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都市伝説『雛の森』

挿絵(By みてみん)


 ねえねえ。(ひいな)の森ってお話、知ってる?


 知らないよね。

 リコ達が住んでいる鳳町では、ちょっとは有名なお話なんだけどね。


 都市伝説って言えばいいのかな。あ、鳳町は田舎だから、田舎伝説かな?

 まあちょっとした怪談話なんだけどさ。


 ずうっと昔のお話。って言っても、そうだな、まだお侍さんなんかがいた頃のお話かな。


 その頃って時代劇なんかで見たことある人もいると思うんだけど、田んぼや畑で採れた農作物をお金にして暮らしている人、つまり農民だよね。農家の人っていうのは、ものすごく貧乏で、お金なんか全然無かったんだってさ。

 お金が無いから、あんまり栄養のある物は食べられない。栄養が取れないから病気にかかりやすい。

 特にあんまり体力のない子ども達は、よく病気にかかっていたんだってさ。

 今みたいに、何日か寝ていれば治るような病気じゃなくって、一度かかってしまったら、もう死を覚悟しなければならないような病気だったって。

 

 でももちろんお金が無いから、お医者さんに診てもらうこともできない。

 その頃お医者さんに診てもらえる人っていうのは、ほんとお金持ちのごく一部の人達ぐらいで、とても農民は薬なんかもらえる状態じゃなかったんだって。

 

 子どもが病気にかかってしまった時、どうするか知ってる?

 人形を使うの。

 子どもがかかっている病気を、人形に代わりに引き受けてもらうのさ。

 意味がわからない?

 

 あのね。子どもが病気にかかってしまった家の人がね、家にある道具を使って、人形を作るんだって。

 例えば、紙とか木とか草を使って。それでね、それに願いを込めて、川に流すんだってさ。

「うちの子どもが病気です。お願いですから、代わりにうちの子の病気を持っていってください。」

 みたいな感じでさ。

 

 ほら、桃の節句に飾る雛人形ってあるでしょ。あれもね、その名残りなんだって。

 

 でも、それはただの気休めだよね。そんなことしたって、実際に重い病気が治るはずもないでしょ。

 結局病気にかかったまま死んじゃう子って、すごく多かったらしいよ。

 


 でさ、ここからが(ひいな)の森のお話なんだけど・・・。


 川に流された人形があったでしょ?

 それが流れ着く場所が、雛の森なんだってさ。

 そこには背の高い草がたくさん生えていて、草の間に見え隠れしてたくさんの流れ着いた人形達が転がっているの。


 それで、その草むらの中に一軒の大きなお屋敷が建っているんだって。

 お屋敷についてはいろんな説があるんだけどね。

 例えばお城みたいな建物だって言う人もいれば、金持ちの庄屋さんが住んでるような家だって言う人もいるし、白い教会みたいな建物だと言う人もいるみたいよ。

 

 それでね、そのお屋敷には、結局願いを込めた人形のご利益も無く、寂しいままに死んでしまった子ども達の魂が住み着いていると言われているの。


 ある日のこと。その雛の森をたまたま見つけた三人の女の子がいたんだって。

 もちろん「雛の森」のことを知らなかったその子達は、誰が住んでいるんだろうって興味を持って、そのお屋敷の中に入っていったの。

 

 屋敷はまるで、どこかの郷土博物館?みたいな時代遅れの建物だったんだけど、建物の中は驚くほどきれいに掃除されていたんだ。ほこり一つ落ちていないような感じだったんだけど、不思議なことに、建物の中には人の気配は全く無かったの。

 女の子たちは、誰かいないかと思って、建物の中の部屋を一つ一つ詳しく見て回ったらしいのね。

 

 そして、一番最後の部屋。その屋敷の中の、一番奥にある部屋の扉の前で立ち止まったの。

 きっとドキドキしていただろうね。

 一番奥の部屋だから、外からの明かりはあまり射し込んでいないでしょ。

 周りは薄暗くて、ちょっと気味が悪かったみたいね。

 

 女の子の一人が、恐る恐る扉に耳をあてて、中から物音が聞こえないか試してみたんだって。

 そうしたらね。部屋の中から、こんな声が聞こえてきたの。

「キタ・・・。キタ・・・。オトモダチガキタ・・。ハヤクカワッテ・・。」

 それはね。子どもの声だったの。一人の声じゃなかったって。

 部屋の中は少しザワザワしているような感じがして、そこに何人もの子どもがいて、まるで屋敷の中に入っていった女の子たちを、どこか彼女達が知らない所から眺めながら囁いているような会話だったんだってさ。

 

 女の子達は直感的に感じたんだってさ。ここに居てはいけないって。

 彼女達は扉に背を向けて、そこから逃げ出そうとしたの。


 その時・・・

 ギャーっていう人間とも動物とも分からないような叫び声が響いて、後ろの扉が勢いよく開いたんだってさ。

 女の子達は恐くて後ろを振り向かなかったんだけど、でもはっきりと感じたの。

 いくつものいくつもの白い手が、開いた扉の向こうから伸びてきて、彼女達を捕まえようと追いかけてきたのを。

 

 女の子達は死に物狂いで逃げたわ。

 でもね、結局外まで逃げ延びることができたのは一人だけ。

 残る二人の女の子は、とうとう屋敷から外には出てこなかったんだって。

 全身傷だらけになりながらもなんとか逃げだすことができた女の子は、急いで家まで戻ると、大人を引き連れてもう一度その森まで戻ったの。二人の女の子を助けるために。

 

 でもね、もうその時には、そこにあったはずのお屋敷は姿を消していて、影も形も無かったの。

 ううん、それだけじゃない。あれだけたくさん草むらに落ちていた人形達も、一つも残っていなかったんだってさ。

 

 それでね。お話はそれだけでは終わらなかったの。

 逃げ延びた女の子なんだけど、その後高熱を出して寝込んでしまったの。

 熱は全然下がらなくて、おまけに意識も戻らなくて、ただひたすらベッドの上でうなされていたんだって。

 彼女はうなされながら、「来る・・。来る・・。来る!」って口走っていたらしいよ。

 

 それでね、それから三日目のこと。

 朝にその子の母親が、熱の具合を見に彼女の部屋に行ったんだけど、いつの間にか女の子はベッドの上から姿を消していて、その後、二度と彼女は家に帰ることは無かったんだって。


 ただね。その女の子が姿を消した時にね、ベッドの上に誰の物かわからない古びた日本人形が一個。

 ポツンと、まるでその女の子の身代わりになるかのように置かれていたんだってさ。



 

 どう?恐かった?

 すごく恐かったでしょ?

 

 恐いことは恐いんだけど、でも考えてみると、なんとなく悲しい話だよね。

 

 雛の森の子ども達の魂って、結局なんて言えばいいのかな・・。

 例えば楽しいとか、うれしいとか、愛されているなぁとか、

 そういうことを知らないで死んでしまって、寂しい気持ちのままで、雛の森に縛られて友だちを探して彷徨っているってことでしょ?

 

 周りから見ると恐い話だけど、リコがもしそんな魂の一つだったらって思ったら、なんかすごくやりきれないよね・・。

 

 もしこれがただの作り話だったら、リコはそれはそれでいいと思うんだ。

 だって、これがもし本当の話だったら。


 そうだったら、とっても悲しすぎるからさ・・・。

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