お薬で日光を克服しています。まぁヴァンパイア用の日焼け止め見たいな物で、大したお薬ではありませんが」

 

 「そんな、えっと、」

 

 「怖がるのも良いですけど、ちゃんと聞いてくださいね? マーシャさんが聞きたいとおっしゃったのですから」

 

 無言でコクコクと頷いてくれました。どこから話しましょうか。とりあえず無人になったルイアの町でエリーさんと出会ったところからですかね?

 

 「私はお薬を作ったり使ったりするのが趣味なんですけど、お薬の材料と被験体を手に入れるためにルイアの町に行ったんです。大体集め終わった辺りでエリーさんとエリーさんのお仲間の人間3人を見付けました」

 

 マーシャさんは黙って聞いてくださいます。少しずつ震えが収まっていくのは、私がマーシャさんを傷つけるつもりがないのを感じ取ったのでしょう。

 

 「私は多くの被験体が欲しい。エリーさんはお仲間を私に渡したくない。となればもう、争うしかありませんよね? そう言うわけでエリーさんと人間3人を奪い合うゲームをしました。エリーさんは見事人間を私から逃げさせ、エリーさん自身も無事に逃げ切りました。私の完敗でしたね」

 

 今思い出しても楽しい気分になります。ただの人間と侮っていたら、私の予想を何度も上回って下さいました。最後が呆気なかったのが残念ですけれど。

 

 「とまぁ、私とエリーさんの関係はこんな感じです。それにしても世の中は狭いですわね? 偶然出会ってお友達になったマーシャさんのおかげで、先ほど私とエリーさんは再会出来た訳ですから」

 

 もうここまで言えば、マーシャさんも今の状況が理解できたと思います。ですがせっかくですし、私がもっと詳しくお話ししましょう。

 

 「エリーさんは私がマーシャさんに何も言わず何もしないまま穏便に帰る方法を、必死に考えていたんでしょうね。実はマーシャに毒針りを突き付けて人質にして、エリーさんが怖がったり困ったりするのを眺めていました」

 

 袖から毒針が飛び出すところをお見せしますと、マーシャさんのお顔が青ざめました。

 

 「もう今の状況を理解できたと思います。マーシャさんは今ヴァンパイアを目の前にして無防備に座っていて、守ってくれるはずエリーさんは座り込んだまま動きません……あれ? 何故動かないんですか?」

 

 飢餓状態でも一応体を動かすことはできるはずなのに、座り込んだままうんともすんとも言わないエリーさんに聞いてみます。ですがエリーさんはぽ~っと虚空を見つめるばかりで何も言ってくれません。お薬が効きすぎたんでしょうか?

 

 「え、エリー?」

 

 仕方がないので、エリーさんを抱き上げてマーシャさんの方を向かせます。

 

 「お薬が効きすぎてしまったようですね。ところでマーシャさん、私の正体はおわかりいただけたと思うのですが、エリーさんの正体はご存知ですか?」

 

 「な、何を言ってるんですか? 話が二転三転しててもうわかりません」

 

 「いえいえ、そんな複雑な話はしていませんよ? 今の状況を説明し終えたので、これからマーシャさんの知りたがっていたエリーさんの隠し事をお教えしようとしてるんです」

 

 マーシャさんはどうしてしまったのでしょう? 汗をかいて、浅い呼吸をしています。私がそんなに怖いのでしょうか? それともエリーさんに隠し事をされていたことがショックなのでしょうか。

 

 「エリーさんの目を見てください。黄色いでしょう?」

 

 黄色いと言うか黄色く濁りきった瞳。焦点も微妙に合っていませんね。濃密な血の匂いを嗅がせて飢餓状態に陥らせるお薬を使っただけなんですが、こんなに重度の飢餓状態になるなんて思っていませんでした。

 

 「これは飢餓状態になったヴァンパイアやハーフヴァンパイアの特徴です。ヴァンパイアならこのまま放置しておくと死にますが、エリーさんはハーフヴァンパイアなので放っておいても大丈夫ですよ」

 

 マーシャさんは固まったまま何も言いません。反応がないのは寂しいですね。

 

 「飢餓状態は本当に辛いんですよ? 私も経験がありますが、それはもう血を吸いたくて吸いたくて堪らなくなるんです。今のエリーさんも血を吸いたくてしょうがないと思います」

 

 「だ、たから何を言っているのかわかりません!」

 

 あら、わかりませんか。でははっきりと端的に。

 

 「エリーさんはハーフヴァンパイアなんですよ。今まで一緒に生活してて、エリーさんの目がこうなったことはありませんでしたか?」

 

 「それは……」


 心当たりがあるみたいですね。まぁエリーさんをどうするかはゆっくり考えてもらうとして、一度エリーさんを正気に戻しましょう。

 

 日光を浴びせればハーフヴァンパイアの飢餓状態は治まるらしいですが、マーシャさんに見せつける意味もかねて、血を飲ませて治めましょう。私のお弁当ですけど、エリーさんに差し上げます。

 

 「ほら、口を開けてください?」

 

 エリーさんに上を向かせて、瓶詰めの血を飲ませて差し上げます。ちょっとこぼしてしまいましたが、美味しそうに飲んでくれるのは嬉しいですわね。何より……

 

 「エリー……」

 

 マーシャさんがすごくショックを受けている様子が面白いです。人間だと信じ込んでいた身近な人が、夢中で血を啜る様を見せつけられる。信じられない。あり得ない。そんなお顔を見てしまうと愉悦を感じてしまいますね。

 

 「……え?」

 

 正気に戻ったようですわね。私に抱き上げてられているこの状況に理解が追い付いていない、という感じでしょうか。

 

 「おはようございます。気分はどうですか? ハーフヴァンパイアのエリーさん」

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