43話 神の宣告
「……」
「なあ!どうして黙るんだよ!友を殺す?意味がわからない!どうしたらそうなるんだよ!」
リンは立ち上がって荒ぶったような声でミヤビを怒鳴った。
「落ち着いて下さい」
「はあ?いきなりそんな宣告してよく言えるな!大事な誰かが死ぬんだぞ!よくもふざけ
――」
リンが最後まで言い切る前に、パシンッ!と乾いた音が響いた。
一瞬時間が止まったかのような感覚に見舞われたが直ぐに自分が叩かれた事に気付いた。
「なにする……っ!?」
更に激高したリンはまた怒鳴ろうとしてミヤビの方に顔を向けると思わず絶句してしまった。
「わ、私だってこんなこと言いたくはありません……だって悲しすぎるではありませんか……」
その声は震えており、瞳は今にも溢れそうな涙が溜まっていた。
ずっと無愛想な顔をしてるドSかと思えば急に感情的になれば誰だって少しばかりは驚きはする。
よほど辛い未来を見てしまったのだろう。
「悪い、言い過ぎた。話を続けてくれ」
そう言ってリンは座り込んだ。
「では、続けます。一年前のある日に教会で《神の宣告》があったのです。そして神はこう告げたのです。『我らの中からこの世界に邪神が現れた。そして7人の魔人を連れてこの世界を滅ぼすであろう』と」
「邪神と魔人?どいうことだよ!まるで……」
「そう、邪神は私達を転生させた神、魔人は――」
「――俺達ってことか……」
「そういうことです」
「マジかよ……俺達はこの世界の全員が敵って事になるじゃねぇか……」
リンは思わず頭を抱えてしまった。
「そして神は最後にこう告げました」
「まだあるのかよ……」
ミヤビはこくりと頷く。
「『五人の勇者を召喚し悪を滅せよ』と。そう言って神は教会に〝召喚の魔方陣〟を送りつい先月にその召喚が行われたのです。その五人の勇者の中心に居るのが轟翔という人物です」
「マジ、かよ……どうしてあいつまで巻き込まれてるんだよ……」
リンは内心支離滅裂になって頭を掻き毟った。
「これが私の知った未来です」
「どうにもならないのか?」
「それは分かりません。何せ私は知った未来通りにしか動いてませんから」
「ミヤビさん、お前はまるで人形みたいなこと言うんだな」
サラッと嫌味を言うリン。
「否定はしません。私はそういう風に生きていた人間ですから、忌み子だった私に選択権など在りはしないのです」
そう言ってミヤビは顔を伏した。
「それは前世の事か?」
リンの質問にミヤビはこくっと頷く。
「私は元々寺の子だったのです。表向きは神に遣える者で裏では悪鬼を滅する家系でした」
「悪鬼を滅する?お祓いみたいなものか?」
「その解釈で間違っていません。悪鬼を滅するのを専門とする者は基本的に霊能力が優れている者で私の父がそうでした。その父から生まれた私も霊能力が在りました。ですが――」
ミヤビは話の途中で少しばかり口ごもる。
「私の霊能力は他の霊能力者と比べて圧倒的に高かったのです。悪鬼の類いは基本的に霊能力が高い人程襲われる可能性が高いのです。それに気付いた父は私を寺に閉じ込め強固な結界の中に閉じ込めました。そして度々聞こえてくる悪鬼の声、それに殺される霊能力者の声、幼い私にとって心を抉られる環境でした。それから数年がたった頃でしょうか、母が結界の中に入ってきてこう言ったのです。『お前なんて生まなきゃ良かった』と。それと同時に父の死を知りました。家族の愛も知らずに育った私は何も感じませんでした。そんな私を見た母は私の腹部を包丁で刺しました。私は知りました。これが母の痛みなのだと。それと同時に私は自分の死を確信しました。そんなときです。手元に手紙らしきものがあったのです。私は残された力を振り絞って開けると私はこの世界に赤子になってたのです。これが前世の過去です」
「お前も大変だったんだな……てか悪鬼とかあの世界にいたんだな」
「いるだけで認知されてないのです。基本的に霊能力が高い人なんて稀ですから。それに変に同情しなくて結構こうです。これが私の運命だった、ただそれだけですから」
そう言いながら薄く笑う。
全く感情の籠ってない笑いだった。
この時リンは悟った。ミヤビはずっと閉じ込められて育って愛情も知らない何も触れずに終えてしまったことにより人として触れるべき事を何一つ成していないのだと。
だからリンはこの時思ったのだ。
彼女を――ミヤビを心から笑わせてやれるような人にしてあげたいと。
「少しだけ外に出ないか?」
リンは優しくミヤビを誘う。
「それはできません。これでも私は神子なのです。神子は何かあったときに私が居なくては……って何をするんですか!」
「まあいいじゃないか!」
しれっとしてるミヤビをリンは無理やり手を引っ張って外に向かい駆け出した。
ミヤビは嫌そうな顔をするも抵抗はしなかった 。
外を出ると辺りは真っ暗だった。
「ちょっ寒くないか?って寒すぎだろ!」
外に出たはいいが、気温は恐らくマイナスを優に越えていた。
リンが寒くてガタガタしている。ミヤビは呆れてため息をつきながら、
「全くしょうがない人ですね、〝保温〟」
一定の空間を暖かくした。
「悪い、助かった」
「よくそんな薄着で外を出ようと思いましたね」
「前いた場所は乾燥して暖かったもんでね」
そう言って笑うとミヤビは再度ため息をつくのであった。
そして暫く無言が続いたのち、ミヤビが口を開く。
「これからどうするつもりなのですか?」
「ん?どうしようかね?暫く魔法も使えなさそうだし悩むね」
「ならその間は体を鍛えればいいかもしれませんね。魔法だけじゃ補えない部分を徹底的にです。あ、勿論魔法を使えるようにする事も考えてです……ってどうしましたか?」
「あ、いや、人に助言するような性格だと思わなくて……」
「失礼なことを言いますね。私だって上に立つ者です。助言の一つや二つ出来ないでどうするんですか?って感じですよ」
少々ご立腹のようだ。
「ごめんごめん、冗談だよ」
リンは慌ててフォローするも、ミヤビはそっぽを向いてしまった。
反応からして少しばかり子供らしさも残っているのかもしれない。
「それで改めて聞くけど、これからどうするの?」
「取り敢えずここで暫くお世話になってもいいかな?勿論仕事は手伝うつもりだし、体力もつけたいしね、駄目かな?」
「別に構いませんが、旅はどうするのですか?」
「続けたいけど一人じゃねぇ……魔法も使えない身だから多分直ぐに死んじゃいそうだから他の仲間が来るか魔法が使えるか魔法なしでも大丈夫だなと思えたら旅立とうかなって思ってるよ」
(まあ、もう少し様子を見たいと思っているし……!?)
そう思っていると、横らかまじまじと見られてるような視線を感じた。
振り向くとミヤビがジと目でじーっと見ていた。
「なんか変なこと考えてないですか?」
「なんも考えてないです!」
「何で急にトーンが変わるのですか?」
「気のせいです!」
「怪しいですね」
「……何でもないです!」
「待ちなさい!」
リンはこの場から逃げ出すとミヤビも揃って追いかけた。
そして暫く走り回った後、リンは力尽きてミヤビに捕まり夜中に間接が外れる音と壮大な悲鳴が響き渡るのであった。
明日は用事があって出掛けなければなりませんので投稿できない可能性があります。
すいません……