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ハプニング

 こんにちは!あたし、高村神酒!

挿絵(By みてみん)

 みんなからは「ミキ」って呼ばれてるんだ。

 一応籠目小学校っていうところで小学6年生やってます。

 神様の神にお酒なんて、なんでうちのお父さんこんな名前付けたのかな。

 いくらお酒が好きだからって、ホント頭きちゃうよね!


 その日の朝、あたしはいつものように学校に向かって歩いていたんだけど、そこでね、ちょっとした事件が起きたんだ。

 あたしの進む前に、あたしの二人の友だちが立ってたんだけど・・・

「おはよう!リコ、キララ・・・・。どうしたの?」

 一人は瀬那輝蘭。通称キララ。

挿絵(By みてみん)

 ちょっと変な名前だけど、多分あたしの一番の親友。

 キララのお母さんは学校の先生やってるんだけど、そのせいか彼女、すっごい頭がいいんだ。頭脳明晰!

 性格も同級生とは思えないほど落ち着いていてね。名前とイメージ全然違ってるかな。確か4年生の時にここの引っ越してきたんだけど、それからはずっと仲良し。

 もう一人は工藤絵里子。通称リコ。

 こっちもあたしの大の仲良しで、彼女とは幼稚園の頃からずっと一緒。

 スポ少でバスケやってるんだよ。


 その日、キララとリコの様子がとにかくおかしかったんだ。

 特にリコは顔色が悪くって、今にも倒れそうな雰囲気だったの。


「頭・・痛い・・我慢できない・・」

 リコがそう言うと、カランと眼鏡が外れて地面に落ちた。

 リコはハアハアとつらそうな呼吸を繰り返していて、まるで今にもそこに倒れてしまいそう。

 あたしもキララもなんとかリコを助けようとしたんだけど、あんまりにも突然だったからいい考えが浮かばなくてどうにもできなかったの。

 声を上げて近所の人に助けてもらおうとも思ったんだけど、小学6年生にそんな大胆なことできるわけないでしょ?どうすればいいか分かんなくて、ホントあたふたしてたんだ。

「ど、どうすればいい?キララ!」

「と、とにかく・・」

 何かを決心したキララは、自分のランドセルを置くと、あたしの顔をキッと見た。

「私、とにかく学校から誰か先生を呼んできます!ミキさんはそれまでリコさんを診ていてください!」

「え?ちょっと、あたしも行・・。」

「ダメです!ミキさんはここで診ていてください!」


 ええ?!?


「リコさんがこんなところで一人で置いていかれて、もしものことがあったら大変でしょ!」

 そ、それはそうなんだけど・・・。 

 キララの強い剣幕に押されてあたしは何も言えなかった。キララはいつも冷静で、感情を見せることがあまりない。そんなキララがこれだけ強く言うんだから、あたしに反論ができるはずがないし、実際にキララの言う通りが正しい。

「頼みましたよ!」

 キララはそう言うと、小学校の方へ急いで走っていってしまった。

 

 一人残されたあたしは、頭を抱えて苦しむリコを見て、ただ一人でオロオロするだけだったんだけど、そのうちリコが体を痙攣させてガックリ首をうなだれて、小さくうなり声を上げて倒れてしまったの。

「ちょっとリコ!大丈夫!?しっかりして!」

 あたしはリコを抱き起こすと、道路の上に落ちないようにリコの体を右手で支えて、落ちていた眼鏡を掛けてから、左手でリコの両手を握った。

 リコの体がさっきよりとても熱く感じる。かなり高い熱があるみたい。


 その時・・・。あたし、あの時のことは忘れない。

 あの時の背中に走ったゾッとする冷たい感覚・・。

 多分あそこから、あたしたちの不思議で恐ろしい物語が始まったんだと思う。

 

「リコ・・」

 その時、あたしの腕の中で、リコが何かを小さな声でしゃべったの。

「リコ。何?何を言ってるの?」

「呼んでる・・・」

「何?何か言った?」

リコの声は小さくて、最初はよく聞こえなかったんだ。

でも、あたしは注意してリコの体を支えながら、耳をリコの口元にグッと近づけたの。

「呼んでる・・」

「何?リコ。呼んでるって言ったの?何が呼んでるの?リコ」

「森が・・呼んでる・・」


 確かに「森」って聞こえた。


「リコ。なんて言ったの?森って言ったの?森ってなんなの?」

「森が・・呼んでる・・。雛の森が・・リコを呼んでいるよ・・・。おいで・・おいで・・って・・」

 

 ・・・雛の森・・・!

 あたしの背中にスーッと冷たいものが走ったような気がした。

 雛の森と言えば、ここ鳳町で知っている人も多い都市伝説の一つ。いつものリコなら、そんな言葉をしゃべったって気にもならない。怪談好きのリコだもん。いつも彼女の口からは幽霊とか物の怪とかが列を組んで飛び出してくる。

 でも、今は全然状況が違う。

 その時、あたしは恐さを感じていた。

「リコ・・。何言ってるんだよ・・」

 リコからの返事はない。

「ちょっと!リコ!」


 その後、たまたま側を通りかかったあたしの幼馴染の男の子がいて、二人でリコを学校まで運ぼうとした。途中あたしたちの普通じゃない様子を見かけた近所の人たちが力を貸してくれて、学校から先生方も駆けつけてきて、無事にリコは小学校の保健室まで運ぶことができたんだ。

 

         ☆ 


「雛の森―?」

 給食の後、いつものようにあたしとキララ、そしてもう一人の仲良しのナミと一緒に、今日のリコの急病について話をしていた。

「ひいなの森って、あの都市伝説の『雛の森』のことですか?」

 キララが首をかしげながらあたしの顔を見た。

「本当に言ったんだよ。疑ってる?」

「別に疑っていません。熱が出て気分がクラクラしてしまったら、きっと何かワケの分からない言葉も出てくると思います」

「でしょう?」

「うん。言ってたよ、リコ。昨日スポ少終わってから」

 ナミが言葉を挟んだ。ナミとリコの間でも、何かあったみたい。

「え?なんて?」

 ナミはあたしたちに、昨日の夜にバスケのスポ少が終わってからのことを伝えた。

 

「雛の森に行ってきたー!?」

 大きな声を上げたのはあたし。

「あり得ないよ!結構面白かったお話だったけどさ。けど、作り話は作り話だもん。ただのお話。ナミ。もしかして本気にしてる?」

「え、別に信じてるってわけじゃないの。ただ、昨日リコがそういう話してたから、ちょっと関係あるのかなって思っただけ」

「そうよ。ほら、リコって人驚かすのって好きでしょ?たまたま調子悪いのが重なっただけで、雛の森なんて関係無いよ」

 

 ほんとはね、あたしこの時はいかにももっともらしいことを言ってるけど、実はちょっと恐かったんだ。なんて言えばいいのかな。口で言ってることは確かに正しいことなんだろうけど、心の中のどこかで、あたし自身が自分を疑ってるって感じかな?

 ほら、リコが倒れた時にあんなこと口走ったでしょ?

 どこかでそれを否定したい気持ちがあったんだと思う。


「私もそう思います。」

 キララもあたしの意見に賛成してくれた。

「やっぱり雛の森って現実的にあるはずないし、体調を崩したのも、例えばバスケで疲れがたまったとか、最近涼しくなってきて風邪をひいたとか、考えればいくらでも原因はあると思います」

「ちょっとちょっと!」

 ナミがなんだかイライラしながら話した。

「あたしだって別にリコが本当に雛の森に行ったなんて思ってないよお。あたしはただリコがそういう話をしていたっていうのを言っただけ。だって、そんなのあるはずないもん」

「アハハ・・。ナミ、ゴメンゴメン。でもさ、そんなどうでもいい怪談話とリコの病気をくっつけるより、後でリコのお見舞いに行こうよ。きっと今頃熱も下がって退屈してるんじゃないの?」


 ところがね、この時キララがとんでもないことを言い出したんだ・・・。


「あら?ミキさんもナミさんも、リコさんの熱と雛の森が無関係だと思っているの?」

「え?」

キララの思いがけない言葉に、あたしもナミもキョトンとしていた。

「だって、キララだって、さっき原因はいろいろ考えられるって・・・」

 キララはちょっとだけ考え事をしてから、いつもみたいに少しテンションの低い口調でこんなことを言い出したの。

「いろいろ原因は考えられるって言いましたし、雛の森も現実的にはありえないとも言いました。でも、ちょっと思ったことがあるんです」

キララはもう一度息を少し深く吸ってから、さらに話し続けた。

「リコさんて確かに怪談が好きだし、人を驚かすのも大好きな人です。私達も何度かあの怪談話に付き合わされて、よくびっくりさせられました。でも、あの人って、そう簡単に嘘を言わない人ですよね。リコさんが人を驚かす時って、いつも新しい話を聞いてきてそれを話したりとか、意外性のあるようなことでびっくりさせたりとか、そんなことでしょ?実際に行ったことがない所に『行った。』とか、やってもいないのに『やりました。』とか、そういうことは言わない人のような気がするんです。」

 

 ほら、キララのお母さんって学校の先生をしているでしょ?

 そのせいか、キララの話し方や行動って、変に大人びていることが多いんだよね。

 頼りがいはあるんだけど、ちょっとムカッてくることもある。

 でも彼女の成績はいつもトップクラスだし説得力もあるでしょ?

 はっきり言えば、キララはあたしたちのカリスマ的存在。

 そんな彼女がこんなふうに言うんだから、あたしやナミが反論できるはずもない。

「キララ、信じてるの?リコが雛の森の呪いにやられたって」

 あたしはなんて言えばいいのか分かんなくて、やっとそれだけしゃべったんだけど、キララは少し目を伏せてから、目の前の机に肘をかけて、こんなふうに言ったんだ。

「私だって、別に雛に森のことを信じてるわけじゃありません。でも、私達の信じる信じないと、実際にあるか無いかって別物でしょ?」


 もーダメ!さっきのキララの言葉も難しかったんだけど、もう分かんない!

 あたしもナミも頭がこんがらがって、とてもじゃないけどギブアップ!

 あんた本当に小学生?

 

 頭を抱える仕草を見せたあたしたちの顔を見て、さすがにそれはキララに伝わったみたい。

「と、とにかく。明日か明後日になってリコさんが元気に学校に来れば、それでいいじゃないですか。雛の森のお話については、それからもう一度ゆっくりリコさんに聞きましょうよ。それでいいよね?」

 

 やっと分かり易い表現に到達したので、あたしとナミはもちろん喜んでキララの意見に賛成した!

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