表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/61

二十話『衝撃』

 こんな場所があるんだな、と僕は岩陰に隠れながら驚いた。


 険阻に犇めく岩塊の間隙に、洞窟があった。周囲には、まるで入口を隠すように木が密集していて、予めここに洞窟があると知っていなければ、辿り着くことは困難だろう。


 ただ、それほど遠くない距離から川の流れる音が聞こえくるので、後で地図を確認すれば、ここまでの道のりなどから、大体の位置は掴めそうだ。


 数分前、加藤さんは逡巡することなく、洞窟の中へと入っていった。僕もあとを追いかけたいものの、中がどうなっているかがわからない以上、なかなか一歩が踏み出せないでいた。


 ここで僕が取れる選択肢は、二つ。


 加藤さんのあとを追いかけるか、もしくは加藤さんが出てくるのを待ち、この場所を去ったあとに、洞窟の中を調べること。


 ただ、加藤さんが去ってから洞窟の中を調べても、加藤さんが中で何をしていたのかわからない可能性もある。ということはやはり、あとを追いかけるのが一番か。


 今のところ、周囲に河童がいるような気配はない。


 ここで迷っている時間がもったいない。


 僕はぐっと腹に力を入れ、覚悟を決めた。


 とりあえず、ばれないように注意しながら、行ける場所まで行ってみよう。僕は岩陰から出ると、靴を脱ぎ、静かに洞窟の中へと足を踏み入れていった。


 壁には大きなムカデが這い、見たこともない柄の蛾が止まっている。洞窟に吸い込まれる風が、まとわりつくように足元を抜けていき、不気味な音を響かせる。


 ほとんど真っ暗で何も見えない中、手探りで進んで行くと、人の声のようなものが聞こえてきた。


 ただ、それは加藤さんのものではなかった。嗄れた老婆のような、そんな声。話の内容までは聞こえてこない。


 その声へと向かって進んでいくと、やがて、薄らと視界が明るくなった。外に抜けたのかと思ったものの、そうではなく、どうやら天井部分が吹き抜けになっているらしく、細長い空が見えた。


 そして、声まで三十メートルほどの距離まで近付いた時、僕の耳が、加藤さんの声を捉えた。加藤さんの声が小さくてわからなかったが、どうやら嗄れた声の持ち主と、会話を交わしているようだ。


 一体、わざわざこんな場所まで来て、誰と話しているのだろうか。


 おそるおそる、目視出来る場所まで近付いていくと、やがて狭かった道幅が広がっていき、広場のような場所に出た。縦に裂けるように開いた天井からは、斜めに日の光が差し込み、柔く広場を照らし出している。そしてどこかに水が溜まっている場所があるのか、水面に水滴を垂らしたような音が静謐な空間を漂い、消えていった。


 僕は慌てて身体を引き、身を隠す。


 その広場の中央に、加藤さんがいた。


 そっと顔を出してもう一度見てみると、広場の中央、石のテーブルのようなものを挟み、こちらに加藤さんが背中を向けて立っている。そして加藤さんの奥に、誰かがいた。


 加藤さんはテーブルの上に置いた紙袋から、何やら箱を取り出している。


「これ、いつもの」

「おお、ありがとう。本当、嬉しいよ」


 あれは、何だろうか。


 僕が目を凝らしていると、加藤さんが空になった紙袋を足元に置こうと屈んだため、奥にいる人物の姿が見えた。


 その瞬間、激しい衝撃が僕の全身を貫いた。


 そんな、まさか、どうして。


 加藤さんが話している相手は、人間ではなく、河童だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ