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非公式の異世界転生~神に抗う転生者編~  作者: ほろう
三章 それぞれの道編
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41話 追憶と少女

『……し!』


(ん?誰だ?)


 リンはひたすら真っ暗な空間で目を開く――何者かの掠れた声によって。辺りを見回したがなにも見えず、気配すら感じない。気のせいかと思った瞬間、また声が聞こえてきた。

 リンはその声に耳を傾ける。すると、少しずつ明確に聞こえてくるようになった。

 そして明らかになる――いっている言葉が。


『……し!……かし!孝!』


(なぜ俺の名を!?……ッ!?)


 リンは一瞬驚きの余り軽く硬直した。

 直ぐ様警戒に移るが、思うように体が動かない。全く動かせない訳ではないがまるで重石を乗せらているような感じだった。


(ちぃ、どうして思うようにいかないんだ……!ってそれよりどこから声が聞こえてるんだ!……なっ!?)


 リンは無理やり体を動かすのをやめ、状況を把握しようとした瞬間、顔のすれすれに女性らしき人物がいた。


(うわぁ!?)


 リンは驚き、不自由な体のせいで受け身を取れずに倒れ込んだ。

 そしてリンはあることに気づく。

 倒れ込んだ瞬間、普通なら痛みを伴うのにも関わらず、全くといって痛みを感じなかったのだ。それどころか、倒れた感触もなかった。

 リンはひとつの仮説に辿り着く。だが――


(全く痛みもないぞ……もしかしてここは現実ではないのかもしれない……。だとしたら夢か?それしか現状考えられないし……ってあれ?)


 リンが考え混んでいると、行きなり辺り一面が明るく変化を始めた。

 そして次第に明るさは〝ある形〟を出現させた――いや、夢で構成された前世の(うつつ)を映し出したと言うべきかもしれない。

 やがてそれはリンの見覚えのある風景と化した。


「ここは……!」


 リンは目を見開きながら辺り一面を見回す。


 そこはリンの〝前世の生まれ故郷〟であったのだ。気づけば自分の視野がかなり低くなっていた。どうやら幼い頃の記憶らしい。


「なんで今更夢なんかに出てくるんだ……。とっくの昔に切り捨てた筈なのに……」


 リンは生まれて間もない頃は戸惑いを隠すために前世の生活の記憶をなかったことにしようとした。

 そうしなければ異世界でやっていけないと思ったからだ。自身が欲に従順だったせいで勉強を疎かにし、地のどん底に陥ってしまった。


 その結果、2度とこんなことにはならないために堪え、新しい人生を歩むきっかけとなり、異世界である今の世界に順応してきたのだ。


 なので、今のリンにとって前世の世界とは今更感ある世界――夢に出てくること事態が不自然なのである。


 だが、そんな今更な前世の夢を見る理由はひとつしか考えられなかった。


 それは〝未練〟である。


 リンは理解しようとしてないだけで、まだ前世になにか未練を残しているのだ。

 思い当たる節はそれしかない。


 しかし、今は仮説を立てている場合ではない。目の前にいる女性をどうにかしなければならなかった。

 それが未練に繋がってる可能性があると踏んで。


(てか、そもそもこの人?は誰だ?全く見覚えがないぞ……?でも……なんか懐かしい感じがする……ッ!?頭が……!)


 目の前の女性のことを考えると急に頭痛が襲う。まるで頭にドリルを突き立てられたような痛みだ。

 リンはもしかしたら……!と、あることを察する。

 だが、これもまた仮説になるが、ある特定の人物を思い出そうとすると、頭痛が生じるときがあった。その人物は前世で最も親い存在であった。


「母さん……?」


 リンは呆けたような顔で目の前にいる女性を見つめながらボソッと疑問に近い声で呟く。


 恐らく前世の記憶が誰かに封じ込められているのだろうとリンは推測する。


 前から不思議には思っていた。なぜ、普通なら知っててもおかしくはない存在の記憶が無くなっているのか――リンは船で揺られているときに薄々思っていた。それにロドニ弄ばれたときもうっすらと靄が掛かった記憶の一部が脳内に写し出されていた。


 ずっと不思議に思っていたが、これによってリンが中で抱えていた正体に辿り着けた。そして今まで失われていた記憶が徐々に回復して行く。


 しかし、思い出したのは母親の記憶だけではなかった。


「……!?なんでお前まで一緒にいるんだ……?」


 そこには母親と幼い自分(リン)と黒いロングの少女が母親の片手を繋いで満面の笑みをしながら歩いていた。

 リンは少女の素顔に見覚えがあった。

 そして冷や汗を掻きながら喉を鳴らすと……


「香苗……!」


 振り絞ったような声で少女の名前を呟いた。

 こんな反応をするのも無理もない。

 リンが前世でロドニに会ったのは高校に入学してからなのだ。だから幼少期から一緒に居る筈がない。


(もしかしてこれは前世での理想の絵ずらだったんだろうか……?だが、そうなると母親の存在を知らないのに写し出されるのは流石に不自然すぎるし……っん?ってうおっ!?)


 リンはこんがらがった思考で必死に考えていると、目の前の映像が消え真っ暗だった空間が崩れ始め、意識が引き寄せられる感覚に見舞われてた。

 どうやらお目覚めの時間らしい。



 ――――……


「いい加減起きなさい。ゴミ虫」

「ごふぉ!?」



 夢から覚めたかと思えば女性の声がする相手から急に強烈な溝蹴りを貰ってしまった。

 痛みの余りそのままゴロゴロと腹を押さえながら転がる。


「余り暴れないでくれませんか、ゴミ虫?ここ私の部屋なので」

「ぐへっ!?」


 そう言いながらリンの頭を踏んで動きを止めた。


「痛い痛い!ちょっとお嬢さんなにするですかねぇ!?」


 リンは足を退かし叫ぶ。

 そして目の前にいる女性をまじまじと確認すると女性というよりは自分と余り変わらない少女であった。

 髪はミディアムくらいの翡翠で瞳はアメジストを思わせるように透き通っているが顔立ちは可愛いとはいえるがちょっとばかし無愛想である。

 あと少し驚いたが、服装が巫女のような振り袖だったのだ。

 どうやらこの世界にも巫女が存在するのかもしれない。


 そんなことより今は現状確認することの方が先決であった。

 ここは見たところ敵地というわけでないようだ。

 そこだけは安心であったが幾つか不安は残っている。

 まず、他の転生者の安否だ。

 恐らく自分と同じように魔法を使えないはず。近くにいるとは思えないし、魔物のいる場所に転移していたら状況は最悪だ。ロドニは剣術が使えるからいいとしても問題はダブルフィルだ。あの二人は未だに昏睡状態に陥っている、襲われたらひとたまりもないし、自身が魔法を封印されていることも知らない可能性があるとすればかなり深刻だろう。

 正直今すぐ向かいたいところだが魔法が使えない以上お手上げである。


 二つ目はあの場に残ったレイダとアテナだ。

 あの二人で神のトップに逃げ延びたのだろうか。今は力がなくとも逃げ延びてくれてることにかけるしかない。

 今のリン達はレイダ無しの神様戦は無謀すぎる。ヴァルキュリーの時は理性がなかったから良かったが、正直勝てるとは思えなかった。


 三つ目はここが何処なのかということだ。

 言葉は通じることを考えると少なくとも別世界に飛ばされたわけでは無いらしい。(他にどの世界があるとかは知らないが)

 取り敢えず今は現地調査から始めるのが無難だろう。


(まずはここから出ない……ぐはっ!?)


「なにさらっと無視して出ようとしてるのですか?ゴミ虫」


「ご、ごべんなざ……痛い!痛い!」


 リンは目の前の少女に見事なアイアンクローを喰らいもがきながら叫ぶ。


「私を無視して一人ぶつぶつとか何様なんですか?」


「すいません!すいません!すいませーんッッッッ!」


 必至に謝るも少女は離す気配がない。というかリンを汚物を見るかのような眼差しで見ていた。

 やがてリンは力が尽き、「この子力ちゅよい……」と遺言を残すかのように呟いて再び意識を手放すのであった。


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