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半ヴァンパイアは手四つをする

手四つってわかりますかね? プロレスとかでお互いに両手を掴んで押し合う奴です。

 倉庫でおじさんに報告を終えた私は、マーシャさんの待つ宿に帰ってきた。

 

 「ただいま」

 

 「シャアアアアアッ!」

 

 「どわああああなになになに?!」

 

 部屋に入って来ると同時に、マーシャさんが奇声を上げながら飛び掛かってきた。

 

 「フシュウウウ」

 

 「何?! どうしたのマーシャさん?!」

 

 とっさにマーシャさんの両手を捕まえたせいで、手四つ(てよつ)のような形で押し合う感じになる。よく見ると、マーシャさんはひも状の物を口にくわえているようだった。

 

 「何?! ほんとに何?! なんで襲い掛かって来るの?!」

 

 「えいぃおふぃいふぁいふ」

 

 「えっと、とりあえず落ち着いて? あと何くわえてるの?」

 

 「めしゃあ」

 

 ―何言ってるかわかんないよ。あとこの状況もよくわかんないよ。

 

 私の心の内を汲み取ってくれたのか、マーシャさんは口にくわえていたひも状の物を落とした。

 

 「メジャーです」

 

 ぽつりとそう言いながら、グイグイ押してくる。

 

 「い、一体なんで襲ってくるのかな?」

 

 真顔でじっと私の目を見ながら手四つの力比べを続けるマーシャさんは、ちょっと怖い。

 

 「エリーのスリーサイズを測ろうと思って」

 

 「なんで?!」

 

 「もうそろそろ肌寒くなってくるじゃないですか」

 

 「そ、そうだね」

 

 「そういうことです」

 

 「どういうこと?!」

 

 マーシャさんは説明は終わりと言わんばかりにグイグイ押して来る。私の背後に壁が迫ってきて、そろそろ後ろに引けなくなってしまう。

 

 ―結局何が何だかわかんないよ。どうしよう……

 

 身長差的に私が上から抑え込まれる感じで押される。もちろん押し返せる。なんだったらグイっとマーシャさんの手を抑え込んで、押し倒すくらい簡単にできる。でも、ちょっと力加減が難しい。変に力を入れてしまうと、マーシャさんの手や手首を壊してしまいそう。

 

 「ふふふ。エリー、おとなしくスリーサイズを測らせてください」

 

 「わ、私のシャツを見れば測らなくても大体わかるよ」

 

 「実際に測りたいんです。抵抗しても無駄ですよ? 体格差的にエリーは力で私に勝てませんから」

 

 ―勝てるよ。勝てるけど変に力入れたらマーシャさん怪我するから……

 

 「ぼ、冒険者に腕力で勝つつもり?」

 

 「エリーはあんまり強そうに見えないじゃないですか。腕だって私と同じくらいの太さですし、おててもちっちゃくて柔らかい。戦う人の手って感じじゃないですよ?」

 

 ―”おてて”って……子供みたいな言い方しないでよ。

 

 「同じ太さの腕なら、長さ分私の方が有利です。それに、こうやって上から抑え込めるんですから、この押し合いなら私が勝ちます」

 

 ―マーシャさん、私のことあんまり強くないって思ってるんだ。最近は新米冒険者と間違われることも減ってきたのに、なんで……

 

 マーシャさんが私を弱いと思ってると思うと、なんだか、少しショックだった。

 

 「スリーサイズ測って、何するの?」

 

 「エリーが寒くないように、ベストとか作ります」

 

 「まだそんなに寒くないし、ピュラに帰ったらお仕事あるでしょ? そんな暇ないと思うよ?」

 

 「じゃあマフラーを編みます」

 

 「それスリーサイズ関係ないよね?!」

 

 ずるずると背中を壁に近づけながら、マーシャさんはニコリと笑う。きっと私が何を言っても無駄なんだろうと思わせられる。

 

 ―マーシャさん、私のことを冒険者だと思ってないんだ。これから寒くなることくらい私だってわかってる。1人でちゃんと対策できるのに。寒くないように服を作るとか言って、”おてて”なんて言い方して子ども扱いするんだ……

 

 「えい」

 

 壁に追い詰められないように、私とマーシャさんの位置をくるりと入れ替える。これでまだ後ろに下がれる。マーシャさんはちょっとびっくりしたみたいだけど、それでもグイグイ押してくるのをやめない。

 

 ―私のことを大人の冒険者だって思ってないから、そういうこと言ったりするんだ。だったら、

 

 「……だったら」

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 私は力を抜いて、後ろに倒れ込む。頭を打たないように気を付けつつ、私に引っ張られて倒れ込むマーシャさんを体で受け止める。

 

 「え、エリー? ごめんなさい強く押し過ぎました」

 

 私が自分で力を抜いたのに、マーシャさんは私が力負けして倒れたんだと思ってる。

 

 ―ちょっと、嫌な感じ。

 

 私は力を抜いて倒れる直前、私の方が力が強いってことを証明しようって考えた。ちょっと力を入れて、マーシャさんの腕を抑え込んで、そのまま膝をつかせようなんて思った。それが、嫌だった。

 

 ―”だったら”なんだって言うの? マーシャさんに痛い思いさせるなんて、ダメに決まってる。マーシャさんの味方でいるって、決めたんだから。

 

 私が心の中でいろいろ考えていると、マーシャさんは私の上からどこうと上半身を起こす。ちょうど私に馬乗りになる感じ。

 

 「えっと、手を放してください」

 

 マーシャさんはそう言いながら、手四つの時のまま握った手を振る。

 

 「放したら、何するの?」

 

 「え、スリーサイズ測りますけど?」

 

 当たり前のようにそう言い放たれた。


 「えっと、さっきも言ったけどマフラー編むならスリーサイズ関係ないじゃん」

 

 「いえ、正直に言うとただエリーのスリーサイズを測りたいだけなんです」

 

 あっけからんと、すがすがしいほど堂々と言われてしまった。

 

 「マーシャさん、今日おかしいよ。無理矢理スリーサイズ測ろうとしたり、ただスリーサイズを測りたいとか言ったり……危ない人みたいだよ」

 

 私は手を放さずに、何とかマーシャさんの凶行を止めるべく説得を始める。まず手始めに”危ない人”のようだと言って反省を促すことにした。

 

 「危ない人って何ですか? あと手を放してください」

 

 「んと、変態?」

 

 「まぁ、変態だなんてひどいです。でも、私が変態的な行動をとるのはエリーがかわいいせいなんですから、エリーが責任取ってください」

 

 「え、私のせい?」

 

 「エリー以外の人のスリーサイズなんて興味ないですし、測りたくないですよ。だからやっぱりエリーのせいです」

 

 ―んんん? えっと、、、私のスリーサイズだけを知りたいから、私のせい……? なんで?

 

 マーシャさんの言ってることをうまく解釈できなくて、考え込んでしまう。もちろん手は放してない。マーシャさんは私が考えてる隙に私の手をほどこうと、私につかまれた手をブンブン振ったりしてる。

 

 「あ、握力結構ありますね」

 

 「あ、ごめん痛かった?」

 

 ”痛かった?”なんて聞いたけど、放すつもりも緩めるつもりもない。

 

 「痛くはないけど……ほどけない……」

 

 「そっか」

 

 痛くないならいいかと思って、もう一度考え込んでみる。

 

 ―私のスリーサイズだけを知りたいのは、マーシャさんが他人のスリーサイズを測りたい変態なんじゃなくて、私のスリーサイズだけを測りたい変態ってこと? それは私のせいじゃなくない? いや、私がマーシャさんをスリーサイズを測りたい変態にしてしまったということ? なるほどそれなら私のせいだね……ってそんな屁理屈通らないよ。

 

 「私のせいじゃないよ」

 

 「え? 何がですか?」

 

 がっくりと力が抜けた。マーシャさんは私の手をほどく方に集中してて、さっき自分が言ったことを覚えてなかった。

 

 「あ、でもいいですねこれ」

 

 ―今度は何?

 

 マーシャさんは私の手をほどくのをやめて、手四つしてた時みたいにぎゅっと私の手を握り返す。そして満面の笑みで

 

 「エリーと両手で恋人つなぎ~」

 

 と、つないだ手を私に見せるようにしながら言った。

 

 「な、なんでそう言うこと言うのかな!? そういうんじゃないから! 手を放すとマーシャさんがスリーサイズ測ろうとするから!」

 

 恋人つなぎなんて言われて急に恥ずかしくなってきた。けどよく考えれば、スリーサイズ測られるよりマシな気がする。

 

 「あ、マーシャさん明日時間ある?」

 

 そう言えば買い物に誘うつもりだったのを急に思い出したから聞いてみる。

 

 「ごめんなさいエリー。王都にいる間基本毎日暇してますけど、明日だけは予定があります」

 

 ―あれ? てっきり開いてると思ってたんだけど。

 

 「予定って?」

 

 「エリーがお仕事してるときに買い物に行って、その時知り合った人と約束があるんです」

 

 「へぇ、どんな人?」

 

 「薬師の方で、とってもきれいな女の人ですよ。レーネさんという方で、王城に出入りできる人らしいです。とってもいい人なので、エリーにもそのうち紹介しますね」

 

 「そっか。それなら明日私がマーシャさんと一緒に行けば会えるかな」

 

 「あ、明日はダメ。2人だけで会うことになってるから」

 

 ―なんだか急に怪しくなってきたんだけど……

 

 「大丈夫? ほんとにレーネさんはいい人なの?」

  

 「大丈夫! 心配いりませんから!」

 

 そう力強く言い切られると、あんまりとやかく言えないね。ちょっと心配だけど。

 

 「2人で会って何をするの?」

 

 「秘密です」

 

 ―やっぱり心配。普通に心配だよ。

 

 「じゃあ明日、私はどうしようかな」

 

 「エリー、明日のこと考える前に、お風呂に入ってきたらどうですか? 下水道の匂い、ついてますよ」

 

 ―そう言えば、そうだった。 

 

 「お風呂入って来る」

 

 「はいいってらっしゃい」

 

 私はマーシャさんの手を放し、マーシャさんの下から抜け出して、いそいそとお風呂の準備を始めた。

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