キララの想い②
輝蘭は前の学校にいた時、話し方もさることながら、クラスメートに敬遠された一番の理由は、その我の強さだった。
そのことは彼女自身がよく知っていた。
遠ざかっていく友人達を目の当たりにしながら、次第に孤立感を深め、周りが全て輝蘭の敵のように見えていたのである。
彼女が籠目小学校に転校してすぐの時も、それは変わらなかった。
輝蘭を遠巻きに眺めるクラスメート達を肌だけで感じ、また前の学校と同じような人間関係がこれからも続くのだろうと思っていた。
そんな時だった。神酒が輝蘭に話しかけていったのは。
最初輝蘭は、神酒が一人でいる輝蘭を哀れんで、無理をして彼女が話しかけてきたのだと思っていた。
もともとプライドが高い輝蘭である。最初は神酒を冷たく突き放し、相手にしようとはしなかった。酷い言葉も何度か使った。まるで自分から嫌われ者になることを選んだかのように、自分の殻に閉じこもっていたのだ。
しかし、それでも神酒は彼女とのコミュニケーションを諦めようとはしなかった。
時間が経つにつれて、次第に輝蘭にも判ってきた。決して彼女は輝蘭を哀れんでいたのではなく、ただ友人として接していただけなのである。
IQが高く少しみんなとは異なった雰囲気をまとった輝蘭を気に入り、どうしても仲良くなりたいと思っていただけなのだ。
やがて、輝蘭を包んでいた殻は少しずつ姿を消していった。
もとから仲良しだった七海や絵里子もいつしかその中に加わるようになり、いつの間にか『仲良し四人組』と周りから呼ばれるようになっていたのである。
輝蘭は自分がクールでいることが一番いいと普段は思っている。
だが、心の底では言いたいことがたくさんあったのだ。
本当はもっと神酒や七海や絵里子に伝えたいことが山ほどあった。
輝蘭の心の一番大事な支えになっているのは彼女達3人であり、その中でも一番の要になっているのが神酒なのだと。
最後の方の輝蘭の言葉は、もう完全に涙声で、神酒はそんな彼女をもう一度優しく抱きしめた。
普段こんなことを言われたら、多分神酒は照れてしまってその場から逃げ出していただろう。でも今は少しもそんな気分にはならなかった。
「キララ、あたしだって同じだよ。あたしもキララにはすごく感謝してる。だって、キララはあたしが持ってないものをいっぱい持っているじゃない。勉強だって、意見だって、考え方だって。あたしはキララから、そういうものをいっぱいもらったし、これからもたくさんもらうつもりさ」
「ううん」
輝蘭が首を横に振った。
「ミキさん、あなたはまだ気付いていないのよ。いつもは全然正反対な性格で、何かあると離れてしまいそうなナミさんやリコさんと私を、いつも繋ぎ止めてくれていたのはあなただったのよ。ある時は先に立って引っ張ってくれて、またある時は中に入ってクッションになってくれて。あなたが居なかったら、多分私はナミさんやリコさんと、こんなに仲良くはなれなかったと思うの。きっと彼女達も同じことを思っている。みんなはね、あなたを一番に頼りにしていたのよ。」
「あたしが・・?」
そして、輝蘭が自分の想いを神酒に伝えた時、まるでそれに共感するかのように、彼女は初めて七海の笑顔の理由を感じ取ることができていた。
きっと七海は思ったのだ。神酒を危険な目に遭わせてはいけないと。
自分の身を案ずる前に、ただ神酒が傷付く姿を見たくないだけだったのだということを・・・。