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四十三話『覚悟』

 絶句し、失った僕の言葉を、加藤さんが拾う。


「そう。幹部が頑なに探索活動の範囲を決めたがっていたのは、それを王の一族に教えるためではないかと、わたしたちは推測した。そして、幹部の実態を隠密に調べるため、相模さんを殉職に見せかけた。幹部はわたしたちのことを疑っていたのだけど、死んだことにしてしまえば、警戒されることもなくなる」

「でも、それって失うものも大き過ぎますよね」


 相模さんを見ると、相模さんは「いや」と小さく首を左右に振る。


「もし、それが河童殲滅に繋がるのならば、大したことではない。元々私たちの目的は、河童を殲滅し、平和に生きられる世の中にすることだからな。まあ、唯一辛かったのは、両親を悲しませてしまったことだな」


 僕はその言葉を聞いて、鳥肌が立った。


 その決断によって、当然、ハンターとしての職を失うだけでなく、実生活の面でも大きな損失があっただろう。さらに、ばれてしまった時のことを考えると、一体どうなってしまうのか、想像すらつかない。


 もし、僕が相模さんと同じ状況に立った時、果たして、僕は覚悟を決めることが出来ただろうか。


 僕は相模さんに対し、畏敬の念を抱いた。


 店員が相模さんの注文の品を運んできて、会話が中断する。


 そして、店員が去ったタイミングで、僕は「あの」と相模さんに身体を向ける。今、訊ねるべきことではないかもしれないが、どうしても、訊いておきたかった。


「相模さんは、どうして河童ハンターになろうと思われたのですか?」


 案の定、相模さんは予想外の質問だったようで、眉をひそめた。僕は「い、いえ」と肩を窄める。


「僕、河童ハンターになってからずっと、河童をこちらから見つけ出し、一方的に殺すことに、自分の中で違和感を抱いていたんです。果たして、自分がやっていることは本当に正しいのだろうかと。ハンターの多くは、親しい人物を河童に殺され、河童に対する憎しみを根底に持っていますが、僕は自分自身が襲われこそしたものの、正直、河童に対してそこまでの感情はなかったので、そんな自分が河童を殺している理由が、わからなくなってしまって……」


 相模さんはしばらく、考えを咀嚼するかのように一点を見つめて黙っていたが、やがて「なるほど」と、小さく何度か頷いた。


「その気持ちはよくわかる。私も、河童に対して個人的な恨みはなかったから」

「そうなんですか?」


 相模さんは苦笑する。


「しかも私に関しては、河童ハンターになるまで、本物の河童を直に見たこともなかった。わたしが河童ハンターを目指すようになったのは、子供の頃、河童をハンターが倒したというニュースをテレビでやっているのを見て、格好良いなと思ったからだ。要するに私にとっては、『ヒーローになりたい』くらいの感覚だったわけだ」

「それで、そのまま河童ハンターになったのですか?」

「そうだ。他にやりたいこともなく、何となく目指していたら、気付いていたら河童ハンターになっていた。施設生の頃に、間近で被害者の遺体を見ることもあったから、その時には正義感が芽生えていたが、それでも河童ハンターになった当初はキミと同じで、ずっと心にしこりを抱きながら、河童を倒していた。特に、初めて河童が隠死するのを見たあとは、しばらく飯が食えなかった」


 相模さんは懐かしい思い出を振り返るように、遠い目を宙に浮かべた。僕は「では」と手に滲んだ汗を、太ももで拭う。


「相模さんは、その違和感をどうやって払拭したのですか?」

「払拭? いや、払拭なんて出来ていない」


 僕は「え?」と小さく声が漏れた。相模さんは、おもむろに視線を僕へと向ける。


「私は今でも、本当のところは正しいのかどうか、わかっていない。ずっと、心の端では疑問を抱きながら、自分の職務と向き合っている。……自分は人間だから、人間にとっては間違いなく正義だ、と言い聞かせて」


 河童を殲滅させるために、自分の全て擲つことが出来るほどの覚悟を持つ相模さんですら、それが果たして正解なのかわからず、自分に正義だと言い聞かせながら、それを信じて河童という生き物と対峙している。


 僕はあの時、洞窟で管理官たちが無残に殺された光景を見て、河童という生き物の浅ましさ、卑劣さを改めて知り、そして彼らは悪である、という認識を強く持った。


 ただ、時間が経ってふと冷静になると、心のどこかでやはり、それは彼らの一部で、中には純粋無垢な存在だっているのではないだろうか、と考えてしまって、消失したはずの違和感が、再生してしまっていた。


 しかし、相模さんの話を聞いて、僕は少し楽になった。


 もしかしたら、これは答えのある問いではないのかもしれない。仮に、解があったとしても、それは、今の僕がどれだけ思慕したところで見えてくるものではないだろう。


 僕は「ありがとうございます」と頭を下げ、礼を述べた。相模さんは何も言わず、横目で頷くと、そっと箸へと手を伸ばした。


「とりあえず、食事をさせてくれ。今日は朝から何も食べていないんだ。食べ終わってからお前たちに、これからのことで話したいことがある」


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