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現実はアニメの妹よりも可愛いくはない  作者: 成瀬 諒太
一章 『妹といつも通りの日常』
1/6

プロローグ 『血液型』



朝起きる

布団を上げる

自分の異常を発見する

そして声に出す



「股間〜が〜ズボンが〜ぴっちりしてて〜いた〜い」



間の抜けた言い方にやや雑な口調

寝起きだからか心なしか少しかすれても聞こえる。

そんな声に反応して上の段から



「いきなりの下ネタ発言とかやめてくれない?」



こちらも寝起きだからかややかすれて聞こえた。しかし、先刻の声の主とは全く違い少し高い声が響く

要するに女の子の声だ



「こ〜かん〜が〜いたーい〜!」



二階から聞こえてきた毒舌な寝起きの言葉を聞いて一段下がって寝ていた男がさらに大きな声で続けて言った

二段ベットの一階と二階。母さんに勝手に決められたから不満だったがまぁ、二階をあいつに譲るのは許してやろう

憎たらしいやつだがな



「あーいたいねー。もうわかったからもう少し静かにしてよ。二度寝できないじゃん」



「おいおい、お前今日学校なんじゃねぇのかよ。さっさと起きて俺の邪魔にならないところに行ってくれ」



二段ベットの上と下での会話。もう毎日すぎて飽きてしまいそうだ。

なんであいつが俺より上で寝ているんだ!

なんか上から目線で話されている気がして無性に腹がたつ


俺よりも小さくて、優秀で運動もできて、歌も上手くて……俺よりはとにかく小さい!


探すにしても自分が惨めで逆に考えるのをやめた。それが結論

あいつのことを考えたら自分がゴミ人間すぎて泣けてくる



「うわー今日学校かよ。まじ行きたくなーい。お兄ちゃん、私の代わりに行ってくれないの?」


即答で

もちろんこんなやつには淡白な返事で


「やーだよ。お母さんに頼んで『今日は学校に行けなーい』とかなんとか理由つけろ」



憎まれ口調に、途中からの妹の声を真似ての発言。もちろん全く似ているわけでもなく他者から見ればキモいの一択だ


妹というものはなんでこんなにめんどくさいものなのか。

それは本当につくづく思う


よく見るアニメの妹ってなんであんなに可愛いんだろう、ほんとそれ。

『お兄ちゃん、お兄ちゃん!』なんて最高の言葉だっていうのに、実物がいるとたいして可愛くなんてない。


言うておくが妹好きのお前ら、現実の妹はこう甘くはねえからな

もっと意地汚くて、暴力にたけていて、そんでもって都合が悪くなると兄貴に頼ってくるずる賢い頭を持った奴らなんだよ


偏見?いや、事実俺の妹はこんなもんだ

パソンコ覗いてハーハー息切らしているオタクのお前ら!もう一回言うが本物の妹はアニメの妹よりも何百倍も甘くはねぇぞ!



「わかったよ」



諦めたかのように妹はそれ以上俺に言葉を口にすることはなくなった

いつもならもっと突っかかってくるんだけど、まぁいつもより楽になったと考えると最高だ


妹と喋っているとどうでもいい話でさえ長くなってしまうから目が冴えてしまった

だからスマホに手を伸ばす。枕元にあるそいつの画面は前コンビニで落としてバキバキに割れているのだが、まぁ見えないことはない


こいつも頑張ってくれているよほんと。スマホにでさえそんな気持ちを抱いてしまうほどに俺は少し間抜けだった



「えーと、血液型診断でもしてみるか。なんか目が冴えちゃったし。」



時刻は午前6時。いつも起きる時間とは2時間も早い。それはたまたま自分が早く起きちゃったからなんだけど、妹のせいで二度寝ができなかったのは事実だ

いや、よくよく考えてみると俺が原因かもしれない。もう考えるのはやめておこう、うん



「俺はA型だからあーこれかこれか」



スマホの画面を除く。よくある血液型診断だ。A型からB、O、ABまで、すべての血液型でその人の性格が判定される

もちろんそんなものは信じてないがいい暇つぶしにはなるだろう



「A型は几帳面で人の言うことを聞き、集団の中で自分を活かす方法を考える、と。おー全部俺にあっているじゃないか!さすが俺だよ。几帳面なのはやはり性格に現れているのか……!?」



「お兄ちゃんそれ、あんま意味ないよ」



ばっと、二段目から妹の生首が垂れた

表現の仕方がキモいが、妹の髪が地面へと垂れ、逆さまの顔が俺に映る



「うぉ!急に出てくんなよ。びっくりするだろ」



「そんなことより」



そんなことよりっておい。

俺の驚きと抗議の声は完全に無視されて、いや、右耳から入っていって左耳から抜けていったと言ったほうが正解だろうか

要するに、こいつは聞き流しやがったな



「血液型診断、そんなので一喜一憂しているお兄ちゃんがかわいそすぎて、しょうがないから教えてやるよ」



「は、はぁ。お願いします」



「うむ」



なんかすんごい上から目線で毒舌なもんだからついつい言葉が出なかった

どうしたんだよ急に。

寝起きの妹の姿はよく目にするツインテールの黒髪とは違いボッサボサに散らかった感じになっている。

それにパジャマのセンスにはガキ感を感じる


ピンクのキャラクターパジャマってすごいな。よく寝るときにかぶる帽子もセットで

すんごい驚きだよ


去年もそういえばこんな感じだったか



「そもそもお兄ちゃんは血液型診断とはどういうものか知っている?」



「あ、ああ。もちろんだけど。あれだろ?血液型に応じて性格が知れるやつだろ。」



「そう。そうなんだが、実は血液型診断には本当の闇が隠されている。」



「闇?」



俺は興味津々な顔で妹に疑問を述べる。

血液型診断、それの闇とは一体なんなのか

闇、なんていう言葉を使われるとなんていうか、気になるワードだ



「バーナム効果っていうのを知ってる?」



「バータ効果?あのドラゴンボールに出てくるギニュー特戦隊の世界一早いスピードを誇るとかなんとか言っていた青いやつのことか?」



「バーナム効果!あんな気持ち悪いアバターみたいなやついきなり出してこないで。とりあえず知らないってことだよね」



「ま、まぁな」



バーナム効果、そんなの見たことも聞いたこともないぞ。

優等生な妹はやはり俺よりなんでも知っている。いや、俺の妹だからこそのものだ

俺はただただ道を踏み外しただけだ



「バーナム効果というものは、誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格を表す記述を自分だけのものと思いこみ捉えてしまうことなんだよ。お兄ちゃん」



不敵な笑みとともに、妹はそっと俺の右手に手を重ねる。

その悪徳な表情の意味は察するまでにすぐに見当がつくものではなかった

だからもちろん気になる



「な、なんだよ急に。その表情、なんか言いたいことでもあるのかよ」



「だって『A型は几帳面で人の言うことを聞き、集団の中で自分を活かす方法を考える、と。おー全部俺にあっているじゃないか!さすが俺だよ。几帳面なのはやはり性格に現れているか!』って大声で叫んでたから」



少しの間が空いて追い打ちをかけるように妹から



「みんな当てはまるんだから、お兄ちゃんは凡人だよ」



「ぼ、ぼん……じん……」



凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーー凡人ーーーーーー



頭の中に凡人という二文字が一斉に流れ始める。それはいい具合にエコーが効いていて瞬く間に俺の頭を支配した

がんがん音がなっているようで、先刻の自分の発言が恥ずかしかった



「俺って凡人、なのか」



妹の言葉はひどく俺の頭の中に残った。嫌なぐらいに何回も何回もこだまして

あー本当に変な雑学持ってきやがって!と、八つ当たりしたくなる気持ちも芽生えたが

言う気も無くなった



「それじゃ、私は朝ごはん食べてくるから」



それだけ言って妹は部屋から出て行った。清々しいまでの笑顔を見せて



「俺は、凡人ーーなのかな」



ぽつんと一人残された空間が俺を慰めてくれているように感じた


妹って、本当にこわい


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