真の恐怖【神酒視点】
「動け!動いて・・・!」
あたしは押し潰されそうになっている神父様を助けようと、必死になってパラケルススの重い体を押していた。
神父様のロザリオから現れた不思議な光。あれは間違いなくあたしたちに力を貸してくれる味方だっていうことは判ったけど、同じことが何度も繰り返される保障はない。
実際その時、またパラケルススの体はピクピクと動き出していたし、ベルは相変わらずこっちをにらみつけている。
あたしも神父様も、次に起きる何かに備えて警戒していた。
獣は起き上がってはこなかった。
でも、もっと恐ろしいことがあたしたちの前に起きたの。
本当に、本当に恐ろしい出来事が。
最初ね、あたしはそれが、ただの目の錯覚だと思っていたの。
ピクピク動くパラケルススの背中から、黒い煙みたいな物が浮かんできたように見えたんだ。周りは暗かったし、とても落ち着いて見られる状況じゃなかったからね。
でも、その煙は次々と噴き出してきて、だんだんと大きくなっていったの。
そして、あたしの目の前にまるで黒い雲のような格好で姿を現した。
あの悪魔が・・・・・。
「何・・?これ・・・。」
あたしは・・、魅かれるように・・・その塊を・・見つめた・・・。
中から・・・何か聞こえる・・・。
何?何を言っているの?
声は・・感情に変わって・・あたしの心に・・直接話しかけてきた・・。
「苦しい・・・。辛い・・。寒い・・・。なんで俺がこんな目に・・・。全部お前のせいだ・・・。」
霧の中に、いくつもの人の顔が見える。
どれも苦しみ、恨み、妬み、失望の表情を浮かべている。
喜びは無い。希望も無い。
あるのは絶望だけ・・・。
「それを見ちゃ駄目だ!」
どこかで神父様が叫んでいるような気がした。
でも、あたしには黒い雲から聞こえる声を拒むことができない・・。
あたしには本当は分かっていた。神父様の声に耳を傾けなければならない。そのこと判っていたの。
でも、どうしてもそれができなかった。
まるで蟻地獄に引きずりこまれていくように・・・。
もう何も見えない・・。
もう何も聞こえない・・・。




