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裏野ハイツの住人(夏のホラー2016)

金無し男の喜劇とその価値

作者: 青木森羅

夏のホラー2016の裏野ハイツの設定を使っていますが、ホラーかどうかは微妙なので日常物としています。

怖いのを目的にした人には合わないかもしれないですが、よかったら読んでみて下さい。


「まったくお前は!」


「叫ぶなよ、近所迷惑だろ」


 俺の怒りは目の前にいる男に向いている。


「それで? 今回はどんな目に遭ったって言うんだ?」


「今日会社から帰ってくる時、お前のせいで途中で買った卵を割ってしまったじゃないか!」


「なんだ、そんな事か」


「そんな事とはなんだ、この疫病神!」


 俺には疫病神が憑りついている。



 次の日の朝。


「おはようございます、片切さん」


 俺の住む裏野ハイツの二件隣の住人、103号室に住む一家の亭主さんとすれ違った。


「おはようございます……」


 何故かは分からないが、ここ最近あの家族は元気がなく陰鬱な雰囲気を出していた。

 まるで人が変わったかの様に。


「ああ、佐竹さん。おはようございます」


 敷地内を履き掃除しているお婆さんに声をかけられた。


「白鳥さん、いつも精が出ますね」


 201号室の白鳥さんは誰に言われてる訳でも無いのに、敷地の掃除を毎朝欠かさずやっている。


「そういえば、昨日はありがとね。玉子焼き」


「いえいえ、たまご割っちゃって処理に困ってたので助かりましたよ」


 疫病神のせいで。


「それにあの玉子焼き、すごく美味しかったわ。佐竹さんには悪いけどたまごが割れて私は良かったかな、なんて言ったら失礼よね」


「いえいえ、そこまで喜んで貰えたなら嬉しいですよ」


「今日は、お仕事?」


 俺は鞄を持ち上げ、


「はい、そうです」


 と答えると、彼女は手を振り、


「いってらっしゃい」


 白鳥さんは年齢の割にと言ってしまうと失礼だが、美人で気品がある。若い時は相当モテただろう。そんな彼女に笑顔で送り出されるのはそんなに悪い気はしなかった。


「行ってきます」


 彼女に出来るだけ元気に見える様に、手を振る。

 しかし内心では今日どんな事が起きるのかと憂鬱だった、一週間前に疫病神ヤツと出会わなければこんな心配する必要は無かったのに。



「よう、仕事の出来はどうだ?」


 部下の田口に仕事の進展具合を聞く。彼の仕事は少し時間は掛かるものの正確で、重要な仕事を良く振っている。


「ああ、部長。もう少しですね、ただちょっと厄介な所がありまして……」


「どれ?」


 覗いてみると、解決法が分かった。


「ちょっといいか?」


 田口に席を変わってもらい、カタカタとキーボードを叩く。


「こうじゃないか?」


 俺が立ち上がるのと入れ替わりで田口が席に戻り、資料を確認する。


「ああ、そうすれば良かったんですね。助かりました」


「いやいや、困った時はお互い様だろ」


 俺の仕事は順風満帆そのものだった。

 上司との亀裂も無く、優秀な後輩にも恵まれ、取引先との関係も非常に良好。

 そんな日々がこのまま長く続くのだと、その時の私は思っていた。

 

 そんな日の帰り道、ある女性に呼び止められた。


「お兄さん、少し見て行きませんか?」


 その女性は口元をベールの様な物で覆っていてまるで占い師か何かの様な服装と独特な雰囲気をしていた。その女性の前のテーブルには色々な小物が置いてある、露天商なのだろう。


「いえ、結構です」


 明らかに妖しい上に、こんな誰も通らないような道で物を売っているなんておかしい。宗教の勧誘なんかをされたらたまったもんじゃないと、無視して歩き出そうとすると目の前に女性が立ち塞がった。


「待って下さい、少しでいいので。これなんかどうですか?」


 差し出された手の中には金色の、頭、胴、腕、足が鎖で繋がっている人形を持っていた。

 特に興味も無かったはずの俺の口から、


「なんですか、それ?」


 と予想外の言葉が衝いて出た。


「これは中南米のある部族の人が作った人形なのですが、これにはある思いが籠っているのです」


 俺は唾を飲み込む、何故かその女の話を聞かないといけない気がしていた。


「その思いとは?」


 恐る恐る聞いた俺の言葉に、女は目元だけで笑い、


「呪いですよ、ただその呪いは世界中の人が幸せであるようにというものなので、持っているといい事が有りますよ」


 呪い。

 その言葉は俺に畏怖の念を抱かせたが、それを上回るほどの興味も湧き上がってきた。 


「それ、いくらですか?」


 俺の口は、俺の意志を無視して言葉を出す。


「五百円でいいですよ」


 俺の手は勝手に財布を取り出している、そこから五百円硬貨を取り出し女に渡した。


「ありがとうございます、では」


 女の差し出された手の中にある人形を受け取る。

 その人形は冷たかった、金属の冷たさというよりもまるで氷を持っているかの様だった。


「あなたに幸運がありますように」


 女はそういうとまたテーブルの所に戻った・



 俺は気がつくと裏野ハイツの自分の部屋の中にいつの間にか帰って来ていた。どうやって帰った来たのかいまいちハッキリしていないが覚えているのは、人形をずっと見ていた事だった。

 俺はその人形を改めて見る。


「なんでこんな物買ったんだ?」


 あの時はおかしな熱に当てられたのだろうと、人形をテーブルの上に放り投げた。


「何か飲むか」


 そう呟き、冷蔵庫に向かう。


「痛って!」


 右足の裏に激痛が走る。


「なんだよ」


 片足で跳ねて移動しながら、流しの縁に掴まり右足の裏を見た。


「なんだよ、これ」

 

 そこには画鋲が刺さっていた。


「ったく!」


 傷口を広げない様にゆっくりと引き抜く。

 そして、部屋の中央にある椅子に座りばんそうこうで傷口を塞いだ。


「んふふ」


 誰かの笑い声が聞こえる。

 たぶん外を通った子どもの声なのだろうが、まるで俺が笑われているかのように感じた。


「くそっ」


 その時、ピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。


「はい」


 椅子に座ったまま答える。


「佐竹さん、201号室の白鳥です。肉じゃが作りすぎてしまったので、良かったら食べていただけませんか?」


「ちょっと待って下さい、今玄関開けます」


 ガチャリとドアを開けると、鍋を持った白鳥さんが立っていた。


「どうぞ」


 俺は少し痛む右足を引きずりながら、白鳥さんを招く。


「足、どうしたんですか?」


「いや、画鋲踏んじゃって」


「大丈夫?」


「ええ」


「それならいいのだけど、じゃあコンロ借りますよ」


 彼女は台所に立ちお鍋を火にかけた。


「お皿、用意してもらえます?」


「はい」


 俺は足を引きずりながら食器棚の中の深皿を取り出す。

 グツグツという良い音と、肉じゃがの甘い匂いが部屋いっぱいに広がる。


「これで良しと、ではお皿を」


「はい」


 俺は深皿を彼女に渡す、そこに手際良く肉じゃがを盛り付けてくれた。


「ありがとうございます」


「いえいえ、お礼なんていいですよ。それに困ってたのは私ですから」


 彼女は鍋を持つと、


「いつもありがとね」


 とお礼を言った。


「いえ、人の手料理を食べる機会はめっきり減っていたのでありがたいです」


「うふふ、そう言って貰えるとありがたいわ。それじゃあ」


「はい、ありがとうございます」


 彼女が出るまで部屋の扉を押さえつつ、見送った。

 彼女が去った後、冷蔵庫からビールを取り出し一口飲む。


(うまい!)


 炊飯器からご飯をよそい、テーブルの上の肉じゃがの横に置く。

 もうひと口ビールを飲んでから椅子に座り、


「いただきます」


 と夕食をとった。



「ご馳走様でした」


(ふぅ、美味しかった)


 白鳥さんの料理は本当に美味い、おふくろの味って感じだった。

 俺は食べた茶碗を片付け、横になる。


(幸せだ)


 なんとなくそう感じていると、


「おい」


 誰かに声をかけられた。

 体を起こし周りを見回すが誰も居ない、当然だ俺は一人暮らしだ。


 俺はサンダルを履き部屋の外に出る、だがそこにも誰も居なかった。

 もしかしたらもう離れたのかもと庭に出ようとした時。


 目の前を上から下に何かが通って行った。

 なんだ? と屈んで落ちてきた物を見ると、それは釘だった。


「えっ?」


(どっから落ちてきたんだ、これ?)


 そんな事を思い上を見るがそこには屋根しかない、つまり屋根の釘が降って来たのだろう。

 そう分かった所で、恐怖を感じた。


 もし俺がもう一秒遅く出ていたら、落ちてくるのが一秒遅ければ。

 そう考えた途端、体中を寒気が走った。


「んふふ」


 また誰かに笑われた。

 しかもその声の主は俺の部屋に居るらしく、部屋の中から声がした。

 俺はその声の主に怒りを覚えた、そして誰も居ないはずの部屋に足の痛みも気にせず戻る。

 ドアを閉め、


「誰だ!」


 俺は見えない相手に声をかける、たぶん誰かが忍び込んだのだろうと思っての事だった。

 しかし、俺のその予想は外れていた


「んふふ」


 その声は俺の部屋の真ん中から聞こえる、何処から響くのか俺は耳を澄ませた。


「んふふ」


 声は金色の人形からしている。

 俺はどうかしていたのだろう、人形から声が聞こえる事よりも俺を笑う声の主を突き止めたかった。


「おい、お前か!」


 人形に話しかけた。


「人形が話す訳が無いだろう」


 目の前から声がした、俺はゆっくりと首を向ける。


「んふふ」


 目の前には宙に浮いた、おっさんが居た。

 急に現れたその男に俺は後ずさる。


「なんだ、お前は!」


 俺は無意識に大声を上げていた。

 しかしその声を大して気にしない風に、


「ああ? 俺は神だよ」


 意味が分からなかった。

 その気持ちが顔に現れていたのだろう、おっさんは付け加える様に、


「神は神でも、疫病神だけどな」


 ますます訳が分からなかった。


「まぁ、これからよろしく」


「いや? え? なんだって?」


「これからよろしく」


 そういうと疫病神は空中で横になった。


「いや、待て待て。どういう事だ? お前は人間じゃないのか?」


「だから、疫病神」


 そいつは自分を指差す。


「なんで俺に?」


 自分を指した指を曲げ人形を向ける。


「それの所有者だから」


「は? なんで?」


 疫病神は指を鼻に入れ、


「そんな事は知らん」


 ただそう言い放った。


「意味が分からない」


 俺の呟いた言葉に、


「意味なんてない。お前が人形を買って俺が憑いた、ただそれだけだ」


「なんで?」


「いいから受け入れろ」


「無茶苦茶だろ」


「神に無茶苦茶なお願いをするのは、お前たち人間だろ。たまにはこっちの無茶な要求も呑めよ」


「なんで?」


「お前はそれしか言えないのか?」


 鼻に入れていた指を抜き、俺に向かって飛ばす仕草をする。


「仕方ないだろ、意味が分からないんだから」


「まぁ、細かい事は気にするな」


「あぁ?」


「とりあえず、お前は俺に憑りつかれただけなんだよ。それだけの話だ」


「それだけって」


「お前の残り短い短い人生だが、よろしく頼むわ」


 その身勝手な話に、俺は呆れを通り越して怒りが湧いてくる。


「何が残り短いだ! 何が憑りついただ! いいから出て行け!」


 俺の右手は、疫病神の顔を殴ろうと振りかぶられたが虚しく空を切り、ソイツの体をすり抜けた。


「まったく、曲がりなりにも神である俺を殴ろうだなんて。はぁ、嘆かわしいね」


「神って言ったって疫病神なんだろ、そんな神なら要らん!」


「疫病神にも役割はあるんだぞ、それすら知らんとは。嘆かわしい」


「人を病で殺すだけだろ」


「元々はな、俺は違う」


「え?」


「殺しはしないし、病をばらまく事も無い。憑りついた者を不幸にするだけ」


「それって疫病神なのか?」


「気にするな、俺にかかった呪いだ」


「けど俺は不幸になるんだよな」


「おう」


「なら出てけ!」


 それから、俺と疫病神の生活が始まった。



 それから色々な事があった。

 会社で資料を作っている時にコーヒーを飲もうと手を伸ばした瞬間、誤ってコップを倒してしまった、そのコーヒーは机を流れ作業中のパソコンに。

 ただ幸か不幸か、直前に保存をしていた事もありファイル自体の復旧は出来た。

 それと俺のパソコンの画面が暗くなった直後に職場の全ての電気が全て消え、他のパソコンのデータも消える事態が発生したが一番重要な書類は俺の物だったので、大した被害は無かった。


 それにある道路に面した公園の前を歩いて時の事だ。

 突然腰に衝撃を感じたと思ったら、横すれすれを車が通り向け危機一髪だった事もあった。

 

 そんなこんなで俺は疲れていた。


「おはよう」


 会社に着き田口に挨拶をした。


「部長、どうしたんですか? なんかやつれてますけど」


「まぁ、色々あってな」


「まぁ。パソコンの修理代先輩持ちになっちゃいましたしね」


 それだけじゃないけどな。


「そうなんだよ、そのせいでしばらく給料から天引きだと」


「あちゃー、痛いですねそれ」


「本当だよ」


 まったく、どうしたものやら。



 上の階にある社食で昼食を終え食後の運動がてら階段を降りている時、俺は足を滑らせて階段を転げ落ちた。


「いてて」


 あちこち打撲はしたが、怪我らしい怪我は無さそうだった。

 そうやって体のあちこちを確認している時、後ろから声をかけられた。


「あの、大丈夫ですか?」


 こんな所を見られるだなんてと思いつつも、振り返ると、


「松井?」


 そこに居たのは同じ部の松井桃花まついももかだった。


「あっ、部長」


 彼女は、大人しく目立たないのだが仕事が丁寧でいい部下だ。


「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」


「いえ、でも本当に大丈夫ですか?」


「大丈夫だって」


 そう言い一歩踏み出した。


「痛ッ」


 足首を軽く捻ったらしく、足を着くと痛みが走る。


「ああ、動かないでください。今、人を呼んできますから」


 そういうと彼女は踵を返し、どこかに走って行った。


「ったく、ほんとにあの疫病神め」


 つくづく運の無い事だ。


「お待たせしました」


 松井が帰ってきた。


「お昼時だったので、人が居なかったのですが湿布持ってきました」


 俺は湿布を受け取ろうと手を差し出したが、


「いえ、少し待って下さい」


 とそう言いながら、彼女は手に持った湿布を俺の足首に貼る。


「すまないな」


「いえ、いいですよ」


 湿布の上から手際よく包帯を巻いてもらう。


「上手いね」


「陸上部だったので、友達の捻挫を治療する機会が多くてそれで」


「へー、そうなのか」


 彼女は包帯を結び、


「これで良し、っと」


「すまない、助かったよ」


「いいですって」


「なにかお礼をしないとな、何が良い?」


 そう尋ねた時、彼女は一瞬間を置き


「食事に連れてって貰えませんか?」


 俯きながらそう言った。


「そんな事でいいのかい?」


「はい」


「じゃあ、田口でも誘って……」


 そう言いかけた俺の言葉を遮る様に、


「いえ、二人っきりが良いんですが」


「え?」


「駄目、ですか?」


「いや、いいけど」


 程なく俺達は付き合うことになった。



「なぁ、お前って本当に疫病神なのか」


「ああ、そうだぞ」


 桃花と付き合い始めて一月程経った頃、何となく気になって聞いてみた。


「ならなんで俺は桃花と付き合えたんだ?」


 確かに俺は怪我をするわ、色んな物を壊すわで金銭的にも肉体的にも色々あった。

 ただその都度、人を助けている様な気がして尋ねてみたくなった。


「お前の呪いって、どんな呪いだよ」


「さあな」


「さあなって」


「どっかの坊主に掴まった時に言われたんだよ」


 どことなく彼の雰囲気が違った。

 流石に一月ひとつきも一緒に居ると否が応にもこいつの性格が分かってきていた、彼は基本的に飄々としていて捉え処がない。

 ただたまに目に光が宿り真剣な眼差しをする事があった、それは今も。


「その坊主が言ったんだよ。人の人生を全うする時にちょうどれいで終わらないといけない、ただお前はそれを阻害する。そんな奴が居たのでは何処かでひずみが生まれる、それは世を不幸にする。だから、お前に呪いをかけるってな」


「中身は分からないのか」


「知らんな」


 さっきまでの光は無くなっていた。



「さて、行こうか」


「うん」


 桃花と昼食を終え、俺達は次の目的地に向かっていた。

 これといった目的地も無く、ぷらぷらと歩きながら会社の事や知り合いの事など他愛のない話をしていた。


「ふふふ」


「それで田口がさ」


 そう言った瞬間。

 彼女の顔が強張った。


「あぶない!」


 そう言われた時には、俺の体は宙を飛んでいた。

 グルグルと回転する視界。

 キーっとブレーキ音が響く。

 その後、俺の体はあちこちに打ちつけられ激痛が走った。


「宗一郎さん、大丈夫!? 宗一郎さん!? だれか! 救急車を!」


 その声を最後に、意識が途切れた。



 目を覚ますとそこは病院の様な部屋だった。

 ウウッと誰かの泣き声がする、俺はその声を止めようと手を伸ばした。

 その手を誰かが掴んだ。


「宗一郎さん……」


 その柔らかい温もりは桃花のものだった。


「桃花……」


「良かった」


 彼女は涙を流していた。


「俺はどうしたんだ?」


 口が動かしづらい。


「車に撥ねられたんだよ」


「ほんとに?」


 彼女はコクリと首を動かした。



 しばらくして先生がやって来た。

 なんでも右足の骨は骨折しているらしいが、命にかかわる様な大きな怪我は無いそうだ。

 その話を聞いて桃花はまた泣いていた。

 ひと通り話を終えると、医者は部屋を出て行った。


「良かった、本当に」


 俺は左手を伸ばし、桃花の頭に触れ笑いかけた。


「ごめんな、心配かけて」


 あの時横に居た桃花には怪我が無かったのだろうかと思い聞いてみると、


「あなたに当たった瞬間に、車が止まったの。それで、怪我も無いし当たりもしなかったわ」


「そうか、それなら良かった」


 もう一度、彼女の頭を撫でた。


「そうだ」


 彼女はそういうとポケットから何かを取り出した。


「はい、これ」


 そこには金色の人形が握られていた。


「これ大切な物なんじゃない?」


 目の前に疫病神が現れる、彼女には見えていない。


「ありがとう」


 金色の人形を受け取る。


「そうだ、喉が渇いたからなにか買って来てくれないか?」


「なにがいい?」


「水でいいよ」


「分かった」


 そういうと彼女は部屋を出て行く。

 部屋には俺と疫病神しか居なくなった。


「おい、疫病神」


「なんだ?」


 いつもの様に彼は飄々としていた。


「彼女が怪我をしなかったのはお前のおかげか?」


 彼はこちらを向きながら、


「知らんな」


 と光るまなこで見ていた。


「そうか」


 無音が響く。


「憑りついた奴にすぐ死なれたら、楽しめないからな」


 とぼけた声でそう言った。


「それだけか?」


「ああ」


 心の中で桃花を守ってくれてありがとうと感謝した。

 そして、これからもよろしくと。




 終

 

 読んで頂きありがとうございます。


 今回は色々とツッコミどころが多いのでひとつずつ

 喜劇とタイトルをつけてますが喜劇かは微妙ですし、貧乏なのかも微妙。

 まず裏野ハイツの設定を使っているのにホラーじゃないという。

 なんか色々すみません。


 ただ初めはもって喜劇にしようとしたのですが、いつのまにか恋愛物みたいになってしまいましたが嬉しい話って事で喜劇としています。

 それと貧乏かって事ですが、書いてないですが携帯が壊れたりなどしてるんじゃないかと想像しているので貧乏でいきました。


 時間軸的には「鏡の中、家族の仮面」の直後にあたります。

 ですので話自体は繋がっては無いですが、多少の繋がりはあるようにはしています。


 もう一度になりますが、読んで頂き本当にありがとうございます。

 良ければ、乾燥、評価、ブクマ等々、お待ちしております!


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