4話 『ハッピーターン』
堅っ苦しい授業は終わった
年配のおっさん、要するに白髪の側面だけにしか髪の毛が存在してない男のどーでもいい講義に時間をたんまりと使われて俺の心は疲れ気味だった
こう見えて俺は国公立大学に行っていたりする。あんなゲーム大好きです、言葉遣いは荒い、そんな感じを出していた俺だけど以外と中、高は勉強に励んでいた
こう考えるとやっぱり妹は俺の背中をしっかりとついて行っているのかもしれない。しっかりとついて行っているのであれば、大学生になるとグレるってことになるんだろうけど
現に自分で言わせてもらうがグレている、そんな属性に部類されているんだろう
みんなオシャレっていうのかそれなりに周りの目を見てしっかりと服選びしてきてるんだろうけど、俺のやつはほぼパジャマと変わんない
要するに言うと、女子からは『あの男の服ダサすぎやし絶対ないわー』といった具合に引かれている感じだ
それに髪の毛はここ最近切りに行っていないな。
モテる男は1ヶ月に一回だけでも毛先を整える程度に美容院に行くと聞いたことがあるが、あれって本当なのか?
すんごい金と時間の無駄なきがするんだが。そう思うのは俺だけだろうか
と、まぁ話はずれてしまったが俺は今、とにかく疲れているんだ。いつもより2時間も早く起きて、朝からトンカツを揚げて妹の弁当を作ってやって、どーでもいい講義を聞いて、
心底気持ちはかなり重いしだるい
今から1時間かけて家に帰るわけなんだけど、その帰る途中の電車で座れなかったらさらに落ち込んじゃうレベルだ
え、バイト?
いやいやいやい、この俺がするわけないだろ。毎日半日大学行ってあとは家でシエスタに決まっているじゃないか
ゲームして、ゲームして、ゲームして、
うん、そういうわけで俺は家に帰ってゲームをしたいんだ。
ゲームこそ俺の真の癒し、疲れの発散先なのだ!
「さてと、家に帰ったらゲームでもしようか。結局妹の弁当作ったせいで朝はできなかったわけだし」
服をまくって右手に巻き付けられている一つの時計の針を目にする
現在は2時50ーー要するに約3時だ
今から家に帰れば4時ぐらいになるだろうか
そうなれば寝る時間を1時としてご飯の時間と風呂の時間とか色々抜いても8時間はゲームをする時間を確保できる
それに妹は部活があるから7時ぐらいまで帰ってはこない。それに今日は母さんもいないから妹はずっと家事仕事に追われるわけだ。
ある程度手伝ってやるとしても同じ部屋だというデメリットはあるが今日に限っては邪魔されず一人でゲームを楽しめそうだ
そう思うと俺の気分は次第に良くなっていった。疲れた気持ちはこれから良くするとして、そそくさと駅へと向かっていつもより早めに歩き始めた
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「ーーーーーーーーー。」
絶句
ただそれ以外のものはない。部屋に入れば俺の楽園が待っている、俺の疲れを吹き飛ばす最高の世界が画面の中には待っている
そんな期待に満ちあふれた感情は一瞬にして消え去った
ルンルン気分な気持ちもこんな光景を見ると何も言葉にできなくなる理由がわかるだろう
俺の体は今にも灰となって風に流されていってもおかしくない状況だった
絶望、言い過ぎかもしれないが俺にとったらその言葉がお似合いだ
扉を開ける。部屋へと視界が合う。
聞き覚えのある声が耳へと入ってくる
それは下からで、もちろんその声のする方へと目を向ける
ーー絶句
「あ、お兄ちゃんおかえり」
「おかえりー」
二人の少女がそこにはいた。俺の聖域にいてはいけないこの二人が
黒髪ツインの妹、そして茶髪ポニテのウザったらしいこいつ
「………はぁーーーーーーーーー!?」
なんとも伸びのいいその場を全否定するかのように長い言葉が響いた
実際のところこんな光景はあってはならない
予定通りに4時には家に着いた。計画は順調だったんだ
家には誰もいない、まさに俺だけの聖域で誰にも邪魔されずゲームをする、そんなことで頭がいっぱいだった俺を大いに落胆させるこの場の現状
はぁーーーーー!?ってなるわマジで
「え、お前らなんでいんだよ。妹は部活があるはずなのに、横のお前は勉強しとかないといけないだろうに」
落胆するあまりか俺の言葉には生を感じ取れない。スーと魂でも抜けてしまったかのようにかすれた口調が続く
お菓子を食いながらうつ伏せで二人の少女がファッション雑誌を読んでいた
それは妹と隣に住んでいるあいつ
まだ4時だというのになんでこいつらがいるんだ
「あー、実は今日、研修会みたいなのがあっていろんな学校から先生が集まって会議する日らしいの。だから部活もできなくて帰宅させられた」
「……お、おう。んでお前は?」
お前、それは紛れもなく妹の横に一緒の格好でファッション雑誌を読んでいた少女のことだった
ウザったらしいのと、いつもハイテンションな性格を見ると妹にしては珍しいとでも言える友達
ていうか親友とまで行く関係だ
「私はちっかーにお呼ばれしたから来ただけだよー。てか、私はお前じゃなくて美月っていう名前がちゃんとあるんだからねー」
「あー悪い悪い。それよりもお前ら二人とも部屋から出て行け、今から俺がゲームをすんだからよ」
俺は年上、この二人は年下。どう考えてもここは部屋を俺に譲るべきだ
そもそものところ、大学生になっても自分の部屋がないというのがまずおかしな点だ。なんで成人した男が8年も離れた妹と未だに同じ部屋で寝ているんだ
それに二段ベットもいつになったら卒業するのだろうか
本当にこういう時にめちゃくちゃ困るんだからよ。
「なんで?最初っから私たちがいたし、そもそもここ私の部屋なんだけど」
妹からの抗議の声が聞こえたかと思うと俺は即座に返答した
ゲーム中毒でもなっているかのように震える手が止まらないまま
「うっせえ!ここは兄貴へと素直に部屋をわたしゃあいいんだよ。」
「そんなこと言われても、私たちが困るもん」
「そーだそーだー!健のばーかばーか」
美月からは暴言しか聞こえなかったけど、妹の言葉を聞くとそれもそうだ、と思うーーーんなわけないだろ!
今の俺は計画がめちゃくちゃにされて腹が立ってしょうがないんだ
いつもの優しい俺はここにはいない
たとえ相手が女だろうが妹だろうがもう関係ない
俺はゲームがしたいくてたまらないんだから
「いいから部屋から出て行け!」
「絶対やだ」
「いいから出て行け」
「嫌なもんは嫌だ!」
兄貴と妹のよくありそうな日常喧嘩。そんな感じのものが美月の目には写っていた
美月はテンションは高いし少し天然キャラが混じっている
そこが可愛かったりするのだがーー、と妹は思っている
そんなことを思われているとはさぞ知らずに美月は笑みを浮かべながら兄弟の口論を体勢を崩さず見ていた
ちっかーの方は口論に発展するやいなやすぐさま立ち上がってお兄ちゃんと何やら喧嘩を始めた
これがいつものことなのかどうかはわからないけど、一人っ子の自分にとってはなんだかんだ羨ましくも見える
そんなことを考えながら、お菓子を口に入れた。手にはそのお菓子のパウダーが少しだけつく
それを舐めて、またもう一枚口に入れる
パウダーが何より美味しいのがこのお菓子だ。つまり、ハッピーターンっというお菓子だった
「ーー!」
そんな美月の姿を見てか妹は急に何も言い返さなくなった。
表情も変えずに、ましてや俺の方なんて見ずに美月の方を見てやがる
何か考えているのか?
まぁ、それがどうとあれ今から俺がこの部屋を使うのは確定事項だ。さっさと諦めて出て行って欲しいものだ
「ねぇお兄ちゃん」
「なんだ?ようやく部屋から出て行く気になったか?」
「そうじゃないよ。このお菓子を見て」
そう言われて目に映ったのは俺も大好きハッピーターンだった
パウダーがスナック部分にたんまりかけられていてとても美味しいやつじゃないか
「ハッピーターンだけど、それがなんだっていうんだよ」
「これで、どちらが多く豆知識を言えるか勝負ってことにしようよ。」
「はぁー!?そんなのお前が有利に決まってんじゃねぇかよ。言い出しっぺはずるくねぇか?」
そういうと妹は挑発してくるかのように言葉を並べる
「え?もしかして負けるのが怖いの?」
「んなわけねぇだろ勝負だ!」
乗せられたことなんかには気付く余地もない。小さく妹が『ちょろっ笑』と言いながら笑っていたのを美月だけは知っている
お決まりの展開を見せつつ、俺と妹はハッピーターンにおいての雑学対決をすることになった
「じゃあ俺から言わせてもらうことにしよう。ハッピーターンの名前の由来って知ってるか?」
「うん」
「あぁーやっぱり知らねえか。まあ無理もない……って知ってんの!?」
『うん』という言葉が聞こえたような聞こえなかったような
ていうかお決まりの展開になりすぎだろ
普通ここは知らない感じで俺がズバッ!というところなんじゃないのかよ
「あれでしょ。幸福が(ハッピー)が客に戻ってくる(ターン)ように願いを込めて名付けられたんだよね」
俺が言おうと思っていたことを全部言われた
何一つ間違いのない正論を述べられて俺は
「お、おう……そういうことだな」
と、たどたどしく動揺するしかなかった
てか俺、ハッピーターンについて名前の由来についてしか知らないんだけど
「じゃあ次は私だね。ハッピーターンのハッピーパウダーについて、原料は何で作られているか知ってる?」
「そりゃもう砂糖に決まっているだろ。あんなけ美味しくて甘い香りが口いっぱいに広がるお菓子はこの世に存在しないんだからよ」
俺は高々とそう述べる。
現にハッピーパウダーは甘いに越したことはない
前に200%パウダーのを食べたことがあるが甘さの他に少ししょっぱさも感じた気がする
というわけで原材料には
「砂糖と塩が入ってるんだろ?」
「おお、我ながらお兄ちゃん。冴えてるね、まぁ間違ってるんだけど」
「おいおい、間違ってんのに合ってるよ感をだすな」
「原材料には砂糖、塩、アミノ酸、加水分解物が入ってるいるんだよ」
二つほど出せる気のしないものが入ってたけど、とりあえず砂糖と塩は合っていたようだ
たとえわからなくとも答えを導き出す力は今日も冴え渡っているぜ!
「はいじゃあ次お兄ちゃん」
「ーーあ、えっとだな」
やっべえ。最初に言ったやつしか俺知らないんだけども。ここはどう乗り切ろうか
なんか策があると思うんだけどーー
「ーー、じ、実はハッピーターンはああなってこうなった末にできたんだ。なんとも苦悩の道のりだったらしい」
「ああなってこうなったって、どうなったの?」
うん、言葉が見つからないわこれ
もういいか、負けを認めておとなしく身を引くことにしてやるか
「あーもう、わかんねえ」
結局負けた。まぁ、言い出しっぺに有利なのは最初からわかっていたことだけどそれを踏まえて始めたわけだし
今になると先ほどまでよりかはゲームがしたいくてたまらないなんていう感情は治った
「じゃあもうちょっと聞いて」
「ええ!?」
妹からの聞き役になれ発言が聞こえたかと思うと、彼女はそのままハッピーターンについて語り始めた。
どんなに俺がハッピーターンについて知っていてもこいつには勝てない、そんな気がした。
「表面に溝を作ることでハッピーパウダーがうまく絡まり合ってそれのおかげ人気になったんだよ、お兄ちゃん」
妹はなんだか楽しそうに話を続けている
そんな妹を見て半ば呆れながらも最後まで聞いてやることにした
美月はそんな二人のやりとりを楽しく聞いている
妹と俺の会話は他者から見ればどんな風に見えているのか知りたいもんだ
憎たらしい妹との会話を