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現実はアニメの妹よりも可愛いくはない  作者: 成瀬 諒太
一章 『妹といつも通りの日常』
4/6

3話 『お弁当』



「……たくっ、結局俺がやんなきゃなんねぇんだから。」



愚痴をこぼす声が聞こえつつ、台所には水がシンクを叩く音が響いている

それと同時に皿と皿が擦り重なり合ってなる高い音も一緒になっている


手は白く泡だった洗剤のせいでさらに乾燥してカサカサになっていくのがなんとなく感づく

スポンジを右手に、左手には妹がさっきまで食っていた米粒が若干残る茶碗


結局俺は妹の分までやってやることにした。口ではあんなこと言っていたが、なんだかんだ言って自分のだけ洗っておくというのは人間として良くないと思う


たとえ、相手が"妹"であろうがなんであろうが人としての優しが見える場面だろう

あいにく俺は人に嫌われるというのだけはあまり好きではない


妹にももちろん嫌われるというのだけはーーまぁ、無視はされたら嫌だよな

とにかく、俺は実際のところ素では優しいんだ

自分で言うのがすんごい恥ずかしいけど俺は誰にでも親切な優しいやつだなんだよ


自画自賛しつつ、俺は皿洗いを続ける。

手はあれるだろうし、なんといっても邪魔くさい。それを親切心だなんて下手な言い訳をして皿洗いを続けた


結果、肌はあれ、ぱっくり割れを発症した





***********************************************






「さてと、大学に行くにもまだ時間はたんまりあるわけだし、昨日のゲームのルート回収にでも向かおうか」



妹の分まで皿洗いを終えた俺は暇のあまゲームでもしようかと考えていた

ゲームといっても戦場ゲームの類だ。銃を片手に敵を打ちまくって殺しまくるやつ


ミッションを達成したらそのゲームの世界だけで使えるお金ももらえるし、それで新しい銃も買える

まぁ、めんどくさい奴は課金という手段も取れるが


俺はもちろん無課金を貫き通している。正直言ってゲームは好きな方だが課金をするということにだけはよく意味がわからない

簡単に言えば課金した奴らは自分の力じゃどうにもならんから(運多少ある)お金を使って強くなろうとするんだろう

どんだけ技量があろうが武器のせいでストーリーが前に進まないこととかあるし


たとえそうだとしても、俺は無課金を貫き通す!


と、無駄なことで尺を使ってしまったがまぁそこは見逃してくれ。俺がとにかくゲームを愛しているということだけを知っといてほしい



「確か昨日はオンラインで仲間を集めて一緒に協力プレイしてたんだったっけな。最後の最後に俺が裏切って全部お金は貰っちゃったんだけど」



昨日のプレイ画面を思い返すとついついにやけてしまう。

最後の最後で裏切るなんていうアニメや漫画みたいなことをゲームの世界でもいいからやってみたかったんだよね


案の定、気分爽快ストレス解消!

ゲームほど楽しいものはないと実感できた時間だった


妹にもゲームの楽しさというものを知ってほしいものだ。あいつが俺の背中を見て育ってきたのなら必然と俺の後を追いかけてゲームを一緒にプレイしていたはずだろう


だがあいつは俺と真逆の道を行きやがった。成績優秀スポーツ万能、なんだよそれ

常にオール3でスポーツは不得意ありの俺にくれべたら本当に家族なのか?って疑問を抱いちゃうくらいだよ


それに俺よりも性格はいい(おそらく学校では)し、料理もできるし手芸だってお手のもんだ

つまり、女子力も抜群というわけだ


そんな妹を見ていると嫉妬心を抱く、普通ならそうかもしれないが

いいことに俺はさほど妹にあの頃は興味がなかった


中学生に上がるにつれてだろうか、あいつと俺がこれといった雑談を話すようになったのは

あの時は俺ももう大学1か2回生だったと思う



「て、なんで急にあいつのこと考えてんだよ。あぁ、頭ん中が気持ち悪い」



妹がいなくなった空間はやけに冷たく静かに感じる

そう感じる理由なんてわからない。知りたくもない。


あんな朝っぱらからご飯かライスかで口論になるようなやつなんかを……ん?


てかさ、あいつ今日の朝ごはん、白飯しか食べてなかったよな。

確か母さんがいなかったがために朝ごはんができてなくてたまたま炊いていた白飯を食べてたんだ


だったら、思うんだけども



「あいつ、昼飯どうするつもりなんだ?」







***********************************************






「はぁー、やっと授業終わった」



小さく伸びをして、授業の終わりを知らせるチャイムの音が教室中を響いていく

それと同時にクラスメイトのペンや消しゴムを筆箱に戻そうとする音が雑に聞こえる


1時間目から4時間目までぶっとうしで毎日やり続けている授業、それが終わると待ちに待った昼休みだ

お弁当を食べる時間と別に20分間の休み時間が存在する

簡単に言うと30分の間の昼休みのうち10分はお弁当を食べる時間というわけだ


お腹も早くごはんを食べたいとでも言っているかのようにぐ〜となっている



「あ、ちかちゃん!早くこっちおいでよー。みんなで一緒にごはん食べよー!」



女の子の声だ。もちろんクラスの友達

いつも一緒にごはんを食べているうちの一人の子だ

二年生に上がった時はあまり喋らなかったけど今ではこんな感じの仲だ



「うん、わかったー。」



返事だけ返しておいて、いつもごはんを食べる場所を見る

もういつメンが揃っていて、要するに私待ちだ


持ってきたカバンの中にいつものように突っ込む。そこにあるいつもの感触を確かめーー、ん?


いつもの感触が手に伝わってこない。いつもはなんとなくでわかるんだけど今日はなんだか違う。

慌ててカバンの中身を見る。

慌てて確かめてみるとそこには



「(あれ、お弁当ないんだけど……)」



え、うそ!?いつもはちゃんと持ってきてるのに。なんで今日に限って忘れちゃうの!?


慌てて覗いては手でさぐり、覗いては手でさぐりを何回も続けた。が、やはりお弁当箱は私のカバンの中にはなかった



「どーしたのー?早く食べよー!」



少し離れた席から催促の声がかかる

みんなも待っているわけだし、素直に弁当忘れちゃったとでも言っておくことにしよう

じゃないとみんなにも迷惑がかかるだろうし


私はしょうがなく手ぶらで彼女らのところに向かった。もちろん言い訳の言葉は思いついている


確か今日はお母さんが急に朝早くにお仕事に行くことになってお弁当が用意できなかったんだ

お兄ちゃんと一緒に白米だけで朝ごはん食べたし


いつもならちゃんと連絡くれるのに、今回が今回だからまぁ、しょうがない

お昼ごはん、どうしようかな



「あれ?ちかちゃん、お弁当は?」



「あ、えーと、実は……」



ガラ



加減の効いたいい滑りと音で教室のドアが開いた。窓は全開だというのにそこだけはいつも閉まっている

昼休みはそうするようにしないといけない、確かそれがここの学校の決まりだったと思う



「2年2組、相澤ちかがいるクラスはこちらで間違いないでしょうか」



気の抜けた声と慣れてない敬語なんだとそこにいたクラスメイト全員が一目瞭然に気づくレベルの適当な口調


白いシャツに一枚気慣れている紺色のパーカーを身にまとった青年がドアを開けて立っていた

それは紛れもなく俺だった



「え、えーと、ちかさんなら私の横にいますけど」



俺はそう発言した一人の少女の方を見た。妹の横にいるってことはおそらく友達の類といったところだろうか

周りには四、五人が群がっている


要するに、いつメンでお弁当タイムってところだったんだろう



「え、お兄ちゃんが、なんでここに?」



驚きを隠せないのか動揺しまくる妹を見て若干心が明るくなった

なんともゲスい感じが俺から漂ってそうだが


いや、そんなことよりもだ。俺はそんな妹の姿を楽しむために来たんじゃなくて、



「なんでって、弁当持ってきてやったに決まってんだろ。いちから作ってやったんだからな」



そう言って渡されるいつものお弁当箱。受け取るとずっしりと重さが伝わって中身がちゃんと入っているということはわかった


ただし、お兄ちゃんが作ったとなると少し心配だ



「ありがたいけど、ちゃんと美味しく作れたんだよね?」



「当たり前だろ。俺はこう見えてだな、大学では家庭科の授業を選択してんだよ。料理食えるからなんだけど」



それを妹にいうとこいつは安心したのか普通に今度は『ありがとう』なんて言ってきやがって、明るい笑みを見せた

まぁ、喜んでくれるならそれでよかった



「それにしてもよく最初から作ったよね。お兄ちゃんのことだろうから冷凍食品の詰め込み弁当だったりして」



「んなわけねぇだろ。ちゃんとわりかし得意なもんばっかの詰め込み弁当だ。それなりにうまいとは思うぞ」



「そうだと思う」



「じゃあ聞くなよ」



たわいもない会話がクラスメイトたちには聞こえる

こいつらみんなは俺と妹が楽しそうに会話しているように見えて仲がいいんだなーとか思ってるんだろうが、俺はそこまで甘い兄貴じゃない


仲がいいんじゃない、俺が優しいんだ!

……えーと、なんてくだらない結論を導き出してしまったんだろう

後々になって後悔する様だった



「ふんじゃあ、俺はこれから大学あるからよ。みんなと仲良くな」



「うん、ありがとう」



「それと、」



俺は内心不敵に笑みを浮かべながら、妹に言った。全く聞き覚えのないようなカタカナの言葉を



「今日の弁当の中に、お前の好みだけどタレを使うやつあるからよ。『ランチャーム』の中に入ってるから。じゃあ」



それだけ言って俺は妹に手を振った。

その時の妹の顔といえば、いつもとは明らかに違い頭にちょうどはてなの文字でも浮かんでいるかのように間抜けな感じだった


片手にお弁当を持って



「え、『ランチャーム』?」



お兄ちゃんは意味不明な言葉だけを残して親切なのか最後にわけのわからない言葉を残していく意地悪な人なのか、よくわからないまま大学へと行ってしまった


私の好みでタレを使ってくれって言ってたけど、どういうことだろう

ランチャームと呼ばれたものと何か関係でもあるのだろうか



「ちかちゃん、お弁当よかったね。あんな学校にまで忘れ物届けに来てくれるお兄さんがいてうらやましいよー」



「え、そう?」



「うんうん、それにちょっとかっこよかったし」



周りにいた友達も口々にそう言い始めた

お兄ちゃんは私が思っているよりも意外と女の子からの第一印象はいいらしい


意外って言ったら失礼だけど、家にいるゲームしかしないお兄ちゃんを見たらどう思うようになるんだろう。なんて他の人よりも半周回って考えてしまう私がそこにはいた



「じゃあ、私のせいでちょっと遅れちゃったけど、お弁当食べよ」



友達が一斉にお弁当のフタを開ける。いい匂いと美味しそうなおかずの数々があらわになる。

いつものようにみんなのおかずは美味しそうだ


同時に私もお弁当のフタを開ける



「あ、卵焼きと、トンカツーー」



もしかして、揚げたの?なんて思った

お兄ちゃんはおそらくトンカツのことを言っていたのだろう。つまり、タレをお好みでかけてくれと言っていたのはソースということだったのか


それで、気になる『ランチャーム』っていうのは



「はぁー、もしかして、これのこと?」



手には魚の形をした醤油やソースなどなど、いろいろな調味料を入れるにはもってこいのポリエチレン製の"タレ瓶"があった


尻尾の方を持って、自然と魚の目と自分の目が合って小さく嘆息した


ーーお兄ちゃんに足元をすくわれた


半開きに落胆した目を見せる。そこに当の本人がいたのならばその光景を見て察することができただろう

ランチャーム、それはタレ瓶の正式名称のことだった




ちなみに意味は「ランチ」と「チャーム(魅力)」を合わせて『ランチャーム』っていう名前になったらしい

俺もお弁当持っていく登校道で暇になったから調べたけど


すんごいまんまじゃん、と思ったのは少なくとも妹も俺も同じだった

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