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半ヴァンパイアは報告する

 王都には治療院が2か所ある。1つは昔からあるしっかりした設備がある場所で、薬草を育てる大きなプラントが併設された白い建物。もう1つはアンデッド襲撃後に建てられた小さな建物。治療院では神官と薬草に詳しい人、あと薬師の人が運営している施設で、名前の通り治療とか病気の診断とか、薬を売ったりしてくれる場所。お金がいっぱいかかる。

 

 私たちは下水道から出てきて、アーノックを担いで小さい方の治療院に駆けこんだ。下水道で怪我をして今は熱があると伝えると、寝台と薬を用意してくれた。

 

 「傷口からの感染でしょうな。よくあることなので、薬は十分にあります。安心してください」

 

 とのことだった。もうアーノックは大丈夫だと思う。1週間くらい治療院でお世話になることになった。

 

 「で、どうするよ」

 

 セバスターが治療院の出口で、ボソッと聞いてきた。

 

 「どうって、依頼は失敗になるんじゃないの? アーノックなしでまた調査に行くのは無理だと思うし」

 

 私が答えると、セバスターが“そうじゃねぇよ”って首を振る。

 

 「下水道にあんな大量の魔物がいるってバカ正直に報告すんのかよ」

 

 「するでしょ」

 

 ―あ~、うん。するする。いやしない訳にいかないし、報告するよ。

 

 即答したあと、下水道で出会ったご主人様の弟子の人のことを思い出してちょっとだけ迷った。

 

 ―あの人のことは言わないつもりだけど、それでも魔物がたくさんいるって報告すれば、冒険者いっぱい雇って下水道の魔物の討伐ってことになるだろうね。弟子の人からすると困るだろうけど、それはそっちで対応してもらおう。

 

 「なんでそんなこと聞くの?」

 

 「だってあいつらアーノックを病気にかからせてんだぞ! 俺の手で処刑すんだよ! お前らはともかく見ず知らずの野郎の手なんか借りてたまるかよ!」

 

 「いや~無理だと思うよ? いくらでもスケルトンとか出てきたし、カラスは攻撃効かなかったし」

 

 ”ユーアさんも何か言ってよ”という気持ちでユーアさんを見てみる。フードのせいで顔が見えず、何考えてるのか全く分からない。

 

 「スケルトンがいたということは、死霊術士がいたということになる。あの剣やカラスも何らかの魔術が関与しているかもしれないな」


 と下水道で出会った魔物の考察をしてくれた。死霊術士には会ったけど、他の魔術ってことは錬金術とか呪術も使える人がいるのかな。わかんないけど。

 

 「とにかく報告には行かないとだめだよ。私たちの手に余るから依頼は失敗で終わりになると思うけど、ちゃんと報告しなきゃダメだよ」

 

 セバスターはまだ納得してないみたいだったけど、舌打ちしながら頷いてくれた。

 

 下水道に降りたのは朝だったけど、今はもう夕方を過ぎて夜になりつつある時間。結構長く下水道にいたことになる。早めに報告に行くべく、私たちは依頼を受けた場所に戻っていった。

 

 

 

 

 「私が報告するの?」

 

 「お前が適任だからな! 俺はよくわかってねぇし」

 

 依頼を受けた例の倉庫の前で、セバスターは私が報告してくるように言い出した。セバスターがあることないこと報告するよりいいと思うけど、なんで私?

 

 「ユーアさんはじゃダメなの?」

  

 「別にいいぞ」

 

 「まぁいいけどよ」

 

 ユーアさんでもいいってことは、セバスターはとにかく自分が報告するのが嫌なんだろうね。別に誰が報告してもいいような気がするんだけど。

 

 「……あ、わかった。依頼受けるときに”任せとけ”とか言って自信満々で報酬の交渉したのに、調査を途中であきらめるっていう報告をするのが恥ずかしんでしょ」

 

 「子供だな」

 

 「うがああああああああああ! エリーてめぇふざけんなコラぶっ殺すぞ死ね! あとでブチ〇してやる!」

 

 ―図星付かれたからってそういうこと大声で言わないでよ。

 

 「100回泣かす! ぼろ雑巾みてぇにしてから北西区の路地裏に捨ててやるからなぁ! 覚えてろよクソがあああああああああああ!」

 

 セバスターより大人な私は、まだうるさく騒ぐセバスターをスルーして倉庫に報告に向かうことにする。

 

 

 

 

 

 

 「ええ?! 地下にそんな魔物が?!」

 

 昨日セバスターが依頼をぶん取ってきたおじさんに下水道で出会った魔物について話す。

  

 「あと、数も多かったです。カラスもスケルトンも切りが無いくらいで、ひとりでに切りかかって来る剣は、一度に出てくる数は少ないですが何度も襲ってきました」

 

 「それが本当なら、下水道はかなり危険な状況ですね。トレヴァー伯爵に相談しなければ……あ、下水道で感染症に罹患(りかん)された方がいるんでしたね。治療費はこちらでお出しします。依頼達成とはなりませんが調査はしっかりしていただいたようなので、少ないですが金貨16枚を報酬としてお渡しいたします」

 

 ―太っ腹過ぎない? 事情があっても、異臭は解決してないし魔物は討伐できてないんだから、依頼失敗で報酬なしとかが普通なのに……

 

 「いいんですか?」

 

 「はい、貴重な情報を持ち帰っていただきましたし、何よりお仕事をしていただいたので報酬はお支払いします」

 

 と、ニコニコ笑顔で金貨16枚をくれるおじさん。15枚じゃなくて16枚なのは、4人で分けやすいように15枚のところを1枚増やしてくれたのかな。気が利くというか優しすぎるというか。

 

 「ありがとうございます」

 

 しっかりお礼を言って、倉庫をでる。ユーアさんとセバスターは出口近くで待ってくれていた。

 

 「報告してきたよ」

 

 「……ッチ」

 

 「どうだった?」

 

 セバスターは私の方を見て舌打ちして、ユーアさんは普通にどうだったか聞いてきた。

 

 ―図星突かれたくらいでどれだけ怒ってるのかな。私が悪いみたいじゃん。

 

 「金貨16枚もらえたよ。1人4枚ね」

 

 「報酬が出たのか?」

 

 「うん。働いた分は報酬を出すって言ってたよ」

 

 「金払いが良すぎて気持ち悪い」

 

 機嫌が悪いせいか依頼主に文句言い始めたよ。もうなんか何言っても怒りそうだし話しかけないでおこう。

 

 報酬の金貨16枚の入った袋を一度出して、2人が見えるように中から4枚取り出す。

 

 「はい」

 

 ユーアさんに差し出すと、ユーアさんも私やセバスターが見えるように4枚取り出す。

 

 「あとはアーノックとセバスターの分ね」

 

 と言って残りの金貨を全部セバスターに渡す。

 

 「アーノックが病気になっちゃったし、もうみんなでトレヴァー伯爵の依頼受けなくていいよね?」

 

 「ああ? てめぇ嫌なのかよ?」

 

 ―あ、ごめん言い方が悪かった。

 

 「ごめんそうじゃなくて、せっかく王都に来たんだしマーシャさんと遊びたいなって思って」

 

 「そうかよ。好きにしろよ」

 

 「ユーアさんはどうしたい?」

 

 「酒飲む」

 

 ―うわぁ端的。

 

 「じゃ、今日は解散ってことで」

 

 なぜか私が仕切る感じになってたけど、とりあえず依頼も終わりになった。明日マーシャさんの予定が開いていたら、一緒に買い物に行こう。たぶん開いてるだろうし。

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