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初恋  作者: 木染維月
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 初恋は、往々にして叶わないものだと聞く。



 その通説を知ったのは初恋を終えてしまった後だったが、僕のそれはその例に漏れるものだった。


 まあ、初恋を経験した年齢が年齢だったために、叶った──否、叶ってしまった節は大いにあると、今は思う。何せ僕の初恋は、高校二年生の時の出来事なのだ。一般に高校二年といえば、それはもう彼氏彼女が欲しくて仕方のない年頃だろう。実際僕の周りでもあちこちでカップルが成立していた気がするし、彼氏彼女がいることをステータスのように感じていた生徒も少なくない筈だ。


 けれどそれは、言うなれば「誰でもいい」恋愛であり。──いや、これを恋愛と呼ぶのはよそう。こんな僕の恋愛観故にあの時振られてしまったのは重々承知の上だが、それでも僕はどうしてもあれを恋愛と呼ぶ気にはなれない。


 だって、その人がひたすら好きで、その人より魅力的な人物など到底考えられなくて、その人でない誰かを今後の人生で想い慕うことなど想像もできなくて、叶うことならずっと傍に居させて欲しくて──けれどもそれと相反して、例えその相手が自分でなくともその人に幸せでいて欲しくて──あれ程に焦がれたその人に向けられる優しさの先が僕ではないことが耐えられなくて、身を切られるような痛みを覚えるのにそれでも尚、だ──恋や愛とは、そういうものではないのか?

 高校生だった彼らが恋愛と呼んだのは、ただの男女交際ではないのか?

 もちろん彼らの言う「恋愛」がもっと広義での「恋愛」を指していることは分かっているが、どうしてもそんなことを考えてしまう。



 話を戻そう。とにかくそんな恋愛観故に僕は、当時の彼女に振られた。そして、あのお付き合いを経て、痛切に実感したのである──「自分はどうやら、ことごとく男女交際に向いていないらしい」と。


 ここまで来ればお察しかとも思うが、彼女が僕を振ったときの文言は「重いのよ」だった。要するに彼女もまた、誰でも良かったのだろう──僕と別れた二週間後には別の彼氏を作っていたと、風の噂に聞いた。そして、そんな話を聞いてさえ彼女を嫌いになれない僕は──きっと、心底どうかしていた。



 まあ、僕が男女交際というものにことごとく向いていない、というのは、何も「重いから」だけに限った話ではない。


 例えば僕は、重度の依存体質だった。彼女の顔を見ていない時は常に不安だったし、何かある度頑張る理由を彼女の存在に求めていた。何なら彼女が居ないのなら生きる理由など特にないのではないかと本気で考えていたし、在り来りな言葉で言えば彼女の存在こそが僕の全てだったというわけである。


 また僕は、大層嫉妬深い性格の持ち主でもあった。しかもその嫉妬の仕方も捻くれており、僕が嫉妬するのは大抵「彼女と話している僕以外の男」ではなく「僕より高い頻度で彼女と会話したり、僕といるより彼女が楽しそうにする、男女年齢を問わない全ての人」だったのである。つまるところ僕は彼女の女友達や両親にすら嫉妬していたのであり、彼女にとって他のどの男より好きというだけでは到底満足出来なかったのだ。大概どうかしているという自覚はあった。


 そして、大概どうかしているという自覚があったからこその──三つ目の問題だった。そもそも僕は他人とのコミュニケーションがあまり得意な方ではない。普通に彼女と会話をするにしたって、いつ話題が途切れ沈黙が訪れはしないか心底緊張していたくらいである。だから、先程までの二つの問題──依存体質で嫉妬深いという問題から発生する重い感情を、彼女に伝えることが出来なかったのだ。


 いや、それだけならまだいい。依存も嫉妬も重い僕であったが、愛も重い僕であったが為に、きっとそれらの感情を抱えたままでも僕は彼女を愛することが出来ただろう。毎日毎日耐え難い嫉妬と不安に身を焼かれながら、それでも彼女との日々を願い、彼女を想ったことだろう。

 けれど残念なことに当時の僕は、隠し事が絶望的に下手くそだった。彼女に振られた後、僕は故あって隠し事が上達するのだが──当時は、待ち合わせに遅刻した理由ひとつまともに誤魔化すことが出来なかった。だから、結果として僕は、事あるごとに重く暗い感情を向けてくる割にどれひとつとして口に出すことはしない、陰湿で重くて面倒臭い男となったわけである──そりゃ振られもするだろう。


 あの初恋が叶っていなかったならば、今の僕はどうなっていたのだろう。隠し事が下手くそで嫉妬深い、タチの悪い片想い男のままでいただろうか。

 それなら、誰でも良かった彼女と一度は結ばれ、振られたのは幸いだったのかもしれない。大の大人になってから初めて恋が実ったならば、もっと酷い形で自らの男女交際の不向きを知ったかもしれない。というか、恐らくはそうだろう。

 或いは、相手がなまじ大人である為に、自らの問題を知らないまま好意を向けた相手に迷惑をかけ続けたのかもしれない。高校生のうちにそれを知れたことは、とても幸いなことだったのかもしれない。


 ともあれ僕は、自分の恋愛観とそれに付随する感情に、大いに問題があることを知った。知れた。知ってしまった。



 だから、僕はあれ以来──誰にも興味を持たず、誰も視界に入れず、あの淡くて昏い感情が二度と沸き起こらぬように、殻を一枚隔てたところで暮らしている。

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