魔術師たちは挟撃する
我々が潜伏する下水道に、2度目の調査が入った。1度目は3人の冒険者だったが、今回は4人のようだ。
「操鉄剣の準備はいいな?」
錬金術師たちに問うと、彼らはそろって頷いた。
1度目の時は2本の操鉄剣だけで追い返すことができた。今回も様子見を兼ねて、まずは2本で相手をさせよう。
「撤退させたとして、操鉄剣の存在を知られれば錬金術師がいると察する者もいるかもしれない。先に明かりを壊しておけ」
シュナイゼルは指示を出しながら下水道を進む。調査に来た冒険者4名からつかず離れず、決して視線の通わない位置を維持する。冒険者たちは分かれ道で必ず右を選んで進むのを確認し、錬金術師5名のうち3名を先回りさせる。
「……やれ」
シュナイゼルの言葉通り、操鉄剣は冒険者の進む先からランタンを破壊しながら飛来した。光源を失い深い闇とかした下水道では、冒険者たちは飛来する何かの正体も数もわからないはずだった。
先日の3人はこれだけで手傷を負わせ、撤退させることができた。シュナイゼルは今日やってきた4人の力量を計るべく、様子をみる。
先頭を歩く男は初撃を躱し、その一瞬で攻撃したのが剣だと見破った。これは驚くべきことだとシュナイゼルは思う。
錬金術師たちは初撃の後は少しの間威嚇するするように言われていた。彼らは冒険者の手持ちのランタンの光が当たらないように移動し、風切り音を発する。
「奥に見られたくないもんがあるって事だな?! 誰が引き返すか!」
そう怒鳴る声は、先回りした錬金術師たちにも聞こえたのだろう。操鉄剣は威嚇をやめ攻撃を始めた。
そして、魔法使いの生み出した氷がランタンの光を反射したことで操鉄剣の姿を見られた後は、あっさりと破壊された。
操鉄剣を見られた上、暗闇というこちらのアドバンテージを覆す方法を持っている以上、彼らを追い払うよりここで抹殺した方がいい。
「長、どうする?」
「挟み撃ちを狙う。ネズミをけしかけて時間を稼ぐよう呪術師たちに伝えろ。あと死霊術士たちを呼べ」
「御意」
「あーまて、確かカラスを下僕にした呪術師がいたな。挟み撃ちの時に使うから、呼んでおけ」
呪術によって巨大化、狂暴化したネズミは魔法使いによってすべて氷漬けにされて終わった。壁や床、天井を氷で覆うことができるなら、床を埋め尽くして近づくネズミの群れはただの的でしかない。
「……まぁいい、準備は整いつつある。厄介な魔法使いには、少々痛い目を見てもらうとしよう。カラスに魔法使いを襲わせろ」
「大した怪我は追わせられないと思うが?」
「ここは下水道、不衛生極まりない場所だ。小さな傷をいくつも付ければ感染症に罹るのは必至だ」
「なるほど」
「退路をスケルトンで塞ぎ、操鉄剣とカラスで消耗戦を仕掛ける。操鉄剣には限りがあるが、スケルトンとカラスの数は十分だ。使った分は後で補充すればいい。あの4人をここで仕留める」
「了解」
シュナイゼルの指示通り、魔術師たちは冒険者4人に挟み撃ちを仕掛けた。スケルトン多数、カラス多数、操鉄剣4本に対し、4人はそれぞれ分散して対応することを余儀なくされた。
「スケルトンと戦っているあの男、強いな。やはり10体では足りないようだ。ありったけぶつけてやれ」
「はい」
「操鉄剣はなぜ武器を持つ者ばかり狙うんだ。丸腰の者から片付けたほうがいいだろう」
「武器持ちを最初に片づけておけば後が楽でしょう?」
「先ほど負けてなかったか?」
「今回は4本ですから大丈夫です」
「カラスに攻撃が当たっていないのはなぜだ?」
「本物のカラスではない、いわば幻……」
「幻なら傷付けられないだろ」
「ただの幻ではない。呪いの爪、嘴だ」
「そうか」
スケルトンは次々と倒され、倒された以上の数を送り込み続ける。操鉄剣は破壊されたが、すでに次の操鉄剣の準備を進めていた。そしてカラスは攻撃が当たらないため、魔法使いを一方的に攻めいくつもの傷をつけていった。
「無視するにはカラスが厄介、倒すにしてもスケルトンの数が多い、となれば逃げるしかないだろう」
錬金術師の3度目の正直として飛ばした操鉄剣に、壁に備え付けられたランタンだけでなく冒険者の手持ちのランタンも破壊させる。これで完全な暗闇になる。
次に分断だ。スケルトンは掴むか噛みつくか組み付くしか攻撃しないからと、強引に進もうとしていた。そこで冒険者の後ろだけでなく前からもスケルトンを送り込み、カラスの鳴き声や操鉄剣の音で方向感覚を狂わせる。結果簡単に4人を分断することができた。
「やだ! 離して! セバスター! アーノック! ユーアさん! 助けてぇ!」
大声で助けを呼ぶ冒険者。カラスの鳴き声より女の悲鳴の方がよく通る。さすがに分断された仲間にはっきりとは聞こえていないだろうが、声を頼りに集まられても面倒だ。まずはこいつから仕留めるとするか。
スケルトンで拘束し、操鉄剣で貫く。操鉄剣の攻撃でスケルトンも1,2体倒されるだろうが、構わない。パニックに陥っているうちに仕留めるべきだ。
「ご主人様ぁ! ギドォ! 助けてえええ!」
シュナイゼルが錬金術師に冒険者を仕留めるよう指示を出そうとしたとき、そう叫んだのが聞こえた。
ギドだと? 師匠の従僕の海賊船長ギドか? 少し前にギドが骨製の海賊船ボーンパーティで王都を襲撃したことは、地上で情報収集したときに知っていた。そしてこの冒険者はそのギドに助けを求めた。どういうことなのか、確かめておくべきか。
シュナイゼルはスケルトンに冒険者を拘束させたまま、攻撃を中止する。
カツンカツンと足音を立て、ランタンを片手に拘束した冒険者に近づいて行った。
100部目になります。投稿を始めてから約半年経ちました。これからもよろしくお願いします。