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五話『再会』


 部屋に八幡さんが戻ってくると、八幡さんは「あれ?」と立ったままの僕と加藤さんを見て、目を丸くした。


「何や、えらい重い空気やけど、戻ってくるタイミング間違えたかな」


 加藤さんは「いえ」と八幡さんへと視線を向ける。


「特に問題はないけど。それより、班長はまだ戻ってこないの?」

「あ、そろそろ終わるから、先に訓練室で待っててくれって言ってましたよ」


 加藤さんは「そう」と席を立つと、そそくさと部屋を出て行った。


「あの、班長は今、どこに?」

「無線の調子が悪かったから、それの確認しててな。ほな、オレたちも行こか」

「どこに向かうんですか?」

「午前に捜索終わったから、午後は訓練や。今日は基礎体力訓練やから、とりあえず二階の訓練室やな」


 僕は「わかりました」と八幡さんのあとに続いて、部屋を出た。


 階段を上がりながら、僕は自身の心臓の音が大きくなっていることに気付いた。これから班長と会うと思うと、どうしても、緊張してしまう。


 やがて、訓練室に入ると、そこには他の支部にある訓練室と変わらない空間が広がっていた。二十畳ほどのだだっぴろい部屋に、トレーディングマシンが設置されていて、その中央では、トレーディングウェアに着替えた加藤さんが、ストレッチをしている。


「えっと、ウェアとかはまだ支給されてへんよな?」

「あ、はい。まだ貰っていません」

「多分、宿舎に用意されてると思うから、今日はとりあえず、その格好でトレーニングして。メニューも各自、体力測定の結果から用意されるんやけど、それもまだ受け取ってへん?」


 僕が「はい」と答えると、八幡さんは「オッケー」と頷いた。


「じゃあ、今日はまだ初日やし、適当にこれまで自分がやってたメニューでやってくれたらええわ。まあ、班長が来たら、何か指示出すかもしれんし」

「えっと、全員、バラバラでトレーニングを?」

「そりゃそうやろ。全員、能力は違うんやから。同じメニューやなくて、ちゃんとそれぞれが足りへん部分を補うメニューを組まんと、意味ないやん」


 僕はそれを聞いて、少し感動した。施設にいた頃は、全員が同じトレーニングメニューを渡されていたが、ハンターになると、しっかりと個人の能力に対してメニューを組んでくれるらしい。


 すると、八幡さんは「何や」と苦笑する。


「えらい驚いた顔して」

「あ、いえ。ちゃんと、個人のメニューを組んで貰えるんだな、と思って」

「ああ、そっか。施設の時は、全員同じメニューやったっけ。……でもまあ、そりゃそうやろ。まず、人数が違うし、それにオレらは、命懸けてるんやから」


 八幡さんは親指と人差し指で、丸を作る。


「せやから、貰える給料も施設とは比べもんにならんで。オレ、通帳見た時、ほんまに目ん玉ちょっと出たもん」

「え? 本当に目玉が出たんですか?」


 僕が驚くと、八幡さんは呆れる。


「……いや、冗談に決まってるやん。びっくりして目ん玉飛び出てたら、河童と出会った人、みんな目ん玉飛び出てるわ。あれ? 瀬織くんってもしかして、ピュアな人?」


 僕は恥ずかしくなって、「いえ」と俯く。


「多分、馬鹿なだけです」

「頭は結構よさそうに見えるけどな。……で、何の話してたっけ?」

「お給料がたくさん貰える話です」

「ああ、そうやった。じゃあそれについて、先輩から、一つアドバイスしとくわ。給料は休みの日に、ガンガン使った方がええで」

「どうしてですか?」


 八幡さんは「そりゃ」と人差し指を立てる。


「だって、死んだらなんぼ貯めとっても、使われへんやん」


 単純で、至極納得出来る理由。僕が「なるほど」と頷くと、八幡さんはもう一方の人差し指も立てる。


「しかも、もし仕事中に死んだら、遺族にもめっちゃ金が入るんや。ってことは、あとのことを考える必要なく、いくらでも自分のために金を使えるってことや」

「でも、使い道がないような気がします。施設にいた頃も、結局ほとんどお金を使いませんでしたし。僕、あまり物欲がないんですよね」

「それはちゃうで。使い道がないんやなくて、使い道を知らんだけや」


 八幡さんは僕の肩に手を回す。


「心配せんでも、オレが金の使い方っちゅうのを、教えたるから」


 僕が困惑していると、「おい」と入り口から、諌めるような声が聞こえてきた。視線を向けると、そこには手にファイルを抱える、一人の屈強な男性が立っていた。


「八幡。新人に余計なことを吹き込むな。どうせお前の金の使い道なんて、ギャンブルか風俗だろ」

「ちょっと班長、違いますよー。最近、風俗は行ってないですって」


 僕はそっと八幡さんの腕を肩から外すと、「あの」と真っ直ぐ、班長を見つめる。


「今日から、尾角班でお世話になります、瀬織流と申します。若輩な身ですが、誠心誠意努めてまいりますので、どうかご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」


 僕は深く頭を下げて顔をもたげると、すっと息を吸い込んだ。


「……そして、お久しぶりです。あの時は、ありがとうございました」


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