2話 学校に通うことになりました
「おいおい、流石にこの年で魔法学校はキツくはないか? 普通魔法学校は十歳から入るのが常識ではなかったか?」
アルシャの突拍子な発言にハルターが横から割り込んだ。
「普通ならね、でも、王都の魔法学校なら話は別よ、あそこは飛び級があるくらいだし、年は関係ないはずよ?」
「それはそうだが、年齢が離れてると、ほら、イジメとかがあるかもしれないだろ? 基本的に特待生は貴族の集まりだ、自分より幼いリンの能力を見たらまず、間違いなく嫉妬するだろう。そこからイジメに発展したらと考えるとやっぱりな……」
ハルターは不安そうに答える。
恐らくそういう光景を味わったことがあるのだろう。
ウォルコット家は一応平民なのだ。力持つ者に嫉妬して権力を振りかざす者が居てもおかしくはない。
第一俺はまだ子供だ。手練れに闇討ちされれば手も足も出ないだろう。
ハルターはそれを気にしているに違いない。
正直、貴族との関わりは面倒臭いし、危険を侵してわざわざ初歩から習うくらいなら時間の無駄、断るのが妥当だろう。
「母さん別に行かなくてもいいよ、あんまり上下関係とか好きじゃないし、面倒ごとに巻き込まれるのはめんどくさいよ」
取り敢えず潤んだ瞳で行きたくないアピールをする。
「大丈夫よ、確かに私たちは平民だけど、私とお父さんの名前を聞いたら、改めてくれるかもしれないわ」
(無理でした!これは最終的にyesかはいの選択肢しかなくなるパターンだ……)
俺は心の中で膝を落とす感覚に見舞われた。
「確かに俺たちは王都じゃ有名かもしれんが、身分が低いことには変わりないだろう?」
「有名とはどういうことですか?」
両親の言ってる意味がわからず聞いた。
「実はね、こう見えて私は王様に使えてた元宮廷魔導師なの、でお父さんは元騎士総団長なのよ?」
「……マジですか? 母さんはともかくいつも変なジョークしか言わない父さんが元騎士総団長だなんて……」
「おい!」
(やべ、つい素が出てしまった。あと少しで猫を被ってるのがバレるところだった……アブねぇ……)
だが、いつも適当な父さんが王国の騎士総団長だったと言われても普段の姿を見てるとそうは思えなかった。
そんなことを考えていると後ろからナタリーの声が聞こえた。
「一度でもいいから父さんの剣技を見ればわかるわ! だから私は父さんから剣を習ってるんですもの!」
ナタリーは強気な口調でリンに言う。
(そういえばナタリーって父さんから剣を習ってたんだっけ? 余りにもどうでもよかったから気にしてなかったなぁ、いつか見せてもらうか)
「まあ、お父さんの話は置いといて話を戻すわよ。私達は元宮廷魔導師と騎士総団長だったから王様とは繋がりがあるの、だから例え権力を振りかざしてきても過去の実績もあるから安心しなさい」
「えぇ……うおっ!?」
取り敢えず曖昧にして誤魔化そうとしたが、アルシャはグイグイと顔を近づけてきた。
(ちょっ! 顔! 近い近い! てか、これやっぱり退路無くね? 明らかに入れって強要してるよね? はぁ、ここは諦めて入った方が身のためか……)
リンは行く気にはならなかったが、アルシャの押しが余りにも強すぎて結局行くことにした。
「どうなの?」
「ま、まあ、そこまで言うなら取り敢えず行ってみることにします……」
少し強引な気もしたが、途中から一番懸念していた上下関係を余り気にしなくていいなら行くのも悪くはないかと思った。
「なら、決まりね」
「そうなると編入試験があるが、まあ、高等魔法を使えるのなら問題なく入れるだろう、明日手続きをしてくるか」
急なことではあったが、リンは編入試験を受けることになった。
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編入試験当日
「はぁ」
(やっぱり行くのだるいなぁ、家に引き込もって寝てたい)
「どうした? やる前からそんな元気ないなんてな、そんなに不安か?」
王都まで行くのに馬車を用意しながらハルターが言った。
「だって、適正試験だけして終わりでしょ? それだけのために行くってのがちょっとね、見なきゃわからないのはわかってはいるんだけど」
俺はため息混じりで言った。
そんなリンを見て「むしろ見せて終わりなんて楽な方じゃないか」と笑いながら返してきた。
(というか、王都までの道のりが長いんだよなぁ)
王都はハルクームから馬車で二時間かかるところにある。前世には車があったが、異世界じゃ、乗り物と言ったら馬車しかないのだ。何が不満かというと、ちょっとした段差の振動がそのまま伝わってくるのだ。その度に尻が浮いてを繰り返して、尻を痛めることが多い。
この世界は魔法ばかりに頼ってそういった面では技術力が乏しいのでこういった生活面での発達に力を注いで欲しいものだと内心で思うのであった。
因みにリンが向かう魔法学校は王都にあり、王都は《クラントブール》と呼ばれ、地中海性気候によりオリーブやぶどう酒、レモンの産業が有名で、かなりの人で賑わってるらしい。
ただリンは町から出たことはないため、聞いただけの知識だが。
「おーい、リン! 用意ができたぞ!」
「はーい」
こうして男二人は、馬車で王とに向かうのであった。
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王都の検問の前に着くと門の前に立っている兵士が声をかけてきた。
「身分証を拝見します」
どうやら、王都に入るには身分証が必要らしい。その瞬間リンはふと思った。
(あれ? 俺そういえば身分証とか持ってないぞ? 入れるのか?)
そう思っているとハルターが身分証を二つ出してるところを見て、いつの間に作ってたのか!? と驚いていると、身分証を見ていた兵士の顔が驚きの顔に変わった。
「け、剣神様!?」
(え? 今なんと? 俺ちょっと耳が悪くなったのかな……今、父さんのこと剣神様とかいってたような気がするんだけど……うん、気のせいだな)
そう思っていると、
「この目出剣神様を見れる日が来るなんて……」
(うわぁ……聞き間違いじゃなかったよ、思いっきり言ってたわ、剣神様って……てか兵士の人、感激して泣いちゃってるし、本当に有名なんだな……)
意外な事実に感心していると周りから人集りが出来つつあった。
(どんだけ人気なんだよ……)
「父さんなにしたの?」
「若い頃にちょっとやんちゃしていただけだ」
(適当に流したな、おい)
父さんを一目見ようと出来た人集りがあって入るのに時間がかかってしまった。
王都に入ると、ハルクーム町とは比べ物にならないくらいの人で溢れ帰っていた。町では見たことない食べ物や道具があり、とても見てて新鮮な気分になった。
そんな様子を見ているとあっという間に魔法学校前に着いた。
魔法学校の門を潜ると一人の女性が出て来た。
「初めまして剣神ハルター・ウォルコット様とその息子リン・ウォルコット様、私はこの魔法学校の教師をしておりますキリカ・サリエットと申します。息子さんの編入試験と案内役及び試験監督を任されております。ということですので編入試験場に案内いたします。私に着いてきてください」
「わかりました」
了承して、言われるがままに着いていくと、ローマにありそうなコロッセオのような場所に連れていかれた。
「ここで適正検査を行います。魔法技能を判断してクラスを決めます。ご自身の得意とする魔法を放ち、二十メートル先の測定器に当てるだけの簡単な試験です。では、お好きな魔法をどうぞ」
(お好きな魔法と言われてもなぁ、まあいいや取り敢えず、最近覚えた雷の高等魔法を使ってみるか)
まず、魔力を集めてそれを凝縮し形を作り出す。すると大きさ五十センチの電気の球体が出来上がる。このまま放てば上級魔法として発動するが、リンは更にその球体を大きくして、形を別のものに変化させた。
そこから出来上がったのは竜の形をした雷の化身だった。
雷に限った話では無いが高等魔法は凝縮した魔法を更に違う形にして放つ高度な魔法なため、上級魔法を完璧に制御しきれないと出来ない魔法である。それ故に高等魔法と呼ばれている。
「いっけぇー!“電撃破”!」
竜の形をした電撃は測定器に直撃――では止まらず、測定器を破壊してそのまま壁を突き破った。
(ヤバい、やり過ぎた……)
恐る恐る後ろを見てみると、父さんから怒鳴り声が聞こえた。
「バカ野郎!どこに編入試験で高等魔法をぶちかますアホがいるか!この大バカ野郎!」
(いつも適当な父さんに二回もバカ野郎って言われちまったよ……)
それよりも試験監督の教師が痙攣しながら尻餅付いて開いた口が塞がらなくなっている。
(これは本格的にヤバかったのかな?)
「あの、それよりも編入試験はこれで終わりでいいでしょうか、キリカ先生?」
今にも気絶しそうなキリカ先生に恐る恐る聞いた。
声をかけられて体が一瞬ビクッとなって我に帰ると服に付着した埃を払いながら立ち上がると、何事もなかったかのように話始める。
「はい、これなら文句無しというかそれ以上ですね。間違いなく特待生のSクラスになると思います。といっても準備とかあるでしょうから、通うのは来週からですね」
「わかりました。まず準備ですが、何からですか?」
「まずは制服の採寸ですね、目視だけじゃわからないので、今からしますか?」
(まさか採寸を今からやるとはなぁ、魔法を見せて終わりかと思ってたけどまあ、往復めんどいし計ってから帰るか)
「では、お願いします」
「かしこまりました」
試験が終わり、そのまま採寸をして家に帰るのであった。
タイトルに沿ってるようには見えないと思いますが、それは後程出てきます。