2話 『ご飯かライスか』
俺はまだ洗面台にいた
妹はさっきまで一緒にいたんだが髪の毛を整えてどっかに行った
おそらく朝ごはんができるまで学校の用意でもしているんだろう
あいつはまだ中学二年生だ。だから少しばかりか楽観的なところがあると思う。
それに少しメルヘンだし
パジャマのセンスといい、あの毒舌な口調といい、学校ではどのように過ごしているのかはなんだかとても気になる
普通に弱いものいじめとかしてそうに見えるのは俺の偏見だろうか
まぁ、優等生な妹は学校でもしっかりとしていそうだが
そういえばあいつの制服姿はなんだかんだ言って可愛いと思う。いや、あいつがもともと可愛いんだろうけどさすが俺の妹だと断言する
憎たらしい性格を除けば普通にモテるんじゃないだろうか
俺にとったら全く眼中にない女の子なんだが
逆に言えば制服姿だけは可愛いってところだろう。俺にとっちゃあそこだけが妹に対してのゆういつの高評価ポイントだと言える
そんなことを考えながら俺はひどいツラを目の前に水をパシャッと顔にかけた
冷たくてそれだけが一瞬俺に心地よい感触を与えてくれる
その一瞬だけが気持ちよかった
「ああ、眠い」
そういえばさっきまで妹になんか言われいたな
あんなの俺は全くもって信じないぞ。じゃないと朝寝坊の言い訳ができないからな
低血圧な人は朝に弱い!そう、ごもっともだよほんと。妹になんだかんだ言われまくったけど、俺はただ低血圧な上に朝寝坊をしてしまうだけだ!
そう心の中で高々と宣言し、一様髪だけ直して俺は洗面台を後にした
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「ん?まじかよ、面倒くせぇな」
そう声を上げたのは紛れもなく俺だった
そう声を上げた理由もしっかりとある。
リビングに置かれた家族全員が昔はよく一緒に食事を楽しんだ大きなテーブルの上に、それはあった
『仕事があるので、早く出ます。後、今日も帰ってくるの遅くなりそうなので朝ごはんと夜ごはんは好きなものを食べてね』
という置手紙があった。
週に約4回か5回。そいつはよく目にするものだ。三年前からこいつはずっとこんな感じだ。
何日に、何曜日に、そんなものはわからず不定期に手紙は置かれている
晩ご飯も用意されないから妹はいつも一人で夕食を作って一人でそれを食べている
なんとも虚しいだろう。まぁ、それがこの家なんだ
そこんところはもうあいつも俺も慣れた
「今日は母さん、仕事があるから朝も夜もいないってよー!飯どうするんだー?」
二階にある俺と妹の部屋に大きな声を上げて言う。妹が部屋にいるんだからそれはやむおえない
それでも少し腹が立って声は荒かった
置手紙"だけ"置かれたテーブルを見て
「わかったー。今からそっち行くから待ってて」
妹の声が小さく聞こえる。あいつがいないと俺の朝ごはんが食べれないんだから早く来て欲しいものだ。
俺は料理に関してはからっきしなもんで
まぁ、それなりに用意らしい用意はしてやるんだが
そんなことを考えていると階段からトストストス、という足音ともに妹がリビングへと降りてきた
ツインテールの髪型が一段降りるごとに横に小さく揺れる
「今日もお母さんいないの?」
「そうらしいわ。朝ごはんどうするつもりだ?お前だって今から朝ごはん作るってなるとさすがに時間がないだろ。ほら、朝練あるだろ?」
妹はリビングにかけられている時計を見た。家に出るには充分な時間はあるが今から朝ごはんを作ると時間的に朝練に間に合わない
そうなるとどうしようか。俺は俺でなんもできないけど、なんかコンビニでおにぎりでも買ってこようか
「んー、お兄ちゃんの役立たず。こういう時に料理上手のお兄ちゃんがいるもんでしょ」
「兄貴をなんだと思ってやがる。」
妹はテニス部だ。それもかなりうまいとだけは聞いている
そんな彼女は朝練だけには遅れたくないんだろう
ま、俺はなんもできないんだけどね
「なんかパンとかないの?」
「昨日俺が全部食っちまった」
「えぇー」
気の抜けた声が妹から聞こえる。
あれだ、まじ最悪とでも言っているようだ
昨日は暇すぎてパンにどのジャムをつけて食べたら一番美味しいんだろ選手権!とかいってくだらないことをしていたな
(ちなみに優勝したのはピーナッツバターだ。単に俺が好きだったからなんだけど)
それがここになって妹の迷惑になるとは。全く想像がつかなかったぞ
あ、でもそういえば、それが飽きて俺は確か、次はご飯でもやってみようとか思ってご飯をーー
「あぁ!!」
俺は何かを思い出したかのように大きく声を出した。
それを見て妹は少し肩をビクッと震わせる
「ど、どうしたの?」
「俺、昨日ご飯炊いたんだった!」
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ホカホカホカホカーーーー
そんな効果音でも流れていそうなほどに白い煙が上がっている
それと同時に甘くいい匂いが鼻の中に入ってくる
「お兄ちゃん、ないす」
ぐっと親指を立てられる。
「はははは、まさかラ〜イスを炊いているとは。俺は未来でも予言してしまった気分だぜ!」
なんだか俺は清々しい気分だった
妹が朝ごはんを作るのに時間がない中、なんだかんだ役に立ったのだ
たとえ相手が妹だと言って役に立てたのならば気持ちい気分にならないわけがない
まさか昨日のあのくだらないことが今日につながっているとは
これぞ結果オーライ!てやつだな
あれ、ちがう?
そんな俺の気分はさておき、妹は俺の清々しい気持ちをふっと消していくかのように言葉を発した
「今、このご飯を見てライスって言った?」
「え??これのどこを見てライスと言わない。この白いフォルム!このまろやかに鼻へとはいっていく甘み!その彼を、ライスと言わない節はないだろ!」
妹の顔が先ほどまで俺にありがとう!て言っているかのように嬉しそうな顔をしていたのに、なんか今はぎこちない
ぎこちないというか、あれだ。同じ顔をしているぞ、いつもと。
「これを、ライス?」
再度妹が俺に問いかけてくる。そんな風に言われると自信がなくなってきたのか俺は少しばかり小さい声で
「あ、あぁ、ライスだ」
と言った
言った直後、妹から呆れた顔が俺に見える。はぁーと息をついて
「やっぱりお兄ちゃんはお兄ちゃんだった。これを見てライスというなんて…」
「じゃ、じゃあなんなんだよ」
ゴクリと息を飲む。妹の顔を見ていると自然とそうなった
この白い物体を見てライスと言わないわけがない。なら、何を妹は指摘しているのか、それだけが不思議だった
「お兄ちゃん」
「お、おう……」
「ご飯とライスは別物なんだよ?」
「ーーはい?」
なんかよくわからん言葉が聞こえてきだが。もちろんそれは俺の聞き間違いだろう
「ご飯とライスは別物なんだよ?」
再度妹からそんな言葉が聞こえる
「……またまたー」
と、俺はそんな妹の言葉を否定するかのようにそう言った
ご飯とライスが別物?んなわけなかろう
ご飯は英語でライスって言うんだぞ?それが別物のわけがないだろ
そこんところは中二の妹でも習っている単語だと思うんだが
「お兄ちゃん、絶対ご飯は英語でライスって言うから私の言ってること信じてないでしょ」
「当たり前だろ。どこをどう見てご飯とライスが別物と言える?ご飯はライス!ライスはご飯だ!」
そう高々と宣言して、お先に盛られたライスを一口。ちょっと粘り気があって水っぽくてうまい
俺好みの味だ
「そう言い切るんだったら、私の話をちょっと聞いてみてよ。すぐに自分が言っていたことがバカらしく思えるから」
「おお、言ってみろよ」
やや挑戦的な態度をとって、妹も一口だけライスを食べた
少なからず美味しそうには食べている
今更思うが朝ごはんがあれだけで大丈夫なんだろうか
「お兄ちゃんの言っている通りご飯は英語でライス」
「ほらーー!!」
揚げ足をとるように俺は妹の言葉に過剰に敏感にそういった
妹の目がギロッとこっちを睨んだと思うとうまくそのあとは言葉にできなくなったけど
「でも英語のライスはご飯よりも意味が広い。炊いたご飯はもちろん、炊いていない米、はたまた稲まで入る。そこを考えると日本人はとてもご飯を大事にしてるってことがわかるよね」
「ま、まあな」
さっき睨まれたことでまだ今も言葉は出にくい。妹ってやつは本当に怖いよ
「でも、それがご飯とライスが別物だっていう根拠にはならないだろ?」
「まぁ話を聞いてよ」
そう言われたので言われるがまま耳を傾けることにした。
これは俺と妹、どちらが正しいのか言わば勝負でもあるのだ。ここを勝ち抜かないで兄貴とは言えないだろ
「では、ここでご飯とライスの最大の違いを教えよう。」
「お、おう」
「ご飯とライスの最大の違い、それは調理方法、つまり炊き方に違いがある」
「た、炊き方?」
ご飯とライスの違いが炊き方にある。そんなバカらしいことを信じていられるだろうか
どこの家庭でも使っている炊飯器を使う調理方法となんの違いがあるというのか?
「ご飯の炊き方はもちろんお兄ちゃんのちっちゃな頭でも知っているように、水から炊いて水がなくなった頃に炊きあがる、という感じだよね」
さらっと俺をディスってきたのに一番腹が立ったが、まぁ、それは全くもって正論だ。では、それ以外の調理法とはいったいなんなのか、それがとても気になった
「お米がたっぷり水を含んでいるから粘り気がある、それがこの調理方法の大きな特徴だよ。今食べているのがまさにそれだよね」
もうなくなるんじゃないだろうか、っていうほどに妹はご飯を食べ進めていた
おいしいーと言いながら
「それに対してライスの炊き方は全く異なる。途中で水を捨てて蒸すという方法で炊いてしまう。つまり、こっちだと外人好みのパラパラした食感になるってこと」
「で、でも、ファミレスとか洋食店だとライスはいかがですか?とか聞いてくるじゃねぇか。あれはなんて説明すんだよ」
「あれはご飯は茶碗、ライスは平皿で提供されるからだよ。だから洋食店のライスは実際ご飯なんだけどライスって言ってるんだよ」
「な、なんだと……」
完敗だ。俺は今まで間違った言葉を使ってしまっていた。今思うとそれが無性に恥ずかしく思える
ご飯とライスの違い、たかがそんなもんだが知っておいて損はないもんだろう
「というわけで、お兄ちゃんは間違った言葉を使ってたってことだよね。」
「ま、まぁな」
「………ふっ」
妹が小さく吹き出す。そんな姿を見て俺は心の奥底から燃え上がる何かを感じた
「おま、てめぇ!今俺を笑いやがったな!」
「………。」
妹は声を荒げる俺なんて見向きもしないで茶碗を台所へとおきに行った
勝ち誇ったかのような顔が俺には見える
「じゃあ、私は朝練があるから後片付けはお願い」
「はぁ?なんでお前のまで片付けなきゃならねぇんだよ!」
「え?ご飯はライスじゃないんだよ?」
最後の最後でまた俺をバカにした。もうそんなもん分かったわ!
恥ずかしいことをしていた過去に塩を塗られると無性に腹が立った
「ぜってぇお前のやつ洗ってやんねーからな!」
妹はそんな俺の言葉を聞いていたのかいなかったのか、わからないが何も言わずに家を出て行った
妹はやっぱり怖い、それに加えて俺をバカにしてくる
本当にアニメの妹ような妹が現実にいないってことだけは明白だ
まぁ、これはこれで悪くないのかもしれない
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