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第1話 三代目のセイントカイダー

「あの子が?」


「はい……きっと、もう限界なはずなんです!」


 校長室の入口から、そんな話し声が聞こえよがしなまでに俺の耳に入ってくる。

 そこの奥から俺のいる廊下まで響いて来るのは、落ち着いた大人の女性と、切迫した様子でいる女の子の声。


 誰が何の話をしているのかは、考えるまでもなかった。


「確かに、彼はここ最近疲労が堪っている感じではあったけど……まさか、そこまでだったとはね」


「これ以上、あの人に負担を掛けたくない! あの人を、助けたいんです! なのにっ……」


 やがて俺の聴覚が捉えたのは――女の子の涙ぐむ声だった。どうにかしたくても、どうにもならない。


 そんな少女の理不尽な現状への嘆きが、沈痛な涙声となって俺の耳に突き刺さる。


「あの人はいつも笑って『大丈夫だ』とか『心配しないで』って言うばかりで……自分の体のことなんて、ちっとも考えなくて……!」


「彼のコンディションに悪影響があるのは見過ごせないわね。かと言って、彼の性格を考えたらぶっ倒れるまで仕事してそうだし……」


「な、なんとかならないんですか!?」


 今度は縋り付くような声。切実に、助けを求めているような声色だ。


「本来なら、体調のことを考えて休ませてあげたいところなんだけど、最近はこの近辺も物騒になってきてるらしいからね。休養を与えるどころか、実戦に遭遇する可能性もないとは言えないタイミングなのよ」


「そんな――! あんまりですっ! 勇亮君が死んじゃいますっ!」


 耳栓が欲しくなるような悲鳴を上げて、女の子は必死に抗議する。

 そんなこと言ったって無駄なのは、わかってるだろうに……。


「……ええ、そうね。あんまりなのはわかってるし、このまま放っておくつもりもないわ。私が本人に話を付けてあげるから、あなたはしっかり自分の仕事に集中して」


「ホ、ホントですか? 校長先生!」


「任せなさい。これでも、私はセイントカイダーの元設計者兼管理者なのよ? 『現役』の管理に役立ちもしないで、校長ヅラしてられないわ」


 諭すような口調で、現校長の達城朝香は半泣きになっている女の子――山岡絵麗乃(やまおかえれの)を説得する。

 絵麗乃は校長先生の言葉を信じたのか、「はい!」と元気に答えた。


 彼女の足音が聞こえだした瞬間、俺は辺りを見渡して、校長室の入口から逃げるように立ち去った。このまま突っ立っていたら、彼女と鉢合わせしてしまう。


 そうなれば、「今の話聞いてたの?」とか聞かれて、余計に話がこじれてしまっていただろう。


 それにしても……ここまで絵麗乃の信頼を欠いているとは思わなかったな。

 以前、パトロールから帰った後に、彼女に校舎の裏で仮眠を取っているところを見られたのがマズかったみたいだ。


 確かにハードスケジュールな点はあるかも知れないが、あそこまで心配されるようなことはないのに。

 全く、心配性だよな、あの娘は。


 ――まぁ、仮にそれくらい俺が疲弊してるのだとしても、助けを借りようとは思わないわけだが。


 この俺、生徒会書記・栂勇亮(つがゆうすけ)は宋響学園のヒーロー「セイントカイダー」として、強く在りつづけなくてはいけないんだから。

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